ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

ウェイトレス/おいしい人生のつくりかた

2007年11月30日 | 映画レビュー
 ダメ亭主のダメぶりが身につまされる。愛と束縛をはき違える勘違い男にはうんざりするけれど、こういう男はいくらでもいるのだ。コメディだけれど、いろいろと考えさせられる映画。

 本作は、妊娠検査薬を睨みながらがっくりするウェイトレスの制服姿のジェンナ(ケリー・ラッセル、なかなかキュート)の表情から始まる。側にはウェイストレス仲間の二人が心配そうに腰かけている。そこは彼女達の職場であるパイとコーヒーの店のトイレ(休憩室)なのだ。この映画は、パイ作りの名人ジェイナが妊娠を知ってから、望まないままに出産するまでを描く。その間に彼女にはどんな変化が現れるだろう? 大嫌いな夫の子どもをうっかり身ごもってしまったジェンナが、どうやっていやな亭主と別れるのだろう。

 このいやな亭主を演じたジェレミー・シストがほんとにいやな男に見えるから、気の毒なぐらいだ。妻を徹底的に束縛する男。経済的にも精神的にも束縛し、子どもができたとわかると「赤ん坊よりもオレを愛せよ」とネチネチ言い寄ってくる。あ~、気持ち悪い。ジェンナは金を全部夫アールに握られているから、家出もできないのだ。頑張ってこっそりへそくりを貯めているけど、なかなか自立資金にまでは至らない。

 して、妊娠したジェイナ、産婦人科医にかかるのだが、この医者がちょっと優しそうな男。この二人のやりとりが面白くて、いったいどうなるんだろうと思っていたら、いきなり不倫です。この映画の可笑しさは、この「いきなり」というところにある。あまり書くとネタバレで面白くないので、あとは見てのお楽しみ。

 映画の中ではいろんな問題が「いきなり」解決されてしまうのだが、そこに至るまでのジェンナや他の登場人物の心理描写がよくできているので、「いきなり」が納得できてしまう。ラストのジェンナの爽快な解決には感心した。

 ところで、肝心のパイのほうなのだが、あまりおいしそうに思えなかった。いろんな材料をふんだんに使いすぎてどっちかというと面妖なパイになっているのだ。甘ったるそうだったり、クリームがてんこ盛りで胃にもたれそうだったり。わたしはあっさりとかぼちゃのパイとかアップルパイが好きだな。

 
 監督でかつ出演者でもあるエイドリアン・シェリーは、本作を撮り終わった後、40歳の若さで亡くなった。幼い娘も一緒に出演しているのだが、これが遺作となってしまった。お気の毒です。

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WAITRESS
アメリカ、2006年、上映時間 108分
監督・脚本: エイドリアン・シェリー、製作総指揮: トッド・キングほか、音楽: アンドリュー・ホランダー
出演: ケリー・ラッセル、ネイサン・フィリオン、シェリル・ハインズ、エイドリアン・シェリー、ジェレミー・シスト、アンディ・グリフィス

僕のピアノコンチェルト

2007年11月30日 | 映画レビュー
凡人から見れば天才とは羨ましいまばゆい存在なのだが、本人は辛いのだろう。ピアノだけではなく頭脳全般がずば抜けて優秀な天才というのはまたいっそう辛いのかもしれない。でも結局最後はその才能を活かすことによって家族や周囲の人間を幸せにできるのだから、才能はやっぱりないよりはあったほうがいい。
 天才には天才の義務があるのではなかろうか。才能を隠してはいけない。韜晦は決していいことではないのだ。その才能を使って人々を幸せにする、それがノブレス・オブリージュというもの。

 主人公の天才少年ヴィトスを演じた子役は2人。6歳のときがファブリツィオ・ボルサニ、12歳がテオ・ゲオルギューで、二人とも自分でピアノを弾いているが、とりわけテオは本物のピアノの天才少年であり、劇中のピアノ曲のかなりを彼自身が弾いている。まことに素晴らしい腕前だ。

 
 幼い頃から驚異のIQを誇り、12歳で大学へ進学してしまうようなヴィトスだが、「ふつうの人のように暮らしたい」という人知れぬ悩みもあった。そんなある日、彼はベランダから転落して頭を強打し、それ以来、IQ120の普通の人になってしまい、ピアノも弾けなくなる。彼のために仕事も辞めて毎日レッスンに付き添っていた母親はがっくりと肩を落とす。順調に出世していた父親も勤めている会社が大赤字の決算を出すことになり窮地に落ち込まれる。それを知ったヴィトスは…


 何もかも思いのままになるヴィトスだが、唯一、うまくいかないのが恋愛。ベビーシッターに恋をしたヴィトスだが、相手は自分のことを弟にしか思ってくれない。いくら口がうまくても天才でも金持ちでも、女心は買えないのだ。天才にも苦手なことがあるという部分を残したのはよかった。

ヴィトスという名前はギリシャ語の「ビオス」を語源とするらしいが、スイスでも珍しい名前だという。監督が作った名前ですね。

「ヒトラー 最期の14日間」で強烈な印象が残っているブルーノ・ガンツはてっきりドイツ人だと思っていたのに、スイス人であった。ガンツが気のいい爺さん役を演じてとてもいい感じ。このお爺さんというのがいくつになっても夢を追い続ける人で、ヴィトスの息抜きの場を提供している独居老人だ。一人年老いていきつつも、朽ち果てることのない夢を追っているからいつまでも元気。

 スイスの言語は3つに分かれているということぐらいしか知らなかったが、標準ドイツ語とスイス・ドイツ語があって、スイス・ドイツ語というのはまるでイタリア語かフランス語が混じっているかのようなドイツ語で、ずいぶん訛っている。ヴィトス一家はお母さんがイギリス系なので、興奮すると英語をしゃべる。つまりこの映画では、2種類のドイツ語と英語が聞けるというハイブリッドぶりで、最近こういう作品が増えたなぁとつくづく思う。

 天才の天才振りを見ているのは小気味よい。凡人にはもう「羨ましい」などという範囲を超えているから、ただただ口をあいて見ているだけ。で、やっぱり、羨ましいといえば羨ましいけど、別に天才なんかに生まれなくてよかったよ、とつくづく思う。天才は人の役に立ってこそ天才。世の天才の皆さん、才能を大いに使ってください、と叫びたくなった一作でした。ヴィトスくん、自分だけが儲ければいいのじゃないよ。

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VITUS
スイス、2006年、上映時間 121分
監督: フレディ・M・ムーラー、製作: クリスティアン・ダヴィほか、脚本: ペーター・ルイジ、フレディ・M・ムーラー、ルカス・B・スッター、音楽: マリオ・ベレッタ
出演: テオ・ゲオルギュー、ブルーノ・ガンツ、ジュリカ・ジェンキンス、ウルス・ユッカー、ファブリツィオ・ボルサニ

世界最速のインディアン

2007年11月30日 | 映画レビュー
 爺さんも捨てたもんじゃない!

 1962年に、1920年代の古い古い流線型オートバイを駆って世界最速記録を打ち立てた高齢ライダーの物語。実話というけれど、途中の四方山話はかなりの与太が入っていそうだ。

 ニュージーランドに住むベテランライダー、バート・マンロー(アンソニー・ホプキンス、頑張ってます)63歳は、一人暮らしの気の良い爺さんだが、趣味のオートバイに熱中するあまり、隣人たちに迷惑をかけて煙たがられている。バートが乗るオートバイは横から見たらまるで魚のような形をしたけったいなものだ。バイクなのに側板があって、魚の着ぐるみを着て走っている風情。彼は40年以上前から愛用しているオートバイ「インディアン」に乗って、世界最速記録を打ち立てるのが夢だ。そしていよいよその夢を実現させる日がやって来た。いざ、遠くアメリカへ出発せん! 目的地はユタ州のボンヌヴィル、彼の地で開かれる速度レースに出場するのだ!

 しかし、金のないバートはアメリカまでの船賃も惜しい。コックとして雇ってもらった貨物船に乗ってロサンゼルスにたどりつくが(ちなみにコックの経験はない)、アメリカの物価高におったまげ、ユタ州までバイクを牽引するのも一苦労。とにかくこの道中が面白可笑しい。田舎者の矜持を捨てず、持ち前のユーモアや頑固さや才能でなんとかボンヌヴィルまでたどり着いてしまう。このあたりのほのぼのとした面白さはおそらくフィクションだろう。いや、ほんとだったらもちろんもっと楽しいと思うが。

 バートは狭心症の持病があり、しかも彼のオートバイは整備不良の年代もので、レースへの参加は危ぶまれる。てか、そもそも彼はエントリーしていなかったのだ! こりゃ大変!

 というような波乱万丈を乗り越え、いよいよ映画はクライマックスのバイク走行シーンへ。ここはほんとに見せ場です。アンソニー・ホプキンスもどこまで本人が運転したのか知らないが、かなり頑張っています。ユタ州の広い広い塩湖が干上がった塩の平原で思いっきり直線をぶっとばして速度記録を作るという「レース」だが、こんなレースがあったとは知らなかった。

 歳をとっても夢を捨てないことの楽しさを存分に見せてくれた映画。なんといっても主人公バートの自立自存の精神がいい、キャラがいい。演じたホプキンスもさすがの演技。ほのぼのとお奨めです。(レンタルDVD)

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THE WORLD'S FASTEST INDIAN
ニュージーランド/アメリカ、2005年、上映時間 127分
監督・・脚本・製作: ロジャー・ドナルドソン、音楽: J・ピーター・ロビンソン
出演: アンソニー・ホプキンス、クリス・ローフォード、アーロン・マーフィ、クリス・ウィリアムズ、ダイアン・ラッド、パトリック・フリューガー

敬愛なるベートーヴェン

2007年11月28日 | 映画レビュー
 最後の第九、素晴らしい演奏はベルナルド・ハイティンク指揮アムステルダム・ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団演奏の1996年録音のものを使ったという。

 ベートーヴェンの第九交響曲の写譜を行った人物は3人いるといわれ、その謎の3人目を女性という設定にして作られたのがこの作品だ。23歳のヒロイン、アンナ・ホルツは架空の人物。演じたダイアン・クルーガーは今まで見たどの作品よりも愛らしい。もともとたいへん美しい人なのだが、この映画では23歳の女学生という設定だからか、幼ささえ漂う表情は初々しく清楚だ。やっぱり女優ってすごい。

 アンナの存在がフィクションであるがゆえに、時代考証を無視した現代的な設定も可能になる。女の写譜師など考えられない時代に、作曲の才能を持った女性がベートーヴェンの前に現れるというのは実に興味深い。初演が4日後に迫っているというのに合唱のパートが書き上がっていないという危機的状況のなか、出版社から派遣されてきた写譜師が女であることに激怒したベートーヴェンだが、彼女のただならぬ才能を認めて自分の手許に置くようになる。

 この作品はベートーヴェンの最晩年だけに焦点を当てている。これを見ても決してベートーヴェンの伝記的事実が理解できるわけではない。既に功成り名を遂げた大作曲家にして孤独な変人の最後の交響曲の完成間近に現れた美しく若い女性との師弟愛と葛藤が描かれているだけだ。

 クライマックスは第九初演の舞台であり、このとき、既にほとんど耳が聞こえなかったベートーヴェンは指揮することができず、舞台袖に影の指揮者がいたというのは有名な話だ。本作ではその影の指揮者をアンナに据えて、彼女とベートーヴェンとの二人三脚の指揮ぶりを官能的に描く。第九の音楽に酔いながら棒を振るアンナは音楽によってオルガスムスに達しているかのような至悦の表情を浮かべている。

 アンナが恋と作曲の板挟みになるという迷いが描かれているのも現代的だ。ベートーヴェンのエキセントリックな振る舞いに翻弄され、心ない言葉に傷つきながらもその偉大さには敬愛を失うことができないアンナは、あくまでも師についていく。この映画の巻頭がベートーヴェンの死から始まり、その死を悲しむアンナの回想として過去へと戻っていくことを見ても、二人の結びつきがどれほど強かったかを示していることがわかる。

 ストーリー的には「不滅の恋 ベートーヴェン」のほうが面白いと思うけど、本作もエド・ハリスの怪演とダイアン・クルーガーの美しさを楽しめてなかなかよい。第九初演の盛り上がる場面で終わらなかったのがよかった。音楽に身も心も捧げた二人の天才の葛藤が、アップを多用した映像によって見る者に迫ってくる。やはり第九は素晴らしい音楽だ。また歌いたい。(レンタルDVD)

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COPYING BEETHOVEN
イギリス/ハンガリー、2006年、上映時間 104分
監督: アニエスカ・ホランド、製作総指揮: エルンスト・ゴルトシュミットほか、脚本: スティーヴン・J・リヴェル、クリストファー・ウィルキンソン
出演: エド・ハリス、ダイアン・クルーガー、マシュー・グード、ジョー・アンダーソン、ビル・スチュワート

この道は母へとつづく

2007年11月27日 | 映画レビュー
 「母を訪ねて三千里」で泣く人なら絶対に見ましょう。けなげな男の子が懸命にママに会うために一人冒険するといういじらしいお話。ただしお涙頂戴ものではありません。

 可愛らしい男の子が生みの母に会いたいがために孤児院を脱走して一人列車に乗って町へ出かける。途中、不良少年に身ぐるみはがされたり殴られたり、追っ手をかわして懸命に隠れたり戦ったり。演じる子役がまた達者な演技で観客の心を打つのだから、反則ですね、これは。

 ロシアではこの映画にあるような孤児が増え、社会問題化しているのだという。人身売買まがいの養子斡旋業まで跋扈している。そんな実情を踏まえた社会派作品なのだ。だから、決してお涙頂戴ものというわけではなく、ラストシーンなど、むしろあっさりしすぎているぐらい。

 原題は「イタリア人」。6歳のワーニャがイタリア人夫婦に養子としてもらわれていくことが決まったために、孤児院仲間から「イタリア人」というあだ名をつけられるのだ。裕福そうなイタリア人夫婦にもらわれていくことを仲間たちは羨ましく思うのに、ワーニャは本当の母親に会いたくて孤児院を脱走してしまう。そこに至るまでには、懸命に字を覚えて自分の身元ファイルを盗み読みしたり、売春している孤児院の少女に面倒を見てもらったりと、知恵と連帯の力で幼いながら逞しさを発揮する。

 それにしてもロシアの孤児院はこんなに退廃しているのだろうか? 院長は酒びたりで年長の孤児たちは盗みや売春で小遣い稼ぎをするとは! おまけに高額の手数料で養子を斡旋する「マダム」と院長がつるんで金儲けをたくらんだり、ひどいものである。

 マダムとその用心棒に追いかけられながらもワーニャは懸命に知恵を絞って逃げまくる。この子はほんとうに賢い子だ。たった6歳なのに勇気もある。とうとう見つけたママの家。果たしてワーニャはママに会えるのだろうか?! ラストシーンのワーニャのかすかな微笑みの意味は?…




<以下ネタバレ>




 ワーニャがほんとうにママに会えたのかどうか、幸せになれたのかどうか、気になって仕方がない。あのラストシーンはひょっとしてワーニャの幻想か妄想ではなかろうかと思えるからだ。この厳しいロシアの現実をしっかり描いた作品が、最後になって夢のように美しい「めでたしめでたし」という物語を用意するだろうか? そうだとすればその甘さの分だけ減点と言える。

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ITALIANETZ
ロシア、2005年、上映時間 99分(PG-12)
監督: アンドレイ・クラフチューク、製作総指揮: オルガ・アグラフェニーナ、脚本: アンドレイ・ロマーノフ、音楽: アレクサンドル・クナイフェリ
出演: コーリャ・スピリドノフ、マリヤ・クズネツォーワ、ダーリヤ・レスニコーワ、
ユーリイ・イツコーフ、ニコライ・レウトフ

ヘアスプレー

2007年11月26日 | 映画レビュー
くたびれて途中、かなり寝込んでしまった。まったく今年はよく映画館で寝てるわ。トホホです。

 この映画のメッセージ性があまりにも単純明快なのでなんで今時こんな映画が…と不思議に思っていたが、1988年のオリジナル作があったのだ。それにしても88年にしたって、人種差別反対というメッセージを込めた映画がこんな古くさい作りで制作されていたとは驚きだ。

 途中たぶん30分以上寝たような気がするが、最後はちゃんと目が覚めて楽しめたから、まあ、元はとったかな。最初から最後までハイテンションに歌って踊りまくるミュージカルなので疲れているときにはそのやかましさに疲労困憊する。といっても「プロデューサーズ」ほどドタバタものではない。主人公がかなりのおでぶちゃん、アンチヒロインぶりを発揮する。

 舞台は1962年のボルチモア。地元の放送局が作る歌番組で欠員が出たため、オーディションで補充することになる。胸ときめかせてオーディションにかけつけるのは重量級のトレーシーちゃん。で、うまく役を射止めて…というあたりで寝てしまったので以下省略。

 トレーシーを陥れるライバル少女のステージママを演じるミシェル・ファイファーがとってもスリムで嫌みな女をヒートアップ気味に演じたのが面白かった。ジョン・トラボルタは付け尻・付け胸で超重量級の女装をしているのがもちろん大受けです。というか、おばけやね、これ。クリストファー・ウォーケンと夫婦役というのも不気味。

 主役のニッキー・ブロンスキーってまだティーン・エイジャーだったのだ。あんまり太っているから年齢不詳に見えたけど、歌と踊りは間違いなく巧い。巧いけど、ちょっとは痩せないと病気で早死にするんじゃないの? まあ、この映画には痩身至上主義の風潮へのアンチテーゼがあるっていうのはわかるけどね。

 かなり楽しいミュージカルです、しかも1960年代の雰囲気が良く出ていて、人間の顔や表情まで60年代になっているところはすごいです。

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HAIRSPRAY
アメリカ、2007年、上映時間 116分
監督: アダム・シャンクマン、製作総指揮: アダム・シャンクマン、マーク・シェイマンほか、脚本: レスリー・ディクソン、オリジナル脚本: ジョン・ウォーターズ、マーク・オドネル、作曲: マーク・シェイマン
出演: ジョン・トラヴォルタ、ニッキー・ブロンスキー、ミシェル・ファイファー、クリストファー・ウォーケン、クイーン・ラティファ、、ザック・エフロン

迷い婚

2007年11月25日 | 映画レビュー
 「親子丼」というのは聞いたことあるけど、こういうのはなんて言うんでしょうねぇ~。やっぱりケヴィンが素敵! 白いタキシードがなんてよく似合うのでしょう。彼も歳食ったけど、渋くて素敵です。「ボディガード」で惚れて以来、いろいろ浮気もしたけど、やっぱりケヴィンが最高。

 本作は、「映画『卒業』が実話で、モデルがいた」と着想したことが最大のヒット。このアイデアだけで喝采ものです。あとはまあ、付け足しみたいなもんよ。

 脱線していきそうな種はあちこち撒いてあるんだけど、それはすぐに回収されて安全コードに戻ってしまうから、コメディとしては爆笑ものの範疇には入らない。そこがちょっと不満と言えば不満だが、そういうとこで脱線させていくともうドタバタコメディになってしまうから、抑えたんでしょう。逸脱系の面白さではなく、手堅く上品に、というまとめ方なので、安心して見ていられます。お子様にも安心かも。あ、いや、やっぱりお子様には見せてはいけないわ、だってそんな、「ボー・バローズと寝る家系」ってそんな家系あるもんか(笑)。とにかくほどよく楽しくてよかったです。自分探しなんて幽霊探しだよというオチもいいし。ロブ・ライナー監督はこういうラブコメは手堅い。

 それはそうと、ブラピによく似た若い役者が出てたけど、ジェニファー・アニストンってブラピの元妻だったね、あれまぁ。それから、やっぱりシャーリー・マクレーンは素敵です。おしゃれなおばあちゃんっていいわぁ。(レンタルDVD)


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RUMOR HAS IT...
アメリカ、2005年、上映時間 97分
監督: ロブ・ライナー、製作: ベン・コスグローヴ、ポーラ・ワインスタイン、
脚本: T・M・グリフィン、音楽: マーク・シェイマン
出演: ジェニファー・アニストン、ケヴィン・コスナー、シャーリー・マクレーン、マーク・ラファロ、リチャード・ジェンキンス

サマータイムマシン・ブルース

2007年11月25日 | 映画レビュー
 これは安いですねぇ~。チープ感がたまりませんわ。テーマはタイムパラドクスです。ドタバタコメディにもかかわらず、タイムパラドクスの問題だけは真面目に追求しているところが可笑しい。途中ちょっと寝てしまったのでどういうつじつま合わせがあったのかわからないんだけど、とにかく最後はうまくパラドクスが解けたみたい。めでたしめでたし。

 あ、こういうふうに書くともうこれでお終いなんだけど、楽しい映画ですから、お気楽に見て笑いましょう。オフィシャル・サイトも面白いのでぜひご覧あれ。


 あ、これではあんまりだからもう少し書いておこう。舞台は香川県の大学のサークル部室。SF研究会のメンバーがタイムとラベルする2日間の物語。このメンバーというのが、SF研究会といいながらSFが何の略かも知らないような連中で、要するに街中からガラクタを集めて部室に溜め込んでいるというわけの解らない活動をしている。冒頭の場面で野球をやっているから野球部かと思ったけど、6人で2チームに分かれて試合やっているから満塁になったら次のバッターがいないという大笑いもの。

 若人の元気一杯のエネルギーをもらえる楽しい映画なので、どんなに安っぽかろうが許せる気分。大学の校舎にしてもあまりに田舎っぽいから大学とは思えない。廃校寸前の田舎の小学校じゃないの? え、なんですって、ロケ地は四国学院大学? ちゃんと大学だったんだ(^^;)、失礼しました。善通寺が懐かしかったね、家族旅行で行きました。ちゃんとお遍路さんも写ってたし。

 それにしてもタイムスリップものでは絶対に避けて通れないタイムパラドクスに正面から取り組んだ意欲は買いましょう。それに、人の運命はもう決まっているのかそれとも運命は変えられるのか、という永遠に解けそうにない議論に果敢に挑んだところも奥が深いと言えよう(言えるかな?(^_^;))。(レンタルDVD)


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製作国 日本、2007年、107分
監督: 本広克行、エグゼクティブプロデューサー、脚本: 上田誠、音楽:ALFBY
出演: 瑛太、上野樹里、、与座嘉秋、川岡大次郎、ムロツヨシ

4分間のピアニスト

2007年11月24日 | 映画レビュー
 サントラほしい。買おうかなぁ。やはり圧巻はラストの演奏シーンです。見事! この演奏シーンをもっと見たいのに、ほんとにあのシーンは4分もあったのかしら?

 物語の舞台は女子刑務所。殺人を犯した歳若い囚人ジェニーが収容されているところだ。ここはかつてナチスの収容所があったところで、この刑務所にはピアノを教える年老いた女教師トラウデがいた。トラウデはジェニーの才能をひと目で見抜き、彼女に本格的にピアノを教えることを決意する。刑務所長には、「ジェニーの才能はスバ抜けている。コンクールに出せば必ず優勝する。そうすればあなたの名誉にもなる」と言いくるめて。 

 ジェニーは暴力的で破壊的な性格をしていて、大柄な男の看守にまで暴行を加えて重傷を負わせるような人間だ。荒れすさんだ表情でいつも人を睨みつけている。ハンナー・ヘルツシュプルングは無名の新人だが、このジェニーをよくぞここまで、というぐらい存在感たっぷりに演じている。ジェニーを演じたのが美人女優ならここまで迫力あるピアニストに見えなかったと思う。ぼさぼさ頭のボーイッシュなジェニーの雰囲気がよく出ている。ところが、後でパンフレットに載っているハンナー・ヘルツシュプルングの写真を見て驚いた。素の彼女はもっと愛らしく清楚な雰囲気の女性なのだ。女優ってやっぱりすごい。

 すさんだ女囚と頑固な老教師は、実はともに悲しい過去を秘めていた。エゴのぶつかりあいのような二人のレッスンだったが、諍いながらも音楽を通して二人はやがて心を寄せ合うようになる。いつしかジェニーは自らの傷をトラウデに語るようにまでなる。一方、トラウデの過去はフラッシュバックで観客に知らされる。ナチス崩壊の直前、彼女は愛する人を処刑された。その悲しみが塗り込められたこの刑務所を戦後も離れることができなかったのだ。

 愛を失い愛に飢えた悲しい女たちの物語はどこへ向かうのだろう。ジェニーはコンテストの決勝の日、罠に嵌められ外出を禁じられてしまった。一計を案じたトラウデはジェニーをなんとかコンテストに出場させようと…


 クラシック音楽しか認めないトラウデと新しい自分の音楽を求めるジェニーとのぶつかりあいはいつも強引なトラウデの勝ちだった。しかし、最後にジェニーが自らを解放するその瞬間こそが素晴らしい。この映画はかなり強引な設定で進むし、説得力のない部分や説明不足も目立ち、そのうえ主役二人の個性が立ちすぎてなかなか素直に入り込めない部分もある。しかし、もろもろの欠点のすべてがラストシーンで一掃されてしまう。圧巻の演奏シーンが終わった後のジェニーの不敵な笑いがカタルシスを呼ぶのだ。

 映画だけでは満足しきれなかった部分はサントラを聞いて補うことにしよう。ちなみに、ピアノを弾いているのはドイツ在住の日本人ピアニストだ。

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VIER MINUTEN
ドイツ、2006年、上映時間 115分
監督・脚本: クリス・クラウス、製作: アレクサンドラ・コルデス、マイク・コルデス、音楽: アネッテ・フォックス
出演: モニカ・ブライブトロイ、ハンナー・ヘルツシュプルング、スヴェン・ピッピッヒ、リッキー・ミューラー、ヤスミン・タバタバイ

僕のニューヨークライフ

2007年11月24日 | 映画レビュー
 ウディ・アレンの二代目みたいな若い劇作家が主人公。売り出し中のコント作家ジェリー・フォークを演じるジェイソン・ビッグスがウディ・アレンそっくりの早口でどもりながらしゃべるのも面白いし、そのジェリーがウディ・アレン演じる老作家ドーベルを異様に敬愛しているというのもなんだか笑える。全体の印象は、「ウディ・アレンの自己言及映画」。ニューヨークの風景がとても綺麗に撮れていて、撮影監督に拍手です。

 ギャグがすべて自虐ネタのユダヤもので、会話に出てくる内容がドストエフスキーだのカミュだのの純文学や哲学。こういうのを面白がるのは(ヘタレ中流)インテリと相場が決まっているから、受ける層は限定されていて薄い。精神分析に対する強烈な皮肉やホロコーストの被害者意識に凝り固まるユダヤ人を嗤うユーモアセンスといい、わたしにはどんぴしゃ。

 おまけに、クリティナ・リッチ演じるアマンダというイカレタ女の賢そうでいて軽薄なところも他人事とは思えず嗤ってしまう。

 これといって大きな山場もなく時間が過ぎるが、洒脱な会話の間合いやセックスに関する過激な会話の内容に感心したり驚いたりしているうちに、あっという間にラストへ。会話のテンションがずっと高いために、飽きが来ないのだ。老人と若者という妙な作家コンビの会話が可笑しくて、見ようによってはゲイかもと思えるような雰囲気がさらにいっそう可笑しい。ウディ・アレンのコメディの中ではかなり好きな部類です。(レンタルDVD)

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ANYTHING ELSE
アメリカ/フランス/オランダ/イギリス、2003年、上映時間 112分(PG-12)
監督・脚本: ウディ・アレン、製作: レッティ・アロンソン、撮影: ダリウス・コンジ
出演: ジェイソン・ビッグス、クリスティナ・リッチ、ウディ・アレン、ストッカード・チャニング、ダニー・デヴィート

マンダレイ

2007年11月24日 | 映画レビュー
 「ドッグヴィル」の続編。ドッグヴィルを去った後のグレースの行動が描かれるので、前作を見ていないと導入部はなんのことかわからないし、途中もやはりわかりにくいと思う。セットの作り方も演出もまったく前作を踏襲しているが、「ドッグヴィル」ほどのあくどさや気分の悪さはない。「ドッグヴィル」でトリアー監督の毒に慣れたせいなのか、全体としてはおとなしめの印象を受けた。おそらく「ドッグヴィル」は個々人の内面の醜さに迫るものがあったのに、今回は「民主主義と自由」という制度についての批判が描かれているため、比較的冷静に距離を置いて見られるのだろう。

 あ、そういえば民主主義と自由といえばどこかの政党の名前ではないか。なるほど、この映画を観れば民主主義と自由をナイーブに国是とする政治思想の浅薄さと脳天気さが透けて見える。

 アメリカ大嫌いなトリアーが再びアメリカを舞台に描いた三部作の二部作めの時代は1933年。ドッグヴィルを去ったグレースが父であるギャングのボスと高級車で通りかかったのはとある農園。そこはいまだに奴隷制度が生きていた。70年前に廃止になった奴隷制が生きる農場では、「ママ」と呼ばれる白人の雇い主が危篤となっていた。奴隷たちに同情した正義感の強いグレースは彼らを救い解放するためにここに残ることにする。そしてグレースは黒人奴隷たちを教育し始め、彼らに民主主義と自由と自立を教えていくのだったが……

 グレース役がニコール・キッドマンからブライス・ダラスに変更になったので多少違和感があるのだが、役者が若返った分、グレースの青臭い正義感ぶりが強調される。無知な黒人たちを啓蒙しようとする「善意」の人の無垢な罪が露わになる瞬間のグレースのキレかたが悲痛だ。所詮彼女の民主主義は暴力を背景にしているのだ。父の権力と父の暴力と父の保護を後ろ盾にした砂上の楼閣。トリアー監督のアメリカ嫌いはますます絶好調。今度は民主主義すら嘲笑の対象になった。そしてグレースが黒人に惹かれていき、主人と奴隷の関係が逆転するクライマックスの怖いこと! トリアー監督にかかったら自由も平等も博愛も何もかも、近代的な美徳がことごとく無意味な地平に落とされてしまう。

 「ドッグヴィル」ほどの衝撃も新鮮味もないけれど、やはり「ドッグヴィル」を見た以上は押さえておきたい続編です。(レンタルDVD)

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MANDERLAY
デンマーク/スウェーデン/オランダ/フランス/ドイツ/アメリカ、2005年、上映時間 139分(R-18)
監督・脚本: ラース・フォン・トリアー、製作: ヴィベク・ウィンドレフ、音楽: ヨアキム・ホルベック
ナレーション: ジョン・ハート
出演: ブライス・ダラス・ハワード、イザック・ド・バンコレ、ダニー・グローヴァー、ウィレム・デフォー、ジェレミー・デイヴィス、ローレン・バコール

スパニッシュ・アパートメント

2007年11月24日 | 映画レビュー
 これは楽しい!

 ハイテンション・コメディを堪能しました。画面分割や早送りにかぶせる独白もまた粋で、若者の持つ可能性やパワーを表現するにはぴったりの作風だ。舞台をスペインのカタロニア地方にしたことも大正解。ここはスペインの中でも異邦人の町であり、そこに文字通りの異邦人7カ国の留学生達がハウス・シェアする。お国柄・人柄の違いがぶつかり合いいがみ合い喧嘩もするけれど、いざ鎌倉となれば一致団結する微笑ましさ。

 今、ヨーロッパはこの映画のように坩堝状態になっているし、日本も以前に比べればずいぶん坩堝に近づきつつある。グローバリゼーションの深化がハイブリッドな社会を創るのはもう時代の流れなのだ。と同時に、グローバリゼーションが地域ナショナリズムを強化するという二面性をも持つことが面白い(鈴木謙介『<反転>するグローバリゼーション』参照)。

 主人公はフランスからの留学生、グザヴィエ。空港で恋人と涙の別れを経験したけれど、スペインで同じクラスにちょっと美人の学生がいるとちょっかいを出したくなる、という浮気者。それだけではなく、空港で知り合ったフランス人医師の新婚の妻にも惹かれてみたり。勉強も大事だけどアヴァンチュールもやってみたいという、いかにもありそな若者だ。

 バルセロナに留学してきた6人の仲間と一緒に大きなアパートメントの一角に住む。せっかくの大きな住居なのに、学生たちがてんでに汚すからいつも散らかっている。7人のハウスメイトはイギリス、ドイツ、イタリア、スペイン、フランス、デンマーク、ベルギー出身。いかにも学生、いかにも青春。昔の学生寮を思い出してとっても懐かしかった。もちろん住居の雰囲気はかなり違うのだけれど、あの怠惰な雰囲気、勉強に励みながら遊びも一生懸命という感じが学生時代を彷彿させる。

 バルセロナの青空と太陽が眩しい。建物の鮮烈な色彩が魅力的だ(アントニ・ガウディばかりなのだろうか?)。ヨーロッパの行く末を占うかのような本作はとても興味深い。こんな混沌状態の若者達が20年後、どんなヨーロッパを作ってくれるのだろう?

 グザヴィエは留学の最後に近づいて、突然神経の失調状態に陥り、「フランス語がわからない」と言い出す。母国語が理解できないという記憶障害は何を意味するのだろう? 彼にとってはもはや祖国で待っている安定した公務員の道は考えられないという前兆ではなかろうか。最後にグザヴィエは「離陸」する。その疾走に快哉。青春はこうでなくちゃ。(レンタルDVD)

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L' AUBERGE ESPAGNOLE
フランス/スペイン 、2002年、上映時間 122分
監督・脚本: セドリック・クラピッシュ、音楽: ロイク・デュリー
出演: ロマン・デュリス、ジュディット・ゴドレーシュ、オドレイ・トトゥ、セシル・ドゥ・フランス、ケリー・ライリー、クリスティーナ・ブロンド、ケヴィン・ビショップ、クリスチャン・パグ

プラハ!

2007年11月24日 | 映画レビュー
 ヨーロッパ映画とは思えない明るくサイケデリックなミュージカル・ラブコメ。まさに時代は68年、おまけに音楽はほとんどすべてアメリカンポップスのナツメロばかり。女の子達の服装は超ミニスカートにホット・パンツという、まるで68年のアメリカ映画そのままのような軽さ。だが、ミュージカルの出来はアメリカものに敵わない。歌も踊りも学芸会に毛の生えた程度の安っぽさには苦笑してしまう。その上、わたしはいけ好かない男子学生の顔が気に入らないのでますます不愉快になる。

 バージンを早く失いたくてウズウズしている女子高校生3人と、脱走兵3人の恋のさや当てゲーム。そこに冴えない男子学生3人もからむ。歌ありダンスあり、女子高生の父親のロマンスもあり、社会主義批判のブラックユーモアあり、なんでもありのごった煮。

 最初のうち、これはどうしたものか、もう早送りしてやろうと思ったのだけれど、辛抱してずっと見ているうちに、最後に「あ、やっぱりプラハの春なんだ」と思わずにはいられない切ない結末。ドタバタぶりには疲れたけれど、最後までズルズルと見てしまいました。(レンタルDVD)

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REBELOVE
チェコ、2001年、上映時間 110分
監督・脚本: フィリプ・レンチ、音楽: ヤン・カルーセク
出演: ズザナ・ノリソヴァー、ヤン・レーヴァイ、ヤロミール・ノセク、アンナ・ヴェセラー、ルボシュ・コステルニー、アルジュヴェタ・スタンコヴァー、
マルタン・クバチャーク

彼女を信じないでください

2007年11月24日 | 映画レビュー
 「嘘から出た真実(まこと)」というのはラブ・コメではよくあるパターン。そしてハッピーエンドというのもまったくパターンどおり。しかしこのパターン踏襲映画、かなり面白い。伏線がぴたっと決まるところなんて爆笑できるし、オバカ映画のようでいて脚本はかなり緻密に練られている。最初に撒いておいた種がうまく収穫されたというすっきり感があるのだ。

 刑務所から仮釈放されたヨンジュ(キム・ハヌル、ちょっと天地真理に似ている)が、たまたま列車内で出会った若者が大切な指輪を掏られるところを目撃してしまったばっかりに、いらぬ疑いがかからぬよう、その若者に指輪を取り戻してやろうとする。しかしこれがとんだ行き違いになって、チェ・ヒチョルという田舎の町長の息子の家にまで行くはめに。そこでまたいろんな誤解が錯綜して、ヨンジュはヒチョルの婚約者だということになってしまう…。

 誤解が誤解を生んでとんでもない状況へと走りだし、刑務所から出所したばかりという過去を隠したいヨンジュが適当なことを言えば言うほど誤解は大きくなり、そこへ帰ってきたヨンジュが言い訳をするとさらに事態はややこしいことになり…。という話がテンポ良く回っていくコメディ。隠れテーマは田舎の跡継ぎ問題と家族愛。仕込まれたネタの一つずつはかなり面白くて笑える。

 笑って笑って最後はほろっとさせられて、なかなかお得感のある映画です。最後がちょっと冗長かな。(レンタルDVD)

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韓国、2004年、上映時間 115分
監督: ペ・ヒョンジュン、脚本: チェ・ヒデ、パク・ヨンソン、音楽: チョ・ヨンウク
出演: カン・ドンウォン、キム・ハヌル、ソン・ジェホ、キム・ジヨン

マッチポイント

2007年11月24日 | 映画レビュー
 セクシーな女によろめいた男は優しく凡庸な妻との生活に厭きたらず、激情にかられて女と密会を繰り返す。やがて女からは妻と別れるように懇願され、しかし、妻を失えば仕事も財産も失ってしまう男は追いつめられて…

 とまあ、あまりにもありがちなストーリー。それでも最後までちゃんと引きつけられていたからやはりよくできていると思う。この凡庸なストーリーのどこに捻りを入れるのだろう、という期待が最後の最後まで生きているからだ。

 妻も愛人も失いたくない強欲な男、アイルランドからロンドンに出てきた立身出世を夢見る野望の男は望み通りに成功への道を着実に歩いている。それもこれも上流階級の妻と結婚したおかげだ。不思議なことにこのサイテー男にすっかり感情移入してしまうのだから、映画というのはよくできたもので。

 男にすれば、子どもを欲しがる妻も鬱陶しいし、妻と別れろと執拗に迫る恋人も鬱陶しい。けれど実はどちらも愛しているからこれまた難儀なのだ。男にとっては自分こそが被害者だ。女は我が儘で自分を困らせ自分に義務を押しつけてばかりいる。正しくハリウッド的ミソジニー(女嫌い)映画の伝統を守っていますね、ウディ・アレン監督。

 しかしこれ、かつてヘイズ・コードが生きていた時代ならば決して作ることができなかった物語だ。ハリウッドの自主規制コードにひっかかる、不倫もの。なんで今頃こんな物語を? まったく無関係な隣人を巻き込む「軍事行動」への皮肉をいいたかっただけなのだろうか、アレンは?

 運さえよければ、そして金と社会的地位があれば、悪人が生き延びてしまう、もはや「正義」なんて存在しない社会をシニカルに描きつつ、観客自身の倫理観も試されている。いずにれにしてもちょっと本作へは期待が大きすぎたようです。(レンタルDVD)

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MATCH POINT
イギリス/アメリカ/ルクセンブルグ、2005年、上映時間 124分(PG-12)
監督・脚本: ウディ・アレン 、製作総指揮: スティーヴン・テネンバウム、
出演: ジョナサン・リス・マイヤーズ、スカーレット・ヨハンソン、エミリー・モーティマー 、マシュー・グード、ブライアン・コックス、ペネロープ・ウィルトン