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ヘイトスピーチ規制法成立から1年

2017-06-06 10:03:39 | (瑛)のブログ


 日本初の人種差別禁止法となるヘイトスピーチ規制法が成立して6月3日で1年がたった。

 マイノリティを傷つけ、地域社会を破壊するヘイトスピーチをなくそうと成立された同法は、禁止規定や罰則のない理念法。ゆえに同法は成立当時はヘイトスピーチや公的な差別をなくせるのかと疑問視されたが、国が「ヘイトスピーチは犯罪」という意思を示したことを受け、関係省庁で具体的な動きがあった。

 警察庁、法務省が法の実効性を高めるための通達を出したのがその一例だ。警察庁は、同日付けで出した通達で、「違法行為を認知した場合は厳正に対処する」と示し、現場では差別扇動者にアナウンスもされるようになった。また、法務省は外国人を対象にした調査も行い、差別の存在が可視化された。現状は少しずつだが進展している。

 法務省が取り組んだ外国人住民調査は、37市区に在住する18歳以上の在留外国人・18500人を対象にしたもので、①地域での日本人との付き合い、②日本社会における差別・偏見の有無について、③差別や偏見をなくすための施策について聞いた(調査実施時期:2016年11~12月)。

 同調査を「日本が行った史上初の人種差別調査で歴史的なもの」と評価するのは、関西学院大学の金明秀教授。

 「政府は日本には人種差別はない、差別扇動は行われていないと説明してきたが、今回、公式に政府の手によって差別の被害が確認された。入居差別が41%、就職差別が25%という生存機会を左右する重大な差別実態が明らかになり、法の下の平等が崩されている立法事実が確認された。さらに、若年層ほど差別を敏感に察知していた。世界では重大な差別として禁じられている現実が日本にあることをどのように考えるべきか。今後は、データを公開し、専門家の分析を進めることが必要だ。政府はこの調査を人権擁護の取り組みを充実、推進していくのかを検討するための基礎資料にするとしており、調査の結果は、包括的な法律を作る可能性も示唆している」

 他にも、外国人であることを理由に差別発言を受けている人が3割、それも見知らぬ人から受けるケースが53.3%いたことから、「官民をあげてレイシャルハラスメントを防止する必要が確認された」。

 在日コリアンに関してみると、深刻な現実が浮き彫りになった。「朝鮮韓国籍者のヘイトスピーチへの感度は高く、自分自身が被害のターゲットになるということで身に迫ってくるリアリティが強い。被害を回避するため、4割がインターネット利用そのものを避け、沈黙する傾向にある。プロフィールに出自を書けないなど、ヘイトスピーチは友だちをも奪っている。表現の自由を剥奪されている状況があった」(金教授)。

 警察庁はヘイトデモは減ったと報告しているが、申請していない街宣は減っていない。その場での「殺す、死ね」などの表現は、未だに吐き捨てられている。「日本人を殺してきた○○人」のように相手が殺す、という正当防衛を標榜した暴言も出てきている。法務省の参考資料を公開し、何がヘイトスピーチにあたるのかを誰の目にも明らかになるように示していく必要があるだろう。

 さらにネット上のヘイトスピーチは深刻だ。この間、大阪市がGoogleに要請し、ユーチューブ動画が削除されるなど、以前にはなかった対応はとられたものの、その数が膨大で対処しきれていない。市民団体は、EUやドイツなどのように運営者が自主的・迅速に削除するよう、政府として働きかけることを求めている。



 13回のヘイトデモが繰り返されてきた川崎では、6月末にも、差別扇動者による学習会と名付けられたヘイト集会が企画されている。川崎では市に条例を求める働きかけが続いており、4日には市内で集会が開かれた。その場で壇上に立った在日コリアン3世・チェ・カンイジャさん(ふれあい館職員)の訴えは切実だった。

「私へのひどい書きこみは、Twitter社が削除した後も、発信され、拡散されています。残っている数の方が実際は多い。何十万件という数が残っている。これに慣れることはない。

差別をやめてください、という訴えが『表現の自由を奪っている』かのように言われている。この会場にいる方にお願いしたい。家族や職場の隣の方に語りかけてほしい。私たちは『死ね、殺せ』、といわれないといけないのですか―。それを子どもたちに示すわけにはいかない。

 この1年でヘイトスピーチがしにくい社会にはなったが、差別の根絶には至っていません。ヘイトスピーチは、形を、姿を変えて巧妙化している。あらゆる差別を禁止する条例、法整備が必要だと思います―。差別を禁止する法整備に向かって、そのことを川崎市に向かって訴え続けます。皆さんと…」

 国連の人種差別撤廃条約は、「各締約国が、いかなる個人や集団、組織による人種差別も禁止、終了させる」(2条)と定めている。問題はヘイトスピーチだけではない。あらゆる差別の根絶で、朝鮮高校の無償化排除など公的な差別がヘイトスピーチの元凶になっているのは明らかだ。国や地方自治体のトップは、外国人やマイノリティが抱える現実にしっかり向き合い、自らが差別根絶の先頭に立ってほしい。

 同法の成立にも尽力した師岡康子弁護士は、「法務省が啓発ポスターを作るなど、各省庁が個別にいいことをしているが、国の基本方針や基本計画が定まっていないのが一番の問題だ。現時点では、同法の趣旨がどのように活かされ、運用されているのかを検証することが大切。それは、次の段階として求められている包括的な人種差別撤廃制作のための基本法の制定にも大きく関わっている。外国人調査も一回きりで終わらず、引き続き行っていく必要がある」と課題を語る。(瑛)

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