途中までのコメディタッチが後半は一転、シリアス調に。最後は切なくも爽やかで、しみじみしてしまった。
主人公は28歳、ライターの佐倉明日香。彼女はうっかり睡眠薬とお酒を一緒にしこたま飲んでしまい、同棲相手のお笑い放送作家鉄雄によって病院に担ぎ込まれる。自殺未遂と間違われた明日香はそのまま精神病院送りとなり、クワイエットルームと呼ばれる閉鎖病棟内の特別監禁室で拘束されてしまう。この物語は、明日香がこの病院に入院させられていた2週間を描いたコメディでかつちょっとシリアスな感動作(ほんとか?)。
松尾スズキとは相性が悪いと思っていたのだが、本作に関しては違和感がなかった。前半のお笑いぶりもそこそこに可笑しく、後半のシリアス調もごく自然に演出の流れが変わっていく感じに受けとめられて、なかなかいい。まあ、宮藤官九郎の演技がちょっと芝居がかっていて見苦しい部分もあったけど、映画的に許せるギリギリのところで抑えている感じがよくわかり、この人のうまさに感心した。お笑いだけじゃなくてもっといろんな役をやらせれば、すごい才能を見せるんじゃないかな。わたしはテレビを見ないから宮藤官九郎を見たのは本作が始めてなんだけど(あ、いろんな映画に出演しているわ、でも記憶にない!)、かなりいい役者だと思う。
舞台となるのが精神病院の女子病棟ということもあり、けったいな人々がいくらでも登場する。その「けったいさ」にも濃淡があって、ほんの少し「ふつう」よりも過剰なだけ、という人々も病人として収容されていたりする。過食症、拒食症の女性たちがかなり重要な役を振り当てられているところが本作のみどころとなる。蒼井優が拒食症の女性を静かな迫力をこめて演じているのが卓抜で、大竹しのぶの過食症おばさんの意地悪ぶりも堂に入ったものだ。脇役たちの怪演ぶりを受けて内田有紀は堂々と「ふつうの女ぶり」を発揮している。
本作のうまくできているところは(これは原作どおりなのだろう)、うっかり事故で入院した明日香がなぜ自分が精神病院に入院させられたのか、その真相を知っていくにしたがって、観客もまたこの「中身からっぽ女」の苦悩を知って心を揺さぶられていくことにある。確かにでたらめな生き方をしてきた自堕落なバカ女には違いないけれど、その姿が妙に自分と重なってぎくりとさせられる。特に彼女が仕事に行き詰って原稿の催促ぜめにあい、酒を浴びるように飲んでしまう場面なんて、「わかるわ~、その気持ち」。ま、大酒を飲むかどうかは別として、こういう苦しみやしんどさというのは誰しも見に覚えのあることではなかろうか。精神病院の中で自分だけがまともな人間だという思い込みが間違いであったことに気付くその過程は、そのまま現実の社会にあってわたしたちが陥る陥穽を反映している。
ラストシーンは思わず笑ってしまう1カットが挿入されている。こういうリセット人生というのもいいね、しかしこれは若さの特権だろう。もう50歳近いわたしには同じようなリセットはきかない。
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日本、2007、上映時間 118分
監督・原作・脚本: 松尾スズキ、チーフプロデューサー: 小川真司、音楽: 門司肇、森敬
出演: 内田有紀、宮藤官九郎、蒼井優、りょう、塚本晋也、平田満、妻夫木聡、大竹しのぶ
主人公は28歳、ライターの佐倉明日香。彼女はうっかり睡眠薬とお酒を一緒にしこたま飲んでしまい、同棲相手のお笑い放送作家鉄雄によって病院に担ぎ込まれる。自殺未遂と間違われた明日香はそのまま精神病院送りとなり、クワイエットルームと呼ばれる閉鎖病棟内の特別監禁室で拘束されてしまう。この物語は、明日香がこの病院に入院させられていた2週間を描いたコメディでかつちょっとシリアスな感動作(ほんとか?)。
松尾スズキとは相性が悪いと思っていたのだが、本作に関しては違和感がなかった。前半のお笑いぶりもそこそこに可笑しく、後半のシリアス調もごく自然に演出の流れが変わっていく感じに受けとめられて、なかなかいい。まあ、宮藤官九郎の演技がちょっと芝居がかっていて見苦しい部分もあったけど、映画的に許せるギリギリのところで抑えている感じがよくわかり、この人のうまさに感心した。お笑いだけじゃなくてもっといろんな役をやらせれば、すごい才能を見せるんじゃないかな。わたしはテレビを見ないから宮藤官九郎を見たのは本作が始めてなんだけど(あ、いろんな映画に出演しているわ、でも記憶にない!)、かなりいい役者だと思う。
舞台となるのが精神病院の女子病棟ということもあり、けったいな人々がいくらでも登場する。その「けったいさ」にも濃淡があって、ほんの少し「ふつう」よりも過剰なだけ、という人々も病人として収容されていたりする。過食症、拒食症の女性たちがかなり重要な役を振り当てられているところが本作のみどころとなる。蒼井優が拒食症の女性を静かな迫力をこめて演じているのが卓抜で、大竹しのぶの過食症おばさんの意地悪ぶりも堂に入ったものだ。脇役たちの怪演ぶりを受けて内田有紀は堂々と「ふつうの女ぶり」を発揮している。
本作のうまくできているところは(これは原作どおりなのだろう)、うっかり事故で入院した明日香がなぜ自分が精神病院に入院させられたのか、その真相を知っていくにしたがって、観客もまたこの「中身からっぽ女」の苦悩を知って心を揺さぶられていくことにある。確かにでたらめな生き方をしてきた自堕落なバカ女には違いないけれど、その姿が妙に自分と重なってぎくりとさせられる。特に彼女が仕事に行き詰って原稿の催促ぜめにあい、酒を浴びるように飲んでしまう場面なんて、「わかるわ~、その気持ち」。ま、大酒を飲むかどうかは別として、こういう苦しみやしんどさというのは誰しも見に覚えのあることではなかろうか。精神病院の中で自分だけがまともな人間だという思い込みが間違いであったことに気付くその過程は、そのまま現実の社会にあってわたしたちが陥る陥穽を反映している。
ラストシーンは思わず笑ってしまう1カットが挿入されている。こういうリセット人生というのもいいね、しかしこれは若さの特権だろう。もう50歳近いわたしには同じようなリセットはきかない。
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日本、2007、上映時間 118分
監督・原作・脚本: 松尾スズキ、チーフプロデューサー: 小川真司、音楽: 門司肇、森敬
出演: 内田有紀、宮藤官九郎、蒼井優、りょう、塚本晋也、平田満、妻夫木聡、大竹しのぶ