感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

黄色ブドウ球菌菌血症の死亡予測因子 1

2013-02-18 | 感染症
MRSA、MSSAともどもブドウ球菌感染症の管理や治療は、複雑で込み入ったものであり、その予後も不良であることが多い。昔から臨床的研究がさかんな菌種であり様々な報告が近年もなされている。この文献は死亡率に繋がるかもしれない因子について一つ一つ丁寧に諸文献を振り返り、レビューしている。かなり長大な論文であり、今回、前半と後半に分けてまとめた。 Sorianoらの ブドウ球菌菌血症(SAB)の感染源によるリスク分けは、成程である。 群分けをして推奨治療期間を決める考え方も。 持続的菌血症(ABx後3-7日継続)はやはり予後が悪く、>10日に続発して約45%に転移性病巣の可能性。


まとめ

・黄色ブドウ球菌菌血症SABは特にICU患者で相当な死亡率があり良性疾患とはいえない。前抗菌薬時代は死亡率75-83%を示した。最近の報告で20%台の全死因死亡率。
・人口10万人あたりの年齢調整死亡率は、SABで2-10人で、AIDS 3、結核 0.2、ウイルス肝炎 2.2、乳がん 12.5、前立腺癌 8.6 などと類似しているが、世間でのSABの重要性は過小評価されたままである。
・このレビューの目的は、死亡率に影響を与え、SABの患者のためのアウトカムに対する各要因の相対的な影響を調査する要因を検討すること

宿主因子

・多変量解析を用いたSABのコホート研究の大半で、年齢は感染関連死亡、30日死亡率などの独立した強力な予測因子である。 人口ベースの研究で若年者(<15歳)の6%から高齢者(>85歳)の57%に死亡率が増加したことが分かった。 症例対照研究で同様の患者背景とSAB治療を有するときでも、年齢は死亡率予測因子として残った。アウトカムに影響を与える他の変数を検討するとき年齢は重要な交絡因子のままである。
・SABの発生率は、一般的に女性より男性の方が高い。しかしいくつかの後ろ向きコホート研究では女性は、30日間の全死因死亡率の独立した予測因子であった。 様々な報告からORは約2培高かった。
・米国の人口ベースの調査研究で、医療機関関連のMRSA-B罹患率は10万人あたり白人で27.7、アフリカ系米国人で66.5。豪州や太平洋諸島での研究でもSABの発生率は非先住民よりも先住民族で一般的に高い。しかし発生率の増加にもかかわらず、死亡率に対する民族性の影響は不明。
・社会経済的地位(SES)は、患者の感染リスクに影響を与える。SAB発生率とSESの間に逆の関係が存在する。しかしSESのアウトカムへの影響は依然として不透明。

・全体的には、免疫抑制がSABの研究における死亡率の独立した予測因子としてまれに観察されている。免疫正常ホストより死亡オッズは約4倍高くなっている。SAB死亡での特定の免疫系成分の影響を調べるコホート研究は非常に少ない。
・先天性免疫システムは感染に対する初期防御を形成し、解剖学的障壁、補体、および特定の細胞で構成される。
・後天的免疫障害はとりわけ血液悪性疾患のための化学療法誘発性好中球減少症に続発する。逆説的に、これらの患者は、非好中球減少症性癌患者よりも有意に死亡する可能性が低い(p = 0.01)。それはこれらの患者における、静脈ライン関連SABの高い比率と感染性心内膜炎の低い比率を反映しているかもしれない。
・SA感染に対する抗体応答による保護の役割を検討する必要がある。後天性や先天性B細胞機能障害の影響も不明。以前にSAへの暴露やキャリア歴をもつ個人は、非保有者よりも低いSAB死亡率を有することが知られている(8% vs 32%; P=0.006)。スウェーデンでの前向き研究で28日死亡率と、テイコ酸やlipase、enterotoxin Aなどに対する抗体低値に有意な(P<0.05)関連付けを検出した。
・SAワクチンの臨床試験失敗は、SABのアウトカムに対する体液性免疫系の理解がまだ不明確であるという証拠を提供している。
・HIV感染者でのSAB発生率は非HIV者のそれよりも高いまま。CD4細胞数<100 /μlを有する者はCD4細胞数> 350 /μlの者に比べ発生率比[IRR]は31.1培。しかしどの研究でもHIV例でSAB死亡率増加は検出されていない。免疫抑制が逆説的に、SABの患者アウトカムへの影響から保護される可能性があるいくつかの証拠がある。

・SAB死亡率と関連付けられる合併症として、アルコール依存症、免疫抑制、肝硬変、うっ血性心不全、悪性腫瘍、透析を要する慢性腎不全、および複数の併存疾患の存在、を含む。 日常生活機能も同様に死亡の独立した予測因子。
チャールソン加重指数(CWI)の高スコアは1年間の死亡率に関連。

宿主-病原体相互作用

・SABの全体的な死亡率は、感染症の主な感染巣に応じて異なっており 最高の死亡率は、一次菌血症、肺感染者と感染性心内膜炎で発生した。 より低い比率の一部は、中枢または末梢静脈カテーテル関連感染症患者に発生した。
・感染部位と程度がアウトカムに 影響し、合併症のない左側IEより、複雑性左側IE(例えば傍弁膜膿瘍の存在)を持つ患者でより死亡率は高い。 またデバイスタイプも転帰に相関し末梢ライン(16.9%)、血液透析カテーテル(6.8%)、または整形外科用インプラント(8.3%)よりも、中心ライン(20.5%)で高い死亡率に関連付けられている。 患者特性もアウトカムに影響を与え、静脈麻薬使用者(IVDU)関連IEは、非IVDU関連IEに比べて生存率の改善と関連。
・Sorianoらは SABの最終的な感染源により、3つの死亡リスクグループに層別化した。 低リスク (静脈内カテーテル、尿路、耳鼻喉、そして婦人科感染)、中間リスク(骨関節、軟部組織、及び未知の感染巣)、高リスク(血管内、下気道、腹腔内、および中枢神経系感染)グループで、それぞれ、死亡率は5%、13%、30%と増加が認められた。
その後の前向き研究でもこのカテゴリの有用性が確認され、中間リスクや高リスクSABは低リスクと比べ死亡オッズが2倍と9倍に増加した。 これらから最適な患者転帰改善のため、SABの範囲を定義することが重要である。
・いくつかのグループが、臨床的特徴の調査結果に基づいた推奨治療期間基準を提案。 Fowlerらは 複雑性、非複雑性、単純性SABの3つに分類。複雑性SABはあと2つと比較して悪いアウトカムを持つ(死亡率40%対24%、P<0.01)。
・今後の研究において、SABの認識を単一のentityとしてではなく、感染症の不均一なグループとして検討する必要がある。

・発症場の設定は、医療関連(院内)と市中感染の2カテゴリに分かれ 血液培養陽性が入院48時間以内か以降かで分かれる。市中発生の中でも医療関連のものもある。 SABの設定は、SA感染clonal typeを予測し、抗菌薬選択の際に臨床医を支援する。しかし、市中感染MRSA株(CA-MRSA)の出現し、病院で交差感染を引き起こすと共通クローンを交換し、これら定義はそれほど便利ではなくなってきている。 ほとんどの現在のコホート研究ではアウトカムに影響を与えるSABの設定を見出していない。 例外は院内発症SABにて30日間死亡率増加を観察した2つの研究がある。しかしこれらではtypingは示されず、結果は慎重に解釈すべき。

・持続的な菌血症の定義は、研究ごとに適切な活性的な抗菌薬治療後の3日間から最大7日間まで範囲で変化
・持続性菌血症は、SABの一般的な症状であり、感染症のエピソードの6~38%で発生。 clearanceまでの期間の中央値は7~9日。
・危険因子には、感染源(感染性心内膜炎や化膿性脊椎炎など)、病原体の表現型(バンコマイシンヘテロ耐性)、抗菌薬治療、人工補綴材の存在または保持、感染巣除去力(例えば、外科的ドレナージによる)を含む。
・MSSA菌血症(clearanceまでの期間の中央値3日間)よりも、MRSAは持続的をより高める可能性(clearanceまでの期間の中央値8~9日の)と関連付け。
・原因に関わらず、菌血症持続性は、おそらく複雑性SABのためのsurrogateであり、菌血症期間の増加とともに転移性感染症の可能性が増加する。 SABの>10日に続発して約45%に。
・転移性合併症がない場合には、持続性自体が悪いアウトカムの前兆で、感染関連死亡率は非持続例よりMRSA-B持続性(> 3日間)を有する患者に対して高くなっている(45.2% and 9.4%,それぞれ; P = 0.002)。 大規模症例対照研究にても持続的な(>7日)SABの死亡率は有意に高かった(54.8% and 31.4%, それぞれ; p<0.01)。
・バンコマイシンヘテロ耐性などのような病原因子は、持続的菌血症に関連付けられている(OR, 2.37; 95% CI, 1.53 to 3.67; p<0.01)  しかしヘテロ耐性hVISA菌血症は予後不良には繋がらず、VSSA菌血症エピソードに比べ改善された全生存期間に関連。 この混乱した状態はさらなる研究が必要。

・膀胱カテーテル挿入、機器、または手術の不在下では黄色ブドウ球菌は尿路病原体としては珍しい。SAの細菌尿は通常は血行性伝播を表している。
・SA細菌尿と菌血症の併在は、 おそらくより高い疾患負荷や複雑性SABを表し、悪い結果の前兆である。 後ろ向きコホート研究により細菌尿を併存したSAB患者に対する死亡リスク増加を検出(32%, versus 14% for no S.aureus bacteruria; P = 0.036)。 別の症例対照研究で細菌尿は院内死亡のSABの独立した予測因子(OR, 2.87; 95% CI,1.4 to 5.9; P =0.004) 

・敗血症やショックの存在は、定義が研究の間にわずかな違いがあるものの、SAB(表3)患者の悪い結果に強く関連付けられており、38と86%の範囲の死亡率。
・敗血症症候群は30日の全死因死亡率の強力な独立した予測因子(OR, 4.01; 95% CI, 2.34 to 6.87; p<0.001)
・血液培養陽性の最初の48時間内で最悪のパラメータに基づいたAPACHEスコア(APACHE IIまたはAPACHE III)は、一貫して得点増加とともに、死亡率の増分と死亡の独立した予測因子。
・単独の急性臓器不全、特に急性腎不全、機械換気を必要とする呼吸不全、精神状態の変化、及び血液障害は、SABにおいて一貫性はあるが、悪いアウトカムの前兆である。
・感染症の重症度の代わりに、ICUへの輸送、またはICUでSAB取得のような代理マーカーは、比較して死亡率の独立した予測因子であることが判明。



参考
Clin Microbiol Rev. 2012 Apr;25(2):362-86.


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