60歳からの眼差し

人生の最終章へ、見る物聞くもの、今何を感じるのか綴って見ようと思う。

生涯現役

2014年03月07日 09時14分01秒 | Weblog
 得意先の一つに私と同じように個人経営の会社がある。その会社との取引はなかなか広がらないが、その人(社長)の誠実さからか、その人とはもう15年以上の付き合いがある。先日その人と3年ぶりに会った。会う早々、「今度住所が変わったので、・・」と名刺を渡してくれる。その名刺を見ると、名前の上に「生涯現役」と記されていた。「生涯現役」?、その表記の中に何か期するものがあるのだろうと思い。その理由について聞いてみた。

 その人(社長)は79歳になると言う。自宅のマンションが事務所で、奥様が経理、自分は商品開発と営業という二人三脚で今まで運営してきた。元々はある大手の出版社で編集の仕事をしていた。ある時、話題になり始めた「オーガニック(有機)」の本を企画することになる。外国の資料を取り寄せ、農家を訪ね、販売者を探して、オーガニックについて勉強していった。そして「オーガニック」の本を出版する。しかし時期尚早だったのか、企画が悪かったのか、本は惨めなほど売れなかった。しかし本は売れなかったが、彼はそれを期にオーガニックの重要性や必要性について考えるようになった。そしてその可能性を信じて、自らがオーガニック食品を企画販売することを決心をする。勤めていた会社を辞め、自分の会社を立ち上げた。本の出版でお世話になった生産者やメーカーの応援を得て商品を作り、社長自ら営業に飛び回ったそうである。今から35年前の話である。

 船出はしたものの、どうしても割高になってしまうオーガニック食品、なかなか思うようには売れなかったそうである。そこで取り扱いの商品に健康食品(プロポリスやにんにくエキス)などを加えて、通販にも販路を広げていった。大きく儲かった時期もあったが、基本的にはいつも四苦八苦で余裕はなかったと言う。こうして今までは何とか続けてきたが、歳も歳だし銀行からの借り入れも残っていたので、自宅を処分して全ての借金を清算した。そして兄弟の所有するマンションに移り住んで、改めて商売を続けることにしたそうである。私が「もう年金暮らしで良いのではないですか?」と聞くと、その人は「独立してから年金を掛けていなかったので、支給額は人の半分程度です。だから生活していくには働くしかないんですよ」と言う。これが名刺に記した「生涯現役」の理由であり、社長さんの気構えなのであろう。

 私はその人を、見た目の印象から72~3歳だと思っていた。しかし実際は来年は傘寿(80歳)、実年齢より確実に5歳~10歳は若く見える。俳優(特に女優)や政治家が実年齢より若く見えるのは、現役への執着がその要因にあるように思っている。サラリーマンのように定年という区切りがなく、本人の意欲次第で、いつまでも現役続行が可能な職業である。世間と関わりの中から刺激を受け、ストレスは感じながらも、自分の身は自分で処していかなければいけない。多分そんなことが身体機能の老化を防いでいるのではないだろうかと思っている。反対にサラリーマンは自分の意欲や意思にかかわらず、ある時点で強制終了させられてしまう。そのことで今まで動いていた機能(頭や体)にブレーキがかかってしまう。そして今度別の機能を立ち上げようとしても、始動させるだけのエネルギーが残っていないのだろう。一般的に女性の方が男性より平均寿命が長いのは、身体的な特徴もあるのかもしれないが、方向転換することもブレーキを掛けることもなく、今までと同じ機能が使えることにも要因があるように思うのである。

 この社長さんにはお子様はなく、これからも誰に頼ることもできず、働かなければいけないという苦労がある。しかしその反対給付として、同年代の人と比べればはるかに若く、変わらぬ意欲を持たれている。私自身も2018年まで家のローンが残っている。あと5年である。できれば何とかそこまでは働きたい。それが片道2時間の通勤をしてまで働いている大きな要因でもある。人は年を重ねるほどに、見た目と活力に大きな差が出てくるように見て取れる。その大きな要因の一つにモチベーションがある。今までの経緯から「やらなければいけない」という状況にしろ、自発的に「やってみよう」と決めるにしろ、心の火(動機)を持ち続けて諦めないこと、それが重要なのだろうと思うのである。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿