感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

HIV関連の二次性肺高血圧症

2013-02-21 | 感染症
MCTDや強皮症など一部の膠原病では、肺高血圧症(PH)が合併することがあり、症状が出た頃には進行してしまっていることがあるので無症状期でも外来で定期的なチェックが必要である。先日某社の治療薬の説明のとき、PHの原因疾患リストの表があり、HIVもある程度占めている、とあった。当科外来にはHIV患者さんも通院されているので、HIVとPHの関係について調べてみた。 HIV感染者の35%が"preclinical" PAHかもしれないとのこと。抗レトロウイルス療法(ART)に関係なくHRPAHが進展するそうなので、治療がうまくいっていても安心できない。



要約


Am J Cardiol. 2008 Sep 1;102(5):635-42.
Cardiovascular manifestations in human immunodeficiency virus-infected patients.
Khunnawat C, Mukerji S,

・HIV関連二次性肺高血圧症の発症率は一般集団で発見される20万分の1よりもはるかに高い200分の1と推定
・肺高血圧症は、重篤な心機能障害、肺性心、死亡の原因となる
・HIVは、エンドセリン、インターロイキン、腫瘍壊死因子-αの直接放出と血管収縮作用を有するエンベロープGP120による刺激を通じて、内皮障害とメディエーター関連の血管収縮を引き起こす可能性あり
・肺高血圧症の発症および進行は、基礎となるHIV疾患のステージには関係がない
・組織学的検査は、最も頻繁にplexogenic(叢状)肺動脈病変を示す。
・HIV関連肺高血圧症の臨床経過にHAART療法レジメンの影響は不明
・HIVにおける肺高血圧症の他の原因は、再発性気管支肺感染症、HIV感染の免疫学的影響からの肺動脈炎、注射薬物常習者での汚染から微小血管敗血症性肺塞栓が含まれる。
・現行のガイドラインでは、HIVのない患者の場合と同様の肺高血圧症の治療を示唆



Chest. 2010 Jun;137(6 Suppl):6S-12S.
Pulmonary Hypertension Associated With HIV Infection
Almodovar S, Cicalini S,

・HIV関連の肺動脈性肺高血圧症(HRPAH)は非感染個人よりもより多くのHIV患者に影響を与えている。
・先進国では近年患者スクリーニングの努力がなされ、HRPAHの推定有病率は増加している(0.5%)。
・HIV感染症に続発する心膜炎、心筋炎、およびPAH、心肥大などの心血管系合併症の長期的アウトカムは、深刻な懸念となっている
・心エコーパラメータに基づき、HIV感染個体の35%が" preclinical " PAH、5.5%がPAHのリスクにさらされている可能性がある
・PAHおよびウイルス量またはCD41 T細胞数の間には統計学的に有意な関連はないが、PAHは、AIDS患者においてより重症。
・抗レトロウイルス療法(ART)に関係なくHRPAHが進展することをいくつかの研究が示唆している。ARTはHRPAH疾患の発症を加速させる可能性もある。
・他の研究では、治療は生存率を増加させ、心血管疾患の罹患率を減少させるとしている。

・HRPAH患者で息切れは、最も一般的な症状で、通常、安静時の息切れへと進行する。その他の症状は、足と末梢の浮腫、乾性咳、疲労感、胸痛。 胸部X線検査と経胸壁心エコー検査により右心室肥大が見られる。 心臓カテーテルによる血行動態の措置の評価は、PAH診断と治療の反応評価のためのゴールドスタンダード。
・HRPAHは、典型的にはその病期の後半に診断されている、そのとき、重度のPAHの臨床および検査所見(例えば、右心室機能不全)が一般的に存在する

・French National Registry of PAH(フランス国立PAH登録制)は自己申告の呼吸困難を含むアルゴリズムとPAHの臨床的な疑いがある場合には心臓エコー検査と右心カテーテル法を採用し、標準化されたPAH診断を持つ。

・HRPAHの病理組織学的特徴は、特発性PAHのものとは異なるものではない。 叢状病変Plexiform lesionsはHRPAHの患者の78%で検出。 血小板由来増殖因子のような平滑筋細胞/線維芽細胞成長因子の発現の増加がある。
・HIV感染により慢性炎症と免疫活性化は炎症性サイトカインや成長因子の分泌を増加させPAHを促進する可能性がある。
・ 内皮細胞と平滑筋細胞における破壊された細胞内膜輸送は、PAHの病理面で非常に重要。細胞内輸送やゴルジ体の機能不全がHRPAHの発展に重要な役割。

・HIVはPAHの原因物質であるという決定的な証拠はない、 HIVは肺血管内皮細胞に感染するかどうかはまだ検討中。
・アポトーシス、成長、増殖を促進する可能性があるため、ウイルスタンパク質と感染宿主の分子パートナーとの相互作用は、因果関係の有力な候補。
・内皮細胞を損害し炎症を誘発するHIVタンパク質は、肺血管リモデリングをもたらすかもしれない。 例えば、宿主細胞膜を介してウイルス付着と融合に不可欠なHIVエンベロープ糖タンパク質-120(ENV)は、アポトーシスを誘導し、ヒト肺内皮細胞からのエンドセリン-1の分泌を増加させる。 転写HIVトランスアクチベーター(Tat)タンパク質は、内皮細胞を活性化し、血管新生特性を持つ。
・HIV negative factorネガティブ因子(Nef)は、Tatと一緒に、ウイルス感染初期に発現するアクセサリータンパク質である。Nefは血管と血管周囲の細胞に局在し、細胞内または外生的に発現する脳血管内皮細胞のアポトーシスを誘導する。 Nefはまた、肺動脈細胞における血管運動機能を損ない、内皮型一酸化窒素合成酵素の発現を減少させ、酸化ストレスを増加させる。 キメラウイルスSHIVnef感染したアカゲザルの研究で肺にPAH患者に類似した血管リモデリングが観測された。肺血管系における叢状病変形成にNefの役割を示唆している。

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