世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

米ソ冷戦時代髣髴: Confrontation with cold war overtones

2008-08-17 | グローバル政治
ロシア軍が、グルジアとの停戦協定を無視して、グルジア領内へと進軍中との報道が伝えられる中、米国はポーランドと「ミサイルの盾条約」(a missile shield accord)に金曜日に調印したことを発表しました。

この条約は、米国・チェコ間の対イラン防衛条約と一体となってイランの中距離ミサイルの脅威からイスラエルや欧州を防衛する機能を持つことを目的としていますが、ロシアは、「真の目標はロシアを仮想敵国と見立てたもの」と猛反発をしてきたものです。

当然、ロシアは米国に対して、「この条約調印がロシア・グルジア間の紛争中に行われたことで、その馬脚を現した」と猛抗議を行い、ポーランドに対しては「この条約調印で、ポーランドは核攻撃を受けるリスクに曝される。しかも米国の核の傘に入れてもらえないことをよく考えよ」と恫喝を加えました。

一方、ライス米国国務長官は、「ロシア軍のグルジア領内からの即刻の撤退を求める」との声明を出し、ロシア・グルジア間の新停戦協定の調印を求めました。米国内での対露強硬路線を求める声は高まっており、「G8首脳会議からの追放」を求める声まで出ているとのことです。米ロ間の外交関係の緊張は、冷戦時を彷彿とさせる激しいトーン(cold war overtones)の応酬となっていることに注目する必要があると思われます。

これに対し、フランス・ドイツは米国よりは柔軟路線をとっており、サルコジ大統領が和平協定の推進で動く一方、メルケル首相はロシアへ強い自制を求めることに留まっています。このように米欧間の温度差は開くばかりの情勢下、外交政策選択が、夏休み休戦後の大統領選挙戦での両候補の重要な争点となるでしょう。

ウズベクの児童労働 widespread use of forced child labor

2008-08-15 | 貧困・疾病・格差
米国の小売業界と衣服業界を代表する4社が、ウズベキスタン政府に対して、「同国で蔓延している、綿摘み作業に児童を強制労働させることをやめるよう」に申しいれました。

すでに、TESCO, Marks & Spencer, Target, GAPを含む欧米の有力な衣服小売業者団体は、昨年の米国政府の調査結果に基づき、ウズベク綿製品の取扱を中止しており、納入業者にはウズベク製の綿糸の使用をやめるように求めています。

報告によると同国憲法では児童の労働を禁止していますが、ほとんどの地方で、学生・児童が低賃金の摘み取り作業に投入されているとのことです。一方政府の公式回答は「自発的に農作業に協力しているだけである」というものです。

ウズベキスタンは、年産80万トンの綿花を産出し、約1,000億円の外貨収入を得ていますが、すべての綿花は3つの公社が買い取ることになっており、輸出価格と集荷価格の差は国家収入となっています。

ウズベキスタンは、イスラム・カリモフ大統領が専制政治を続けており、2005年には国内に駐留を許していた米軍基地からの退去を求めるとともに、ロシア・中国に接近する外交政策を取ってきましたが、人権問題に関する米・欧からの締め付けには、さらに態度を硬化させることが予想されます。


ロシアの二匹の熊 the bearish market and Putin

2008-08-12 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
モスクワの株式市場を徘徊する「弱気な熊」(bearish market)が第一の熊。

ロシアの株式市場の下落は、最近立て続けに世界を驚かせる挙に出たロシア政府の政策に原因があります。BPと現地資本の合弁の石油会社TNK-BPの会社経営支配権をめぐるロシア政府の外資への恫喝的行動、プーチン「首相」の鉄鋼会社Mechelに対する常軌を逸したとも思われる攻撃などが、外国人投資家をおそれさせるに十分な環境が整っていたところに、グルジアとの交戦のニュースが念押しをした格好になりました。

二匹目の荒れ狂う熊は、「プーチン大帝」であります。株価は、ピークから30%以上、下落しましたが、投資家の目からするとロシアリスクがこのところ鮮明に出てきたということであります。まずメドベージェフ「大統領」の領域までも侵犯するプーチンの突出振りは二頭政治の終焉を思わせ、ロシアの政治的不安定性をうかがわせるものであること。そして今回のグルジア戦争がもたらす対EUへの悪影響の大きさであります。

プーチン「首相」は、米欧からの非難をものともせず、中国の諫言も耳に入れず、オリンピックに世界の注目が集っているさなかの小国への大規模武力行使はいかなる計算の元に行っているのかが注目されます。ロシアを経由しないカスピ海原油パイプラインの自国内通過を許し、NATOに加盟を望みロシアの喉元を狙う敵対行為をとる「グルジア許すまじ」とのロシアというより、プーチンの堪忍袋が切れたということでありましょう。

米国の対イランミサイル防衛網がポーランドとチェコに展開されてしまう事態や、ウクライナとグルジアがNATOに加盟する事態を認めればロシアの軍事的劣勢は明白となり、後は押しまくられるだけとの恐れ、そして90年代に国家主権を譲歩するようなガス・石油採掘権を外国資本に許したことを修正すべしというプーチンの国粋主義が前面に出でてきました。

そして5月9日に、17年振りに軍事パレードを復活させたロシア政府の意図がはっきり見えてきました。




OPEC原油収入倍増 beyond their absorptive capacity

2008-08-11 | 環境・エネルギー・食糧
昨年来の原油価格の高騰により石油輸出国機構(OPEC)13カ国の、石油代金収入(petrodollar)は急増しており、今年6月までの6ヶ月間の収入合計が昨年1年間の収入とほぼ同額になったようです。

昨年1年間のOPECの総収入は6,710億ドルであったのに対して、今年6ヶ月間で、すでに6,450億ドルに達しています。原油の増産も行われており13カ国の生産は、直近で日量3,260万バレルまで達しています。

このため、現在原油価格は120ドル/バレルを割り込んでいますが、今年前半の原油価格の平均値は111.1ドル/バレルですから、今年後半も、大体前期の収入レベルは維持されるものと大方は予測しています。

急増する石油収入は、OPEC諸国でインフラの建設や、旺盛な個人消費に回っていますが、当然のことながら、湾岸各国のインフレを点火しており、軒並み二桁の物価上昇を招いています。さらに短期に急増した収入を使いきれず、いわば「宝の持ち腐れ」状態(beyond absorptive capacity)に陥っています。

その結果、中東の余剰ドルは、従来からの習慣である米国国債の買い入れのみならず、最近では政府系ファンド(national wealth fund)として、欧米金融界のサブプライム危機救済や、先進国の企業買収や資産買収資金に回されています。

日本だけでも、原油高騰の結果流出した国民所得は、年間ベースで26兆円と推定されていますが、こうした大規模かつ急速な「富の移動」は、今後の世界経済問題の焦点となるでしょう。

パリス・ヒルトン快楽主義大統領候補?The president of hedonism

2008-08-10 | 米国・EU動向
マケイン共和党大統領候補が、オバマ候補をテレビCMで「セレブ気取り」だと攻撃した際に、「脳タリン(airhead)セレブ」のイメージとして、パリス・ヒルトン嬢の姿をバックに映し出しました。このコマーシャルは、ヒルトン嬢の事前許可を取っていなかったことから、事態は興味深い展開を見せています。

ヒルトン嬢は、インターネットサイト’Funny and Die’に水着の可愛いしぐさで登場して、高らかに宣言して見せました。「わたしはジッチャマとは年が合わないのよ。それにもう一人の男みたいに「変革」を約束なんかしないわよ。わたしはただのホット(hot)な女の子よ。」

そして、マケイン候補に極め付きのきつい一言「わたしはね、米国民の皆様に、ナンツーか、ほら、“いつでも大統領になれる”ってさ 分かってもらいたいのよ」。いつでも大統領になれる(ready to lead)はマケイン候補の宣伝文句であります。

ホテル王の孫にして、二流俳優、スキャンダラスな話題を肥やしに颯爽と生きてきた彼女は、マケイン候補になんと「頭脳プレー」で一本取った形になりました。彼女は、この出演で見事第一線カムバックを果たしましたが、サイトの創設者の一人Adam Mackay氏の脚本どおりの演出によるものであったのです。

この政治パロディは、5百万の視聴者が見たのでありますが、巨額の資金をつぎ込む両陣営のTVコマーシャルによる下品な選挙戦に、さわやかな笑いを提供したのは皮肉です。そしてなにより彼女は自分自身を笑いの対象にすることによって、「頭の良さ」を演じて見せて、好感度を急上昇させました。




五輪の陰に、brittle euphoria(脆い至福感)と消えぬ屈辱の歴史観

2008-08-08 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
中国で最もめでたい数字8にあわせた開始時刻、08年08月08日の午後08時に、北京オリンピックは開幕します。中国が国威をかけて用意したこの壮大なスポーツの祭典は、最も「政治化」(politicized)したオリンピックの一つになることは確実ですし、すでにそうなっているというべきでしょう。

フランス製品ボイコット運動に驚いて急遽参加を決めたサルコジ大統領、米国大統領として始めて国外開催のオリンピック開会式に出るブッシュ大統領をはじめ80カ国の元首が参集することになっているとの発表です。

聖火リレーの途中ですでに人権や民族抑圧の動きがすでに表面化していることを受けて、ブッシュ大統領は、到着前日にバンコックで演説し中国における人権抑圧の問題を指摘しましたが、中国外交部は「内政干渉」とただちに反論しました。このあたりは両国政府で周到に連絡が取られていることを推測させますが、米国は無条件で大統領が参加したのではないと世界に発信したわけであります。

中国の五輪成功は悲願とも言うべきものになっていますが、一般中国人にとっても愛国主義の発揚が極に達しています。FTが報じる世論調査では、「最近の中国の状況と経済発展に満足する」と80%が回答しているとのことです。こうしたことを背景に、オリンピックの成功と中国人選手のメダル獲得に強く期待する国民感情が、外国からの批判に極度に敏感になっていて、これらを「中国の躍進に対するねたみや、妨害」と受け取る向きも少なくないのです。

そして、中国人選手の活躍で、ゲームに勝ちメダルを獲得することで、西欧や日本に蹂躙された歴史への積年の屈辱(humiliation)を雪ぐのだという国民感情を、FTは指摘します。とくに天安門事件以降に育った世代の若者で、教育程度の高い層にこうした傾向が強いとも指摘しています。

こうした世代は、インターネットで同志を募り、「中国を敵視した」ところに標的を定めたら、徹底的なメール攻撃を行います。「Chinese Cyber Nationalism」という本(Xu Wuアリゾナ州立大学教授著)に詳述されているとのことですが、
直近では空気汚染対策として黒いマスクをして北京空港を出てきた米国選手団がこのサイバー攻撃にあって謝罪に追い込まれたとあります。

「五輪以降」の中国の変化に注目すべきときが来たようです。

CDOリスク分散手法  債権の薄切り(slice)と賽の目切り(dice)

2008-08-07 | グローバル経済
先週、メリル・リンチが住宅ローンをもとに組成された金融商品300億ドル(3.1兆円)を、原価の22%に値引きして叩き売り処分を行ったというニュースが金融界をゆるがせました。

この金融商品は、手持ちの金銭債権を、証券化して販売するという手法で、ここ10年広く金融界で行われたものです。銀行の貸し金へのリスク軽減が目的の一つであったはずの商品がこのように、巨額損失の原因になるというのも皮肉なことであると、FTは嘆息しています。

金融債権を、薄切りに(slice)したり、賽の目切り(dice)して、元の「本当の借りて」の姿が見えなくなった形になってから, それをつなぎ直し(splice)て新しい商品に仕立てる手法がCDOであったのです。

CDOの組成を介して、銀行は信託銀行のようになり、投資銀行は商業銀行のようになって、業態の拡大を図ってきたのですが、そうは問屋が許さなかったというわけです。

昨年8月に、担保付証券の在庫を大量に保有していた多くの銀行が、CDOに仕立てるために、格付けをしてもらって売り出そうとしていた矢先に、信用市場に異変が起こって、すべては凍結(freeze)されて悲劇は始まったのです。

FTが教える教訓:どんな金融技術も個々の借り手の信用力を慎重に審査することの必要性を免除する手品たりえない。個々の銀行と格付け機関が、投資家のためにこの仕事をキチンと行わなかったことが今回のCDO崩壊の原因だ。




英原発会社売却:EDF takeover is preferred option

2008-08-06 | 環境・エネルギー・食糧
英国で原子力発電のみを行う電力卸売会社British Energy(BE)のフランスの電力公社EdFへの売却交渉が大詰めに来て難航しています。

英国は財政難解消の、政策の一端としてすでに、2006年2月に英国原子燃料会社(BFNL)をウェスチングハウス社を含めて54億ドルで東芝に売却した経緯があります。

今回は、原子力発電所建設を再開しようとする英国政府の政策転換の中で、基幹エネルギー会社を外国政府の運営する電力公社に売却しようとするものであります。この大胆な外資導入は英国政府の経済開放政策の面目躍如たるものです。

EdFとの交渉は、先週金曜日に235億ドル(約2.5兆円)で発表というところまで進んでいたのが、木曜日に大株主2社からの反対によって劇的破談となったものです。理由は「安すぎる」でした。

これを見て、英国ガス会社(BG)の親会社Centrica(電力会社も傘下においている)が、「BEとの何らかの提携による原子力分野への進出機会としたい」との意向表明とともに「買収も視野に入れている」と発表しました。

これに対してBEの35%の株式を保有する英国政府は、「Centricaには原子力のノウハウが無いから反対する。あくまでEdFへの売却を支持する」と拒絶しました。

原子力発電会社の売却にあたり、フランスに売却することを、自国のエネルギー産業しかもその昔は国営会社であったBGに売却することより優先するところに、他の国には無い、英国の特徴があります。


原油価格の行方:Dip or decline

2008-08-05 | グローバル経済
原油価格は、7月にピークからバレルあたり20ドルの下げを見せました。本日も、バーレルあたり120ドル台の下にまで下がっています。FTは、果たしてこれは一時的な下げ(a dip)なのか、長期低落傾向(a trend)なのかという問題を2日の論説で取り上げています。

結論は、一時的なもの(dip)だというものです。直接的な理由としては、米国の旅行シーズンを前に、原油・ガソリンの在庫に減少が見られないことと、原油先物価格が2016年渡し物で120ドル台を維持していて、原油価格の先安を市場は期待していないことの二つを上げています。

それでは基本的には需給バランスが価格をきめるという立場に立った議論からすれば、供給サイドの増加が、至近年度では大きく見込めないのになぜこのところ価格は下げに転じたのか。それは米国景気の後退と、ガソリン価格上昇による走行距離の減少による消費の減少にあるとします。

そして、それが一時的と断じる理由は、世界の需要構造が中国・インドなどの新興国の需要の伸びの顕著さに求めます。多少の米国の需要減や、利用効率の改善などはすぐにでも吹っ飛ばしてしまうのが長期傾向(trend)であるということであります。

FTは伝統的に、自由市場経済主義を固く信奉していますので、需給関係以外の要素は一時的な「あや」と断じます。投機資金の流入・流出もそのあやの一つであるという立場です。数年前に、メージャーが軒並み保有する可採埋蔵量の過大評価を市場から糾弾され、トップの辞任や財務諸表の訂正が行われて以来急速に原油価格が上昇に転じたことも需要逼迫の状況証拠なのでしょう。



金融信用崩壊開始1周年 “The Big Freeze“

2008-08-04 | グローバル経済
FTは、今週4日連続で、昨年来発生した世界金融危機一周年の、大型連載を行うと発表しています。

一周年の起点は、2007年8月9日に行われた欧州中銀による短期資金の注入においています。すなわち今週は「大恐慌以来最悪の金融危機一周年記念」というわけです。

まだその危機の渦中にいて、出口もまったく見えない状況で、FTがこういう特集を組むのもめずらしいと思いますが、大見出しは、「金融への信頼を震撼させた一年」であり、副題は「The Big Freeze」(大凍結)となっています。

冷静な反省はこれから始まって、教訓として活用されるのでしょうが、この問題の発生は、予見する人がいたのに無視されたことが対応の遅れとなったのだといっています。日銀・中曽金融市場局長も正論を主張した一人として記事冒頭で取り上げられていますが、同氏は一年前に「状況は90年代の日本に酷似している」との警告を発したのに欧米金融政策決定者からは完全に無視されたとのことです。

今回規制当局がなすすべもなく傍観状態に陥ったのは、政策決定者や、規制当局者が、サブプライム・ローンを元にして組み上げられた新しい複雑な仕組みの金融商品の本質を理解できず、その残高の積み上がりを経済拡大の成果と事実誤認したことに大きな原因があるのです。

辣腕の高報酬の社員が、複雑な金融手法を駆使して、「元のloanをsliceして、diceして」まったく違った味と形の料理とすれば、何度でも売れると気がついたのが今度の危機のレシピーです。ミソもクソも入った福袋のような商品は、買い手が中身を確認する手段が無いところに妙味があるのです。シェフたちは今頃、バカンスを楽しんでいるでしょうか?


年表的に重要な出来事をながめておきましょう。

2007年6月: Bear Stearnsがサブプライム関連で巨額損失計上しましたがこれはとりもなおさず、人びとの心配がとうとう目の前の事実として提示された日であります。

7月: サブプライム関連金融商品の格付けが下方修正され、これから格付け機関の責任論が始まるわけです。ドイツではIKB銀行経営危機となりました。危機は弱いリングのところではじけるという典型です。

8月9日: 欧州中央銀行が、フランスのBNP Paribasが運営する3つのファンドを凍結したことに発して短期信用市場が動揺したため、950億ユーロの資金を短期市場に注入しました。米国連銀も緊急措置を取りました。

9月:英国Northern Rockが英国中銀から救済資金受け入れたことで取り付け騒ぎが起こりました。このあと続々と、各国の有力銀行の大幅赤字決算とCEOの引責辞任ラッシュとなりました。

2008年1月:サブプライム問題の後ろに隠れていた、信用保証会社モノライン各社の格付け引き下げが行われました。

2月:英国政府Northern Rock銀行国有化。
3月:Bear Stearnsが、政府資金注入を条件にJPMorganに売却されました。
7月:住宅金融公社Fannie MaeとFreddie Mac公的救済措置発動。いま米国の地方銀行の倒産が相次いでいます。

 

自動車メーカー業績悪化深刻:Auto be worried

2008-08-04 | グローバル企業
米国の自動車メーカーは、売り上げの減少によって今年第2四半期の決算結果が極めて悪化し、株価も軒並み急落しました。

GMは、大型のピックアップや、SUVの売り上げが極度の不振に陥ったため、155億ドルの赤字を計上。ニッサンは、為替差損やリース資産の再評価による損失発生があり、利益が42%減少。BMWも引当金、リストラ費用、原材料高騰、ドル安などの理由で経常利益が58%減少です。

特に、GMの手元資金の流出は大きな懸念材料となっています。昨年12月以来月10億ドル(1000億円)のペースで現金が流出しているのです。

3社の決算に共通するのは、SUVとピックアップの中古車が市場にだぶついているため、リース資産の時価評価の洗い替えによる巨額の損失が発生したことです。

GM一社の前四半期のリース資産洗い替えによる損失は2000億円に達しています。クライスラーはこのため、リース事業からの全面撤退をすでに発表しています。

売り上げ不振のみならず、こうしたリース資産の評価損、金融子会社の損失取り込みなど、中古自動車市場の不振から来る価格下落が経営を圧迫し始めていることは近来になかったことであります。

FTのLEXコラムでは、BMWの株価急落を取り上げていますが、その見出しは、「Auto be worried」となっています。これは「ought to be worried」と響いてきます。憂慮すべき事態なのであります。

(7月17日「GM1922年以来の無配転落」参照」

首相党勢回復の賭けを政敵に託す Fukuda gambles on rival

2008-08-02 | 世界から見た日本
福田首相の自民党幹部役員人事と、内閣改造人事の海外報道を見てみました。

FTは、「福田首相、党勢回復を政敵に託した賭けに」という見出しでRival麻生氏の自民党幹事長という最重要ポストへの就任を評しています。また同紙は、麻生氏を評して、「one of the party’s dinosaurs and a product of the machine」 (自民党を支配する恐竜の一人で、党内派閥政治機構の申し子)といい、同氏の幹事長就任は誤ったメッセージを送ることになるとの、テンプル大学Jeff kingston教授の意見を引用しています。

さらに、総選挙の早期実施を急ぐ公明党と、出来る限りの先送りを画す自民党の間の亀裂を指摘し、これが将来の「血を見る問題―bloodletting」 になるだろうと予見する同教授の意見を引用しています。

また、BBCは「福田首相の政敵、改造人事で上昇」、米国ABCは「日本の内閣改造、最重要ポスト就任を政敵に求める」と、両方とも基調は麻生氏の自民党幹事長就任に焦点を合わせています。

一方今回の一連の人事を、最も手厳しく論評しているのは、The Economistで「何か変わるのだろうか」と見出しで疑問を投げかけ、その論説はつぎのように締めくくられています:

「この改造で一時的な任期回復が見込めても長続きはしないだろう。日本の問題、すなわち莫大な公的債務、老齢化社会、官僚支配体制、グローバル経済に立ち遅れる企業社会は引き続き膿みを出し続ける(continue to fester)であろう。政治システムがこれらに対応できる能力は依然として低いままである」。


ドーハラウンド決裂(2): Hangovers but no anger

2008-08-01 | グローバル組織
交渉決裂の翌朝の気分は二日酔い(hangovers)というべきもので、怒り(anger)というものではなかった、とFTは表現し、各代表おのおのの発言を纏めています。

年末に4年の任期が切れた時に再任を求めるか、もうこれ以上の苦労をしたくないと辞退するかの去就が注目されているPascal Lamy事務局長は:

「ドーハは大寺院の様相を呈している。設計が複雑怪奇に走ってしまった。はじめには漠とした構想だけがあった。平面図を描いているうちに、そこら中に、礼拝堂をくっつけてしまって、複雑さは取り返しがつかないところまで行ってしまったようなものだ」というたとえ話をし、「協議対象も、工業製品、サービス、農産物、弁護士業、知的財産権に広がり、すべての項目に合意が達成されないと、全体の合意が成立しないという構図から抜けられなくなった」と表現しました。

次に、Bush大統領退任とともに、その任を解かれるであろう米国通商代表Susan Schwab女史は:

「このWTOという巨大な合意形成機構は、1947年以来運用されてきたのだけど、どうも陳腐化を起したということらしい」(と言った直後にあわてて取り消して)「WTOは、見直しの必要な時期に達したということかもしれない」と言い直しました。さらに事務局長の大寺院のたとえを借用して「ドーハ用に建設を進めていた大寺院は、複雑化てしまい、それ自体にあだをなすようになってしまった」と嘆いて見せました。

そして、交渉決裂の直接の引き金を引いたインドのカマル通商大臣は:

「事務局長にお願いしたいのは、”これは小休止であり決裂ではない”という扱いをすることである」と記者団に語るとともに、「Susan Schwab女史をきのう昼食に誘ったんだ。そしたら彼女が私のことを好きだというから、こちらも好きだと返したんだ。しかし結局彼女のわたしへの愛は足りなかったということなんだな」と冗句を飛ばしました。

こう発言を並べてみると、Schwab通商代表が舌を滑らせた一瞬の失言こそが、WTOの現状のすべてを語り、インド通商大臣の、米国とインドの間の愛情物語のたとえ
が米印関係のすべてを語っているのでしょう。インドの外交手腕を見せ付けられた劇中劇でありました。