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ウェールズのケシ 2

2023年06月21日 08時00分00秒 | ケシ科
2023.05.05撮影

今日は、昨日のつづきです。「ウェールズのケシ」について。

このケシの学名は、Papaver cambricum(パパベール・カンブリクム)から出発して、Meconopsis cambrica(メコノプシス・カンブリカ)となり、再び、Papaver cambricum(パパベール・カンブリクム)にもどりました。

その経緯は、次のようになります。

Papaver cambricum(英文+画像)

リンネの分類(1753年)
「ウェールズのケシ」は、最初、ケシ属(Papaver)に入れられ、Papaver cambricum(パパベール・カンブリクム)「ウェールズのケシ」と命名された。
* ケシ属の花のメシベには、花柱がないのが特徴である

柱頭(ちゅうとう)、花柱(かちゅう)、子房(しぼう)
受精(じゅせい)、生殖細胞(せいしょくさいぼう)

ケシ属のメシベに花柱のない様子を、次の画像でご覧ください。この花は、種(しゅ)まではわかりませんが、ケシ属であることには間違いありません。

花の中央に、大きな、やや平べったい子房があります。そして、その子房を、てっぺんから網を下ろしたようにおおうものがあります。それが柱頭です。明らかに花柱は存在しません。花の根本に直にへばりついているのですから。

Papaver(ケシ)
撮影者:Paulparadis
撮影日:2019.06.28
オリジナルからの改変、なし

フランス人植物学者ヴィギエによる再分類(1814年)
「ウェールズのケシ」は、花柱に関して他のケシ属(Papaver)の花とは特徴が異なる、ということで、ケシ属から離され、新たな属、メコノプシス属(Meconopsis)が作られ、その属に入れられた。そして、それだけでなく、その属の模式種(すなわち、「筆頭種」)となった
* その異なる特徴とは、メシベに花柱があることである

模式種

次の「ウェールズのケシ」の画像をご覧ください。

花の中央の五裂しているものが柱頭、その下に見えるふくれたものが子房です。それで、花柱はどこにあるか、というと、すみません、画像でははっきりとは見えないんです。でも、柱頭が、直前のケシ属の花のように、子房をボウシのようにおおっているのでないことは、わかります。ですから、花柱が短くても存在する、ということなのでしょう。


2023.05.11撮影

花柱の確認できる「ウェールズのケシ」の画像をインターネット上で見つけました。著作権がついていますので、リンクをつけるだけにしておきます。

Papaver cambricum (Welsh Poppy)

メコノプシス属の創設
新たな属は、Meconopsis(メコノプシス属)「ケシのような属」と命名された
* Mecon-「ケシ」、-opsis「〜のような」、Meconopsis「ケシのような」

Meconopsis(英文+画像)

「ウェーズルのケシ」の名称変更
リンネ命名の Papaver cambricum(パパベール・カンブリクム)の Papaver(パパベール)が、新しい属名 Meconopsis(メコノプシス)に変えられ、種小名はそのままで(ただし、中性形の cambricum から、女性形のcambrica に屈折変化させられて)、属名、種小名、合わせて、Meconopsis cambrica(メコノプシス・カンブリカ)となった。

日本語でこのケシをメコノプシス・カンブリカと呼ぶのは、この学名 Meconopsis cambrica によります。

ヒマラヤ山中で、メコノプシス属
撮影者:Manas Badge
撮影日:2015.07.28
オリジナルからの改変、なし

メコノプシス属の他の種
新設のメコノプシス属には、ヒマラヤ地域で「発見」されたケシの類が、分類されるようになった。「ヒマラヤのケシ」といえば、「青いケシ」として知られるが、すべてが青いわけではない。
* メコノプシス属の花には、メシベに花柱があるのが特徴である

上の画像をご覧ください。

このメコノプシス属の「青いケシ」には、子房(花の中央のふくらんだところ)の上にはっきりと花柱があって、その先が柱頭になっています。

もっと青い「ヒマラヤの青いケシ」の例をどうぞ。これにも、花柱が見えます。

青いケシ
撮影者:Magnus Hagdorn
撮影日:2018.05.19
オリジナルからの改変、なし

分子系統学的研究による再分類(2011年〜2017年)
「ウェールズのケシ」が、「ヒマラヤの青いケシ」等のメコノプシス属の各種とは親戚関係にない、ということが、分子系統学的研究により証明され(2011年)、ケシ属への再編入が決定された(2017年)。

そして、結果的に
Papaver cambricum 転じ、Meconopsis cambrica
Meconopsis cambrica 転じ、Papaver cambricum
今さらなので、慣例上、Meconopsis cambrica と呼ぶこともある・・・

メコノプシス属に分類される各種は、ヒマラヤ地域を含むアジアの原産です。そこへ、1種だけ、ヨーロッパ産の「ウェールズのケシ」を入れておくのは、やはり、無理がありました。

一方、「ウェールズのケシ」を再編入したケシ属は、もっと広い地域に産します。その分布地は、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、北アメリカ。

明日につづく。



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