師氏の少将、信濃へ行く人にむまのはなむけせんとて、よませたまへる
われにしも くさのまくらは こはなくに ものへときけば をしくぞありける
われにしも 草の枕は 乞はなくに ものへと聞けば 惜しくぞありける
師氏の少将が、信濃へ旅立つ人へのはなむけとして、よませた歌
私にさえ旅の仮寝をともしようと乞いもせずに旅立ってしまうと聞いて、まことに名残惜しいことであるよ。
どうして一緒に行こうと言ってくれないのか、という気持ちですね。旅立つ相手はもちろん思いを寄せる異性でしょう。
左中弁淑光朝臣の、人のむまのはなむけするところに、幣に書かむとてよませたる
いとまだき みゆるもみぢは きみがため おもひそめたる ぬさにざりける
いとまだき 見ゆる紅葉は 君がため 思ひそめたる 幣にざりける
左中弁淑光朝臣が、旅立つ人へのはなむけの宴を催した際、幣に書き込むとして詠ませた歌
とても早く色づいた紅葉は、あなたのために思いをこめて神にささげた幣なのですよ。
左中弁淑光は、古今和歌集巻末の真名序を書いたとされる紀淑望(き の よしもち)の弟、紀淑光(き の よしてる)のこと。第四句「思ひそめ」は、ここでは「思い染め」ですね。
鶴のかたに幣入るるものをしてよめる
ちとせをば つるにまかせて わかるとも あひみることを あすもとぞおもふ
千歳をば 鶴にまかせて 別るとも あひ見ることを 明日もとぞ思ふ
鶴の絵をあしらった袋に幣を入れたものを渡して詠んだ歌
千年先のことは鶴に任せて、今日あなたと別れても明日もまた会いたいと思う私です。