膀胱内腫瘤形成あり当院泌尿器科に通院検査中の方が、生検の病理で悪性所見なくなんらかの感染か炎症性疾患による反応ではないかと、当科に相談がありました。抗酸菌検査やANCA検査なども陰性のようです。よくみると末梢血白血球分画で好酸球の割合が増加していました。SRLでの抗寄生虫スクリーニング検査は陰性で、病理に再度組織の見直しをお願いし、膀胱壁に浸潤している炎症細胞は好酸球が主体であることが分かりました。好酸球性膀胱炎はこれまでまれな疾患であるようで、ほとんどは症例報告です。文献をまとめました。
まとめ
・好酸球性膀胱炎は稀で、膀胱腫瘍を模倣しうる、膀胱壁の全層の広範な局所好酸球浸潤によって特徴付けられる。
・1949年にKindallとNickelsは、排尿障害の患者の尿中及び膀胱壁に好酸球の白血球を同定した。これらの患者は、彼らの食事から疑いのある食物アレルゲンを除去した後に改善した。 2 [J Urol 1949;61:222–7]
・好酸球性膀胱炎は最初にBrownとPalubinskasにより1960年に記載された。[J Urol. 1960;83:665–68]
・この疾患についての知識の大部分は、症例報告に基づいている。
・報告書によると、膀胱腫瘍の疑いのために行われた1,000の膀胱生検での好酸球性膀胱炎の発生率は1.7%だった。[Eur Urol. 2000 Apr;37(4):386-94.]
・Kiliçらの報告では、この疾病率はいくつかの問題を評価するために、4年で行われた365の膀胱生検で、2.2%。[Urol Int. 2003;71(3):285-9.]
・より頻繁に女性よりも男性に起こる
・van der Oudenらによると、最も一般的な症状は頻尿(67%)であり、排尿困難(62%)、肉眼的/顕微鏡的血尿(68%)、恥骨部の痛み(49%)と尿閉(10%)。非特異的である。[Eur Urol. 2000 Apr;37(4):386-94.]
・ほとんどの場合、身体所見では恥骨上の圧痛を明らかにする。
・この疾患は、膀胱損傷の歴、慢性膀胱刺激、 膀胱手術、寄生虫、食品や薬に対するアレルギー、悪性腫瘍およびその他の疾患の既往を有する患者において報告されてきている。
・83例のデータが検討された報告書では、71%に何らかの根本的な原因が認められ、内訳は、25%で膀胱の移行上皮癌(マイトマイシンC、チオテパ)膀胱内化学療法を伴う、または伴わない)、16%で 呼吸器疾患(喘息や鼻炎)、13%で膀胱出口閉塞、8.5%で様々な薬(スルホンアミド、ワルファリン、アントラニル酸、シクロホスファミド、メチシリン)、8.5%で自己免疫および他の関連する障害、2.4%で非泌尿器寄生虫疾患、そして、2.4%で好酸球性腸炎、だった。[J Urol. 2001 Mar;165(3):805-7.]
・好酸球性膀胱炎の原因薬剤として,抗アレルギー薬(トラニラスト,フマル酸ケトチフェンなど)や漢方薬(小柴胡湯,清上防風湯など)などが挙げられている。
・これら原因薬剤中止により速やかに病態が改善したとの報告が多い
・Gobleらは、カテーテル挿入に応答して、尿路上皮好酸球浸潤を見つけた。
・Englerらは、クロム腸線縫合糸の部位で好酸球性膀胱炎を報告した。
・多くの病因が提案されているが、病変の正確なメカニズムははっきりしないまま。
・発生機序についてはまだ不明な部分が多いが, Dubucquoiらの報告では,好酸球性膀胱炎における組織中の好酸球がIL-5を産生,分泌していることから,活性化された好酸球が細胞傷害性蛋白質を産生することで発症すると考えられている。[Eur Urol. 1994;25(3):254-8.]
・好酸球増加は141例の42.5%のみで陽性。末梢血好酸球増多は存在する場合、診断に役立つものの珍しい
・好酸球は急速に分解されるか、粘膜脱落があるので、ほとんどは尿沈渣で識別されない 。
・佐野らは血清および尿中の好酸球カチオン性タンパク質(ECP)の測定は、適切なマーカーであることを示唆した。 [ Int J Urol. 2000 Feb;7(2):54-6; discussion 57.]
・膀胱鏡検査は、診断時に非常に重要な検査である。ほとんどの場合、浮腫性、潰瘍、または充血粘膜病変がみられる。一部は腫瘍様病変を持つ。
・疾患の局所的な形態を持つ患者ではより一般的に膀胱損傷に関連付けられている、が一方でびまん性膀胱病変を有する患者は喘息などのアレルギー体質、アレルギー性胃腸炎などに関連している。 [ J R Soc Med. 1990 Dec;83(12):776-8.]
・膀胱鏡検査は、膀胱腫瘍または他の良性の炎症性疾患などの他の疾患から好酸球性膀胱炎を区別することはできない。
・病理組織学的検査は必須
・組織学的変化は、急性、慢性または混合でありうる
・急性の変化は、貫壁性transmuralの好酸球浸潤と、浮腫およびうっ血を特徴とする。粘膜潰瘍、筋肉の壊死や筋線維症がある場合もある。
・このような病変を診断するためのゴールドスタンダードは、深い膀胱生検である。そうでなければ、診断が見逃されうる。
・岡崎らの症例報告の考察では、初回のTURBTにおいて膀胱筋層まで含めた十分な切除がなされていなかったことが診断までの時間を遅らせた1つの要因であると考えられた、としている。 [泌尿器科紀要60:635-9:2014]
・本症の確立した診断基準はないが,我喜屋ら は,①無菌性難治性膀胱炎,②アレルギー素因, ③血中好酸球増多またはIgE上昇,④膀胱鏡検査で発赤,浮腫,腫瘍性病変. ⑤組織学的好酸球浸潤,⑥抗原隔離での症状寛解という6項目のうち, 4項目以上陽性で診断可能としている. [炎症・再生19 : 359-364, 1999]
・鑑別診断には、間質性膀胱炎、結核、膀胱腫瘍などの難治性膀胱炎の他の形態を含む。
・治療法としては,原因薬剤が明らかな場合には服薬を中止することが最優先
・多くのレポートでは、この疾患の自然軽快的なコースに言及。
・初回治療として抗ヒスタミン薬,非ステロイド系消炎鎮痛薬が有効とされる
・初回治療で軽快しない場合には,ステロイド投与,シクロスポリンなどの免疫抑制剤投与が有効との報告も散見される
・難治性の場合には、シクロスポリンおよびアザチオプリンが勧められている。
・小児の場合、8ヶ月のシクロスポリンAを用いた治療は、副作用のない、臨床的、画像的、および病理組織学的治癒を達成した。[Pediatrics. 2001 Dec;108(6):E113.]
・保存的治療に難治性疾患を有する患者で、そして、として多量の血尿を提示、収縮膀胱、腎不全の均一または両側遠位尿管の関与、では、部分的または全体的膀胱切除および転換を考慮する。
・好酸球性膀胱炎の最も重要な合併症は 著しい血尿、膀胱収縮、遠位尿管の関与、上部尿路の拡張と腎機能の悪化
・患者のほとんどは治癒するが、特に成人で、再発が頻繁に見られる。
参考文献
Hinyokika Kiyo. 2014 Dec;60(12):635-9.
J Clin Diagn Res. 2013 Oct;7(10):2282-3.
Urol Int. 2003;71(3):285-9.
Arch Dis Child. 2001 Apr;84(4):344-6.