先日の当院CPCは、当科症例でした。あごのしびれ感を自覚して近医口腔外科などで抗生剤治療も改善なく不明熱として精査中にリンパ腫が判明、しかし本格的な化学療法を始める前に腫瘍崩壊症候群をきたして亡くなられました。(→過去ブログ: 自発的に発生する腫瘍崩壊症候群)
病理所見はび漫性大細胞性B細胞リンパ腫で、肝、脾、副腎、肺、心臓、と広範囲臓器にリンパ腫細胞浸潤をみとめ、骨髄も著明に浸潤していました。
本症例は、あごのしびれから発症した例で、血液内科の先生からNumb chin症候群について教えていただきましたのでさらに文献でまとめました。 悪性腫瘍の”red flag”症状とのことです。
まとめ
・Numb chin症候群(NCS)(またはオトガイ神経障害(MNN)と呼ばれる)はオトガイ神経分布でのしびれ感覚を特徴とする神経障害であり、珍しいがしかし今まで過小評価されてきた、転移性悪性腫瘍の徴候である
・この症候群の最初の記述は、顎外傷および下顎後方腫瘍を有する患者の間でオトガイの麻痺を指摘した1930年のCharles Bellによるもの
・Roger とPillasは局所原因が除外された後にこの症状では、内臓新生物および悪性血液疾患を検索する必要性を強調した。 それ以来、NCSの転移性悪性疾患関連はRoger's signと呼ばれてきた
・NCSは一般集団ではまれであり、転移性の原因NCSでは、骨転移患者全体の<1%で発生
・歯科原因、特別に医原性のもの(例えば口腔外科)ははるかに一般的であるが、これらに関連していない場合にはこの症状は遠隔悪性新生物の「red flag」症状と考えられている。
・成人では悪性腫瘍によるNCSのほとんどで、転移性乳癌およびリンパ腫である。他の悪性腫瘍は、肺癌、黒色腫、前立腺癌、肉腫、腎細胞癌、甲状腺癌、結腸癌、多発性骨髄腫、頭頸部癌が含まれる。
・症例の47%でNCSは、原発腫瘍の診断に先行し、 一方で、 癌の既往歴のある患者ではNCSは多くの場合、病気の再発を示している。
・神経圧迫につながる顎骨髄浸潤は、リンパ腫、急性リンパ芽球性白血病および多発性骨髄腫の症例で実証されている。
・非悪性の疾患も時折NCSを引き起こし、歯原性感染症、外傷、糖尿病、アミロイドーシス、梅毒、サルコイドーシス、鎌状赤血球症、および全身性血管炎が含まれる。
・下歯槽神経には運動神経線維がないため、NCSは純粋に感覚神経障害である。 下部顔面の運動機能はそのまま保たれる。
・NCSの症状は通常はあご、唇、そして時折歯肉の、皮膚の片側性のしびれが含まれる。しびれは、通常は通常片側性であり 、過呼吸や低カルシウム血症例のときのように口の周囲ではない。
・患者は下唇を不注意に噛んでしまったり、食べ物や飲み物がだらだらこぼれて食事困難を訴えることがある。
・通常は片側性であるが、両側性のプレゼンテーション率は10%と報告
・疼痛や腫脹は、悪性腫瘍や感染症などの局所的破壊的プロセス例では併存するかもしれない。
・打診誘発性の疼痛と下顎の歯の緩みは、白血病細胞の下顎管浸潤例で発生しうる。
・NCS診断の最も重要なステップは、片側性の顎や唇のしびれ感への潜在的な臨床的意義の認識である。
・有用な画像検査は、顎パノラマX線撮影、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン、磁気共鳴画像(MRI)、核骨シンチグラフィーを含む。
・穿刺吸引細胞診や病変生検が診断の確認のために有用
・脳脊髄液の腰椎穿刺および細胞学的分析は、X線撮影が陰性である場合には有用である
・NCSの症状が多くの患者で自然に解決するため、下顎病変は通常、局所放射線療法を必要としない。
・癌患者におけるNCSの予後は不良で、診断後の生存期間の中央値は、一般的に1年未満である。
・診断されたNCS後の平均生存期間は下顎転移に起因する場合には約5ヶ月および、軟膜転移が存在する場合には12ヶ月である。
参考文献
Hosp Physician 2000 Jan;36(1):54–56 (PDF )
J Med Imaging Radiat Oncol. 2014 Jun 26. doi: 10.1111/1754-9485.12177.
Indian J Dent Res. 2010 Jan-Mar;21(1):135-7.
当時の標準的化学療法を行い、髄注も4回ほど実施しました。血清LD値でモニターしていましたが、回を追うごとに効かなくなりました。