60歳からの眼差し

人生の最終章へ、見る物聞くもの、今何を感じるのか綴って見ようと思う。

友人の死

2014年03月14日 09時15分10秒 | Weblog
 月曜日の夕刻、私の友人の一人であるM.Sから電話が入った。『Yさんから聞いたんだが、A.Kが亡くなったらしい。死因はすい臓がんだったとか、・・・・あいつ亡くなる前に奥さんに、「誰にも連絡しないように」と言っていたらしく、ほとんどの人は知らないと思う』、そんな電話であった。突然の訃報に、一瞬「そんなバカな」という衝撃が走った。

 亡くなったA.K(62歳)、連絡をくれたM.S(66歳)、そして私(69歳)、この3人は30年も前に同じ部署で仕事をした仲間である。年齢は違うものの、3人は気が合ったのか、いつもつるんでいた。昼飯に行くのも、麻雀をやるのも、飲みに行くのも、どんなグループとの寄り合いにも、3人の誰かが声を掛け合っていた。そして彼らの一人でも一緒だと、なんとなく安心感があり、どんな場にも出て行けるようにな心強さがあったのである。彼らにはどんな失敗も、問題も、心境も、飾ることなく話すことができた。3人には暗黙のうちに「相手のマイナスになることはしない」、そんな信頼関係を共有していたように思うのである。本来ならこういう友人関係は中学生や高校生の時にあるのだろう。しかし私は中学高校と真の友人がいなかっため、このような関係は新鮮で貴重なものだったのである。

 3人が一緒の部署にいたのは30代の5年間ぐらいだったろうか、その後はサラリーマンの宿命でバラバラに離れていく。社内に散らばった彼らとは、その後も社内情報や人事の裏話、時には仕事上のホローなど、会社の中での同士のような存在でもあった。やがて会社の成長も止まり、それぞれが別々の子会社に配転させられていく。普通サラリーマンであれば、同僚が出世することは表面では祝福しても、内心では妬みがあるものである。しかし私は彼らが出世していくのは素直にうれしかった。それは連れて自分のステータスまで上がるように思え、誇らしい気分にもなったものである。そしてバブルが弾けた前後、それぞれの思いから3人は会社を辞めていくことになる。会社が変わっても誰かが声を掛けると3人は直ぐに集まっていた。その時は自分達の近況や昔話を面白おかしく話し合い、時間の経つのも忘れるほどであった。しかし最近は個人的な事情、職場での事情が重なり、個別に会うことはあっても、3人で会うことはほとんどなくなってしまっていた。

 A.Kの訃報を聞いて、「そういえば、今年は彼からの年賀状がなかったのでは?」と思い当たる。家に帰ってから改めて年賀状を探してみた。やはり彼からの年賀状はない。今年のお正月は入院していたのだろうか、と思ってみる。そして今度は昨年の年賀状の束の中を探してみる。そこには彼の一言が添えらえた年賀状があった。それには、「早いもので、私も定年を迎えました。一度ゆっくりお会いしたいですね」と書いてある。「あっそうだ!この文面を見て、その後どうするのか、彼に会って確認してみよう」、そう思ったことを思い出した。「こんなことになるのなら、なぜ昨年会っておかなかったのか」、自分の行動力のなさ、配慮のなさに腹立たしさがこみ上げてくる。後悔先立たずである。彼が元気なうちに3人で会って、昔の思い出話で笑いあってみたかった。それは年長者の私が音頭を取るべきで、それができなかったことに、自責の念が残るのである。

 今までにも知人や同僚の訃報は数多く接してきた。しかしA.Kのそれは私にとっては特別なものである。訃報を聞いた時から、少なからず私の心の中に喪失感というか空虚な感覚が残っている。彼はある時期、仕事上でのネットワークの重要な存在でもあったし、私の人生を楽しく豊かなものにしてくれた友でもあったわけである。彼は私より7歳も若かったこともあり、バブル崩壊の波をもろに受けた世代であった。しかも彼は優秀だったから、どこの職場に変わっても重要なポストに付いていた。そんなことで常に忙しく、苦労の連続であったように思う。そして定年、これからは少し仕事を離れての彼の人生があったはずである。そう思うとさらに悔しさがこみ上げてくる。

 歳を取るほどに自分の周りで、親しんできた人たちが次々と亡くなっていく。特に親族や親しかった友人の死に接すると、今まで自分を構成していたものが、一枚づつ剥がれ落ちていくような感覚になる。そんなことが重なり、自分はだんだん細っていき、最後は朽ち果てていくのだろう。それは脳の神経細胞が歳とともにネットワークを失い、やがて機能不全になっていくのと同じなのかもしれない。そんな自然の摂理に少しでも抗って見るためにも、もっとアクティブに行動し、多くの人たちと会っておくこと、そんなことが必要なのかもしれないと改めて思うのである。






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