日々の恐怖 5月4日 紫煙
Tさんが高校生のときに、友人数名と共に体験した話です。
高校2年のとき実家を建て替えることになり、解体作業が予定されていた。
そこで思い出作りも兼ねて、荷物の少なくなった実家で近しい友人やその兄たち数人が集まることになった。
当日は、鏡とガラスケースに入った人形などが残された弟の部屋で取り止めのない話に盛り上がっていたが、いつからか怪談話へと話題が移っていった。
当時、住んでいた町では、箪笥の中から老婆の遺体が発見されるという事件があり、それを揶揄してタンス婆さんという造語が子供達の間で話されていた。
例に洩れず、ある友人がこのタンス婆さんの話をしはじめた。
彼の事実と創作とが混じったタンス婆さんの話をしばらく聞いているうちに、私を含めた幾人かが、ある異変に気付いた。
ある異変とは、参加した友人の兄二人のタバコの紫煙が、話者の頭上に徐々に集まり始めている現象だった。
すでに異変に気づいている者達は、目配せして喫煙を中止、その煙の存在を確認しあっているのみだったのだが、徐々にそれが人の形になっていくのが分かった。
そして、人型の紫煙はみるみるうちに、話者に後ろから抱きついている格好となった。
しかし、話者とその左右に座している友人は紫煙の塊に全く気づいていなかった。
意を決して兄二人が、煙が集まって人の形にみえる、と指摘した。
それでパニックになり、煙の塊自体はもう霧散して消えていたけれど、一同散り散りに逃げ帰ってしまった。
後日、弟が自室で妙なものを見たと言ってきた。
なんでも、残りの荷物を片していると、ふと鏡が気になったので覗いてみた。
すると、鏡の中に写り込んだ人形のガラスケースに、老婆らしきものが見えたという。
気のせいだと言っておいたが、紫煙の塊を見た手前、疑念は残った。
その後、特に悪いことは起こっていないので、一応、気のせいで済ますことにした。
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