日々の恐怖 6月22日 漫画家
4年ほど前、某マイナー系の雑誌でそこそこに人気のあった漫画家さんのところに、3日間という約束でアシスタントをしに行ったときの話です。
引っ越したばかりの、狭いながらも新築で綺麗で清潔そうなマンションで、その漫画家先生も修羅場の割には穏やかだし、先輩のアシスタントも気さくで良い人たちで、とても気持ち良く仕事が出来ました。
それで、2日目の夜です。
皆で眠い目と脳を熱い日本茶で覚ましつつ、少し休憩していた時のことです。
誰かがその部屋に元からついているという有線をつけ、ちょっと懐かしめの歌が聞こえるチャンネルに合わせました。
皆疲れているので、無言でそれを聞いていました。
すると、音が大きくなったり、雑音混じりに小さくなったりし始めました。
「 かえって気になって仕事にならないね。」
と漫画家先生が消しに立ち上がった瞬間、
「 てすと。」
と、滑舌の良いはっきりした子供の声がしたんです。
全員、
「 何のこと・・?」
と漫画家先生の方を見ましたが、先生は首を振るだけ。
「 聞こえたよね?」
と誰かが言うと、
「 混線したんじゃない?」
と誰かが答え、先生は有線を消して、皆で仕事に戻りました。
それから緊張の続く中、1時間ほど作業をしていると、今度は天井の方から、
「 てすと。」
というさっきと同じ声がして、続けざまに、隣に座っていた先輩アシスタントの後ろの壁、私の足元に同じ声が聞こえました。
それでも手は離せない私達アシは、震える手を無理に押さえて、叫びたいのを我慢して仕事をしていました。
しばらく間があいて、またあの声が聞こえました。
それと同時に、先生が悲鳴をあげて飛び上がりました。
「 肩に抱きついてる!」
先生は懸命に背中のモノを振り払おうとしましたが、それでもその最中に、
「 てすと。」
という滑舌のいい子供の声が、本当に先生の方から何度も聞こえました。
生まれて初めてそういうモノを見た私は、ビックリして気を失ってしまったようで、その後の騒動は覚えていません。
目が覚めたら、他のアシスタント達はなにもなかったように、電話の応対をしていたり、朝食を作ったりしていましたが、先生は寝室から出てきませんでした。
ちなみに私のギャラは、ちゃんと日払いでいただきました。
ただ、その先生は、その号の原稿を落としただけじゃなく、そのまま連載も休載から打ち切りになり、最近では見かけなくなりました。
その後は、消えた漫画家なんてサイトで時々見かけるぐらいになってしまいました。
あの先生もアシスタントの皆も、あの子供の声から解放されて無事に過ごしていますように祈るばかりです。
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