カラスといちごとクロッカスと

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個人の目をとおしてお届けします。

イチリョウ

2023年01月08日 08時00分00秒 | アカネ科
アリドオシ(Damnacanthus indicus
撮影者:Alpsdake
撮影日:2015.05.20
オリジナルからの改変、なし

センリョウ、マンリョウ、について書こう、と思い調べていると、ついに、ヒャクリョウ、ジュウリョウ、を経て、イチリョウにまでたどり着きました。

和名 アリドオシ(蟻通し)
別名 イチリョウ(一両)
アカネ科(Rubiaceae)アリドオシ属(Damnacanthus
学名 Damnacanth indicus
英名 Marlberry
原産 インド東部、東アジア、日本(関東地方以西)

アリドオシ

イチリョウ(アリドオシ)のことで最初に気づいたのは、それが、
・ヤブコウジ属(Ardisia):マンリョウ、ヒャクリョウ(カラタチバナ)、ジュウリョウ(ヤブコウジ、ヤマタチバナ)の上位分類
・センリョウ属(Sarcandra):センリョウの上位分類
のどちらにも属していないことです。

これは、
・他の「〜リョウ」とは異なる花の形(5弁か4弁か、など)
・他の「〜リョウ」にはないトゲの存在
を見れば、別属であっておかしくないであろう、と思います。

先に、ヤブコウジ属(Ardisia)のヤブコウジ(Ardisia japonica)の花を、昨日の記事から再録しておきます。5弁です。

ヤブコウジ(Ardisia japonica)
撮影者:Alpsdake
撮影日:2016.07.02
オリジナルからの改変、なし

次は、イチリョウ(アリドオシ)の花とトゲです。花は4弁です。

アリドオシ(Damnacanthus indicus
撮影者:Alpsdake
撮影日:2015.05.20
オリジナルからの改変、なし

属名の次に気づいたのは、種小名の indicus です。これは、「インドの」という意味。

前に、マンリョウとヒャクリョウについて、イギリスの王立植物園キュー・ガーデンズのサイトにある分布図を見ていただきました。次は、イチリョウ(アリドオシ)の分布図です。地図なので、視覚的にわかりやすいです。

Damnacanthus indicus(地図)

ふうん・・・インド亜大陸(インド半島)のほとんどには分布していないのに indicus「インドの」なのね・・・

アリドオシ(Damnacanthus indicus
撮影者:Alpsdake
撮影日:2015.04.16
オリジナルからの改変、なし

各種「〜リョウ」の特徴については、比較をした記事がたくさんあります。ですから、ここでは、丈だけについて簡単にまとめたいと思います。(高さがおよそ30cm以下の低木を矮性低木と呼びます。)

・マンリョウ(100cm前後)
・センリョウ(50-150cm)
・ヒャクリョウ(20-100cm)
・ジュウリョウ(10-30cm)矮性低木
・イチリョウ(20-60cm)

低木

以上、数日にわたって、貨幣の単位であった「両」を名前にもつ植物を見てきました。

これらは、もともと「一」「十」「百」「千」「万」とそろっていたわけではなく、わたしの推測では、「百両」から始まって、次に「千両」と「万両」がつけ加えられ、あとは、「百」「千」「万」なら、「十」と「一」もね、と拡大したものだと思われます。念のために申しますが、これは、わたしの推測です。

なぜそういう推測を立てるか、というと、日本の文化的な背景から、「百両」という塊が、「大金」であるという最初の概念だ、と思うからです。その「大金」という概念から、愛でるものを名づけるのに、「十」「一」の向きに率先して下がるわけがなく、「千」「万」に向かって上がるはずなのです。そして、「百」「千」「万」がそろったところで、「十」「一」が加えられた。

もとより、わたしが確かな歴史的文献を持っているわけではありません。でも、以上の推測のうち、「百両」が発端であろう、という部分は、傍証できます。中国名です。ヒャクリョウの中国名は、「百两金」です。この名称が、まず日本に入ったのだと思われます。

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和名 マンリョウ
中国名 硃砂根(硃砂=朱砂「朱色の鉱物、砂」)【追記2】
学名 Ardisia crenata

和名 センリョウ
中国名 草珊瑚(「草サンゴ」なんてきれいな名前ですね)
学名 Sarcandra glabra

和名 ヒャクリョウ
中国名 百两金(和名のヒャクリョウの語源でしょう)
学名 Ardisia crispa

和名 ジュウリョウ
中国名 紫金牛【追記3】
学名 Ardisia japonica

和名 イチリョウ
中国名 虎刺(「アリ」ではなく「トラ」)【追記1】
学名 Damnacanthus indicus

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「〜リョウ」の名称は、「百両」に始まる、というのは、わたしひとりで言っている間は、推測も推測、おそらく、憶測だろ、程度なので、なんとかどこかに類似の説明はないか、と探すと、植木屋さん「樹げむ舎」のサイトのマンリョウの記事にありました。この管理者の方がどこまで専門家なのかわからないので、この説明も、どこまで裏付けがあるのかは、読む者には分かりませんが。

マンリョウ

・果実の色は赤
・常緑
・花の少ない冬場に、緑の葉を背景に、あるいは、合間に、美しい実がなる
が理由で正月の縁起物とされたのであろう「〜リョウ」。

5回にわたってお届けしてきました。次に「〜リョウ」について書くのは、他の植物との関連で、か、あるいは、「オクリョウ」が出てきた時かな、と思います。

この記事を終えるにあたって、次の3点の追記を書き加えておきたいと思います。

【追記1】
イチリョウのことである「アリドオシ」という名称の由来には、先にリンクしましたのWikipediaの記事によれば、
・トゲが(鋭くて)細長く、アリでも刺し貫く
・トゲが多数あるので、アリのような小さい虫でないと通り抜けられない
の2説があるそうです。中国語では、この同じ植物「蟻通し」を「虎刺」というらしく、これはおもしろい、と思いました。「猛々しい虎でもその上を歩けば刺さって痛がる」という意味でしょうか。

【追記2】
マンリョウの中国名「硃砂根」に出てくる漢字「硃」の意味は、以下でどうぞ。
辞典オンライン漢字辞典
「硃」

【追記3】
ジュウリョウの中国名「紫金牛屬」の中国語での説明です。
Bai du 百科
「紫金牛屬」

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クルマバソウ(グランドカバー)

2022年10月24日 06時20分03秒 | アカネ科
2021.04.27撮影

学名 Galium odoratum
和名 クルマバソウ(車葉草)
英名 Sweet woodruff
アカネ科(Rubiaceae)ヤエムグラ属(Galium

クルマバソウ(Galium odoratum)です。和名があるので、ホッとしました。

和名がないような植物を紹介するときには、困るんです。そんな時は、学名や英名をカタカナにしたり(例:イヌラ・フッケリ)、できれば、説明的に訳したり(例:「モモバギキョウ」)、してみます。

真夏に涼やかな、キク科のイヌラ・フッケリ

モモバギキョウ、と呼んでいい?

クルマバソウ(車葉草)の葉は、葉が軸の周りに放射状に出ます。和名は、これを「車の葉」と捉えたものです。葉はやや光沢があります。冒頭の画像は、まだ葉が若い時で、緑と言っても、黄緑色にやや傾いています。この「車」が軸に段々につきます。

画像中、右上の赤いものは、原種のチューリップ(Tulipa)のツボミです。クルマバソウが20センチ(せいぜい、30センチ)ぐらいにしかならないので、原種チューリップの小ささがうかがえます。

それでは、次の画像で、花の詳細をご覧ください。ひとつひとつは、2〜5ミリ程度の小さな花です。花弁は4枚。

2022.05.09撮影

学名 Galium odoratum を見てみます。属名 Galium は、ギリシャ語の galion「ベッド用のわら」から来た新ラテン語で、galion は、多分、ヤエムグラ属(Galium)の一定の植物が gala「乳」をチーズとして固めるのに使われたため、であろう、とされます。

Galium(英英辞典)

種小名の odoratum は、「匂う」という意味です。英語の odor「匂い」と同語源です。ラテン語の方も、英語の方も、いい匂いと悪臭の両方を指します。

クルマバソウは、そのままではそれほど匂いませんが、つぶすといい匂いがします。その特性を活かし、中世ヨーロッパでは、土間や床にまき散らしました。その上を歩くと、いい匂いがするのです。

これは、体や住居の悪臭を隠蔽するためのものです。多くの種類の植物が使われました。その中には、虫よけなどの役に立つものもあります。おもしろいのは、干し草のような匂いがするものが好まれたことです。牧畜文化だなあ、と思いました。

花の固まって咲いているのを、どうぞ(次の画像)。

2021.05.11撮影

上の画像中、左にかたまって出ている葉はスノードロップ(Galanthus)の葉です。スノードロップの学名 GalanthusGala も「乳」です。花はずいぶん前に終わっているのですが、このように、葉を、「見苦しい」からと切り取らずに、残して、自然光に当てておくのが、球根を健康に保つために大切です。

画像右側には、1枚だけ、「秋ざきクロッカス」イヌサフラン(Colchicum autumnale)の大きな葉が写っています。この後、夏には葉が枯れ、秋に花が咲きます。

秋咲きクロッカスの色が・・・

英名の Sweet woodruff は、sweet は「甘い=いい匂い」、wood は「木(のように立っている)」、ruff はヨーロッパ人が首の周りにつけていた「襞襟(ひだえり)」です。これらを合わせ、Sweet woodruff は「いい匂いのする襞襟のようなものをつけて木のように立っている草」という意味でしょう。

襞襟

2022.05.25撮影

クルマバソウは、日陰でどんどん増えます。ですから、と言うとひどい言い方ですが、葉っぱの傷んだものは、どんどん取り去っていけばいいです。

また、上を歩いても、だいじょうぶ。倒れますけど、起き上がってきますから。踏みつけたところは、顔を近づけば、少しいい匂いがしますよ。芳香が漂ってくる、ほどではありません。

クルマバソウの茎、というか、軸というか、は、あれは、引っ張ってもすっぱりとは切れません。茎の外側は折り取れるんですが、茎の中を走っている、あれは、植物学的にはどういう名前なんでしょう、丈夫な太めの糸のようなものが残るんです。

上の画像で見えているハート型の葉は、ドクダミ(Houttuynia cordata)です。これもグランドカバーになりますが、歩く場所には作れません。

クルマバソウも、歩く場所よりも、木などの下に植えるといいです。また、春の球根植物が咲いた後に残る葉っぱの目隠しにも使えます。

2022.09.10撮影

上の画像は、秋口のクルマバソウです。葉っぱの緑が濃くなり、硬さも増しています。花は終わり、小さいタネがついています。タネは次のように拡大すると、見やすいですか。下の画像の左下が一番わかりやすいと思います。

あれ? 画像の真ん中より左手、なんだ、これは? 毛虫がいる? 他の植物のタネが引っかかっている?

2022.09.10撮影

では、セイヨウジュウニヒトエ(Ranunculus repens)とのツーショットをどうぞ。あ、クルマバソウさん、焦点、合ってないわね。ごめんなさい。

2022.05.29撮影

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