感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

リンパ節炎病理検査でトキソプラズマ感染症は診断できるか

2015-10-08 | 感染症

耳鼻咽喉科から頚部リンパ節腫脹の例で、病理にてリンパ節生検にてトキソプラズマ症疑いと診断され当科に追加検査や治療につき相談ありました。50代女性で半年前から頚部リンパ節が腫れ、増大傾向にあったため今回生検となったようです。

所見は、正常なリンパ節構造は保持、著明な濾胞過形成、胚中心でTingible体マクロファージ、副皮質領域において散在性類上皮組織球、焦点性の単球細胞凝集で、多核巨細胞や悪性所見はなし、とのことでした。

病理組織的所見の特異性はどうなのか、抗体検査との組み合わせはどうするか、他の類似した疾患の鑑別は? 文献を調べました。 

 

 

 

まとめ

 

・トキソプラズマ症は細胞内寄生のトキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)によって引き起こされるヒトでの人獣共通感染症

・暖かく、湿気の多い気候の地域では非常に高く、人口のかなりの割合はこの寄生虫に対する低い抗体価を有する。

・抗体価は日本の成人での保有率は約20〜30%

 

トキソプラズマリンパ節炎(Piringer-Kuchinkaリンパ節腫脹)(TL)は、リンパ節腫脹症の一般的な原因

・TLは、最も頻繁に、頭頸部領域で単発性のリンパ節病変で、全身症状や節外病変は伴わず臨床経過は良好。

・原因不明のリンパ節腫脹の場合、頸部リンパ節に影響を与える原因としてそのうち15〜20%はトキソプラズマ症によって引き起こされると考えられています。

・免疫学的に正常な成人で、発熱を伴う局所性の後頸部リンパ節腫脹は一般的な症状である

・肉芽腫性リンパ節炎の原因としては、 非感染性疾患(サルコイドーシス、サルコイド様、ベリリウム)、感染症(野兎病、ネコスクラッチ、エルシニア、性病性リンパ肉芽腫、真菌、結核、非定型マイコバクテリア、BCG、トキソプラズマ、ハンセン病、梅毒、ブルセラ病)

 

・穿刺吸引細胞診が、転移性リンパ節腫脹やリンパ腫などのリンパ節腫脹のより深刻な原因から、TLを診断・鑑別するための有用な方法

・診断法は、寄生虫の直接検出(穿刺吸引細胞診またはオープン生検組織像により直接可視化)や血清学的方法による。

・酵素結合免疫吸着アッセイ及び間接免疫蛍光法は、寄生虫特異的IgM抗体測定のために使用できる

 

・穿刺吸引細胞診(FNAC)でTL例を識別し、他の感染症によるリンパ節腫脹症例を比較群にしてトキソプラズマ抗体を調査。TL例のうち58%が抗体の非常に高い力価(> 300 ELISA units/ml)で、31%が活動性感染を示唆する範囲の抗体価(210-300 ELISA units/mL)でその後の力価上昇の確認を必要とした。11%は抗体の有意なレベルを示さず。[Acta Cytol. 1997 May-Jun;41(3):653-8.]

・免疫不全患者での血清学的分析は、偽陰性の結果を示しうる

 

・穿刺吸引細胞診は、ごく少数の成熟したリンパ球と特徴的な類上皮組織球の小さな群からなる微小肉芽腫、および反応性リンパ過形成、背景に壊死、化膿症や巨細胞の証拠がないことを示している。 微小肉芽腫はTLでの特徴的な所見で診断の感度は72.7‐81.8%で特異度98.8‐100%であった  [Acta Cytol. 2005 Mar-Apr;49(2):139-43.]  それによって細胞学的診断が容易になり、生検を回避すること、血清学的調査で確認することができる。

・一次診断は血清中の特異抗体の証明にかかっているが、感染症はリンパ節の組織病理学的にて疑われることができる。

・非常に少数の報告では、TLの診断のための細胞学的基準を定義している。  [Am J Clin Pathol. 1983 Aug;80(2):256-8.]

・TLの診断のための組織学的基準には、リンパ節構造の保全を伴う濾胞過形成、形質転換単球様Bリンパ球および小型焦点性増殖(大型の類上皮様の組織球の散乱群(これらの細胞のより大きな凝集体を伴い、肉芽腫と定義される)

・リンパ節の特徴的な3つの主要な組織学的所見は、鮮紅色反応性濾胞過形成、類上皮細胞のクラスター、そして、単球Bリンパ球MBL増殖。

・濾胞中心芽細胞の増加、有糸分裂とtingible体を含むマクロファージを含めて激しく反応性胚中心に濾胞が拡大する

 

・Eapenらは、微小肉芽腫の存在(25未満の核を伴う類上皮細胞の集まり)、グレード2より低いマクロ肉芽腫、巨細胞の非存在、濾胞過形成からの複合基準を使用してTL診断は感度(100%)、特異度(96.6%)、及び陽性尤度比(29)の高い診断を行うことができるとしている。[J Clin Pathol. 2005 Nov;58(11):1143-6.] また鮮紅色反応性濾胞過形成、類上皮組織球のクラスター、 そして単球様B細胞による焦点性膨張、の病理組織学的三徴は彼らの調査によると96.6%の特異度を持っていたもののわずか44.4%の感度であった。その理由は単球様B細胞の存在の所見で、TL9例中4例に見られたのみのため。

・単球Bリンパ球MBLは、TLにおいてより一般的であるが、ネコ引っ掻き病やヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染にても見ることができる。[Acta Pathol Jpn. 1991 May;41(5):363-8.]

・著明な胚中心と濾胞過形成は時には微小肉芽腫反応を示し、主にリンパ腫と区別するための基準に含まれていた。しかしinterfollicularホジキン病および粘膜関連リンパ組織リンパ腫のまれなケースでは、反応性濾胞および類上皮様クラスタの組み合わせを持ちうる。

伝染性単核球症(IM)におけるリンパ節病変では著明な組織学的多様性を示している。Kojima らは、TLと区別できない組織学的所見(増殖性胚中心伴う多数のリンパ濾胞、類上皮細胞組織球のクラスタ、単球様B細胞)を示す伝染性単核球症リンパ節炎の 3例を報告している。[Pathol Res Pract. 2010 Jun 15;206(6):361-4.]

 

・組織嚢胞Tissue cystsは非常にまれにしか組織切片内で識別されず、(全症例の1%未満)、そしてめったに細胞学的塗沫標本で識別されない。  [Acta Cytol. 2005 Mar-Apr;49(2):139-43.]  また、組織学的製剤中のタキゾイトまたはブラディゾイトの識別はほとんど報告されていない。 ライト・ギムザ染色はTLの細胞学的製剤中のタキゾイトを同定するのに有用。

T gondiiに対する抗体を用いた免疫組織化学染色は、細胞生物またはこれらの生物を中和する炎症細胞にトキソプラズマ抗原をローカライズするための貴重なもの

 

・免疫正常ホストのほとんどのトキソプラズマ症の場合は、重篤な病気を引き起こすことはない。

・免疫不全状態ホストや先天性感染新生児では、脳炎、脈絡網膜炎、肺炎および心筋炎などの重篤な疾患を起こしうる

 

・TLは通常、慢性疾患であり、未治療では6ヶ月以上続く。 [Rev Infect Dis. 1987 Jul-Aug;9(4):754-74.]

・免疫正常個体でのTLに勧められる抗菌薬治療はまだ示されていないが、Alaviらはコトリモキサゾール(CTM)の治療効果を報告している[Int J Infect Dis. 2010 Sep;14 Suppl 3:e67-9.]

 

 

 

参考文献

J Laryngol Otol. 2014 Jun;128(6):561-4.

J Clin Exp Hematop. 2012;52(1):1-16.

J Clin Pathol. 2005 Nov;58(11):1143-6.

 

 


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