某出版社にて、編集者と某アーテイストと飲み会。創作者と孤独について話が及ぶ。私は乱歩のいう“群衆の中の孤独”というものを恐れていて、一人夜中に、今こんな事をしているのは地球上で私だけだろう。と思う時、得も言われぬ幸福感に満たされる。人と違う事をしたい、ヘソが曲がっている、とそっくりだが、そういうレベルではない。某アーテイストは、尊敬する恩師に創作者は孤独が不可欠といわれたそうで、本人は外に飲みにいくことすらしない、という。私の場合群衆に限らず、例えば知人の家に遊びに行き、タンスの前に子供の玩具が転がっている、そんな幸福の一場面に、背筋が凍り付く思いがする。かみさんと二人ならともかく、家庭ということを想像すると、私は孤独感に苛まれながら苦しみ続けることは間違いない。編集者は「それはやってみないとわからないでしょ?」などとトロくさいことをいう。クレヨンや鉛筆を持たせておけば何時間でも大人しい、といわれた頃に私はすでに知っていたはずである。 ところが酒が進むにつれ某アーテイスト、実は結婚願望が強いことが露見する「さっきと話が違うじゃねえか?」。そこから学生時代からの数十年間の片思いの女性について、ただ無駄に長く、オチもない話を聞かされることになった。「まずね、その彼女に男がいるかどうか、確かめるのが先でしょ?」私と編集者は同じ事を考えたようである。いたらいたで、今のままでは作戦のたてようがない。「面と向かってなかなか聞けない」。「女はね、聞かれなかったからいわなかった、って何十年経とうが平気な顔していうぜ」。酒は馬鹿々しい話で飲むのが一番である。
HP
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