エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

アメリカにおけるスマートメーターによる需要応答(Demand Response)

2010-07-14 06:40:13 | Weblog
スマートメーターによる需要応答(Demand Response)に関してアメリカは国家的取り組みを進めています。アメリカにおける需要応答(Demand Response)とは、発電事業者と小売事業者との間で電気が取引される卸売市場の需給の変化に基づき、小売事業者が需要家に電力消費量を変化させるインセンティブを提供することを意味しています。
 現行のアメリカの電気料金体系はこのような考慮がなされないフラットレートが通常ですが、2005年エネルギー政策法は、DOEに対して需要応答(Demand Response)を行うことの国家的な利益を数量的に特定すること等を求めました。これがアメリカの需要応答(Demand Response)に対する取り組みの最初です。
 これを受けて、2006年2月に「電力市場における需要応答の利益とそれらを達成するための勧告」(Benefit of Demand Response in Electricity Markets and Recommendations for Achieving Them)と題する報告書がDOEによりまとめられました。これによると、需要応答(Demand Response)には「価格型需要応答」(Price-based Demand Response)(時間帯別に供給費用の違いを反映した電気料金を設定すること)と「インセンティブ型需要応答」(Incentive-based Demand Response)(プログラム設置者が需要家と契約を締結し、卸電力料金の高騰時または緊急時に、需要家に対して負荷制御を要請ないし実施する)の2種類があるとされており、日本の大口需要家との需給調整契約や家庭向けにも提供されている時間帯別料金といったものも含まれる非常に広い概念内容となっています。
 「2007年エネルギー自給・安全保障法」(Energy Independence and Security Act of 2007:EISA)は、Section 529 "Electricity Sector Demand Reponse"において、3段階で需要応答(Demand Response)を推進することを政府に求めています。第1段階は、州ごとに需要応答(Demand Response)の可能性をアセスメントすることで、この段階は2009年6月に終了しました。第2段階は1年以内に推進計画を策定することで、すでに同年10月にドラフトが公表されています。第3段階は、これを受けて連邦エネルギー規制委員会(FERC)とエネルギー省(DOE)が議会に対して、具体的な実施提案を提出することになっています。
 またFERCは、NEPOOL(ニープール:ニューイングランド地域の市場)やPJM(ピージェーエム:東海岸州と中西部の州が加わるアメリカ最大の電力卸売市場)などの全米6つの卸売市場において、小売市場における需要応答(Demand Response)の動向を反映して電力卸売市場での価格形成(オークション方式)が進み卸売価格の低下につながるように、卸売市場を管理するRTO(Regional Transmission Operator)やISO(Independent System Operator)によるオープンで透明な価格形成が進むよう環境整備を行っています(2007年の指令890など)。
 現在アメリカの各地域ではスマートメーターの導入やそれを活用したスマートグリッドの実証事業が急速に進んでいますが、それらの積極的な動きは、FERCによる競争的な市場環境整備とあいまって、需要応答(Demand Response)というシステムを社会に構築しようという試みであると言えます。
 このような需要応答(Demand Response)の効果については、2006年2月にDOEが議会に提出した報告によると、ピーク電力需要の3%に相当する20.5GMWの負荷平準を実現することができるとされています。また、2009年6月に発表された連邦エネルギー規制委員会(FERC)のスタッフ報告書は、2019年に実現できる負荷平準として4つのケースを提示しています。
 それによると、①現状レベルの需要応答が継続された場合は38GW(4%)、②現状レベルの需要応答がすべての州に拡大した場合は82GW(9%)、③全世帯にスマートメーターが導入され、ダイナミックプライシングが初期設定された場合は138GW(14%)、④全世帯にスマートメーターが導入され、ダイナミックプライシングを含めすべてのプログラムが実行された場合は188GW(20%)の負荷平準が需要応答(Demand Response)により実現することができると報告されています。
 また、同スタッフ報告は、需要応答(Demand Response)を実現するための課題として、①法的課題(卸売価格と小売価格の直接的な連結の欠如、計測と検証への取り組み、リアルタイムでの情報共有の欠如、実効性の少ない需要応答プログラムの設計、需要応答のコスト分析に関する合意の欠如)、②技術的課題(AMIの基盤の欠如、コスト高、互換性やオープンな標準の欠如)、③その他の課題(顧客の認識と顧客への教育の欠如、環境への影響に対する関心)をあげ、これらの課題を早急に解決するとともに、ダイナミックプライシングの価格体系の導入を全米レベルで行うことを求めています。
 このうち互換性と標準化に関しては、2009年7月FERCは、スマートメーターによる需要応答(Demand Response)がスマートグリッドの標準化を進める上で優先順位の高い課題であるという政策ガイダンスを発表し、その後NISTによるスマートグリッドの標準化に関する作業に反映されることになりました。
ここで興味深い調査結果をご紹介したいと思います。カリフォルニア州の電力会社PG&Eが、3年かけて2500人の顧客を対象に2000万ドル規模のパイロット事業を実施したところ、ピーク時の需要削減率は、使用時間による料金情報の場合で8%、動的料金設定のシグナルの場合で13%、スマートサーモスタットの場合で27%なのに比し、ゲートウェイシステムを用いた場合は43%にもなることが判明しました。情報提供のみならずユーザによる制御まで行う機能がエネルギー消費やCO2削減の上で重要になります。日本では、このようなアメリカの国家的な動きはほとんど注目されていませんが、いずれ日本にも波及してくるものと思われます。

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