日々の恐怖 6月28日 楽園
ちょっと化け物たちの楽園の話になってしまうんだけど、昔よく週末になると新宿二丁目に飲みに行っていた頃の話です。
先に書いておくけどオネエとか言われる人種は“二丁目に捨てる者なし”と言われるくらいガリやデブ、イケメンやブサイク、善良や性悪、棺桶に片足突っ込んだ老人や、今となっては犯罪レベルの低年齢まで、どんな人間でも必ず一人は好いてくるのがいるという不思議な土地で、冗談抜きで“タイプだったら幽霊でもいいわぁ”とか言う人間の集まりという感じで、少々の心霊現象には動じない連中ばかりだった。
ある時、そんな新宿二丁目で“あの店は行かない方がいい”という話を聞いた。
そんなのは日常茶飯事なので、どうせまた言い出した奴にとって店員が気に食わないとか、どこそこ関係の人間が出した店だとか、そういった話なのかと思って、いつものように、
「 今度はどうしたの?」
って聞くと、
「 ・・・出るのよ。」
としか言わなかった
それで、他の集まってた子たちに、
「 行って見てみようか?」
と聞くと、どうも全員すでに見ていて二度と見たくないと言い出した
この時点で目の前で飛び降り自殺を見ようが、誰も出入りしないでドア付近に誰もいないのに勝手にドアが開こうが、真っ黒い顔付近を覗いても一切顔が見えない変な人が来て酒を飲もうが、マツコやミッツやIKKOを見ても動じもしない連中なのに変だと思ったので、そこまで行きたがらない店というのも珍しいから一人で行ってみようと思った。
その店は同じビルに有名な店も入っていて立地は悪くないのに、同じ階の別の店とは違ってドアからすでに辛気臭さが滲んでいた。
ドアを開けて、まずビックリした。
何故なら部屋の片隅、天井と三角になっている部分に髪を長く垂らした目の下にクマのようなメイクを施した、青白い顔のヴィジュアル系のマネキンのような物が置いてあったからだ。
中の店員は俺がドアを開けたのを見てドアの外以上の辛気臭さで、
「 いらっしゃい・・・・。」
と消え入るように言った
その店員は何でも2、3日前に急に雇われたらしく、店長(二丁目で言うところのママ)はずっと休んでいるらしい。
席に腰掛け、部屋の片隅を気にしながらも、他愛も無い話題を続けて店員の機嫌を取った。
彼はいわゆるその手の店員経験があったようで、独りで店を回すのも慣れていたようだった。
店員も機嫌よく明るく話すようになってきたので、本題を振ってみた。
「 ところで、あの天井の隅に飾ってあるマネキンって何?
噂の幽霊避け?」
ところは答えは思ったよりキツかった
「 いや・・・、あれがそうなんです・・・・。」
ここまで読んでいた人は当然そうだと思ったかもしれないが、実際に見た感想は、あまりにハッキリと見えすぎていて、しかも生気を感じない作り物のようだったので本当にマネキンだと思っていた。
でも、幽霊なんだし、生気なんか感じなくて当然な訳だ。
飾りの作り物でも悪趣味だと思ったけど、あれが幽霊だと言われれば確かに酒を飲んでもいい気分にはならない。
何と言うか、それ以前によくあった“生前の習慣を何となく死んでも続けている”という可愛げのようなものが全く無く、ただ蜘蛛のように天井の隅に張り付いてこっちを見ていた。
ここで一応作り物かどうかを確認する為に、店のホウキの柄で突いてみた。
なるほど、確かに本物の幽霊らしく、ハッキリ見えているのに感触が全く無かった。
そこで店員に店を閉める予定が無いのか聞いたら、何でも契約期間が残っていたらしくどうせ金を払ったならという事で営業していたらしい。
こういう金に汚い所はオネエらしいというか、店員を雇ったりとかするのを考えたら損をする事に気付かない抜けた所もオネエらしいというか。
店員が
「 なんとか、なりませんか・・・?」
と言った。
そこでとりあえず幽霊には塩という事で塩を貰ってぶっ掛けた。
結果は落ちてきた塩を自分が顔から被って痛い思いをしただけだった。
天に唾を吐くってこういう事かと思った。
そんな事をしているうちに遅い時間になったので、店員に、
「 噂も広まって客も来ないだろうし、店を閉めたら?」
と促してみた。
店員も同じように思ったようで、
「 そうですね、もう辞めようかと思いました。」
と言って、何となく流れで一緒に別の店に飲みに行く事になった。
その後はずっと閉店状態となった後に、契約が切れたからか看板も外れていた。
もちろん、新規の店が入るのは、俺が行っていた頃には見ていない。
あのテナントビルは、もちろん今でもあるだろうけど、店は入ったのだろうか?
特に曰くとか何も聞いていなかったのに、あんな幽霊がいつくのは不思議なものだ。
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