エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

TPP参加の是非に関する「第3の本質的視点」を提示する

2010-11-10 00:42:07 | Weblog
TPP(環太平洋経済連携協定)への参加の是非について賛否両論が戦わされていますが、ここでは、誰も指摘していない本質的な問題を論じてみたいと思います。結論から先に言うと、「TPPは日本経済回生の必要条件ではあるが、十分条件ではない」ということです。6日の読売新聞朝刊「論点」のコーナーで、早稲田大学の浦田教授が「TPP不参加 大きな損失」という論陣を展開していますが、TPPに参加しなければ日本経済や日本企業の競争力がかなり低下し、輸出市場を失って大きな損失が出るとなることは理解できます。FTAやEPAにおいて韓国などに比して完全に出遅れた日本として、危機感を持っていることも理解できます。そのような観点からはTPPの参加は必要ですが、TPPへの参加それ自体では日本経済の活性化にはつながらず、参加と同時に日本経済の回生につながる十分条件を整備しなければなりません。
この結論は、次のように考えると納得していただけると思います。
TPPに参加してアジアや環太平洋諸国の成長力の活用、それらの諸国への輸出の拡大を行うことは、確かに輸出による売り上げ増にはなります。しかし、95年以来生産年齢人口の減少、就業少数の減少、消費の構造的な減退という問題を抱えている日本経済の問題は、輸出による売り上げにより外貨を稼ぐこと自体ではなく、稼いだ外貨を国内で回すようにすることです。その「回路」が壊れたままでの戦略の展開は、04年から07年の好況が結果として日本経済を活性化しなかったことの二の舞となります。
特に、この10年から15年までの5年間で「団塊の世代」600万人が65歳を超えるという状況の下では、5年以内に国内貯蓄率の低下、現在2%台の国内貯蓄率のゼロ化が起こる危険性があります。ISバランス論からすると、現在の日本の経常収支の黒字は、家計部門の黒字と企業部門の黒字が政府部門の赤字を補って余りあるからこそ実現されているものですが、家計の貯蓄率がゼロになるということは、企業部門の黒字が政府部門の赤字を補えない限り、日本の経常収支は赤字になることを意味します。この経常収支の赤字はどのようにファイナンスするのでしょうか。
また、家計の貯蓄率がゼロになるということは、家計の貯蓄を預かっている国内金融機関が国債を買えなくなることを意味します。そうすると起こるのは国債市場の暴落です。国債市場が暴落すれば、株式市場や為替市場も暴落することは必至です。回避する手段としては、世界最大の資金余剰国である中国に日本の国債を買ってもらうか、日銀が直接あるいは何らかの形で間接に国債を大量に購入して買い支えることですが、前者に関しては中国に日本経済の決定権をゆだねるという危険性があり、後者については円に対する国民の信任がなくなり、ハイパーインフレーションを引き起こすという危険があります。「団塊の世代」600万人が65歳を超えることは、こうした大きなインパクトを日本経済に与えるもので、この問題の解決に手をこまねいていては、TPPに参加してより多くの外貨を獲得しても、日本経済は死を迎えることになります。
04年から07年の好況では、日本経済は、世界経済のかつてない拡大と円安の進行という“幸運”に恵まれました。しかし、外需主導、輸出による売り上げ増を国内の成長に結び付けることはできませんでした。日本企業は「コスト削減の罠」にはまり、株主圧力の増大、新興国の台頭、資源・食料価格の急騰の下で、人件費の削減によりコストアップを吸収しようとひたすら努力しました。これは、90年代末から03年までのデフレ期に起こった供給過剰体質が残っていたため、各企業は販売価格の引き上げが売り上げの減少につながることを恐れたためです。
このときの日本経済においては、大企業において非正規雇用の増大とともに、成果主義の導入を広範に進めました。しかし、日本の大企業が進めたのは、本当の成果主義ではなく、成果主義の名の下に一部の人を早く昇進させる一方、多くの人材の昇進を遅らせることで全体の人件費抑制を図るというものでした。その結果、人件費抑制のため若年層での非正規雇用が増大し、若年層から中高年層への所得移転が起こるとともに、将来を担う世代の能力育成にマイナスに作用しました。また、賃金が抑制のため家計の低価格志向が強まり、ますます販売価格の引き上げが困難となりました。
この時期の象徴的な出来事は、「春闘の終焉」です。春闘は90年代末以降形骸化が進みましたが 特に01年以降は、ベア統一要求が断念され春闘が持っていた賃金底上げ機能が名実ともに崩壊しました。こうして賃金の下方硬直性の仕組みが次々と解体される一方、逆に、賃金の上方硬直性ともいうべき状況が生まれ、労働分配率が低下しました。低すぎる労働分配率は、需要サイドでは、消費の低迷を招くことになりました。さらに、企業は資本をゼロ・コストで調達していることになることから、過剰投資につながりやすくなるという体質がさらに助長されました。また、供給サイドでは、人材投資の不足や労働者のモチベーションの低下が起こったのです。
今の日本には、日本企業の優れた技術力のおかげで国債となっている分を除いても400~500兆円の個人金融資産が蓄積されています。また、毎年十数兆円の金利配当も流入している状況です。この状況の下で必要なのは、外需や輸出だけに目を向けるのではなく、バランスの取れた行動、つまり生産年齢人口の減少が引き起こす消費の減退という問題を直視し、民生部門において需要を喚起するとともに、消費を直接増加させるための対応です。
10月に日銀が発表した量的緩和策は、円高デフレに対するカンフル剤としての効果はありますが、日本経済が再びデフレに落ち込んだ原因である需給ギャップの拡大という実体経済上の問題に対応した解決策ではないため、マクロ経済政策としての効果はほとんどないものと考えられます。むしろ、企業にとっては資金調達コストが極めて低くなり、事業の収益向上へのインセンティブが働かなくなるという”副作用”により、日本経済を蝕む悪性の腫瘍を増殖させることになりかねません。
この対応の間で、同時並行的に前述した「回路」を回復する対応が必要となります。そのため、最低賃金の引き上げや正規・非正規の処遇均衡を誘導すること(就業形態に関わらず、就いている職務に応じて賃金が決まる仕組み)により所得増を実現することが必要です。また、医療、介護、保育、教育、雇用サービスを充実させることで国民の将来不安を払しょくして消費意欲を回復させ、上記で実現した所得増を需要増につなげることも必要となります。また、私が提唱している「家庭オフィスCDMとエコポイント」という仕組みを活用した消費の直接的な喚起策と民生部門の低炭素化の推進も必要です。むしろ、日本経済の回生の即効性という観点では、エコポイントの活用にアドバンテージがあります。
政府、エコノミストなどの覚醒を促したいと思います。

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