エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

ベトナムでの原発受注は日本経済活性化につながるか?

2010-11-01 00:06:13 | Weblog
 ベトナムで日本が原発2基を受注することになりました。そのこと自体はよいことなのですが、ここでは、それが日本経済の活性化につながるのかどうかを考えてみたいと思います。結論としては、「今のままでは、NO」です。
 アジアの成長力の活用(アジアへの輸出の拡大)やインフラ、スマートグリッド、原発、新幹線などのシステムを輸出することは、確かに外貨の獲得にはなります。しかし、95年以来生産年齢人口の減少、就業少数の減少、消費の構造的な減退という問題を抱えている日本経済の問題は、外貨を稼ぐこと自体ではなく、稼いだ外貨を国内で回すようにすることです。その「回路」が壊れたままでの戦略の展開は、04年から07年の好況が結果として日本経済を活性化しなかったことの二の舞となります。
04年から07年の好況では、日本経済は、世界経済のかつてない拡大と円安の進行という“幸運”に恵まれました。しかし、外需主導、輸出による売り上げ増を国内の成長に結び付けることはできませんでした。日本企業は「コスト削減の罠」にはまり、株主圧力の増大、新興国の台頭、資源・食料価格の急騰の下で、人件費の削減によりコストアップを吸収しようとひたすら努力しました。これは、90年代末から03年までのデフレ期に起こった供給過剰体質が残っていたため、各企業は販売価格の引き上げが売り上げの減少につながることを恐れたためです。
 このときの日本経済においては、大企業において非正規雇用の増大とともに、成果主義の導入を広範に進めました。しかし、日本の大企業が進めたのは、本当の成果主義ではなく、成果主義の名の下に一部の人を早く昇進させる一方、多くの人材の昇進を遅らせることで全体の人件費抑制を図るというものでした。その結果、人件費抑制のため若年層での非正規雇用が増大し、若年層から中高年層への所得移転が起こるとともに、将来を担う世代の能力育成にマイナスに作用しました。また、賃金が抑制のため家計の低価格志向が強まり、ますます販売価格の引き上げが困難となりました。
 この時期の象徴的な出来事は、「春闘の終焉」です。春闘は90年代末以降形骸化が進みましたが 特に01年以降は、ベア統一要求が断念され春闘が持っていた賃金底上げ機能が名実ともに崩壊しました。こうして賃金の下方硬直性の仕組みが次々と解体される一方、逆に、賃金の上方硬直性ともいうべき状況が生まれ、労働分配率が低下しました。低すぎる労働分配率は、需要サイドでは、消費の低迷を招くことになりました。さらに、企業は資本をゼロ・コストで調達していることになることから、過剰投資につながりやすくなるという体質がさらに助長されました。また、供給サイドでは、人材投資の不足や労働者のモチベーションの低下が起こったのです。
 今の日本には、優れた技術力のおかげで国債となっている分を除いても400~500兆円の個人金融資産が蓄積されています。また、毎年十数兆円の金利配当も流入している状況です。この状況の下で必要なのは、輸出に一層の目を向けるのではなく、バランスの取れた行動、つまり生産年齢人口の減少が引き起こす消費の減退という問題を直視し、民生部門において需要を喚起するとともに、消費を直接増加させるための対応です。
 10月28日に日銀が発表した量的緩和策は、円高デフレに対するカンフル剤としての効果はありますが、日本経済が再びデフレに落ち込んだ原因に対応した解決策ではないため、マクロ経済政策としての効果はほとんどないものと考えられます。むしろ、企業にとっては資金調達コストが極めて低くなり、事業の収益向上へのインセンティブが働かなくなるという”副作用”により、日本経済を蝕む悪性の腫瘍を増殖させることになりかねません。
 この対応の間で、同時並行的に前述した「回路」を回復する対応が必要となります。そのため、最低賃金の引き上げや正規・非正規の処遇均衡を誘導すること(就業形態に関わらず、就いている職務に応じて賃金が決まる仕組み)により所得増を実現することが必要です。また、医療、介護、保育、教育、雇用サービスを充実させることで国民の将来不安を払しょくして消費意欲を回復させ、上記で実現した所得増を需要増につなげることも必要となります。
 政府、エコノミストなどの覚醒を促したいと思います。

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