カラスといちごとクロッカスと

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ウェールズのケシ 3

2023年06月22日 08時00分00秒 | ケシ科
2023.05.09撮影

改めてご紹介します。

学名 Papaver cambricum「ウェールズのケシ」
英名 Welsh poppy「ウェルシュ・ポピー」
和名 メコノプシス・カンブリカ(旧学名から)
ケシ科(Papaveraceae)ケシ属(Papaver

バンクーバーでは、「ウェールズのケシ」は、だれが植えるともなく、庭づくりをしているお家の庭には、どこにでも出てきます。

たいへんきれいなんですが、あまりにも増えるので、タネができる前に終わった花を摘むことになります。これを怠っているととんでもないことに。

でも、4月の終わり、5月、6月初め、と咲き続けてくれるので、ありがたい存在です。

2023.04.29撮影

この閉じたツボミの状態の個体が、花びらを覗かせるようになるのに、3週間ほどかかりました。それが冒頭の画像。まだ、10℃出るか出ないかの時でしたからね、このころは。

15℃〜20℃に上がると、この期間は短くなるのだろうと思います。

ちょっと葉もご覧ください。

2023.05.11撮影

柔らかできれいな緑です。

ブログ上の画像ではあまり拡大されていませんからわかりにくいですが、コンピュータの大きいモニタ上で見てみると、葉の表面に白っぽい点々が出ています。何か特別な働きをするのでしょうか。

それにしても、この「ウェールズのケシ」の葉は、他のケシ属の種の葉と全然似ていない・・・

次の画像の植物は、わたしの実家の庭で育っていたケシ(Papaver somniferum)です。日本語で「ケシ」とだけ言えば、このアヘンを取るケシ属の植物を指すのではないでしょうか。それではややこしいので、種小名から「ソムニフェルム種」とも呼ぶそうですが。

さて、この、実家の庭できれいに咲いていたケシ、警察の手入れにあい(いえ、女警さんが、写真つきの説明書を持って、優しいお声で「指導」に来られたそうです)、翌日までに抜いてしまうように、と命令が出たんですって。

その前後、わたしの実家だけでなく、あちらでも、こちらでも、ご近所、みんな「指導」を受けたそうです。

2014.05.25撮影

「ウェールズのケシ」(Papaver cambricum)は、「ソムニフェルム種」(Papaver somniferum)などの他のケシ属(Papaver)と、葉の見かけもかなり違う、「子房〜花柱〜柱頭」の作りも違う。それならケシ属じゃないだろう、だから、メコノプシス属(Meconopsis)「ケシのような属」として分離しよう、という、そういう人間の知覚に基づく判断を押さえ、分子系統学的研究により、「ソムニフェルム種」と同じくケシ属Papaverに再び配属されました。

2022.06.06撮影

さて、これで困ったことが起きた。

なぜなら、そもそも、メコノプシス属は、「ウェールズのケシ」をケシ属から独立させるために創設された新しい属でした。そのため、「ウェールズのケシ」がメコノプシス属の模式種となっていたのです。

模式種

模式種とは、まあ言えば、その属の、人間の家で言えば、戸籍筆頭者、戸主、あるいは、組織で言えば、筆頭者、代表者、みたいなものです。その筆頭種が属から引き抜かれてしまったのですから、メコノプシス属は、模式種なし、つまり、主なしの、「仮の属」となってしまいました。(属になぜ模式種がなくてはならないか、というのは、ここではナシね。)

これを正すために、どうするか。わたしのような素人は簡単だと思うのですが、学者さんたちはこれをするのに5〜6年かかったんです。

2023.05.09撮影

メコノプシス属を廃してメコノプシス属に入っていた残りの種を他の属に再配分するか、もっと簡単に、メコノプシス属を温存して、メコノプシス属の残りの種のひとつを模式種に認めればいいだけですよね。素人はわかっちゃいねえよ、って? ごもっとも。

でも、結局、後者の方法が取られ、Meconopsis regiaメコノプシス属の模式種となりました。いわゆる「ヒマラヤの青いケシ」のひとつです。

Meconopsis (Himalayan Poppy)

2013.05.07撮影

わたしは、「ヒマラヤの青いケシ」(どの種であったかの記録、なし)を育てたことがあります。数年うまく咲いてくれたんですよ。眺めるたびに、感動で、ぼ〜〜っとしていました。でも、周りの木々の成長につれ、環境が変わって、やはり失ってしまいました。

それで、写真も撮らなかったなあ、残念だったなあ、と思っていたんですが、自宅のではなく、ブリティッシュ・コロンビア大学の植物園で撮影した、他種の「ヒマラヤの青いケシ」の写真が見つかりました。それが、直前の画像で、Meconopsis grandis「大きいメコノプシス」です。

どうか色をお楽しみくださいませ。


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ウェールズのケシ 2

2023年06月21日 08時00分00秒 | ケシ科
2023.05.05撮影

今日は、昨日のつづきです。「ウェールズのケシ」について。

このケシの学名は、Papaver cambricum(パパベール・カンブリクム)から出発して、Meconopsis cambrica(メコノプシス・カンブリカ)となり、再び、Papaver cambricum(パパベール・カンブリクム)にもどりました。

その経緯は、次のようになります。

Papaver cambricum(英文+画像)

リンネの分類(1753年)
「ウェールズのケシ」は、最初、ケシ属(Papaver)に入れられ、Papaver cambricum(パパベール・カンブリクム)「ウェールズのケシ」と命名された。
* ケシ属の花のメシベには、花柱がないのが特徴である

柱頭(ちゅうとう)、花柱(かちゅう)、子房(しぼう)
受精(じゅせい)、生殖細胞(せいしょくさいぼう)

ケシ属のメシベに花柱のない様子を、次の画像でご覧ください。この花は、種(しゅ)まではわかりませんが、ケシ属であることには間違いありません。

花の中央に、大きな、やや平べったい子房があります。そして、その子房を、てっぺんから網を下ろしたようにおおうものがあります。それが柱頭です。明らかに花柱は存在しません。花の根本に直にへばりついているのですから。

Papaver(ケシ)
撮影者:Paulparadis
撮影日:2019.06.28
オリジナルからの改変、なし

フランス人植物学者ヴィギエによる再分類(1814年)
「ウェールズのケシ」は、花柱に関して他のケシ属(Papaver)の花とは特徴が異なる、ということで、ケシ属から離され、新たな属、メコノプシス属(Meconopsis)が作られ、その属に入れられた。そして、それだけでなく、その属の模式種(すなわち、「筆頭種」)となった
* その異なる特徴とは、メシベに花柱があることである

模式種

次の「ウェールズのケシ」の画像をご覧ください。

花の中央の五裂しているものが柱頭、その下に見えるふくれたものが子房です。それで、花柱はどこにあるか、というと、すみません、画像でははっきりとは見えないんです。でも、柱頭が、直前のケシ属の花のように、子房をボウシのようにおおっているのでないことは、わかります。ですから、花柱が短くても存在する、ということなのでしょう。


2023.05.11撮影

花柱の確認できる「ウェールズのケシ」の画像をインターネット上で見つけました。著作権がついていますので、リンクをつけるだけにしておきます。

Papaver cambricum (Welsh Poppy)

メコノプシス属の創設
新たな属は、Meconopsis(メコノプシス属)「ケシのような属」と命名された
* Mecon-「ケシ」、-opsis「〜のような」、Meconopsis「ケシのような」

Meconopsis(英文+画像)

「ウェーズルのケシ」の名称変更
リンネ命名の Papaver cambricum(パパベール・カンブリクム)の Papaver(パパベール)が、新しい属名 Meconopsis(メコノプシス)に変えられ、種小名はそのままで(ただし、中性形の cambricum から、女性形のcambrica に屈折変化させられて)、属名、種小名、合わせて、Meconopsis cambrica(メコノプシス・カンブリカ)となった。

日本語でこのケシをメコノプシス・カンブリカと呼ぶのは、この学名 Meconopsis cambrica によります。

ヒマラヤ山中で、メコノプシス属
撮影者:Manas Badge
撮影日:2015.07.28
オリジナルからの改変、なし

メコノプシス属の他の種
新設のメコノプシス属には、ヒマラヤ地域で「発見」されたケシの類が、分類されるようになった。「ヒマラヤのケシ」といえば、「青いケシ」として知られるが、すべてが青いわけではない。
* メコノプシス属の花には、メシベに花柱があるのが特徴である

上の画像をご覧ください。

このメコノプシス属の「青いケシ」には、子房(花の中央のふくらんだところ)の上にはっきりと花柱があって、その先が柱頭になっています。

もっと青い「ヒマラヤの青いケシ」の例をどうぞ。これにも、花柱が見えます。

青いケシ
撮影者:Magnus Hagdorn
撮影日:2018.05.19
オリジナルからの改変、なし

分子系統学的研究による再分類(2011年〜2017年)
「ウェールズのケシ」が、「ヒマラヤの青いケシ」等のメコノプシス属の各種とは親戚関係にない、ということが、分子系統学的研究により証明され(2011年)、ケシ属への再編入が決定された(2017年)。

そして、結果的に
Papaver cambricum 転じ、Meconopsis cambrica
Meconopsis cambrica 転じ、Papaver cambricum
今さらなので、慣例上、Meconopsis cambrica と呼ぶこともある・・・

メコノプシス属に分類される各種は、ヒマラヤ地域を含むアジアの原産です。そこへ、1種だけ、ヨーロッパ産の「ウェールズのケシ」を入れておくのは、やはり、無理がありました。

一方、「ウェールズのケシ」を再編入したケシ属は、もっと広い地域に産します。その分布地は、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、北アメリカ。

明日につづく。


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ウェールズのケシ 1

2023年06月20日 08時00分00秒 | ケシ科
2023.05.05撮影(黄色とオレンジ色)

これは、ケシ科(Papaveraceae)ケシ属(Papaver)の植物です。雨降りの後の画像。

Papaver cambricum(英文+画像)

名称が歴史的な変遷もあり交錯しているので、ここでは、便宜上、「ウェールズのケシ」と呼んでおきます。

学名 Papaver cambricum「ウェールズのケシ」
別名 Meconopsis cambrica「ウェールズのメコノプシス」(旧名)
英名 Welsh poppy「ウェールズのポピー」「ウェルシュ・ポピー」
和名 メコノプシス・カンブリカ(旧学名に基づき)
別名 ウェルシュ・ポピー(英名から)
ケシ科(Papaveraceae)ケシ属(Papaver
原産 アイルランド、イギリス、フランス、スペイン

2021.05.17撮影(はっきりした明るい黄色)

原産地は、以下の地図の緑色部分です。紫色の部分は、野生化している地域。

Papaver cambricum(分布図+画像)

でも、ヨーロッパとは大西洋と北アメリカ大陸をはさんだ、バンクーバーを含むカナダの西海岸でも、この「ウェールズのケシ」は、いっぱい生えていますよ。庭づくりをしている人に断りなく、庭に出没します。

2022.05.18撮影(はっきりした濃い目の黄色)

種小名の cambricum は、ウェールズ語で「ウェールズ」を意味する Cymru をラテン語化したもので、よって、Papaver cambricum は、「ウェールズのケシ」という意味になります。

cambricum の意味については、以下の、種小名が同じく cambricum と呼ばれる植物(Polypodium cambricum)についての記事に、説明があります。

Polypodium cambricum(英文+画像)

2021.05.11撮影(山吹色と朱色)

「ウェールズのケシ」の花の色は、黄色〜オレンジ色ですが、かなり色調に幅があります。画像中の色は、撮影時の光線の加減も影響しますが、ここでは、わたしが実際に目で直に見たことをご報告しています。

花びらの形、花全体の形、花びらのシワの度合い、等、も、個体によりかなり異なります。

2021.04.29撮影(オレンジ色)

「ウェールズのケシ」は、植物学上の分類が2回変わりました。そのことと、名称とについて、明日、書きたいと思いますが、その前に、昨日のクイズの答えを。

昨日のクイズの画像は、以下の画像でした。

2022.05.28撮影

そして、これは、今日話題にしている「ウェールズのケシ」です。この写真は、花の後ろ側、斜め上から撮りました。そのため、花びら2枚つづきの裏側だけが、貝殻形のお皿のように見えます。ちょっと遊び心で撮った写真です。

次も、そんな遊び心で撮りました。花びらの長さのずいぶん異なる個体を見つけたので、真上から見下ろして、その花びらの長さの違いを強調してみました。

2023.05.07撮影

明日につづきます。


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ハートの形の花

2023年02月14日 08時00分00秒 | ケシ科
2022.03.22撮影

今日は、バレンタインズ・デイ(Valentine’s Day)。カナダでは、恋人や家族にカードを贈ったり、チョコレートをあげたり、あるいは、集まって食事会やパーティーをしたりします。基本は、愛する人に自分の愛が変わらないことを示せばいいのです。

日本のように、「女性が男性に愛を告白する日」でも、「女性が周りの男性全部にチョコレートをあげる日」でも、ありません。ましてや、日本で半世紀ほど前に発明されたホワイト・デーは、カナダや西洋諸国には存在しません。

今日は、バレンタインズ・デイにちなんで、ハートの形のお花をご紹介します。ケマンソウ(Lamprocapnos spectabilis)ですが、色もとってもハートですねえ。

冒頭の画像では、大写しすぎてかえって形がつかみにくいかもしれませんが、次の画像の焦点のあっていない部分なら、かえって花の輪郭が見えやすいでしょうか。

2022.03.22撮影

学名 Lamprocapnos spectabilis(旧名 Dicentra spectabilis
英名 Bleeding heart(あるいは、Asian bleeding heart)
和名 ケマンソウ(華鬘草)
別名 タイツリソウ(鯛釣り草)
ケシ科(Pavaveraceae)ケマンソウ属(Lamprocapnos
原産 シベリア、北部中国、朝鮮半島、日本

現在、属名は Lamprocapnos ですが、長らく Dicentra と呼ばれてきたので、今でも Dicentra(ディセントラ)と呼ぶ人は多いです。

英語では Bleeding heart と呼ばれ、意味は「血を出している、出血している心臓、心」・・・毒性があるところから来る名称でしょうか。あるいは、花を形容して、「恋焦がれて心が苦しんでいる」と言っているのでしょうか。

バレンタインズ・デイに似つかわしい名前ではないかも、と思いましたが、花の形が大変きれいなので、掲載しました。

学名種小名の spectabilis は「見るに値する」「注目するに値する」「賞賛に値する」という意味です。園芸種か、と思われるほどの「目鼻立ちのはっきりした」花ですね?

バンクーバーで庭にこの花を育てる人は多いです。バンクーバーの気候が合っているのでしょうか。

2022.04.20撮影

もう1種、ケマンソウ(Lamprocapnos spectabilis)によく似た植物を紹介します。和名は多分ありません。こちらは、東アジアの産ではなく、バンクーバーを含む北アメリカの太平洋沿岸が原産地です。

学名 Dicentra formosa
英名 Western bleeding heart
別名 Wild bleeding heart
別名 Pacific bleeding heart
和名(ケマンソウの1種)
ケシ科(Pavaveraceae)ケマンソウ属(Dicentra
原産 北アメリカの太平洋沿岸

こちらの方は、バンクーバーの庭には植えなくても勝手に生えてきます。その辺りの野山で自生しているからだ、と思われます。

学名種小名の formosa は「形のいい」「魅力的な曲線の」。花の形に言及したものでしょうか。でも、formosa の花は、 spectabilis の花よりは、小さく、おとなしめです。

でも、葉と組み合わされると、群生したものは、涼しげで美しいです。以下の画像で左下に写っている青紫の花は、アネモネ・ブランダ(Anemonoides blanda)です。

2021.04.29撮影

ついでに、タネのサヤもご覧ください。最初の spectabilis の画像に、ピンクのハート部分から白く突き出たものが見えましたね。あの中にメシベがあって、そこが受粉してこのようにタネのサヤとして成長します。

2021.05.05撮影

「血を出している、出血している心臓、心」なんて名前の花なんてとんでもない、タネのサヤも気持ち悪い、とおっしゃる方のために、以下、前にご紹介した、ハート型の花の植物の画像を再掲します。

2021.05.25撮影

学名 Gaultheria shallon
英名 Salal「サラール」
和名(シラタマノキの1種)
ツツジ科(Ericaceae)シラタマノキ属(Gaultheria

以下も、同じく、シラタマノキ属の植物です。

学名 Gaultheria procumbens
英名 American wintergreen「アメリカの冬緑」(他の名称もあり)
和名 ヒメコウジ(姫柑子)
ツツジ科(Ericaceae)シラタマノキ属(Gaultheria

2021.08.05撮影

それでは、みなさんのバレンタインズ・デイが、愛を分かち合える日でありますように。

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