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日々の恐怖 7月27日 八重咲きの桜(1)

2022-07-27 16:07:00 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 7月27日 八重咲きの桜(1)





 友人の実家には、大きな桜の木がある。
品種のわからない、八重咲きの桜だ。
ソメイヨシノよりも色が濃く、ちょうど入れ違いに咲く。
 この桜、見事な花を咲かせることで地元でも知られているのだが、そのわりに特別手入れもされていない。
いや桜に限らず、友人の家の庭木はあまり手入れをされていないらしい。
邪魔になれば枝を切るくらいはしていたらしいが、あとは伸びるも枯れるも成り行き次第という風だった。
 元々、庭木を植えたのは友人の高祖父に当たる人だという。
彼は大変な園芸好きでマメに手入れをしていたらしいのだが、家族はそうでもなかった。
知識も興味もないものだから、彼の死後は必要最低限の手入れで済ませていたらしい。
 そういう扱いなので、知らぬうちに枯れていることは珍しくない。
件の桜も、一度は庭から消えてしまったそうだ。
祖父母が結婚したばかりの頃だという。
気づけば花もつけず葉もつけず、静かに枯れていたそうだ。
 それが数年後、庭の全く別の場所で新しく芽を吹いた。
春先に、草木に紛れて細い幹を伸ばし、数えるほどの花を咲かせているのを、祖母が見つけた。
そのままぐんぐんと伸びて、桜は今の姿になったという。
 祖母曰く、枝も幹も枯れ果てたが根は人知れず生き長らえて、ようやっと芽を吹いたのだろう、という話だった。
なるほどそういうこともあるのだなと、友人は納得すると同時に、樹木の生命力に感動したそうだ。
後日、祖父に呼ばれて部屋に行くと、こんな話を聞かされた。

「 あの桜は、母ちゃん(祖母)が産んだんじゃねえかと俺は思ってるよ。」

 新婚の頃のある晩に、ふと目を覚ますと祖母がいなくなっていたことがあるという。
用足しかと思ったが、十分、二十分と経っても戻ってこない。
 なんぞあったかと祖父が探しに行くと、祖母は庭にいた。
草地の中に、ぽつねんと立ち尽くしていたという。
その瞼は静かに閉じられていて、まるきり寝顔のままだった。










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