感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

血流感染の診断と治療における微生物学的所見の臨床的重要性

2012-09-27 | 感染症
血液培養の院内勉強会資料のためこの文献を読んだ。単に感染症の起炎菌を指し示すだけでなく、診断の見直しのヒントになったり、治療経過が順調かどうか、を指し示すこともできる。


まとめ

・血液から分離された菌の種レベルの正確な識別、感染の発生源および/または侵入門戸の識別は、これらの感染症の最適な管理のために重要
・血流感染症(血流感染)は、高い罹患率と死亡率に関連付け。米国でBSIに関連付けられている死亡率は16%~40%[2]と推定
・BSI患者のうち、死亡率が起因する不適切な経験的治療で治療された患者の34%と比較して、適切な経験的治療で治療された患者では約20%
・血流感染は、最適なターゲットを絞った抗菌薬治療を可能にするために、感染性病原体、それらの抗菌剤感受性、可能性のある一次感染源を徹底的に評価
・最近の研究では、24時間の期間で行われる2セット血液培養が成人で血流感染のわずか90%を検出することを示しており、できるだけ多くの4セットの血液培養は、血流感染の> 99%を検出するために必要であるかもしれない
・プライマリ(一次)とセカンダリ(二次)の血流感染と非血管内が源の感染症の特定と区別は、気道、胸膜液、創傷スワブ、骨や組織生検、およびCSF検体など、身体の他の部位から得られた検体の培養や分析が必要になることがある
・微生物学的結果は臨床症状からでは明らかでないかもしれない、菌血症の存在の可能性や感染源の場所の手がかりを提供する
・BSIの深部感染源を調査するために使用される非微生物手順はX線検査、経胸壁および経食道心エコー、CT、陽電子放射断層撮影、及びMRIを含む
・Weinsteinら米国で菌血症の侵入門戸について分析
44.7%で一次感染:19.1%で血管内カテーテルが感染源であった、25.6%は未知の侵入門戸
二次感染源であったのは、泌尿生殖器(17.4%)、気道(12.3%)、腹部(12.1%)、皮膚および皮膚構造(6.3%)
・フランスの病院でBSIの患者111人の患者の分析では、29%が定義された感染源を持たない一次感染、26%はカテーテル関連感染症、そして45%が他の感染源への二次感染
・2つの米国の病院からの患者を対象に前向き研究において、
カテーテルは院内BSIのエピソードの26%に感染源であった、一方では、感染源は14%で泌尿生殖器、胃腸や胆管で13%、9%で呼吸器、皮膚や軟部組織で4%、のように記述されていた(表1)

・血管内デバイスに関連血流感染の診断のために、末梢血液培養対中心静脈カテーテルを介して得られた血液培養の陽性結果への時間差の決定は比較的新しい方法

・菌血症は血流中で生存可能な微生物の存在として定義されており、一過性、間欠的、または持続的、のように分類。(図1)
・一過性菌血症は、数分または数時間持続し、最も頻繁に発生する非無菌的な体の部位での操作後にたとえば、歯科処置中、胃腸生検後、血管系や膀胱または総胆管の経皮的カテーテル法の後;
そして外科的デブリドマンまたはドレナージ後(それは手技が汚染されたり、皮膚及び/又は粘膜表面をコロナイズした菌の関与が行われた後)そしてまた、もちろん急性の細菌感染症の発症時。
・間欠的菌血症は、排出と再発のサイクルのために同じ患者に断続的に検出される同じ微生物に起因する菌血症として定義。 多くの場合、腹腔内または軟部組織膿瘍などの非排出性のクローズドスペース感染症に関連付け。
肝膿瘍、胆管炎、肺炎、骨髄炎、そして脊椎椎間板炎spondylodiscitis含む病巣感染、患者で発生する可能性。
・持続性菌血症は、感染性心内膜炎 (IE)と、血管グラフト感染、真菌性動脈瘤または感染性血栓などのような他の血管内感染症、の特徴。また、ブルセラ症や腸チフスなどの全身細菌感染の初期段階で発生

・疾病管理予防センター(CDC)によると、BSIは血液培養陽性の結果によって記載化された血液中の生菌の存在(すなわち、菌血症)として定義
・一次BSIは(すなわち、記載化された感染症の原発源なしのBSI)は二次BSI(すなわち、肺炎、胆道感染症、皮膚および軟部組織感染症、創傷感染などの局所に焦点をあわせた感染の二次BSI)と区別

・CDCのサーベイランスの定義は一次血流感染を、検査確定BSIと臨床的敗血症に分割

ケース1
・10年以上前の大動脈バイパス術後。数年前に右脚の膿瘍歴。3年続く反復性の熱で受診、血培はStreptococcus anginosus 陽性。腹部や心臓エコー初見なし。フォローアップ血培を7日間毎日施行し陰性が続いたが6日目に再度陽性。ペニシリンGを4週間で治療し見かけ上回復。追加血培は陰性だった。さらに画像検索が強化され、骨シンチ、腰部MRI、白血球スキャン、全身CTなどは陰性、FDP検査で大動脈バイパスグラフとに感染徴候あり。人工血管置換術が施行された。

・このケースは連鎖球菌菌血症で標準治療で速やかに回復したが、反復発熱歴におけるS.anginosus再発は基礎となる感染症の根深い原因を指摘。長期抗菌薬療法に加えて徹底的な診断検査を必要とした。これにより救命的な外科介入をもたらした。
・この患者は明らかな初期回復後に退院していた場合、感染源は特定されず、生命にかかわる状態が見過ごされている可能性があった。
・患者が臨床的に安定しているかどうかだけでなく、断続的または持続的な菌血症の見極めを可能にするためにフォローアップ血液培養をとる
・種レベルの菌名把握は代替の治療選択枝に繋がったり、診断手がかりや予後を提供するかもしれない。例えば、S. anginosusは、典型的には、脳、肺、肝臓、消化管における膿瘍形成に関連付けられています。他の微生物は、血液培養から分離された場合、また、特定の感染症の指標となることが多い(表2)

ケース2
・心筋梗塞、重度心不全、冠動脈バイパス術歴のある方、咳、微熱で受診。気管支肺胞洗浄では微生物は明らかにせず。胸部XPで肺がんが疑われた。1回目血培でグラム陽性菌は皮膚汚染と考えたが、2回目血倍でグラム陽性菌が再度でてRhodococcus equi と診断された。この菌は免疫不全者では肺炎の起炎として確立されており、専用の抗菌薬治療が必要とわかった。EMによる治療が3ヶ月施行、肺切除はキャンセルされた。

・このケースでは、症状や画像所見からは、感染よりも、悪性腫瘍を示唆した。微生物学的所見は、(すなわち、血液中の既知の、まれな呼吸器病原体のその後の単離と同定)外科的介入の代わりに抗菌薬治療が必要な日和見病原体によって引き起こされる感染症の診断のための鍵であった

ケース3
・8週間続く微熱、衰弱で入院例、血液培養は感染微生物は、Streptococcus bovis で経食道心エコー検査で大動脈弁上に小さな疣贅を認めた。S.bovis の侵入門戸の検索で、大腸内視鏡検査、経直腸超音波検査、MRI検査で感染源が結腸癌と判明。
・S. bovis IEと大腸癌との関連付けは、1970年代にケーススタディで報告されている。S. bovis 感染と関連したIE患者の 60-75%は、以前に診断されない悪性胃腸疾患を持っていた。S. bovis 菌血症患者のうち、結腸腫瘍による割合の推定値は6%から58%の範囲であった。

ケース4
・くも膜下出血入院で人工呼吸器関連肺炎例。気管支吸引検体から大腸菌検出で1週間IPM/CSで肺炎から回復。しかし数日後スパイク熱ありCVCは14日目抜去。血液とCVC培養両方共大腸菌検出。CPFX治療で解熱。しかし治療3日で得られたフォローアップ血倍でまだ大腸菌陽性。経食道心エコーで異常なし、造影胸部CTで腕頭静脈血栓の感染が明らかに。ヘパリン静注とCPFX4週間治療、その後血倍は陰性に。
・この例では、再発または継続感染の徴候が認められない場合であっても、感染生物の根絶を記録化するために血液培養をフォローアップの使用を考慮することの重要性を強調している。
・患者が効果的な治療を受けている間に血液培養のフォローアップの陽性結果は、通常、合併症があることを示し、IE、真菌性動脈瘤、または化膿性血栓性静脈炎などのような血管内感染源を示唆するので検索すべき。

結論
血流感染は常に重要である。これが一次性かまたは別部位感染に関連の二次性かを決定することが、適切治療を選択する際に優先されるべき。微生物学的、臨床検査的、画像検査的な徹底した検索が必要である。血液分離株の種名同定が、最適な抗菌薬選択のための中心的役割りである。原因菌同定で、臨床的にまだ疑っていない他の病変を識別することができる。また血液培養陽性結果は軽視すべきでなくたとえ症状改善が明らかでも、細菌検査結果と臨床診断が一致しないときは細菌検査の意義が明確に論破されるまで、または深在性感染の存在が確立されるまで追加診断検査を実行する必要がある。また感染微生物の根絶を記録するためフォローアップ血倍を考慮することが重要である。


参考:
Clin Infect Dis. (2009) 48(Supplement 4): S238-S245.

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