毎年この時期になると電話を掛かけてくる友人がいる。彼はすでに68歳であるがまだアルバイトで2社を掛け持ちして働いている。そのためなかなか時間がとれず、いつも年末が押し詰まってから「会いませんか?」という電話がある。そこで彼と親しかった何人かを集め、池袋で忘年会をするのがここ数年の恒例になった。
彼とは私が最初に入社した会社で一時期(4~5年)同じ部署に属していた。それ以来もう30年以上の付き合いである。彼は勉強家で研究熱心、仕事には真摯に取り組むが、反面わが道を行くタイプで納得がいかない事には従わず、いつも上司とぶつかっていた。そんな性格からか転職を5回ほど繰り返した。しかし同僚からすればごまかしが無く、信頼に足る相手として友人もたくさんいたように思う。
彼が結婚したのは39歳、相手は仕事で知り合った、まだ社会に出たばかりの14歳下の女性である。相手の親に許しを請うため彼女の家を訪ねたが、親は年齢差もあり娘をたぶらかされたとの思いもあってか、けんもほろろに追い返されたそうである。その後も何度か訪ねたが埒が明かず、業を煮やした彼女の方が、家を飛び出し彼のアパートに転がり込んだ。そして2人で相談し、急遽籍をいれ結婚式を挙げた。私はその結婚式に参列したが、お嫁さんの両親は列席せず、親族は双子の姉さんと従兄弟だけだったと聞いている。まさしくドラマにもなりそうな恋愛劇であった。
やがて夫婦には女の子が産まれ、すぐに男の子が生まれた。その時期を見計らってお姉さんが仲を取り持ち、彼女の両親との行き来が始まった。やはり両親も娘が生んだ孫は可愛く、抗し難いものがあったのだろう。しかし彼女の両親に会うたびに、「この子たちが成人するまで貴方は養って行けるのか?」、と言われ続けたそうである。長女が今年の春に就職し、長男はあと1年半は金がかかる。年金をもらいながらまだ働き続ける友人、それは親としての責任もあるのだが、もう一つは相手の両親に対する意地のようなものもあるのかもしれない。
30年前は決してパワフルでもなかった彼は、今は同年代の仲間と比べても元気があり活力があるように見える。それはやはり社会に身を置き、生活を支えなければいけないという目的があるからであろう。自分よりはるかに年下の 人に使われる立場でも、それが体力を使う仕事でも、1日5時間の睡眠しかとれない日が続いても、「しかたないだろう」という理由があればなんとかやっていけるのかもしれない。そんな毎日を送る彼と、年金でつつましく生活をしている仲間とでは、何年もすればおのずと活力に差がついてくるのは当然のように思う。
私もあと2年半、2018年6月まで住宅ローンが残っている。無理をすれば一括返済は出来るものの、そうすれば蓄えがなくなってくる。出来れば少しでも長く、そんな思いがあるから今も働いている。我々の仲間はすでにリタイヤして悠々自適が大半である。そんな彼らからするとまだ働いている我々がうらやましいようである。「うらやましければ働けば!」といっても、「いや、もう人に使われるのは嫌だ」、「人間関係で神経を使うのは嫌だ」と言い、働く意欲を失っている。そんな仲間はどちらかと言うと転職も無く定年まで勤め上げ、ローンも早めに終え老後に備えて準備してきた仲間に多いように思う。どちらが良いか?、それは個人差はあるものの早く安心の中に入るより、長くやらねばならぬ課題を持っていた方が、老後を元気に暮らしているように思えるのだが・・・・・。