Kinema DENBEY since January 1. 2007

☆=☆☆☆☆☆
◎=☆☆☆☆
◇=☆☆☆
△=☆☆
▽=☆

風立ちぬ(1976)

2013年09月04日 02時41分05秒 | 邦画1971~1980年

 ◇風立ちぬ(1976年 日本 94分)

 staff 原作/堀辰雄『風立ちぬ』

     監督・潤色/若杉光夫 脚本/宮内婦貴子

     音楽/小野崎孝輔 撮影/前田米造 美術/大村武

 cast 山口百恵 三浦友和 芦田伸介 宇野重吉 夏夕介 松平健 森次晃嗣

 

 ◇いざ、生きめやも

 中学生になる頃まで、

 実家の2階の端、その窓際に昔ながらの机と椅子と本棚が置かれてた。

 紫檀だか黒檀だかであつらえた三点セットだったようで、

 本棚は奥行のない箪笥のようで、両開きになってて、中には古い本が並んでた。

 祖父の使っていたものだから、大正の初期のものだろう。

 ぼくが物心がついたときには誰も使う人がおらず、

 5月になると、机の上に、兜や五月人形が飾られるくらいなものだった。

 高校生になってようやく貰い受け、自分の部屋に運び込んだ。

 そのとき、本棚の整理をしたんだけど、

 セピア色に変わった本の中に、堀辰雄の文庫本を見つけた。

『風立ちぬ・美しい村』と『菜穂子・楡の家』だった。

 裏表紙をめくると、母親が万年筆で書き込んだらしく、

 買い求めた本屋の名前と、手に入れた日時と、母親の名前があった。

 どうやら、母親は堀辰雄が好きだったようで、

 ちょっと調べてみたら、母親が本を買って数年後、映画が封切られてた。

 久我美子主演の『風立ちぬ』で、1954年(昭和29)の作品だった。

 ところが、設定が戦後に直されてて、結核も癒える時代になってた。

 ということは、堀辰雄の原作はかなり変えられたってことなんだろう。

(なるほど、母親の時代ってのは、ともかく戦前の空気を一掃しようとしてたんだな)

 てなこともおもったんだけど、

 山口百恵主演のこちらの作品は、戦前から戦中にかけての話に直されてた。

 ほお、時が遡ってるんだとおもった。

 とはいえ、原作は昭和8年から11年頃という時代設定だから、

 それでもまだ、原作どおりってわけじゃない。

 なんだか、

 松平健のバンカラぶりや早稲田の同級生どもの反戦ぶりが、ちょいと濃すぎる。

(百恵ちゃん演じる節子と、友和さん演じる達郎の、純粋な映画にしてほしかったな~)

 というのが率直な感想だ。

 けど、おもってみれば、ちょっとふしぎな感じなんだけど、

『風立ちぬ』が原作どおりに映像化されたことは、一度もないんだね。

 いや、それにしても、反戦云々がなかったら、

 この作品は、なんだかすごく現代的な青春映画だった。

 ぼくは、百恵ちゃんの映画は『としごろ』『伊豆の踊子』『潮騒』は観たけど、

 その後はどうも足が向かず、かろうじて『泥だらけの純情』は観た。

 ほかの作品は観てない。

 だから、この作品がキネマ旬報の表紙になったとき、

「え?キネ旬の表紙が、なんでまた?」

 と、妙な違和感すらおぼえたものだ。

 生意気な盛りのぼくに、百恵&友和の青春映画は青臭すぎたんだろう。

 なもので、この作品が封切られたときのことは憶えてるんだけど、

 中身については、このほど、初めて体験した。

 芦田伸介と宇野重吉がちゃんと締めてくれてた。

 あ、それと、

 脇役はみんな若くて、いや、ほんとに、ポール・ヴァレリーのいう、

「Le vent se lève, il faut tenter de vivre 」

(風が立った。みんな、生きようじゃないか)

 って感じで、生きなくちゃだめだっていう気持ちが伝わってくるのに、

 主役のふたりはそうじゃなくて、最後に三浦友和が呟く、

「風立ちぬ。いざ、生きめやも」

(風が立ってしまった。生きようか。いや、そうもいかないのかなあ)

 てな感じに包まれておるんですわ。

 ひさしぶりに軽井沢にでも行ってみようかしら。

コメント