楕円と円 By I.SATO

人生も自転車も下りが最高!
気の向くままに日常と趣味の自転車旅を綴ります。

シス・パーレ  

2023年01月28日 | 日記

父は若い頃に山登りをしていたが、私が高校生の時に「絶対ダメ」と言った。

理不尽な・・・と思ったがやっていれば今どうなっていたか。

全てにおいて、いつ、何が起きるか分からないが。

 

パキスタン北部のシス・パーレ(7,611m)

 

見てしまうと登らないと気が済まなくなる山らしい。

天空に伸びる。

 

最近、立て続けにNHKBSで山登りの番組を見た。

単独では初となる冬の稚内・宗谷岬から日高・襟裳岬までの北海道の分水嶺の踏破(670Km)、日本一過酷と言われる夏の山岳レース、「トランスジャパンアルプスレース(415Km)」、そしてパキスタン・カラコルム山脈の鋭鋒シス・パーレの未踏の北東壁登攀だった。

意識のどこかにまだ岩登りの残像があるのかもしれない。

 

未踏のシス・パーレ北東壁登攀は世界的なアルパインクライマー平出和也 、中島健郎両氏の挑戦を追ったものだったが、ほんの一瞬、女性の姿が映った。

こんな極限の世界に女性が・・・。

その人が谷口けい(本名:桂)さんだった。

 

2008年にアルパインクライミング界のアカデミー賞と言われる「ピオレ・ドール(金のピッケル)賞」を女性として初めて受賞している。

その年の平出氏とのインドのカメット(7,756m)未踏壁登攀が高い評価を得て、二人同時受賞したのだった。

ちらっと映ったのはその時のフィルムかもしれない。

 

植村直己に惹かれて明治大山岳部に進んだが経済的には親に一切頼らず、日中は働き夜間に地理学を学んだという。

気の向くままに自転車や山岳アドベンチャーレース、登山を試みては国内トップレベルの実績を残した。

 

その谷口けいさんは、2015年12月21日に大雪山系の黒岳(1,984m)を北壁から登って頂上付近で行方不明になり、翌日、滑落死が確認された。

当日は風が強く、用を足すために男ばかりの4人と繋がっていたロープを外したという。

 

地元紙の記事に、世界的な登山家にしては小さな記事が載ったことを記憶している。

谷口けいという名前はその時に知った。

 

私は勿論なんの面識も無いし、関連する本を読んだこともない。

シス・パーレのTV番組を見て、毎月読んでいる『地平線会議』(冒険者の通信紙)を本棚から引っ張り出した。

2016年1月号が谷口けいさんの追悼記事で埋まっていた。

 

その中に次のような一文があった。

「・・・自然界で8千メートルを超える能力がある生物はアネハヅルとインドガンだけと言われています。・・・その時、『私のパワーポイントにもアネハヅルが入っているんですよ。』と(谷口さんは)おっしやった。

輪廻転生思想はヒンズー教・チベット仏教で顕著でダライラマ制度が象徴的。

霊魂はソウルでありスピリッツ。アネハヅルに姿を変えた天女となって世界の屋根を超える新しい旅を始められるのかと思ってしまう。」

 

谷口けいさんは『私はクライマーではなく旅人。』とよく言っていたという。

目の前の興味のあることに次々に参入し、挑戦的な人生旅から43才で風のように姿を消した人の評伝を読んでみたくなった。

享年43才は植村直己と同じである。