挑発する知 国家、思想、そして知識を考える
姜 尚中、宮台 真司著 : 双風舎 : 2003.11
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大雑把に言ってこれまで、「姜はオーソドックスな民族主義者」、「宮台はクールでドライなリアリスト」っていうイメージがあったのだが、どうやらそれは間違っていたようだ。
姜は思っていたほど古いタイプ(オールド・ボルシェヴィキってほどの古典派じゃないけど)の在日研究者じゃなかったし、宮台は予想ほどにはぶっとんだ意見を出しているわけでもない。
発話者の名前を伏せて読んだら、いったいどっちの発言なのかわからなくなるぐらい、二人の意見はよく似ているし、けっこう一致点も多い。
宮台真司が前書きで書いているように、姜尚中は国民国家の幻想性を糾弾するが、宮台は国民国家をひとまず認めた上でそれをいかに制御するかという戦略を立てる。この二人の戦略の違いが対談で顕著になるはずだったのだが、実際に読んでみると、なんだかよく似たことを言っているし、互いへの敬意が満ちあふれていて、もっぱら宮台が挑発し、姜尚中は大人の分別をみせてそれに逆らわず、うまくかわして論を立てているように見受けられる。
だから、本書には、前代未聞のすれ違い対談集(正確には往復書簡集)『動物化する世界の中で』のようなスリルや危機感やいらだちがない。読者に安心と安全を与えてくれるよい本である。とはいえ、「安心と安全」とばかりは言っておられなくて、やっぱり宮台は挑発者であり、宮台ってコンサバだったの? なんていうイメージもふつふつと湧いてくる場面がしばしば。彼は自分が「左翼」か「右翼」かという枠で分類されることを嫌う。というか、そういう二分法を脱構築してみせる。そういう二分法はもう時代遅れなのだ。
本書は対談なので、対談にありがちな論の彷徨や遊撃があり、論者たちのふだんの仕事に接していないとわかりにくいところやまどろっこしいところがあったりするので、やはり、もっと体系的に理解するには彼らの単著を読むべきだろう。
遅まきながら、本書のテーマを紹介しておこう。語られるのは、ナショナリズム、国家論、知識人論。丸山真男の後継者を自認する宮台の国家論はたいへん興味深い。
対談の最後にメディア・リテラシーが話題に上るのだが、これがなかなかおもしろい。敗戦直後のGHQによるメディア・リテラシー教育などは革命的と言えるぐらいにメディアの本質をついた内容だっだことが宮台によって語られる。
ところで、装丁に注目。本の耳の部分に二人の顔写真が隠されている。右から左へページをずらせば宮台が、左から右へずらせば姜の顔が浮かび上がる仕組みになっていて、「ほおぉ~、凝ってるやんか」と感心した。
本書はテーマが大きく幅広すぎるきらいがあるので、語られた一つずつのテーマについてそれぞれもう少し突っ込んで彼らの仕事に接する必要があるだろう。
とりあえずまず入り口のとっかかりを得るには格好の書といえる。用語解説も欄外についているので、初学者にとって親切な作りになっている。
姜 尚中、宮台 真司著 : 双風舎 : 2003.11
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大雑把に言ってこれまで、「姜はオーソドックスな民族主義者」、「宮台はクールでドライなリアリスト」っていうイメージがあったのだが、どうやらそれは間違っていたようだ。
姜は思っていたほど古いタイプ(オールド・ボルシェヴィキってほどの古典派じゃないけど)の在日研究者じゃなかったし、宮台は予想ほどにはぶっとんだ意見を出しているわけでもない。
発話者の名前を伏せて読んだら、いったいどっちの発言なのかわからなくなるぐらい、二人の意見はよく似ているし、けっこう一致点も多い。
宮台真司が前書きで書いているように、姜尚中は国民国家の幻想性を糾弾するが、宮台は国民国家をひとまず認めた上でそれをいかに制御するかという戦略を立てる。この二人の戦略の違いが対談で顕著になるはずだったのだが、実際に読んでみると、なんだかよく似たことを言っているし、互いへの敬意が満ちあふれていて、もっぱら宮台が挑発し、姜尚中は大人の分別をみせてそれに逆らわず、うまくかわして論を立てているように見受けられる。
だから、本書には、前代未聞のすれ違い対談集(正確には往復書簡集)『動物化する世界の中で』のようなスリルや危機感やいらだちがない。読者に安心と安全を与えてくれるよい本である。とはいえ、「安心と安全」とばかりは言っておられなくて、やっぱり宮台は挑発者であり、宮台ってコンサバだったの? なんていうイメージもふつふつと湧いてくる場面がしばしば。彼は自分が「左翼」か「右翼」かという枠で分類されることを嫌う。というか、そういう二分法を脱構築してみせる。そういう二分法はもう時代遅れなのだ。
本書は対談なので、対談にありがちな論の彷徨や遊撃があり、論者たちのふだんの仕事に接していないとわかりにくいところやまどろっこしいところがあったりするので、やはり、もっと体系的に理解するには彼らの単著を読むべきだろう。
遅まきながら、本書のテーマを紹介しておこう。語られるのは、ナショナリズム、国家論、知識人論。丸山真男の後継者を自認する宮台の国家論はたいへん興味深い。
対談の最後にメディア・リテラシーが話題に上るのだが、これがなかなかおもしろい。敗戦直後のGHQによるメディア・リテラシー教育などは革命的と言えるぐらいにメディアの本質をついた内容だっだことが宮台によって語られる。
ところで、装丁に注目。本の耳の部分に二人の顔写真が隠されている。右から左へページをずらせば宮台が、左から右へずらせば姜の顔が浮かび上がる仕組みになっていて、「ほおぉ~、凝ってるやんか」と感心した。
本書はテーマが大きく幅広すぎるきらいがあるので、語られた一つずつのテーマについてそれぞれもう少し突っ込んで彼らの仕事に接する必要があるだろう。
とりあえずまず入り口のとっかかりを得るには格好の書といえる。用語解説も欄外についているので、初学者にとって親切な作りになっている。