
ときに不明熱の原因精査で他科より相談を受けることがあります。当科領域の感染症、自己免疫疾患は、不明熱原因の3大分野のうち2つを占めています(あとは悪性腫瘍(といっても血液悪性腫瘍が多い))。当然、各科でそれなりに検査は終わっておりそう簡単には病名をつけることはできず、わずかな手がかりから鑑別診断リストをあげていくことになります。 今回も、消化器内科から発熱、下痢、蕁麻疹(?)の30代男性例で相談を受け、頸部や腋下リンパ節は触知され、末梢血検査で異型リンパの出現があったので伝染性単核球症など考えられるところです。異型リンパ球に関して鑑別診断の文献考察をしてみました。原因疾患により異型リンパ球の正体が違うようで興味深いです。 (文中の Paul-Bunnell反応試験は残念ながら日本ではできなくなりました)
まとめ
・異型リンパ球atypical lymphocyte(AL)または反応性リンパ球は、抗原刺激の結果として大型化する細胞である。
・大型化した異型性リンパ球(直径は赤血球の2倍程度以上)で、多くの場合不規則な単球様核で、核に平行してクロマチン鎖を伴い、ときに核小体とアズール顆粒が存在。
・形態学的には末梢血中の異型リンパ球は、定型的リンパ球よりも大きく、しばしば空胞化された細胞質、小葉形成を示す核がみられる。
・通常、ウイルス性疾患と関連しているこの細胞は、しかしながら、それらはまた薬物反応、予防接種、体液性疾患および自己免疫疾患の結果として存在しうる。
・異型リンパ球は、異なる病因に応じて異なる特性を示す可能性があるとするいくつかの報告がある。
・ヘルペスウイルス 、 エプスタイン-バーウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、 さらにそれらだけでなく、 百日咳、ブルセラ症、梅毒、トキソプラズマ症(Toxo)、薬物反応、およびリンパ性白血病などでも。
・伝染性単核球症(IM) またはIM様症候群のほとんどの症例は、EBウイルス、CMV、ヘルペスウイルスなどによって引き起こされる。
・異好抗体(heterophile antibody)(Paul-Bunnell反応)が陰性でこの抗体以外のHoagland基準(リンパ球分画>50%、異型リンパ球が総WBCの>10%、発熱、咽頭炎、リンパ節腫脹)を満たす患者は、EBV、CMV、HHV6、Toxo、急性ウイルス性肝炎、HIV-1、HIV-2 を含め様々な病原体で報告されている。
・いくつかの研究でIMの検出におけるHoagland基準の限局的な有効性を示唆している。Fleisherらの調査ではIMを有する患者の61%でこの基準は満たされなかった。
・Hudnallらは、異型リンパ球増加症(AL)97例の分析(>4000/μlのリンパ球絶対数と、>10%の異型フォームを持つ、としての定義)で、AL患者の最も一般的な症状はIM(55%)で、異好抗体またはEBV(VCA)IgM陽性は33%で確認された。 一方で残りの症例は未確定の病因のウイルス症候群、ウイルス性肝炎(HCV3名、HBV1名)、他のヘルペスウイルス感染(VZV、CMV)、急性HIV感染、リンパ腫(ホジキン1、非ホジキン1)、リンパ芽球性白血病、喉頭癌、および薬物反応(dapsone)を含む、他の疾患から成っていた。 EBV陰性症例に比べて、EBV陽性の症例はALの程度はより顕著で、有意に高いCD8陽性TおよびNK細胞数によって特徴付けられた。
・Tsaparasらは、絶対リンパ球増加(>4000)や異型リンパ球に関連し異好抗体検査陰性の外来患者の各種ウイルス血清検査を行い、重複してウイルス検査陽性例を外したときEBV陽性は20%、CMVは22%、HHV-6は9%、Toxoは2%であった。 ロジスティック回帰モデルを利用して、Downey II型異型リンパ球が著しくEBV陽性と関連(P = 0.006)、 Downey III型リンパ球が著しくHHV-6陽性と関連(P = 0.016)、およびCMV陽性とDowney I型リンパ球の関連の傾向(P = 0.097)があった。
・筆者らは、リンパ球数>4000±異型リンパ球例の診断手順として、 まず血清EBV IgM測定、 陰性ならCMV IgMとHHV-6 IgM測定、 これらも陰性ならHIVやToxo、ウイルス肝炎、風疹、アデノウイルス、溶連菌咽頭炎、リンパ腫や白血病など検討、 とした診断アルゴリズムを提案。
・しかしIgM抗体検査にも弱点がある、HHV 6 IgM抗体は臨床症状の発症後4-7日間まで検出されない場合ある、またCMVはIgM力価上昇なく臨床疾患を形成しうる。
・EBウイルスによって引き起こされるIMでは異型リンパ球は、通常のリンパ球よりも大きく、CD8 + T細胞とみなされる。
・EBV陽性患者においてCD4+細胞は増大しない、がしかし細胞傷害性Tリンパ球としてCD8+細胞、 特にCD8+/ CD11b-細胞およびCD8+/ CD28+細胞の著しい増加はEBVとCMVに感染したBリンパ球を制御できるかもしれない。
・A型肝炎ウイルス(HAV)は、多くの場合、成人における一次感染として発生し、様々な臨床症状およびIM様症候群を引き起こす可能性がある。
・Watanabeらは、A型肝炎ウイルス感染に関連の伝染性単核球症様症候群症例において、異型リンパ球の亜集団を分析しCD4+/CD45RO+発現(memory type)異型リンパ球増加を示した(CD4+異型リンパ球の86.3%)。 これらの所見からは異型リンパ球の病因はHAVとEBV感染との間で異なることが示唆。
・Jampangernらは、デング熱感染患者でのリンパ球免疫表現型の特徴をみるために、デング出血熱(DHF)、デング熱(DF)、デング熱様症候群(DLS)症例から採取した末梢血単核細胞のフローサイトメトリー分析を行った。10%以上の異型リンパ球数はデング熱感染の良い指標だった (感度50%、特異度86%)。 フローサイトメトリー研究では、異型リンパ球のパーセンテージは CD19 + Bリンパ球のものと相関し、逆にCD69 +リンパ球の割合と逆相関した。
・リンパ球増加は百日咳を除いて急性の細菌感染の間では通常はまれである
・Venugopalらは濾胞性扁桃炎や両側性の頸部リンパ節炎で発症した小児例を報告。 33%異型リンパ球を示し、血清検査ではEBV,CMV,HSVのIgMが陽性であったが、monospot試験結果が陰性、CMV DNAが陰性。
咽頭スワブは、多くのグラム陽性球菌を認め、ASO価は増加、静脈内オーグメンチンの数日投与にて症状改善し筆者らは溶連菌感染症例であったと結論。
※Downeyによる異型リンパ球の分類
Type I- 単球様、密集均質で過敏な粒状クロマチン構造と腎臓形または分葉状の核、細胞質は好塩基性で、空砲が見られることがある。
Type II- 形質細胞様、核から放射状の細胞質(「ballerina skirt」細胞)、1+の核小体を持つ、クロマチンが少なく緻密、細胞質はI型よりも空砲は少ない、アズール顆粒が含まれている、好塩基性である。
Type III- リンパ芽球様、核は凝集、1-4の核小体と粗い赤-紫色クロマチン、細胞質は好塩基性が強い。
参考文献
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