60歳からの眼差し

人生の最終章へ、見る物聞くもの、今何を感じるのか綴って見ようと思う。

知らぬが仏

2015年05月22日 08時28分58秒 | 日記
 以前の会社の同僚からメールが来た。
 
 元気にお過ごしの事と思います。ご心配かけてすみません。
私は、吹奏楽団やバンド仲間との演奏活動や、晩酌も今までと変わらず過しています。時には仙台時代の仲間等と旅行や飲み会もやっています。
 只、昨年の10月の人間ドックの結果、毎年の結果と変調があった為、自治医科大学病院で約2ヶ月かけて検査をしました。その結果、腹部に「悪性リンパ腫」が複数あり、骨髄液の検査結果でリンパガンが骨髄にまで浸潤していることがわかりました。
 悪性リンパ腫という病気は完治できない病気のようで、治療は身体への負担が大きいため現在は「無治療」ということで、月一度の検査で病気の状態を観察しています。冒頭に書きましたとおり、自覚症状は少なく、今までと同様の生活が出来るので、今まで以上に充実した毎日を過ごすよう勤めています。・・・・・・
 
 彼の親しい友人から、彼にガンが見つかったようだという話は聞いていた。しかし正確な病状はこのメールで初めて知ったわけである。彼とは東京で就職し、最初に寮に入ったときに同室になった。しかし私は食品、彼は雑貨と担当が違ったため、寮を出てからはほとんど会うことは無かった。しかし私が子会社に転籍し、会社を辞めるまでの2年間は同じ部署に所属し、一緒に出張をしたことも何度もあった。したがって親友と言う間柄ではないが、気心の知れた同僚という関係である。今は年に2~3回、10人程度の懇親会で顔をあわせている。彼は明るくポジティブな性格である。学生時代からサックスを吹き、老若取り混ぜた小さな吹奏楽団に所属し、演奏活動をしながらリタイヤ後の生活を楽しんでいた。
 
 お互い70才を超える年代になれば、いつ何が起こってもおかしくはない。しかし彼は健康には気を使い、特に持病もなかっただけに青天の霹靂であろう。6月に懇親会が予定されているから、たぶん彼と会うことになるだろう。今後病気とどう向き合うのか、自分の気持ちをどうコントロールしていくのか、それを考えると彼に何んと話しかけたら良いのか分からなくなる。そして自分が同じようにガンを宣告されたときどう対処するのか、他人事ではなく自分にも差し迫っている問題でもあるのである。
 
 私は一昨年の夏から健康診断を受けるのを止めている。それは雑誌に載っていたある医師の言葉からである。・・・・人間ドックでどこかにガンが見つかったとしよう。その時人はそれをそのままにしておくことはできない。必ず自分の心配の種を排除しようと、医者に頼ることになる。医者は当然ガンを取り除くことが仕事であるから、ほとんどの患者はガンと戦うということになってしまう。40代50代で、まだ家族に対して責任があれば戦うこともやむおえないかもしれない。しかし70代になって体力も衰えているときに、治療の手順通りに手術や放射線や抗がん剤で治療していくと、反対に体力気力を奪われ、結果的には寿命を縮めてしまうことになる。だからと言ってほって置けば、余命何ヶ月(何年)と知らされ、日々増大するがん細胞を意識すれば、治療する以上にストレスがかかる。だから「知らぬが仏」、あえてガンは見つけ出さないほうが良い。・・・そういう内容であった。
 
 私は40代中ばに胃の痛みが長期間続いたことがある。今思えばストレスからの胃痛であろうが、当時は「ひょっとするとガンではないだろうか?」という思いが持ち上がった。そしてそれが増幅し頭の中で最悪のシナリオになっていく。それは自分の「死」に関わるだけに、そのストレスは尋常ではなかったように記憶している。そのストレスは検査結果が出て霧散してしまったのだが、そんなことから「知らぬが仏」は私には理解できるのである。
 
 私の母は大腸がんで79才の時に手術をした。しかしガンは肝臓にも転移していて、医者の方針でその後抗がん剤を使用した。しかしそれで母は急速に体力を奪われ、半年後に亡くなってしまった。今思えば手術だけで抗がん剤を使わなければ、もう少し楽な余命だったと思っている。私の知り合い(72才)に尿道ガンが見つかった。医者の方針は抗がん剤でガンを小さくしてから手術するということであった。病院に通い抗がん剤を投与し続けたが、次第に体力を奪われトイレで倒れて、打ち所が悪くて亡くなってしまった。これはほんの一例で、私は高齢になってガンと戦って打ち勝った人を知らない。たとえガンを克服しても、その間の苦闘に見合うだけの寿命を延ばせるだろうか、そう考えると高齢でのガン治療には懐疑的である。
 
 私は健康診断を受けないからといって健康を疎かにした生活をするわけではない。反対に自分の数値のバロメーターが無いのだから健康にはより気を使うようになる。食事はコントロールし、適度に運動をし、ストレスは溜めないように心がける。自分の体全体に神経を張って異変を察知しようとする。そして自分に経験のない異変を感じたら、その時は直ぐに医者に行き原因は確かめる。万が一それがガンだったとしても、せいぜい放射線治療で(抗がん剤は使わない)生活に支障がない程度の治療に留め、ガンと徹底的に戦おうとはしないだろう。
 今まで70年生きてきたわけである。これからは検査やデーターに依存せず、自分の経験や知識や感覚に賭けてみる。そう考える方が自分の生活に緊張感があり、気持ちに張りが持てるように思うのである。
 
                            








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