スペイン内戦を舞台にしたファンタジー。
スペイン内戦を知らない日本の若い世代はこの映画をどう見るのだろう? 劇場は若者で満席だったのだが、彼らはこの映画のどのように見たのか、わたしはそのことに興味がある。映画がはねた後、このファンタジーを単純にそのまま受けとめたかのような発言をする若者がいたが、彼にとって、デートで見たこの映画は単にファンタジーを消費した2時間に過ぎなかったのだろうか。
童話が大好きな少女オフェリアは、再婚して身重の母と一緒に山奥ヘやって来た。そこは美しい母が再婚した相手、フランコ軍のビダル大尉がゲリラと戦っている拠点だった。残酷な軍人である義父は、母のお腹にいる子どもを男と決めつけ、「自分の名前を付けて、この聖なる地で息子を生み育てる」と公言する。いかにも独裁政権の軍人という風情の義父を好きになれないオフェリアは、彼女の目の前に現れた妖精に導かれ、牧神パンに出会う。パンは言う、「あなたは本当は地下の王国の王女さま、けれど自分が王女であることを忘れてしまっている。地下の王国では国王と王妃があなたの帰りを待っておられるのだ。王国に戻るには、三つの試練に耐えねばならない」と。
オフェリアが出会った妖精も牧神パンも不気味な姿をしている。そして、彼女がこれから試練に出会うたびに現れる奇怪な妖怪や魔物たちもまたねばねばと気持ち悪い蛙だったり目玉のない妖怪だったりする。その不気味さは、現実の世界で繰り広げられている内戦の暴力と恐怖をそのまま写したかのようだ。
彼女にとっては恐ろしげな義父と母の再婚は受け入れがたいものなのだろう。軍の駐屯地に働く女性メルセデスと医者が実はパルチザンの協力者であることを知ってしまっても、そのことを決して口外しない良い子なのだ。この映画ではフランコ軍とパルチザン軍は善悪の対立としてものすごくわかりやすく描かれている。残虐な正規軍と粗末な装備の反乱軍。スペイン内戦についての背景説明はほとんどないが、誰が見ても悪者は正規軍のほうなので、オフェリアが新たに父となったビダル大尉になつかないのは当然といえる。
オフェリアが与えられた三つの試練というのはそれほど難しいものではなさそうに思えるが、そこはやはり子どものこととて、彼女はその試練をかいくぐることができない。「決して何も食べたり飲んだりしてはいけない」と言われているのに、おいしそうな果物があれば思わず食べてしまう。禁じられているにもかかわらず、オフェリアは泣きながら言い訳をする。「ぶどう二粒ぐらいは食べてもいいと思ったの」。「そのぐらいはいいと思った」「これぐらいなら禁じられていると思わなかった」というのはよくある言い訳のパターン。こういうのはいけませんね、肝に銘じましょう。
残酷なシーンが多く、思わず目をつぶってしまった場面もあるので、お子たちと見るには注意が必要。大人も残酷なのが苦手な人は要注意。わたしは異界の者たちの造形の気味悪さが苦手なのと物語の単純さに物足りなさを感じたので満点をつけるわけにはいかないが、ラストの切なさには心を打たれた。オフェリアを演じたイバナ・バケロちゃんが愛らしく演技もうまいので、とてもよい。(PG-12)
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EL LABERINTO DEL FAUNO
メキシコ/スペイン/アメリカ、2006年、上映時間 119分
監督・脚本: ギレルモ・デル・トロ、製作: アルフォンソ・キュアロンほか、音楽: ハビエル・ナバレテ
出演: イバナ・バケロ、セルジ・ロペス、マリベル・ベルドゥ、ダグ・ジョーンズ、アリアドナ・ヒル
スペイン内戦を知らない日本の若い世代はこの映画をどう見るのだろう? 劇場は若者で満席だったのだが、彼らはこの映画のどのように見たのか、わたしはそのことに興味がある。映画がはねた後、このファンタジーを単純にそのまま受けとめたかのような発言をする若者がいたが、彼にとって、デートで見たこの映画は単にファンタジーを消費した2時間に過ぎなかったのだろうか。
童話が大好きな少女オフェリアは、再婚して身重の母と一緒に山奥ヘやって来た。そこは美しい母が再婚した相手、フランコ軍のビダル大尉がゲリラと戦っている拠点だった。残酷な軍人である義父は、母のお腹にいる子どもを男と決めつけ、「自分の名前を付けて、この聖なる地で息子を生み育てる」と公言する。いかにも独裁政権の軍人という風情の義父を好きになれないオフェリアは、彼女の目の前に現れた妖精に導かれ、牧神パンに出会う。パンは言う、「あなたは本当は地下の王国の王女さま、けれど自分が王女であることを忘れてしまっている。地下の王国では国王と王妃があなたの帰りを待っておられるのだ。王国に戻るには、三つの試練に耐えねばならない」と。
オフェリアが出会った妖精も牧神パンも不気味な姿をしている。そして、彼女がこれから試練に出会うたびに現れる奇怪な妖怪や魔物たちもまたねばねばと気持ち悪い蛙だったり目玉のない妖怪だったりする。その不気味さは、現実の世界で繰り広げられている内戦の暴力と恐怖をそのまま写したかのようだ。
彼女にとっては恐ろしげな義父と母の再婚は受け入れがたいものなのだろう。軍の駐屯地に働く女性メルセデスと医者が実はパルチザンの協力者であることを知ってしまっても、そのことを決して口外しない良い子なのだ。この映画ではフランコ軍とパルチザン軍は善悪の対立としてものすごくわかりやすく描かれている。残虐な正規軍と粗末な装備の反乱軍。スペイン内戦についての背景説明はほとんどないが、誰が見ても悪者は正規軍のほうなので、オフェリアが新たに父となったビダル大尉になつかないのは当然といえる。
オフェリアが与えられた三つの試練というのはそれほど難しいものではなさそうに思えるが、そこはやはり子どものこととて、彼女はその試練をかいくぐることができない。「決して何も食べたり飲んだりしてはいけない」と言われているのに、おいしそうな果物があれば思わず食べてしまう。禁じられているにもかかわらず、オフェリアは泣きながら言い訳をする。「ぶどう二粒ぐらいは食べてもいいと思ったの」。「そのぐらいはいいと思った」「これぐらいなら禁じられていると思わなかった」というのはよくある言い訳のパターン。こういうのはいけませんね、肝に銘じましょう。
残酷なシーンが多く、思わず目をつぶってしまった場面もあるので、お子たちと見るには注意が必要。大人も残酷なのが苦手な人は要注意。わたしは異界の者たちの造形の気味悪さが苦手なのと物語の単純さに物足りなさを感じたので満点をつけるわけにはいかないが、ラストの切なさには心を打たれた。オフェリアを演じたイバナ・バケロちゃんが愛らしく演技もうまいので、とてもよい。(PG-12)
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EL LABERINTO DEL FAUNO
メキシコ/スペイン/アメリカ、2006年、上映時間 119分
監督・脚本: ギレルモ・デル・トロ、製作: アルフォンソ・キュアロンほか、音楽: ハビエル・ナバレテ
出演: イバナ・バケロ、セルジ・ロペス、マリベル・ベルドゥ、ダグ・ジョーンズ、アリアドナ・ヒル