とんねるず主義+

クラシック喜劇研究家/バディ映画愛好家/ライターの いいをじゅんこのブログ 

『ヒューゴの不思議な発明』を観る前に(そして観た後に)

2012年03月02日 18時42分22秒 | バスター・キートンと仲間



テレグラフ紙ネット版の報道によると、イギリスのオンラインレンタルショップでは、『アーティスト』のオスカー受賞後にサイレント映画のレンタル率が40%もアップしたそうです。

おもしろいことに、もっともレンタル率が上がったサイレント映画は『隣同志』『荒武者キートン』なんだそう。いずれもバスター・キートンの作品です(前者は短編、後者は長編作品)。

『アーティスト』と直接関係のないキートンの作品に注目があつまっているのは、不思議ですね。ひょっとしたら『モーリス・レスモアとふしぎな空飛ぶ本』の短編アニメーション賞受賞も一役買っているのかもしれません。

じつは、当ブログも「モーリス・レスモア~」や「バスター・キートン」の検索ワードで訪れてくださる方の数が急上昇しています。うれしいな!

サイレント映画への関心を高めるのに一役買っているのは、『アーティスト』と『モーリス・レスモア~』だけではありません。マーティン・スコセッシ監督『ヒューゴの不思議な発明』もそう。

アカデミー賞では“主要”部門の受賞は逃しましたが、技術系部門は5冠に輝きました(むしろその方が、映画冥利に尽きると言えるのかもしれない。技術がなくては映画は成り立たないのだから)。

この映画が、ついに昨日3月1日から日本でも公開されました。自分としてはめずらしく初日に観てきました!んが、個人的感想を綴るのはちょびっとさきのばしにさせてもらって、今日はこちらのサイトの記事をご紹介しましょう。

スコセッシの『ヒューゴ』を観る前に観ておくべきクラシック映画10本
(10 Classic Films You Must Watch Before Seeing Marin Scorsese's "Hugo")

ツイッターなどでもちらほら紹介されているみたいですね。

『ヒューゴ』の舞台は、1920年代の戦後のパリ。ジョルジュ・メリエスを中心として、草創期のサイレント映画へのオマージュが、全編にみずみずしくあふれています。実際のサイレント映画の映像もいくつか使われていて、大スクリーンでそれをちらっとでも観れるのが、じつに楽しい。

先にあげた記事では、劇中に登場するクラシック作品を紹介しています。
子どもたちが映画館にこっそり忍び込んで観るのは、ハロルド・ロイド『要心無用』(1923)。メリエスの回想シーンで映し出されるのは、リュミエール兄弟『工場の出口』(1895)、『ラ・シオタ駅への列車の到着』(1897)。

記事では紹介されていませんが、エジソン社で作られた実験的なサウンド映像もちらりと使われていたはずです。


Dickson Experimental Sound Film (1895)





現時点で世界最古の西部劇映画とされている『大列車強盗』(1903)の有名なガンマンのスティルを、『グッドフェローズ』(1990)のジョー・ペシと並べてあるのがおもしろい(いずれもまっすぐカメラ目線で、第四の壁を破っている。通常の劇映画ではありえないこと)。





『グッドフェローズ』は『ヒューゴ』にも微妙に残響をひびかせています。映画の冒頭、駅の壁の内側をするすると走り抜けてゆく少年ヒューゴを背後からキャメラが追ってゆくショットは、『グッドフェローズ』のあの流麗なステディカムの長回しを思い出させます。


Goodfellas - Copacabana Nightclub Tracking Shot (HQ)




『ヒューゴ』を観る前に、『グッドフェローズ』をおさらいしておくのもいいかもしれません(わたしはそうしておけば良かったと思った)。


子どもたちが忍び込む映画館には、たくさんのポスターが貼ってあって、映画ファンのマニア心を刺激してくれます。このあたりは、シネフィルであることを公言しているスコセッシのサービスでしょうね。

昨日確認できたのは、ロイドの『要心無用』と、キートンの『将軍(aka大列車追跡)』、ルドルフ・ヴァレンチノ、そしてチャーリー・チェイス!これがシブいんだよね!

チャーリー・チェイスは、近年再評価がはじまっているサイレント期のコメディアンです。トーキー初期にもおもしろい短編を多く作りました。わたしは映画サークル「映画侠区」の鑑賞会で初めて観て、以来ファンになりました。チェイスのどの作品のポスターが使われてたのか、確かめられなかったんだよなあ。もう一回観にいかなくては。





映画では、第一次世界大戦によってヨーロッパ映画が凋落してしまった歴史も説明されます。その象徴として、マックス・ランデーのぼろぼろのポスターが使われていました。マックス・ランデーは、チャップリンが師と仰いだフランスの芸人。1925年、41才のときに妻と心中しました。





他にも、キートンの『将軍』、チャップリンの『キッド』、ダグラス・フェアバンクス『バグダッドの盗賊』などの映像も、ほんのわずかながら使われていて、わくわくした!


さて、『ヒューゴ』のメインキャラクターといえば、やはりジョルジュ・メリエスです。彼の『月世界旅行』(1902)をはじめとする “大作” ファンタジーを、『ヒューゴ』の前に観るか、あとで観るか、というのは、ややむずかしい問題。DVDで観るのもむずかしいしね。

『ヒューゴ』を観る前にまず、メリエスの3~5分の小品を観ておくのがいいんじゃないかなあ。若々しく幸せいっぱいだった頃のメリエスを観ておけば、『ヒューゴ』に描かれた晩年の彼の悲しみが、より深く感じられるんじゃないでしょうか。


The Melomaniac ( Georges Melies, 1903)




1900 - George Melies: L'homme orchestre




Les illusions fantaisistes (1910)




The Untamable Whiskers 1904 George Melies Silent Film




メリエス最高!!
作品のみならず、メリエス本人も、エネルギッシュで魅力的で。ほんと、いいキャラしてる!

しかし、これらの動画を観る上で、かならず心に留めておくべきことが、ひとつあります。

いまこうしてわれわれが手軽にメリエスの映像を観ることができるのも、映画史家たちが苦労してフィルムを収集し、修復してくれたからこそだ、ということ。

サイレント期に作られた映画は、その80%が失われてしまったと言われています。映画史家や、個人のコレクターたちは、そんな失われた映画を世界中に探し求め、フィルムの劣化を一刻も早く食い止めるという時間との闘いを、長年つづけている。

そんな人々の情熱と苦労のおかげで、いまわたしたちはこの傑作群を観ることができているわけです。この事実を広く観客に知らしめることもまた、スコセッシからの強いメッセージなんだろうと思う。


そして最後に、映画を観た後には、原作本にもふれたい。すでに読まれている方も多いと思いますが・・・


ユゴーの不思議な発明
ブライアン セルズニック
アスペクト




原書版表紙


全編モノクロームで描かれた、グラフィック・ノベルの傑作です。ヒューゴ少年の孤独や、貧困や、絶望感が、映画よりもひしひしと感じられます。原作に登場するヒューゴとイサベルは、シビアな現実の世界に生きる、したたかでたくましい少年少女なのです。











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