漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0847

2022-02-23 05:02:16 | 古今和歌集

みなひとは はなのころもに なりぬなり こけのたもとよ かわきだにせよ

みな人は 花の衣に なりぬなり 苔のたもとよ かわきだにせよ

 

僧正遍昭

 

 世の人々は喪が明けて、華やかな服に改めたという。私の今後も改まることのない僧衣よ、せめて涙に濡れる袂が乾くだけでもしてほしい。

 少し長い詞書には「深草の帝の御時に、蔵人頭にて夜昼なれつかまつりけるを、諒闇になりにければ、さらに世にもまじらずして、比叡の山にのぼりて、頭おろしてけり。そのまたの年、みな人御服脱ぎて、あるは冠賜りなど、よろこびけるを聞きてよめる」とあります。仕えていた仁明天皇の崩御を契機に出家した自分は、月日が経過して喪が明け、世間の人々が華やかないでたちに戻るときが来ても悲しみは癒えず、涙で僧衣の袂を濡らしている、ということですね。「苔」は僧衣の意。「花の衣」と「苔の衣」の対比の構図です。


古今和歌集 0846

2022-02-22 05:40:06 | 古今和歌集

くさぶかき かすみのたにに かげかくし てるひのくれし けふにやはあらぬ

草深き 霞の谷に 影隠し 照る日の暮れし 今日にやはあらぬ

 

文屋康秀

 

 草深い霞の谷に姿を隠して光り輝く日が暮れた、それが今日のこの日ではなかったか。

 詞書は「深草の帝の御国忌の日よめる」。「深草の帝」は第54代仁明天皇のことで、京都市伏見区の深草陵に埋葬されたことからこの呼び名があります。「国忌」は命日のこと。第四句の「照る日」は天皇を意味する比喩表現ですね。


古今和歌集 0845

2022-02-21 07:02:03 | 古今和歌集

みずのおもに しづくはなのいろ さやかにも きみがみかげの おもほゆるかな

水のおもに しづく花の色 さやかにも 君が御影の 思ほゆるかな

 

小野篁

 

 沈んでいる花の色が水面にくっきりと見えるように、私には帝の面影があざやかに見えることです。

 詞書には「諒闇の年、池のほとりの花を見てよめる」とあります。「諒闇」とは、通常は天皇が父母の喪に服することを言いますが、天皇自身の死による服喪を指すこともあるようです。第四句に「君が御影」とありますから、ここでは後者の意味でしょうか。「しづく」は沈む意。言葉通りの意味としては「花が水中に沈んでいて、その花の色が水面に映っている」ということになりますが、花は実際には池のほとりに咲いていて、それが水面に映っているのでしょう。


古今和歌集 0844

2022-02-20 06:54:11 | 古今和歌集

あしひきの やまべにいまは すみぞめの ころものそでは ひるときもなし

あしひきの 山辺に今は 墨染の 衣の袖は 干る時もなし

 

よみ人知らず

 

 服喪のため今は山に住み始めていますが、喪服の袖は涙に濡れて、乾く間もありません。

 詞書には「女(め)の親の思ひにて山寺にはべりけるを、ある人のとぶらひつかはせりければ、返りごとによめる」とあります。「女(め)」は妻、「とぶらひ」はここでは弔問の手紙の意ですね。「あしひきの」は「山」にかかる枕詞、「墨染」には「住み初め」が掛かっています。

 

 


古今和歌集 0843

2022-02-19 06:45:04 | 古今和歌集

すみぞめの きみがたもとは くもなれや たえずなみだの あめとのみふる

墨染の 君がたもとは 雲なれや たえず涙の 雨とのみ降る

 

壬生忠岑

 

 墨染の喪服を着たあなたのたもとは雲なのであろうか。そこから絶えず涙が雨のように降っている。

 詞書には「思ひにはべりける人を、とぶらひにまかりてよめる」とあります。泣いているのは喪服の主だけではなく作者も。二人の絶えることのない涙に、喪服のたもとを黒い雨雲に見立てての詠歌ですね。