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ギャラリーと図書室の一隅で

読んで、観て、聴いて、書く。游文舎企画委員の日々の雑感や読書ノート。

巖谷國士氏講演会「旅への誘い~文学・美術・自然~」より(1)

2016年05月18日 | 游文舎企画

アルフォーレ・マルチホールにて


広辞苑によれば、「旅」とは「住む土地を離れて、一時他の場所に行くこと」とあるが、巖谷氏は「これで充分だろうか」と問いかける。誰にでも「住む土地」が与えられているのか、一時的な移動だけなのか、と。
5月8日(日)、柏崎市文化会館アルフォーレで開催された「巖谷國士氏講演会」では、こうした近代国家的解釈による旅ばかりでなく、壮大な人類史的テーマとしての旅について語った。
この講演会は昨年11月に刊行された著書『旅と芸術 発見 驚異 夢想』と、同時期に氏の監修により埼玉県立近代美術館で開催された同名の展覧会に基づいている。氏は、アフリカを祖とする人類が、ついにアジアに移動し、世界に広まっていったことで多様性を獲得した歴史を辿りながら「人間とは本来的に旅をする動物であり、それは天変地異による移動にとどまらず、あるところに定着すると外を見たい、交流したいと思うこと、さらには目的を持たず漂泊しようとすること、これこそが人間特有の旅」だという。文明によって都市ができ、境界ができたことによって、本性として外に出ようとするのだとも言う。発見とは外に出て未知のものに出会うことであり、驚異とは世界の多様性に気づくこと、夢想とは見たこともない世界を想像することであり、いずれも旅と深く関わっているのだ。
7日に柏崎入りし市立博物館などを訪れていた氏は、講演の中で「柏崎は旅にふさわしい町」として、多くの時間を割いた。当日配布されたプリントには柏崎の項だけでも、縄文遺跡や鎮守の森、専称寺「一遍上人絵詞伝」、木喰仏、満州柏崎村、痴娯の家などのコレクション、芭蕉句碑、松田伝十郎等々盛りだくさん取り上げられていたが、点と点であったそれらが、氏の視点によって次々と線状化していく。こうした切り口で柏崎が語られたことはあっただろうか。

市立博物館で

例えばコレクション。柏崎は行商人が多く、港町であったことで珍奇な物、不思議な物が集まったのだと言う。マルコ・ポーロ始め古今東西、商人の方が面白い旅をするのだ、とも。コレクションとは多様性を回収することでもあるのだ。
また2万年ほど前に日本列島に渡ってきた縄文人が、「狩猟」や「採取」という「移動」の生活の中で、森と深く結びついていたことは、5年前やはり同氏による柏崎での講演「森と芸術」の中で、「我々はみな森の記憶を持っている」「そうした記憶を留めておくために文学や芸術が生まれた」と語っていたことを思い出させた。

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