This is me.

- 無用の用 -

空気が綺麗なだけが取り得のような田舎町での酒場にて

2009-07-29 23:15:21 | 空作






「やあ、ハンス元気そうじゃないか」
『ヴィムも元気そうで何よりだ』
「こうやって酒場で一杯やるってのも久しぶりだなあ」
『そうだなあ。
 昔は毎晩呑んだっけ?』
「ああ、ゲラルトと三人で一緒にな!」
『ああ、あの頃は良かった。
 三人で酒を呑むだけで楽しかった』
「まあ、畑仕事ばかりなのは今も変わっちゃいないが、確かにあの頃は良かったよな」
『ああ』

「ところで、お前んとこのかあちゃんは元気なのか?」
『お陰さまで病気一つせずぴんぴんしてるよ。
 今日も朝から息子のギルベルトが何やったんだかしらないが、こっぴどく怒られてたよ』
「女はかっかして怒鳴ってるうちがいいもんだよ」
アッハッハッハ

「そう言えば、ゲラルトが一人もんに戻ったらしいぞ」
『そうなのか?
 うまくいってなかったのか?』
「いや、俺も詳しいことは知らないんだがな。
 どうやらあっちの方でやっちまって、とうとうかあちゃんが出て行ったとか」
『ああ、アイツは昔からそうだった。男の俺でも手に負えないよ。
 仕事は真面目にするやつなのに、女にはどうも弱えんだよな』
「悪いやつじゃないんだけどな。
 男は仕事だ!とかなんとかいつも言ってたじゃねえか」
『ああ、働きものとしては、ゲラルトに勝るやつはいねえ」
「ところで、お前んちはどうなんだ?しっかりやってんのか?」
『おお当たり前じゃないか。
 毎晩手を繋いで寝てるよ』
「かー!いい年こいて何やってんだか」
『まあな。』
「で?あっちの方はどうなのよ?今でも現役か?」
『ん?現役?なんだ?どういう意味だ?』
「お前、別にオレ相手に隠す必要はないだろう」
『オレはお前に何も隠し事なんかしちゃいないぞ』
「お前、まさか、本気で言ってるのか?」
『何がどうしたってんだ?オレはいつも本気だぞ。
 どうした?もう酔っ払っちまったか?』
「・・・」
『何かおかしいか?変か?』
「いや、そんなことはねえんだが・・・。
 ちっと聞いていいか?」
『前置きするなんてお前らしくないな。なんでも訊けよ』
「お前ガキがいるよな?」
『ああ、ギルベルトとかわいいかわいいユスティーネがな』
「お前、ガキの作り方知ってるよな?」
『当たり前じゃないか。
 結婚したら出来るのは当然だろ?』
「いや・・・お前、結婚してから、その、なんだ、かあちゃんに手を出したことはないのか?」
『手を出す?どういう意味だ?』
「いや、だから、その」
『なんだ、お前らしくない。歯切れが悪いなあ』
「手を出すってのは、つまり、ほら、あれだ。乳を触ったりだ」
『ああ、そういうことを言ってたのか。
 いや、俺はあいつと一緒になって27年になるが、あいつの裸一つ見たことねえ。
 なんだって言ってったけなあ。あいつが言うには、宗教上の、なんだ、そういう関係らしい』
「・・・」
『それはそうと、今年からユスティーネが仕事を始めてな!あのおちびさんがよ。オレも歳を取るはずだぜ。
 今は勉強の時期だから、って毎晩遅くまで残業して、それからまたうちでも勉強してるよ。
 あの仕事への真面目さは誰に似たんだか。ゲラルトも顔負けじゃねえのか?ハッハッハッ!』
「・・・・・・・」











ちょっとシュール過ぎたかな。
昼寝して起きた途端にこの話が頭にブワーっと浮かんだ。
時々ある。起きて気付いたら知らない旋律が頭にぐるぐる回ってたり。
一体なんだろう。

taste of heart

2009-06-27 09:12:41 | 空作








この日を待ってた 誰の目にも触れず
時は流れ 心も流れ 行き着く先はただ一つ
夢に見てたときを いざ目の前にして
涙が流れ 心は溢れ 跪くのが精一杯

綺麗なものに囲まれ
一切合財に気がつかず
私はここまでやってきた

この日を待ってた 誰も気がつかない
それを恐れず 何も迷わず
ありふれた言葉ばかりを並べ
小さな手を求めた ここはどこだろう
涙が流れ 心は溢れ 跪くのが精一杯

ずっと鏡を見ていた
それに気付いて目を閉じた
お前はここまで来てしまった


頼りないのは 
見下ろした景色は
何もかもを破壊するだろう


流れる汗にそっと手を触れて
少し舐めてみた
生きた味がした

歯車の部屋

2008-11-17 22:51:12 | 空作










廊下の一番奥に確か「あの部屋」があった筈。
それを思い出した瞬間、彼女はいてもたってもいられず、彼女の心が動くか動かないか定まらないうちに立ち上がった。
彼女の意識よりも、無意識がそうさせたとしか思えない行動だった。
「あの部屋」はまだあるだろうか。彼女は少し焦りを覚えながら、急いだ。
あった。確かにあった。扉はまだ開くだろうか。
うっすら錆付いてきているそれを回すと、思いのほかあっさりとその扉は開いた。
まるで彼女が無意識に立ち上がったのを知っていたように、それは開くときが来たのだといわんばかりにスッと開いた。

歯車が一面にある。大小様々な歯車がそこにある。
今はもう動いておらず、ただじっと誰かが動かしに来てくれるのを待っているばかりだった。
彼女は一つの歯車に近づき、少し力を入れた。
ギッと鈍い音がしたものの、それは緩やかに回り出した。
彼女が力を加えた歯車から、その隣の歯車、さらにその隣の歯車へとだんだんと動きが伝わってゆく。まるで、小さな頃に指に輪ゴムをきつく巻いて、それを外したときのように、血のめぐりが再び始まるかのように、それらはついさっきまで回っていたかのように回り出した。

すぐ止まるかもしれない。そんな一抹の不安があったが、とりあえず回り始めた歯車を確認できた彼女はほっとため息をついた。


どうか、止まらずに。