エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

「90年比25%減」を従来の発想で批判するのは間違い

2009-11-15 00:32:08 | Weblog
 新しい中期目標である「90年比25%減」に対しては、「到底実現できない」とか、「産業界に大きな負担となる」とか、「国民負担が相当高くなり、国民は受け入れない」などの批判が聞かれます。
 今年6月に決められた前中期目標「05年比15%減(90年比8%減)」について3月27日の日本エネルギー経済研究所の報告は、「90年比13%削減は、厳しい負担から、国民の合意を得られるかどうか疑問。23%削減は不可能」と結論付けていました。「05年比15%減(90年比8%減)」という前中期目標は、こうした分析をもとに決められたものです。
 しかし、この分析は、2008年9月のリーマンショック、世界的な金融危機以前の経済構造を前提にしたものです。2008年9月以降の日本の経済構造は大きく変化しています。したがって、温室効果ガスに関する条件も大きく変化しているのです。それは、次のようなことです。
 日本の温室効果ガス排出源の内訳は、産業部門約4割、運輸部門2割強、家庭部門1割強です。産業部門の中では鉄鋼とセメントの比率が高く、そこからの温室効果ガス排出量は生産水準に依存します。
 2002年からの景気回復の中で、こうした重厚長大産業が起きを吹き返したため、排出量は増大を続けました。その結果、2007年の日本の温室効果ガス排出量は、京都議定書で規定されたレベルである「90年比6%減」を達成するどころか、逆に11%の増加となりました。
 上記の日本エネルギー経済研究所の報告は、07年ころまでの生産活動の拡大が今後も続くと仮定したものです。たとえば、粗鋼生産量は20年で約1.2億トンになることを前提としています。
 ところが、現実の鉄鋼生産はリーマンショック、世界的な金融危機以降激減しました。最近時点での年間国内粗鋼生産量は9000万トン程度であり、日本エネルギー経済研究所報告が想定したレベルの75%程度しかなっていません。しかも、これがかつてのレベルに回復する可能性は極めて低いと言わざるをえません。
 むしろ、10月6日に「a special early excerpt of the World Energy Outlook 2009 at the Bangkok UNFCCC meeting entitled “How the energy sector can deliver on a climate agreement in Copenhagen”」を公表されたIEA(国際エネルギー機関)は、プレスリリースにおいて、2009年の温暖化ガス排出量は、過去40年間でみられることがなかった前年比3%減少するという見通しを示しつつ、これを「温暖化ガス排出量を減少させ、気温上昇2度以内に抑えるための大きな契機にしなければならない」と指摘しています(こちら)。
 私たちは、新しい経済情勢の下で、新しい目標を再検討しなければならない状況にいるのです。新しい経済情勢を考えれば、「90年比25%減」という新しい中期目標は、簡単には実現できるものではないとはいえ、決して実現不可能なものではないのです。
 そのためには、発想を転換して、IT(情報テクノロジー)とET(エネルギー環境テクノロジー)を統合(融合)したST(スマートテクノロジー)革命を推進しつつ、クリーン財に対する優遇とダーティ財に対する冷遇、エコポイントの活用等の対応を行うことが必要です。
 それにより日本の経済構造を内需主導型に転換して、家庭部門からの温室効果ガスの排出を削減する「国民総発電所構想の実現」等の対応をとれば、「90年比25%減」は実現することが可能です(「90年比25%減」実現のための私の具体的な提案に関しては、後日別の機会にご紹介したいと思います)。
 従来の発想で「90年比25%減」を非現実的だとして批判するのは、むしろ間違いと言うべきであり、私たちは建設的な議論を積み重ねる必要があります。