感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

抗菌薬スチュワードシッププログラム(ASP)の新しいガイドライン IDSAとSHEA2016

2016-04-19 | 感染症

米国感染症学会と医療疫学学会から抗菌薬スチュワードシッププログラム(ASP)の新しいガイドラインがでています。2007年にも同組織からASPを開発するためのガイドラインがでていました。その実践版という位置づけです。かなり具体的です。

日本でも、日本感染症学会、化学療法学会などの8学会で抗菌薬適正使用支援(Antimicrobial Stewardship ; AS)プログラム推進のために抗菌薬の適正使用に向けた提言をなされていますが、今一つ具体性に欠けます。

このIDSAガイドラインでは、やはり前向きの監査とフィードバックを強く勧めていること、コモンな感染症には施設固有のガイドラインを作ること、特定の感染症病型は介入ターゲットとすること、VCMとAGsのPK監視、IV薬の経口スウィッチ、治療期間のガイドライン、真菌マーカー検査、などを勧めています。また提案の形ですが、広域βラクタム剤の持続静注法、ペニシリン(PCN)皮膚テスト、層別化アンチバイオグラムの開発、細菌検査の抗菌薬の選択的報告、呼吸器感染での迅速ウイルス検査、質量分析装置など迅速診断、ICUでのプロカルシトニン、days of therapy(DOTS)による監視、FNのための施設ガイドライン、などに触れられていました。

 

 

まとめ

 

・ASPによる、抗菌薬使用前承認 and/or 前向きの監査とフィードバック を勧める (勧告 強、根拠 中

・抗菌薬スチュワードシップのための教則教材による介入を勧める (勧告 弱、根拠 低)  

; 情報やパンフレット、講義、など

・ASPはコモンな感染症症候群のため施設固有の臨床実践ガイドラインを開発することを勧める (勧告 弱、根拠 低) 

  ;市中感染肺炎、尿路感染、皮膚および軟部組織感染、手術前抗菌薬予防、MRSAのエンピリック治療、CDIの新規症例における非CDIの抗菌薬、培養にて証明された侵襲性感染症の治療(血流感染など)

  ;診療ガイドライン、アルゴリズム、 またASPは施設で使用されているクリニカルパスやガイドライン、オーダーセット内容にも関与すべき

・ASPは特定の感染症症候群の症例をターゲットに介入を実施するのを勧める (勧告 弱、根拠 低

  ;病型としては、皮膚・軟部組織感染症(SSTIs)、無症候性細菌尿(ASB)、またはCAP

  ;ターゲット菌としては、カンジダケアバンドル、黄色ブドウ球菌菌血症、グラム陰性菌血症

CDIの高リスクの抗菌薬を減らすため管理介入を勧める (勧告 強、根拠 中)

  ;クリンダマイシン、広域スペクトル抗菌薬、特にセファロスポリンおよびフルオロキノロン

・医師の処方時にコンピュータ化された臨床意思決定支援の取りいれを提案する (勧告 弱、根拠 中

・スチュワードシップ戦略としての抗菌薬cyclingの使用をしないことに対して提案する (勧告 弱、根拠 低

 

・病院はVCMとアミノグリコシド系のためPKの監視と調整プログラムを実施することを勧める   (VCMに、勧告 弱、根拠 低)(AGに、勧告 強、根拠 中)

  ;コストを削減し、副作用を減少させることができる

・広域スペクトルβラクタムの投与法に関し、ASPは標準法でなくPKPD原理に基づく代替用量の助言を提案する (勧告 弱、根拠 低

  ;広域βラクタム剤の持続静注法など

  ;これは抗菌薬のコスト削減に関連付けられている。 VCMについての同様の戦略はまだ根拠が限られており勧告は与えられない。

・ASPは抗菌薬の静注から経口へのタイムリーな移行のプログラムを実施することを勧める (勧告 強、根拠 中

  ;これはコストと入院期間を抑える。 同じ抗菌薬のIV-PO切り替えは複雑な戦略でなく多くの施設で実施可能。これはルーチンの薬局活動に統合されるべき。

・βラクタムアレルギー既往歴のある患者では、適切な場合にASPがアレルギー評価とペニシリン(PCN)皮膚テストを促進することを提案する (勧告 弱、根拠 低

  ;ファーストライン抗菌薬使用を向上させるため。

・ASPは、抗菌薬治療の最短の有効期間に減らすためのガイドラインと戦略を実装することを勧める (勧告 強、根拠 中

  ;患者特有の要因に基づいて治療期間を推薦する。

 

・ASPの経験的治療のためのガイドライン開発を支援するため、非層別化アンチバイオグラム以上に(例えば、場所や年齢による)層別化アンチバイオグラムの開発を提案する (勧告 弱、根拠 低

 

・すべての試験された抗菌薬の報告に抗菌薬の選択的報告とカスケード報告を提案する (勧告 弱、根拠 低

  ;選択的報告またはカスケード報告のいくつかのフォームが合理的

   選択的報告とは、試験した全ての抗菌薬の代わりに、抗菌薬の限られた数のため感受性の結果を報告する方法

   例えば検査室は、腸球菌がアンピシリンおよびバンコマイシンに対して感受性でないときにのみ、ルーチンにリネゾリドおよびダプトマイシン結果を出す。

   カスケードのレポートは、選択的報告の一種で、 微生物は、特定の抗菌薬クラス内の一次抗菌薬に耐性であるとき、二次抗菌薬(より高価なまたはより広いスペクトルのいずれか)の感受性結果のみが報告される。(例えば、微生物がセファゾリン感受性であるときはセフトリアキソンは報告されない)

 

 

・呼吸器病原体が不適切な抗菌薬使用を削減するため、迅速ウイルス検査の使用を提案する (勧告 弱、根拠 低) 

  ;インフルエンザ迅速テスト、RSV、hMPV、アデノなど

・血液標本の通常の培養 およびルーチン報告に加えて、積極的ASPサポートと解釈と組み合わせた迅速診断検査を提案する (勧告 弱、根拠 中) 

  ;今後迅速診断テストの可用性が増加すると予想。 ASPは結果に適切に応ずる臨床医を支援するための過程や介入を開発する必要がある。 

  ;質量分析装置など

 

・感染症が疑われる集中治療室(ICU)での成人例で抗菌薬使用を減らすために、ASP介入で一連のプロカルシトニン(PCT)測定の使用を提案する (勧告 弱、根拠 中

・侵襲性真菌性疾患(IFD)を発生させる危険性のある血液悪性腫瘍の患者では、抗真菌薬使用を最適化するため、ASP介入における非培養ベースの真菌マーカー検査を組み込むことを勧める (勧告 弱、根拠 低

  ;非培養ベースの真菌のマーカーを組み込んだアルゴリズムを検討すること

 

・定義1日用量preference to defined daily dose(DDD)に優先して、療法日数days of therapy(DOTS)によって測定される抗菌薬使用を監視することを提案する (勧告 弱、根拠 低

・ASPは血液・腫瘍学の患者で発熱性好中球減少の管理のための施設固有のガイドラインを作成することを提案する (勧告 弱、根拠 低

・ASPの介入では、免疫不全患者における抗真菌薬治療の適切な処方を改善することを提案する (勧告 弱、根拠 低

・抗菌薬の管理介入では、NICUでの不適切な抗菌薬の使用および/または抵抗を低減することを提案する (good practice推奨

 

 

参考文献

Clin Infect Dis. 2016 Apr 13. pii: ciw118. 

Implementing an Antibiotic Stewardship Program: Guidelines by the Infectious DiseasesSociety of America and the Society for Healthcare Epidemiology of America.


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