ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

ボーン・アルティメイタム

2007年11月20日 | 映画レビュー
 すごく面白かったのに、手持ちカメラの画面がずっと動きっぱなしなので目が疲れて途中でダウン。最後は寝ていたので結末が解らないっ!

 今回のアクションは狭路で展開される。路地を疾走するバイクのカーチェイスのすさまじい迫力にはびっくり。路地を駈けるのはバイクだけではありません、ジェソン・ボーンも駈ける、飛ぶ、ビルの屋上を飛び越える、窓を突き破る、狭いバスルームでの刺客との格闘なんて撮影が大変だったろうなぁと思わせるスピードと迫力。今回の映像は、役者もエライけどそれ以上にカメラマンがエライと思ったものであります。

 このシリーズは、1より2が、2より3が面白い。どんどん面白くなるというのに、寝てしまうとはこれいかに。ちょっと臨場感を出そうとしすぎたのではなかろうか? もうちょっと少しはカメラを落ち着かせてほしかった。「頼むから10秒でいいからフィックスカメラの場面も作ってよぉ~」と祈るような気持ちで映画をみるなんて、トホホだわ。目が痛い頭が痛い。

これ、中高年には肉体的に辛いです。


 このシリーズは何と言ってもクールで知的な元CIA工作員ジェイソン・ボーンのキャラがいい。驚異的な頭の回転の速さ、身体能力の高さ、語学力、どれをとってもずば抜けていて、そのスーパーマンぶりにほれぼれする。ヨーロッパ中をCIAに追われながらも見事に逃げおおせるところ、その知恵比べに興奮するのだ。と同時に、もはや高度管理体制社会であることがなんの疑問にも感じないほど監視網が行き届いたアメリカ国家の「目」には今更ながら恐怖を感じる。盗聴・盗視なんてへっちゃら。個人情報なんていったいどこにあるの!? そんなに何もかもプライバシーは筒抜けなの? あなおそろしや。しかもそんな様子がハイテンポで画面に次々と現れると、恐怖や嫌悪よりもむしろ爽快感を感じてしまうから怖い。権力の緻密さや力強さにむしろ観客が魅せられていくところがこの映画の怖さかもしれない。だからこそ、その網の目をくぐる一匹狼ジェイソン・ボーンの存在が頼もしい。そして、CIA内部の抗争・裏切り・腐敗が興味深くもあり。権力を維持しようとする人間は職務に忠実であり、冷酷無比なのは任務遂行にとってはよいことなのだ。優秀な組織人はかくも無慈悲な人間にしか務まらないのかもしれない。

 記憶を失ったジェイソン・ボーンが「自分探し」のハードな旅に出た3部作がとうとう終わり、彼は自分を取り戻す。これもまた最近数多く作られる記憶をめぐる物語の一つだ。人をその人たらしめるのは記憶の束、という観点からこの映画は創られている。もう一度最初からシリーズ全作を見直したら、違う見方ができるのではなかろうか。DVDが出たら全部見てみよう。

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THE BOURNE ULTIMATUM
アメリカ、2007年、上映時間 115分
監督: ポール・グリーングラス、製作: フランク・マーシャルほか、製作総指揮: ジェフリー・M・ワイナーほか、原作: ロバート・ラドラム、脚本: トニー・ギルロイ、
スコット・Z・バーンズ、ジョージ・ノルフィ、音楽: ジョン・パウエル
出演: マット・デイモン、ジュリア・スタイルズ、デヴィッド・ストラザーン、スコット・グレン、パディ・コンシダイン、アルバート・フィニー、ジョーン・アレン

リトル・チルドレン

2007年11月20日 | 映画レビュー
 劇場内に英語圏の女性がいて、その彼女が一人何度も声を上げて笑っていたのが印象的だった。日本人が絶対に笑わないような場面でなんども笑うから、「ああ、あれは英語がわかれば面白いんだろうなぁ」とちょっと悔しい思いをした。原作はウィットに富んだユーモアがあるのかもしれないが、映画はそれほど笑えない。最後はむしろサスペンスタッチになっている。前半特にうるさいほどナレーションが入るので「これは原作小説があるに違いない」と思ったら、やっぱり。原作は全米大ヒットの小説だそうな。

 実はこれがW不倫ものの話だとは知らずに見にいったものだから、こういう展開には面食らった。して、物語は…。

 幼い子どもどうしを連れた若い主婦と司法試験浪人のW不倫物語。ありがちな不倫ものとはいえ、人物の心理を丁寧に追う演出はさすがに「イン・ザ・ベッドルーム」のトッド・フィールド監督だ。本作は『ボヴァリー夫人』が下敷きになっているのだが、わたしはこの有名な小説を読んでいない。近々映画版も見たいことだし、今頃という感じだけれど読んでみるかな。

 男と女、二人とも今の生活に満足できない。経済的には何不自由なくても、幼い娘の育児に追われ、自分の時間を満足に持つ事ができないインテリ主婦サラ(ケイト・ウィンスレット、すごくいい感じ)の苛立ちはとてもよく理解できる。キャリアウーマンの妻の働きに支えられて司法試験の勉強に励むブラッド(パトリック・ウィルソン、ハンサムですね)とて、昼間は息子の育児に手をとられ、夜に図書館通いの日々だ。口さがない主婦達が陣取る公園で、うまく打ち解けられないサラと、女ばかりの中に男一人で浮いてしまっているブラッドが惹かれあうのは自然の成り行きだった。

 そんなとき、彼らが住む町には、未成年への性的暴行で服役中の中年男ロニーが仮釈放され、戻ってきた。地元の人々はロニーに冷たく、特に警官のラリーは「子どもを守る会」を一人ででっちあげて執拗にロニーにつきまとう。

 物語は一見この4人の動きが何のかかわりもないように描写されていく。小さな町だから人間関係は狭く、四人はいろんなところですれ違ったり交友関係を持ったりするのだが、サラとブラッドの不倫カップルとロニーとラリーの「元犯罪者とトラウマを持った執拗な警官」という二組の物語は別々に語られていく。

 タイトルは「小さな子どもたち」。子どもとはいったい誰のことなのだろうか? 4人が4人とも大人になりきれない未熟な人々であり、でもそれはありがちなことであり、そう、誰もがどこかに持っている幼く未熟で愚かな部分を持つ人々なのだ。四人をめぐる人間関係は丁寧に描写されているため、人物像の掘り下げに過不足はない。不足部分はやや過剰なほどナレーションで細かく補足されている。前半一気に人間関係や人物像を説明したあと、後半になればナレーションもなりをひそめ、とりわけクライマックスになるとカメラはじっくりと4人の表情を追う。

 この結末に安心する人とそうでない人がいるだろう。しょせん、人は逃避によっては成長しないのだ。新しい生活を手に入れたければ、それなりの葛藤と闘いを経なければならない。浮わついた気持ちで家庭を捨てることは大人のとるべき道ではない。「小さな子どもたち」に共感の視線を向けながらも、トッド・フィールドはそう語っている。

 変態中年男を演じたジャッキー・アール・ヘイリーが本作でオスカーにノミネートされた。彼の演技はすごすぎる。実は「変態」でなどない(悲しいことに彼の性的嗜好にすぎない)ロニーの悲しい末路に涙せずにはいられない。(R-15)
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LITTLE CHILDREN
アメリカ、2006年、上映時間 137分
監督: トッド・フィールド、製作: アルバート・バーガーほか、原作: トム・ペロッタ、脚本: トッド・フィールド、トム・ペロッタ、音楽: トーマス・ニューマン
出演: ケイト・ウィンスレット、パトリック・ウィルソン、ジェニファー・コネリー、ジャッキー・アール・ヘイリー、ノア・エメリッヒ

街のあかり

2007年11月20日 | 映画レビュー
 不幸のオンパレード。主人を待ちわびる犬のようなコイスティネンの瞳が憐れだ。

 アキ・カウリスマキの「敗者三部作」の掉尾を飾り、「孤独」をテーマとする物語。チャップリンの「街の灯」へのオマージュを込めたタイトルだという。

 作風はいつものカウリスマキらしく台詞はほとんどなく、登場人物は日常生活のリアリズムとは違うところで息をしているように感じる。まるで紙芝居を見ているような、絵本をめくるような。それでいて人物の心理や筋立てはくっきりと浮かび上がってくる。

 孤独な青年警備員コイスティネンは同僚からつまはじきにされ、上司には馘首の機会をうかがわれ、住まいは侘しい地下の部屋、毎晩ソーセージ売りの屋台に立ち寄るだけの生活。孤独な彼が、ある日突然目の前に現れた美女に恋をした。だが彼女は宝石泥棒の一味で、コイスティネンは利用されただけ。それなのに彼女をかばって罪を一身に被り服役するのだった。そんなコイスティネンをじっと見守る温かい眼があることに気付きもせず――

 何も悪いことはしていない、ただ愛想が悪くて人付き合いが下手なだけの寡黙な青年が、やっと見つけた恋人に騙されたと知ってもなお彼女をかばい続けるいじらしさ。不幸は次々コイスティネンを襲い、彼には何一つ希望が見えないかのようだ。ただじっと耐えて何も語らない彼が、ある日とうとう切れてしまう。だが復讐は返り討ちに遭う。もう行くところもない、ただ死を待つのみか?

 ほとんど動きのないカメラがじっとコイスティネンの無表情をおいかけ、彼の青い寂しい眼をアップにすると、見ているほうがいたたまれなくなる。孤独な人間には同じ孤独の匂いを嗅ぎ付けた人間が寄り添うものなのだ。そのことを知ったラストシーン、つないだ手はまだ力強くはない。けれど、その一瞬の手の温もりが人を生かせ続ける。

 いつものようにほんとうに淡々として、あまりにも静かで、感情を揺さぶる台詞の一つもなく、それでもラストまで観客を引っ張っていってしまう。眼の演技だけでほとんどの感情を表現した役者たちの力にもよるのだろう。

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LAITAKAUPUNGIN VALOT
フィンランド/ドイツ/フランス、2006年、上映時間 78分
監督・脚本・製作: アキ・カウリスマキ、音楽: メルローズ
出演: ヤンネ・フーティアイネン、マリア・ヤンヴェンヘルミ、マリア・ヘイスカネン、イルッカ・コイヴラ、カティ・オウティネン