This is me.

- 無用の用 -

『ツチヤの軽はずみ』土屋賢二

2009-12-10 11:29:23 | 本 2009
『ツチヤの軽はずみ』土屋賢二


【内容情報】(「BOOK」データベースより)
この男の人間関係は職場でも家庭でもなぜこじれてしまうのか?こんなヒネクレた男が大学教授になったのは何かの間違いではないか?こじれた人間関係と身にふりかかる不幸に苦悩する“笑う哲学者”プロフェッサー土屋が苦しまぎれに説く深遠な人生哲学(?)満載の「週刊文春」連載エッセイ文庫化第一弾。



こんな薄い本なのに、なんだかんだで一ヶ月ほどかかってしまった。
でも、こういう時だからこそ、この本はちょうど良くて、そして素晴らしい。

毎回毎回笑わされるのもだけど、本当に感心というと上からのようであれだけど、ホントすごいよなーこの人。
物事ってあらゆる角度から見られるって知ってるけれど、本当に見られて、且つ、文章に出来る人ってどれくらい居るんだろうと思う。

もうどこに書いてあったかは定かではないが、あーこういう考え方もあるのね、なんて納得してしまったりする。
世間一般では、悪い、とされていることも、この人にかかれば、どこが悪い、みたいな感じになって、ちょっと気が楽になった。



『西の魔女が死んだ』梨木香歩

2009-11-12 22:19:30 | 本 2009
『西の魔女が死んだ』梨木香歩


【内容情報】(「BOOK」データベースより)
中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、西の魔女のもとで過した。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも…。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。



これ、映画でやってるときにちょっと気になってた。
映画化されているものに原作があると、それを読んでから観たいと思うので、読めてよかった。

いい本、だったなあ。
流れている空気が良い。
こういうふうに暮らしたいと思う。
でも、「でも」とか言ってるときっと一生出来ないんだろうな。
ああ、でも、って言いたくなる。
ちょっと遠い感じがする。


魔女修行、というのが出てくるのだけど、これがなかなか興味深い。
おばあちゃん素敵だな。
こういう修行を重ねたら、こういうふうになれるのかな。



読み終わって、私はいつからこの手の本を、面白い、と思うようになったのだろうとふと考えた。

『黒猫館の殺人』綾辻行人

2009-10-30 17:10:58 | 本 2009
『黒猫館の殺人』綾辻行人


【内容情報】(「BOOK」データベースより)
6つめの「館」への御招待―自分が何者なのか調べてほしい。推理作家鹿谷門実に会いたいと手紙を送ってきた老人はそう訴えた。手がかりとして渡された「手記」には彼が遭遇した奇怪な殺人事件が綴られていた。しかも事件が起きたその屋敷とはあの建築家中村青司の手になるものだった。惨劇に潜む真相は。



館シリーズ6作品目。
もう6作品も読んだのか。なんだかんだで読んでるな。


これはちょっと今までと雰囲気が違うかった。
どこがどうと上手く説明出来ないのだけれど。




途中で「え?」と疑問に思ったところがあって、それが小説内の探偵も疑問に思ったとあって、こういうのはなんとなく嬉しかったな。
伏線に気付けたよ、私。みたいな。

ああそうだ。何が不思議かって、もう最初から犯人がわかるんだよな。
おそらくこの人だろう率が9割で、もしかしたらこの人かも率が1割、という感じ。

謎解きの仕方も一風変わってたような。
そうでもないかな。



綾辻さん的に、解説で書かれているけれど、この作品は「区切り」=折り返し点的な作品なんだとか。
確かにそういう部分も見られるような気がする。
それが、この私の、今までとちと違う、という何かに結びついているのかな。



次は『暗黒館の殺人』か。これ楽しみにしてたんだよなあ。
文庫で全四巻。果たしてどんなお話なのかしら。

『流しのしたの骨』江國香織

2009-10-13 22:03:38 | 本 2009
『流しのしたの骨』江國香織


【内容情報】(「BOOK」データベースより)
いまはなにもしていず、夜の散歩が習慣の19歳の私こと子、おっとりとして頑固な長姉そよちゃん、妙ちきりんで優しい次姉しま子ちゃん、笑顔が健やかで一番平らかな‘小さな弟’律の四人姉弟と、詩人で生活に様々なこだわりを持つ母、規律を重んじる家族想いの父、の六人家族。ちょっと変だけれど幸福な宮坂家の、晩秋から春までの出来事を静かに描いた、不思議で心地よくいとおしい物語。



江國香織だな~という本だった。

この人の本ってブクログにも書いたけれど、なんだろう、読んで!読んで!って勧めたくなる本じゃあない。だけど、一度読んでみてはどう?って言いたくなる、そんな本が多いような気がする。

それと、自分の心の場所がちょっと不安定だった場合、がっさりすくわれる。
救われるのではなく、足もとをがっさりすくわれる。
だから読む時期を選ばないとちょっと困った自体に陥るかも、なんても思ったりする。



 昨日の出来事はすべてものがたりに変わり
 明日のわたしを夢に見ながら
 今日のわたしを生きている
       「読語ライブ」(解説)より

解説もとても興味深かった。
旅芸人って書いてたけど、名前聞いたことなかったなあ。



よそのおうちって本当に別世界だよね。
うちでは当たり前が当たり前じゃない。
そこに漂う空気自体が何か特殊なもののような気がする。

『誘拐の果実(上・下)』真保裕一

2009-10-05 13:46:38 | 本 2009
『誘拐の果実(上・下)』真保裕一
 

【内容情報】(「BOOK」データベースより)
病院長の孫娘が誘拐された。犯人からは、人質の黒髪と、前代未聞の要求が突きつけられる。身代金代わりに、入院中の患者を殺せ、というのだ。しかもその人物は、病院のスポンサーでもあり、政財界を巻き込んだ疑獄事件で裁判を待つ被告人だった。悩む家族、後手に回る警察。人質救出の極秘作戦が病院内で幕を開ける。そこに第二の事件が―。



初めての真保裕一作品。
映画で「ホワイトアウト」を観たことあるが、あれは面白かった。
ほとんど期待してなかっただけにか、かなり引きずり込まれた。


これは、うーん正直まあまあと言った感じかなあ。
様々なことが詰め込まれて過ぎてて、頭が付いていけなかったってのもある。
ちょっと異色、そんな感じを受けた。



内容はまあそんな感じだったのだけど、書かれている言葉が所々良かった。

「うちには、そういう遠慮が少し多すぎた気がしてきた。(略)相手を尊重するのが一番だと胸に言い訳を用意しながら、本当は下手な干渉をしてあとで揉めるのは嫌だと手をこまねいていた。感情をぶつけ合わず、大人を気取って(略)」


命は金に代えられない、と言われるが、人の命と金を現実に比べる立場に置かれた者は少ない。


「心にもないことを言って人を甘やかさないでくれ。頼む。」



感情を言葉にするのって難しいよなあ。
やっぱり小説家ってそういうのがすごい。
観察力とか語彙力とか。

『ドミノ』恩田陸

2009-09-27 10:43:36 | 本 2009
『ドミノ』恩田陸


【内容情報】(「BOOK」データベースより)
一億円の契約書を待つ、締切直前のオフィス。オーディション中、下剤を盛られた子役の少女。推理力を競い合う大学生。別れを画策する青年実業家。待ち合わせ場所に行き着けない老人。老人の句会仲間の警察OBたち。真夏の東京駅、二七人と一匹の登場人物はそれぞれに、何かが起こる瞬間を待っていた。迫りくるタイムリミット。もつれ合う人々、見知らぬ者同士がすれ違うその一瞬、運命のドミノが次々と倒れてゆく!抱腹絶倒、スピード感溢れるパニックコメディの大傑作。



恐るべし恩田陸。
ジャンルなんて関係ないのか。この人やはりすごい。
コメディってあまり好きじゃなくって、恩田陸だから買ったもののどうなんかなーと思っていたのだけど、面白かった。笑えた。
電車でにやにやしてしまい、ちょっと恥ずかしかったなあ。


367ページの本なのに、27人と1匹というなんとまあ人口過密な本。
最初の登場人物一覧を見たときに(えっ?こんなに出てくるの?覚えきれないよ)と思ったのだけど、まさしく杞憂に終わった。
読みすすめていくうちに、それぞれをきちんと思い出す。
殺人事件もので(あれ?この人誰だっけ?)と最初の一覧に戻るときがよくあるけれど、これはほとんどと言っていいほどなかった。

これだけの登場人物が出てくるのに、一日のほんの数時間を描いたもの。
まさしく『ドミノ』。



 「緊張するってことは、それがあたしにとって大事なことなんだなって思うんです。(略)こんなに緊張するってことは、これからあたしがやろうとすることはあたしにとって大事なんだなって思うから。大事なことは大事にしなきゃって」

『そして扉が閉ざされた』岡嶋二人

2009-09-23 10:55:41 | 本 2009
『そして扉が閉ざされた』岡嶋二人


【内容情報】(「BOOK」データベースより)
富豪の若き一人娘が不審な事故で死亡して三カ月、彼女の遊び仲間だった男女四人が、遺族の手で地下シェルターに閉じ込められた。なぜ?そもそもあの事故の真相は何だったのか?四人が死にものぐるいで脱出を試みながら推理した意外極まる結末は?極限状況の密室で謎を解明する異色傑作推理長編。



岡嶋二人の本を読むのは二冊目。
前の『99%の誘拐』の方が個人的には好きかなあ。
とは言え、面白くないことはなかった。めずらしく2日で読んでしまったっていうのもあるしって、面白さ=速さではないけれど、それほどのめり込んで、先が気になって、読みきってしまったっていうのはある。

うーん、だけどなあ・・・と思うのはおそらく私だからなんだろうなあ。


ここから先ちょっとネタバレ。

















これをこのタイミングで読んでしまったのが、あれだったか・・・。
『1Q84』の後じゃなかったらもっと素直に「これは面白かったー!」と思えたのかもしれない。
アイスピックが出てきた時点でもしや・・・と思った。
それがまあなんとまあ見事に同じだったからなー。
しかし、ああいう殺害の仕方が本当にあるということがわかったのはなんというか手間が省けたというか。
一度調べてみようと思ってたからなあ。
あるんだ、実際。

それより何より私が一番気になったのは、千鶴の「おどかさないでよ。あたし、また、殺されるのかと思ったわ」の台詞。
“また”って何?ってひとしきり考えた。
どういう意味だったのだろう。

『1Q84(BOOK 1・BOOK 2)』村上春樹

2009-09-20 11:39:14 | 本 2009
『1Q84(BOOK 1・BOOK 2)』村上春樹
 

前情報が一切と言っていいほどなかった作品なので、何も知りたくない人は読まない方がいいと思われます。内容に触れてます。他の作品にも触れています。















【内容情報】(「BOOK」データベースより)
BOOK 1:「こうであったかもしれない」過去が、その暗い鏡に浮かび上がらせるのは、「そうではなかったかもしれない」現在の姿だ。書き下ろし長編小説。

BOOK 2:心から一歩も外に出ないものごとは、この世界にはない。心から外に出ないものごとは、そこの別の世界を作り上げていく。書き下ろし長編小説。



6月に買っていた本を今頃読むあたりが私らしいな。
それ以前に買った本でまだ読んでいない本も何冊かあったり・・・。

この本に関して言えば、そう簡単に手に出来なかったという部分もある。
ハードカバーだから持ち運びがしにくい。故に、気になっても読み進められない、故になかなか手が付けられない。というのもあったし、それに、村上春樹の久しぶりの待ちに待った長編小説だったので、勿体無くて手が付けられなかったというのもある。
しかしこの間風邪をひいてしばらく家に居る時間が出来たので、これを機にこの休みで読んでしまおう、と思って読み始めたのだけど、私にはすぐには読み切れなかったなあ。
当たり前の話だけど、ずっと読めば速いはず。2日、いや1日で読んでしまった人も少なくないと思う。物語はさらさらと流れていき読みやすく、そして、惹き付けて離さない力を十分に備えている。
まあ別にわざとゆっくり読んだのではなくて、気付けば3週間経っていた。



前情報を一切入れずに本を読んだのって初めてだと思う。


あーこの本ほど何かについて書くのが難しい本はないな。
何を書いても、いやそうじゃないんだ、そういうことが言いたいんじゃないんだ、とすぐにいいわけをしたくなる。

「どう?面白かった?」と問われたら、「うん、面白かった」と答えると思う。
でも、それは今までと同じように「興味深い」という意味合いが強い。

最近ニュースで見かけたのだけど、BOOK 3が来夏出版を目途に執筆中らしい。
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/entertainment/1q84/?1253139887
私はこのニュースをBOOK 2を読んでいる最中に見たのだけど、かなり驚いた。
え?じゃあこれで終わりじゃないの?続きが気になっちゃうじゃない、ねえ。
まあ確かに「上下」となっていないところが気にはなっていたのだけど・・・。
なので、きちんとした?感想はそれを読んでからになるのかなあ~。



主人公が自分のことを「おれ」と言うのは初めてじゃないかな?あったかな?それが、すごく新鮮だった。だいたいの主人公が自分のことを「僕」と表現していたと思う。どうしてこの人だけそういうふうにしたのか興味がある。

それと、村上春樹の小説で、クスッと笑ったのも初めてじゃないかな。それが何箇所かあった。

あーそうそう。あの人が出てきたときは驚いた。名前やその人の描写に覚えがあって、確かこの人・・・と思ってすぐに調べたら、やっぱり。『ねじまき鳥~』に出ていた人が出てくるなんて。
え?!どうしてこの人がここに?なんで?どうして?ってそればっかり思った。
そしてちょっと調べたら、『ねじまき鳥~』の時代と、この『1Q84』の時代が重なっているらしい。ほ~すごい。

BOOK 1で散りばめられた物事を、BOOK 2の後半部分で一気に回収にかかったようなあの部分は素晴らしかったな。あそこはすごい威力があった。

疑問に思ったのが、ふかえりはマザってことになっているけれども、セイリがないと言っているのだから、青豆の考えに沿ってみると、天吾と一緒にいるふかえりはドウタじゃないの?マザもセイリがないということなの?
もちろん答えは返ってこなかった。

村上春樹の書く性描写が何故あまり好きになれないのか、時には嫌悪感すら抱いてしまうのか、これを読んでわかったような気がした。
セックスと表現されず、性交と表現される点、これなんだろうな。
口語ではもちろんセックスと書かれているところもあるけれど、ほとんどの場面に置いて、そういわれないとしても、そういう雰囲気が漂っている。
なんだか小学校で性教育を受けているような、そういう不安定な気分にさせられる。




さて、毎度恒例?の気になった箇所集。

「私の代わりはなかなかみつからないにしても、かわりの手段を見つけるのはそれほどむずかしくないでしょう」


「これは生き方のそのものの問題です。常に真剣に自分の身を護る姿勢が大事なのです。攻撃を受けることにただ甘んじていては、どこにもいけません。慢性的な無力感は人を蝕み損ないます」


「コンドームのないところに挿入はない。それが私のモットー」

このあゆみがいい味を出している。彼女好きだわ。


 生まれ方は選べないが、死に方は選べる。

これ、前に私がどこかで似た様なことを書いたような気がして、ちょっとテンション上がった。
始まりは決められないけれど、終わりは決められる、そんなようなこと。


「(略)実際に死んでみるまでは、死ぬというのがどういうことなのか、正確なところは誰にもわからない」





BOOK 3が楽しみだ。

『空の中』有川浩

2009-08-28 23:01:40 | 本 2009
『空の中』有川浩


【内容情報】(「BOOK」データベースより)
200X年、謎の航空機事故が相次ぎ、メーカーの担当者と生き残った自衛隊パイロットは調査のために高空へ飛んだ。高度2万、事故に共通するその空域で彼らが見つけた秘密とは?一方地上では、子供たちが海辺で不思議な生物を拾う。大人と子供が見つけた2つの秘密が出会うとき、日本に、人類に降りかかる前代未聞の奇妙な危機とは―すべての本読みが胸躍らせる、未曾有のスペクタクルエンタテインメント。



出だしから強烈だったなあ。
こういう惹き付けは久しぶりに感じたかも。


綺麗な話だった。
アニメにしたら売れそうとちょっと思った。
キャラクターもそれぞれがいい味を出していて、ちょっとクサイような所もあるんだけど、それがまた良かったり。

アニメでよくあるような、大人が忘れていた何かを思い出させる。でも、決して押し付けがましくなく、それでいて、しっとりと心に入ってくるような。



空を描いた作品はやはり綺麗になっちゃうのかな。



この一言はよかったな。
「その人らぁに駄々を捏ねてもどうにもならんぜよ」

『異人たちとの夏』山田太一

2009-08-25 15:54:44 | 本 2009
『異人たちとの夏』山田太一


【内容情報】(「BOOK」データベースより)
妻子と別れ、孤独な日々を送るシナリオ・ライターは、幼い頃死別した父母とそっくりな夫婦に出逢った。こみあげてくる懐かしさ。心安らぐ不思議な団欒。しかし、年若い恋人は「もう決して彼らと逢わないで」と懇願した…。静かすぎる都会の一夏、異界の人々との交渉を、ファンタスティックに、鬼気迫る筆で描き出す、名手山田太一の新しい小説世界。第一回山本周五郎賞受賞作品。



メルマガか何かで、舞台「異人たちとの夏」というのを見かけた。
何気なく読んでみると原作がある、というのでちょっと調べたら、山本周五郎賞受賞作品で、しかも記念すべき第一回受賞作ということもあって、すかさずチェックを入れた。


不思議な話だったなあ。どう表現すればいいんだろう。
切なくなって、心が温かくなって、そして背筋が寒くなった。
推理小説以外でのどんでん返し的なのって初めて読んだかもなあ。



あと昔の作品を読むというのは、今では当たり前のものが当たり前でなくて、それだけで興味深かったりする。
昭和62年に小説新潮に連載されていたということは、今から22年ほど前か。
作品の中で、文章から察するにオートロックのマンションが出てくるのだけど、きっとその頃はオートロックなんてものがあまり普及してなかったんだろうな。言葉だけでは伝わらないものだったんだろうな。

 “入るのは、出るより面倒だった。玄関のドアの脇の壁面にある鍵穴に部屋の鍵を入れて回さなければならない。すると、ドアのロックが二十秒ほど切れるのである。その間に入るという仕掛けだった。”

説明はこれ以降もちょっと続いている。
文字にするとスマートになったけれども、案外昔より今の方が煩雑で複雑なのかも。

『真夜中の五分前(side‐A・side‐B)』本多孝好

2009-08-24 17:49:01 | 本 2009
真夜中の五分前―five minutes to tomorrow〈side‐A〉


真夜中の五分前―five minutes to tomorrow〈side‐B〉


【内容情報】(「BOOK」データベースより)
少し遅れた時計を好んで使った恋人が、六年前に死んだ。いま、小さな広告代理店に勤める僕の時間は、あの日からずっと五分ズレたままだ。そんな僕の前に突然現れた、一卵性双生児のかすみ。彼女が秘密の恋を打ち明けたとき、現実は思いもよらぬ世界へ僕を押しやった。洒落た語りも魅力的な、side‐Aから始まる新感覚の恋愛小説。偶然の出会いが運命の環を廻し、愛の奇蹟を奏で出す。



面白かった。
とてもいい。


正直、最初はあまり主人公のことが好きじゃなかった。
でも、途中で変わった。

最初感じたのは、あ、ちょっと村上春樹の主人公に似てる、だった。
でも、どこか違うくて、当たり前なんだけど、でも、ちょっと体温の低いところあたりが似てるかなーと。



んーこの本についてあんま多くを言う必要ってあるんかな、なんて思っちゃう。
「あ、今読む本ないの?何か読みたいの?ふーん・・・・・・じゃあ、これ読んでみてよ」と言ってポンと渡したくなる。そんな本。



そう言えば、赤線のところはなんとなく言い回しが、表現が興味深い部分だった。
あーここに引いたのね。でも、ここには引かないんだ、ふーん。なんて見知らぬ人に語りかけながら読んだ。ちょっと面白かった。




私は、映画とか本とかで、人が死ぬとか動物が死ぬとか子どもが死ぬとかあまり好きじゃなくて、なぜか反発して泣いてたまるもんか、なんて思っちゃうのだけど、男が泣くものって本当に弱い。今回この主人公がするりと私の中に入ってきて、泣くという描写の前、その感情になる手前の手前でもうすでにその感情があまりにもそこにあって移入してしまってあやうく電車で号泣するところだった。

『ANOTHER MONSTER(もうひとつのMONSTER)』

2009-08-22 19:32:09 | 本 2009
『もうひとつのMONSTER―The investigative report』ヴェルナー・ヴェーバー/浦沢直樹,(訳)長崎尚志



【商品の説明】(Amazon.co.jp)
1995年から2002年にかけて「ビッグコミックオリジナル」誌上で連載され大反響をよんだ『MONSTER』に関するノンフィクション「風」読みものである。2000年のある医院での惨殺事件を発端に、ヴェルナー・ヴェーバーというジャーナリストがヨハン・リーベルト事件の謎を「取材」する、という体裁で、現地の写真や資料を差しはさみながら進行していく。もちろん答えは明白であるのだが、最後まで本書がフィクションなのかノンフィクションなのか、はっきりと記述されることはない。

ヴェーバーの取材をうけ、エヴァや、ルンゲ警部といったあの面々の口からさまざまな真実が語られていく。「顔写真に関しては、撮影を固辞する人が大多数を占めたため、インタビュー後、わたしの記憶にある彼らのスケッチを載せることで代用した」とあるように、スケッチ風に生き生きと彼らが描かれているのはファンにはうれしいところ。

多くの謎を残したまま終わった『MONSTER』の続編やサイドストーリーが多くのファンから熱望されていたことは間違いないが、実際に漫画として描かれていたら、興ざめだったかもしれない。それを、この第3者の目を通した「ノンフィクション」という形で描ききった浦沢の鮮やかな手腕には脱帽である。本書のラストでは、漫画では描かれなかった「事実」の片鱗がちらりと語られていて、新たな謎を残す。ファンの悶々とした気分は、当分消えることはなさそうだ。(門倉紫麻)



『MONSTER』を読み始めたときに、こちらの本があるのに気付いて、読み終わってすぐに注文をしていた。
ずっと前に届いてはいたものの、漫画とは違うあまりの活字っぷりに(当たり前なんだが)ちょっとすぐに読む気になれなかった。
でも、そろそろ読まないと私のことだから『MONSTER』の話自体忘れちゃう、と思って焦って読んだ。

いやー面白かった。
実に面白かった。
ブクログでは、星4つにしているけれども、4.5で5にしてもいい感じ。
でも、ちょっとそれもなーって感じで、4.4の4といったところか。
もう少し遅くなっていたら、それこそ誰がどんな人だったかわからず、wiki片手に読む羽目になっていただろう。
・・・実際ちょっとそうだったのだけど。


【商品の説明】の最後の「ファンの悶々とした気分は、当分消えることはなさそうだ」は、本当にそうだ。
「え?え?一体どういうことなの?!」という気分がふくらみちょっとネットで調べてしまった。
まあ、色々な解釈の仕方があるもんだなあ。


今回はちょっとネタバレを含んでいるかも。


















何を隠そう【商品の説明】に「答えは明白であるのだが、最後まで本書がフィクションなのかノンフィクションなのか、はっきりと記述されることはない。」と書かれている通り、これはフィクションなのだけど、とてもフィクションだとは思えない。
読んでいる最中で何度わけがわからなくなったことか・・・。
どこまでが本当で、どこからが架空なのか、一瞬わからなくなる時が多々あった。
この中だけのものなのに、新聞記事や写真(これは実際のところが多分にあるだろうが)、本やアニメなどが実に、本物っぷりを出している。

そして、結局のところ、これは浦沢氏が考案して、長崎尚志が書いた、んだよね・・・?と確認したくなる。
そうすると、疑問になってくるのは、じゃあこの表紙の見開きにある「ヴェルナー・ヴェーバー」なる人物は一体誰なんだろう。しっかり、写真があり、経歴まできちんと書かれている。

うーん、全体的に謎が深まっただけのような気がする。


だけど、作品名に「もうひとつの」と謳っているだけあって、本当に「もうひとつ」を感じられる。




一体ヨハンはどうなったのだろう。
漫画とこちらでは少し食い違っている部分があるのだ。
うろ覚えじゃなくって、実際に手元にまだ本があるから確かめたのだけど、やっぱり話の中の人たちが話すことと違う。
漫画では最後ヨハンは失踪している。病院の空になったベッドが描かれているのだ。
しかし、この中では、ヨハンは意識不明の状態、昏睡状態、と書かれている。
これは、最後のシーンまでの間に書かれたことなのだろうか。
いや、違う。事件は1998年に終結を迎えていて、この調査がされた、もしくは書かれたのは2001年なのだから。
一体どういうことなのだろう。

それと、『めざめるかいぶつ』の著者フリッツ・ヴァインドラー=ヘルマン・フュアーがここで出てきたのは何故?
ボナパルタが“朗読会”で、一人の絵本が描ける子がいるって言ってたらしいけれども、彼がその人だと思う。
そして、彼が「最後には・・・・・・終わりの光景には、わたしと彼だけがいるのだ」と言ったのは?
実際にヨハンと赤い薔薇の屋敷で会ったぽいけれど、それだけなんだよな。

なんか、“朗読会”と511キンダーハイムがごっちゃになるなあ。

あれ?チャレックって漫画版に登場した?してないよ・・・ね。
チャペックと名前が似てるから混同してしまう。

ボナパルタは絵本画家で赤い薔薇の屋敷で朗読会をしてたんだよな。
チャペックは?チャペックは、ボナパルタの意思を継ぐ者か。
で、チャペックはいわゆる眼鏡の男、か。
511キンダーハイムの天才的精神科医、とは誰だっけ?チャペックか?ボナパルタ?
あ、院長のラインハルト=ビーアマンか。後で改心して?愛情をもって子ども育ててたんだよな。

あー読めば読むほどわからなくなってきたなあ。




また読み返したい本の一つになった。
未だに上手く把握できていない。

『時計館の殺人』綾辻行人

2009-08-18 09:49:15 | 本 2009
『時計館の殺人』綾辻行人


【内容情報】(「BOOK」データベースより)
館を埋める百八個の時計コレクション。鎌倉の森の暗がりに建つその時計館で十年前一人の少女が死んだ。館に関わる人々に次々起こる自殺、事故、病死。死者の想いが時計館を訪れた九人の男女に無差別殺人の恐怖が襲う。凄惨な光景ののちに明かされるめくるめく真相とは。第45回日本推理作家協会賞受賞。



館シリーズ第五作品目。

面白かったのは面白かったのだけど、いやーちょっとそこまでぇーと言いたくなった。
おそらく、私の稚拙な頭では考えもつかないからこう言いたくなったのかもしれないけれど、うーん、さすがにここまでやられると、と言う感じ。



しかし、これはハマった。展開がいい。
続きが気になって、親が居ないのをいいことに、お昼を食べながら、晩ご飯を食べながら、トイレに行く時間も惜しく本を持ち込み、そしてお風呂で半身浴をしながら、読みふけった。
この、私を掴んで放してくれない感がすごい。なかなかここまで捕らわれる本って出会えない。



これは、ちょっとホラーっぽい要素も含まれているのだけど、怖かったな。
夜一人だったし、微妙にカメが動く音とかが聞えてきて、え?何の音?とかなったりしちゃって。




このトリックは、人と外で食事をしていて食後のコーヒーを何口か飲んだときに思いついたらしい。
実際読んで思うが、そんな~これがハッ!って閃くようなもんなの?!って思った。





こんだけハマったものの、読後感っていうのかなあ、確かに悪くはないのだけど、なんていうのか、うーん・・・。
トリックとかが自分の想像が及ばなさ過ぎるのに対し、本書内の探偵が見つけてズバズバ切っていくっていうのが、ひどく遠いものに感じられたから素直に、あー面白かった!と言えないのかもしれない。
やっぱり館シリーズでは『十角館~』がいまのとこ一番かな。想像は及ばなかったけれど、これはまだなんというか、付いていける。

『森のなかのママ』井上荒野

2009-08-13 18:22:56 | 本 2009
『森のなかのママ』井上荒野


【内容情報】(「BOOK」データベースより)
画家だったパパの突然の死から五年。浮き世離れしたママと、美術館に改装した家で暮らす大学生のいずみ。離れの間借り人、渋い老人の伏見に恋しているが、伏見はじめ美術館に出入りする男たちはみなママに夢中だ。ある日、放映されたパパのドキュメンタリー番組に、パパの愛人が出演していた…。なにが起ころうと否応なしに続いていく人生と渡り合うために、ママがとった意外な行動とは―。



初、井上荒野作品。

この人の名前は確か、直木賞を受賞した時にニュースで見たんだと思う。
なんて読むの?いのうえ・・・こうや?と思って調べたら、いのうえあれの、だった。
この名前との出会いは衝撃的だった。
名前でこれほどまでに衝撃を受けたのはおそらく初めてだと思う。
素敵だ・・・・・・と名前に一目惚れした。

そんな井上荒野作品にようやく着手。
まー正直、たまたま100円であったので、おっこれは買いだな、なんて勢いで買っちゃったのが真相なのだけど。
しかし、読み始めてしばらくして、うーん・・・あれ?こんな感じの本を書く人だったの?というのが著者に対しての印象。
確かに、裏(のようなところ)にある、しっかりとした細い線のようなものが感じられるのだが、前面に出てこない部分がなんとなくもやもやした。
あーでも、同じ人だからって同じような作品ばかり書くわけじゃないしなあ。当たり前か。

でも、こういう作品好きだ。すらすらっと読めちゃう。
最初にちりばめられたものは回収されるようでされなくて、読む前と読んだ後でも世界はほとんど何も変わってないのと一緒のような。
だけど、時間は確かにしっかりと流れている。
それでいて、少しだけ、これまたしっかりと何かが確実に変わっている。そんな作品。
いつからこういう作品を好きだと思うようになったのだろう。って前も同じような疑問持ったっけかな。
記憶を辿れば、確か今年の初めか去年の終わりに読んだもので気付いたんだと思う。
別に何があったってわけじゃない。ただ、素直に、ああこれいいな、って感じた。
ただそれだけだ。



この『森のなかのママ』のママ。
この人すっごく憧れる。

『ぼくの小鳥ちゃん』江國香織

2009-08-05 23:18:53 | 本 2009
『ぼくの小鳥ちゃん』江國香織


【内容情報】(「BOOK」データベースより)
雪の朝、ぼくの部屋に、小さな小鳥ちゃんが舞いこんだ。体長10センチ、まっしろで、くちばしときゃしゃな脚が濃いピンク色。「あたしはそのへんのひよわな小鳥とはちがうんだから」ときっぱりいい、一番いいたべものは、ラム酒のかかったアイスクリーム、とゆずらないしっかり者。でもぼくの彼女をちょっと意識しているみたい。小鳥ちゃんとぼくと彼女と。少し切なくて幸福な、冬の日々の物語。



江國香織の本を読むたびに、この人すごいなーって思う。
たぶん、こう思う人って私にはたくさん居るのだけど、この人は別というか、なんて言葉で説明していいのかわからないけれども、この人は別なんだ。

「彼女は、花で言うと黄色いカーネーションのように清潔で、数字で言うと2のように気がきいている。」

この文章だけ何回読んだだろう。




読み終わったあと、自然に、ああいいものを読んだな、と思った。
今年はいい本に巡り合う機会が多いな、と。
だけど、そう思った自分に、そう思えた自分に、角田光代の解説を読んで、なんとも言えない気持ちなった。

おそらく、この本を去年の今頃、ああ履歴調べたらやっぱり『スプートニクの恋人』を読んでた、そう、ちょうどこの頃にこの本を読んでいたら、私はこてんぱんにやられて、買った自分にも勧めた友達にも、もちろん江國香織にも、嫌悪感というか、それに近い気持ちを抱いていたと思う。

このお話に登場するのは、「ぼく」と、ガールフレンドと、小鳥ちゃん、ほぼこれで全部だ。
解説にて角田光代は読者に問う。

 このものがたりのなかで、あなたは一番だれが好き?
 読んでいて気づいたらだれになりきっている?
 あなたはだれにもっとも近しいと思う?
 あなたがもっともあこがれるのはだれ?

おそらく、去年の今頃ならば、ここまで読まなくても、この問いかけのようなものが自分の中に自然に湧き上がっていただろう。






人は変わる。
人が変える。
自然に変わる。
そして、自然にかえる。