ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

この道は母へとつづく

2007年11月27日 | 映画レビュー
 「母を訪ねて三千里」で泣く人なら絶対に見ましょう。けなげな男の子が懸命にママに会うために一人冒険するといういじらしいお話。ただしお涙頂戴ものではありません。

 可愛らしい男の子が生みの母に会いたいがために孤児院を脱走して一人列車に乗って町へ出かける。途中、不良少年に身ぐるみはがされたり殴られたり、追っ手をかわして懸命に隠れたり戦ったり。演じる子役がまた達者な演技で観客の心を打つのだから、反則ですね、これは。

 ロシアではこの映画にあるような孤児が増え、社会問題化しているのだという。人身売買まがいの養子斡旋業まで跋扈している。そんな実情を踏まえた社会派作品なのだ。だから、決してお涙頂戴ものというわけではなく、ラストシーンなど、むしろあっさりしすぎているぐらい。

 原題は「イタリア人」。6歳のワーニャがイタリア人夫婦に養子としてもらわれていくことが決まったために、孤児院仲間から「イタリア人」というあだ名をつけられるのだ。裕福そうなイタリア人夫婦にもらわれていくことを仲間たちは羨ましく思うのに、ワーニャは本当の母親に会いたくて孤児院を脱走してしまう。そこに至るまでには、懸命に字を覚えて自分の身元ファイルを盗み読みしたり、売春している孤児院の少女に面倒を見てもらったりと、知恵と連帯の力で幼いながら逞しさを発揮する。

 それにしてもロシアの孤児院はこんなに退廃しているのだろうか? 院長は酒びたりで年長の孤児たちは盗みや売春で小遣い稼ぎをするとは! おまけに高額の手数料で養子を斡旋する「マダム」と院長がつるんで金儲けをたくらんだり、ひどいものである。

 マダムとその用心棒に追いかけられながらもワーニャは懸命に知恵を絞って逃げまくる。この子はほんとうに賢い子だ。たった6歳なのに勇気もある。とうとう見つけたママの家。果たしてワーニャはママに会えるのだろうか?! ラストシーンのワーニャのかすかな微笑みの意味は?…




<以下ネタバレ>




 ワーニャがほんとうにママに会えたのかどうか、幸せになれたのかどうか、気になって仕方がない。あのラストシーンはひょっとしてワーニャの幻想か妄想ではなかろうかと思えるからだ。この厳しいロシアの現実をしっかり描いた作品が、最後になって夢のように美しい「めでたしめでたし」という物語を用意するだろうか? そうだとすればその甘さの分だけ減点と言える。

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ITALIANETZ
ロシア、2005年、上映時間 99分(PG-12)
監督: アンドレイ・クラフチューク、製作総指揮: オルガ・アグラフェニーナ、脚本: アンドレイ・ロマーノフ、音楽: アレクサンドル・クナイフェリ
出演: コーリャ・スピリドノフ、マリヤ・クズネツォーワ、ダーリヤ・レスニコーワ、
ユーリイ・イツコーフ、ニコライ・レウトフ