Sweet Dadaism

無意味で美しいものこそが、日々を彩る糧となる。

連想ピラミッドバトン。

2006-10-29 | 伝達馬豚(ばとん)
頭がぐったりしていて、身体もぐったりしている。
こんなときは言葉遊びがいちばんだ。


** 作成方法 **

1)「い」で終わる形容詞を思いつきで8つ書き出す

2)隣り合う二つの形容詞から連想する言葉を、その下に計7つ書き出す
  ◆例)美しい 白い 寒い 面白い…     
       肌  雪 駄洒落…

3)同様にして次は6つ、その次は5つ…という風にピラミッド式に連想を続ける

4)最後に連想した言葉が1つになったら完成也。






狭い  妖しい 愛おしい 美しい  淋しい  眩しい 勿体無い  欲しい
  
  奈落   鳥籠   四季   破壊   薄氷   朝焼け   言葉
    
    落下  植物園 遺伝子操作  鏡   1月  後朝の文
     
     つる植物  生物学  クローン  成人式  南天

        パラサイト 宗教    軍隊   赤

           世代論   盲目   粛清

              無学   純化

                 原始



「この逆ピラミッドは下にある言葉ほど、あなたにとって大きなテーマだと考えられます。自分の結果を見てどうですか。」とある。

『原始』に着地してしまったあたり、「あなたにとって」ではなく大概の人類にとっても大きなテーマであるに違いない。我ながら大きく出てしまったものである。
確かに、辿っていく途中でいくつかの壮大なテーマが飛び出してきて、作成しながら警戒音が聞こえていたのは事実。

だが、落としどころを想定しながら作っていくことほど面白くないことはない。

珍しく、今回のバトンは皆様にお勧めします。
自分の意図と無関係なところから与えられる鏡は、どんな形をしているだろうか。







評価(語録)Ⅳ。

2006-10-28 | 無双語録
 近頃、夢の中でも仕事をしている日が増えてきた。

こればかりは性分としか云いようがないのかもしれないが、私はオンとオフの切り替えがとても下手だ。今更それを苦にする訳でもないのだが、さすがに眠っているときくらいはもっとうまいことやりたいと願う。
短い夏と、妙に連続する秋雨とそれに伴う気温・気圧の変動とで、私の自律神経はすぐに音を上げようとする。身体が謀反を起こしているときでも、ふてくされずに出社できるのはよいことだ。
身体の状態に拘わらず、職場では笑っていてこそなんぼのもんである。



「お前の存在そのものがテロだ。」
 ・・・この間は、「存在が嫌がらせ」って云いましたよね。進化しましたか。

「お前そのゲシュタポみたいな頭さ・・」
 ・・・この間は、「ヒトラーの秘書」って云いましたよね。性別変わってます。

「お前、髪切ったのか。」
 ・・・嬉しそうに仰る顔が可愛いって云ったら間違いなく怒りますよね。

「お前はドラキュラに襲われても平気だろ。」
 ・・・ええ、まぁ。遠い親戚みたいなものですから平気です。

「お前さ、憎まれ口は叩くが本当にカンジワルイ訳じゃないからがっかりだ。」
 ・・・見掛け倒しでほんとすみません。

「不勉強なお前のわりにはよくできてるじゃないか。」
 ・・・もう少し他に・・いや、これが精一杯の褒め言葉ですよね、たぶん。

「お前の顔なんて見ていたくないから、とっとと帰れ。」
 ・・・ふふ。微笑んでしまいます。私が体調悪いのご存知なのですね。

「お前の彼氏は本当に悪趣味だな。」
 ・・・悪趣味な男は、存外たくさんいるものです。


「化粧をもう少し派手にしろ。」

「髪を伸ばせ。」

「もう少し華やかな服を着てだなぁ。」

・・・私をどうしたいのでしょう。仕上がりイメージを教えてください。




【過去記事】(進化の過程)
評価(語録)Ⅰ。
評価(語録)Ⅱ。
評価(語録)Ⅲ。




こんな夢をみた【9】。

2006-10-26 | 夢十六夜
どこの国だろう。
リビングにしつらえてある猫足の華奢な家具にわたしは座っている。天井は高く部屋の中はとても明るい。わたしの背後には恐らく大きな窓があるのだろう。採光部から水平に進入するたくさんの光は、部屋の中に充満する。だが、それはとても冷たくて寒い光で、太陽が低い位置にあることを教えてくれる。ここは日本ではなくて、白い壁と絨毯と猫足の家具が似合う、どこかヨーロッパの中北部に決まっていた。

同じ部屋で、わたしのはす向かいの同じ猫足で緑色の生地が張られた椅子に、無造作な金髪を下ろした女性が座っている。歳のころは、恐らくわたしより一回り前後上だろう。わたしたちは知り合いではなくて、そして互いに別々の目的を持ってこの部屋でなにかを待っている。その証拠に、わたしたちは旅先でよくするように、互いに目を合わせてにっこりと微笑んだりもしないし、会話を交わそうともしていない。彼女もわたしも、それがまるで当然なことであるように、互いに無関心であった。それぞれに、室内の調度品を眺めては、黙した時間を食い潰していた。

と、彼女の背後に動くものを感じて、わたしは本能的に彼女のほうに目を向けた。彼女の右肩の後ろに小さなものの動く気配が確かにあったが、わたしが目を遣った瞬間には、それは居なかった。しかしその一瞬後、それは静かに、そして不穏に登場した。それは、わたしと同じくらいの大きさをした、平均よりは少し小さ目な女性の指先であった。マニキュアの施されていない、わたしとは異なる民族のものであることが明瞭な白い手は、わたしの目には肘から先しか見えなかった。

手は彼女の肩の後ろからそっと覆いかぶさるのだけれど、彼女はそれに気付かないでそっぽを向いている。わたしは息を詰めて、それを見ている。手はするすると蛇のように、多分とても短い時間で、彼女の顔の脇に到達した。手は人差し指を立てるような形に変化したあと、躊躇いなく、彼女の右目の眼窩にぐいと分け入った。彼女はその瞬間にはじめて、何かに進入されたことを知り、足をばたつかせて無言のまま両手で顔を覆った。苦しみ抵抗する彼女の両手の間に挟まれてぴちぴちと跳ねる白い手は、徐々に彼女の中に吸い込まれていったのだろう、手首から先が見えなくなり、肘だけになり、そして、消えた。

動きを止めた彼女は、両手で髪を整えながらわたしを見て、にぃと笑った。
そして、どこから取り出したのか、一通の手紙をわたしに手渡した。
それは角の傷んだ、古めかしい薄桃色の小さな封筒で、糊の部分はすでに黄色く変色していた。
開封すると、中には一枚のカードが入っていた。退色した黒いインクには

「Lady, I have watching at you since 1906. 」

とだけ書かれていた。

静かな笑みを湛える彼女の隣の小さな白黒テレビには、動揺して充血した右の眼球が画面いっぱいに蠢いていた。



真紅の皇帝。

2006-10-23 | 徒然雑記
地中海の空に映える、空を貫く赤い色をした車は

神の被造物である地上の生物たちとも肩を並べるほどの

複雑で生々しい曲線をその身にたくさん纏わせた。


ぐにゃぐにゃしているのにすっくと尖った

赤い車から放たれるエンジン音は

ぱちぱちと小さく軋んだ火花を散らす、太陽の色。

金色。


いつしか魂をもったその車の手綱を両手でしかと握るのは

涼やかな眼をして、車と同じくらいに赤い魂を持つ人であった。



凶暴で貪欲な勝利への執念と

まっすぐで冷酷な、揺ぎない知性と

その双方を繋ぐのは、感謝の笑顔であった。


若き鬼神の如きその鞍使いも

厳しい壁との力比べでその足が破壊された瞬間も

抗議の悪態も

切実なる涙も

それらはいつも、私に赤い光を想起させた。



この世で最も美しい赤は

彼の駆る赤と

この身に脈々と流れる赤のみ。


そのひとつが失われたいま、

赤は光を纏って私の心のゆく先に。




わたしもきっと、赤い色した人生を。








あなたのいちばん好きなものバトン。

2006-10-17 | 伝達馬豚(ばとん)
大親友から頂いたのでやってみます。
 いざ考えてみると、断トツに「これだけがすき!」なものと、「どれも一緒だから別にどうでもいいや」なものが極端に分かれている。興味関心の範囲にどうやらかなりのムラがあるようだ。

□■あなたの1番好きな物バトン■□

■動物は?        黒豹。よくみるとちゃんと豹柄なのよ。
■お菓子は?       麩饅頭。
■料理は?        海老の入ったなにか
■缶ジュースは?     ROOTS BLACK。ジュースじゃないけど。
■インスタント食品    そりゃぁインスタントコーヒーでしょう。
■寿司ネタは?      しまあじ、江戸前穴子、真鯛の昆布〆・・
■パンは?        胡桃の入った塩味の利いているやつ
■どんぶりは?      難しい・・一長一短。
■お酒は?        ごめん、アレルギーで。
■TV番組は?      しりとり竜王(今やってるか知らない)。
■洋楽は?        DOORS
■芸能人は?       若い頃の三上博史。
■歴史上の人物は?    オマル・モクタールとかいろいろ
■作家は?         谷崎潤一郎。作家というと微妙だけど澁澤龍彦はもっと好き。
■言葉は?        ニーバーの祈り(検索してくれ)。
■雑誌は?        PEN
■漫画は?        つげ義春
■映画は?        薔薇の名前
■お店は?        一位を決められない珈琲屋が何店舗か。
■洋服は?        いつかサンローランのスーツを。
■靴は?         踵の音がセクシーなイタリア製メンズ仕立て靴。
■香水は?        ブルガリのブラック。
■アウトドアスポーツは? ハードル。過去の話。
■インドアスポーツは? 筋トレ。
■装飾品・貴金属は?   ロイヤルオーダーの指輪。
■季節は?        桜の咲いている時期
■落ち着く場所は?    暗く静かで乾燥していないところ。山と清流のコラボ。
■旅行先は?       砂漠。寺。どっちか。
■ティシュの銘柄は?   気にしない。
■キャスターは?     まつもとまさやのファッションが気になる。
■思い出の曲は?     木枯らしのエチュード(ショパン)。
■色は?         とりどりの黒。
■麺類は?        タリオリーニ。
■アーティストは?    砂漠の風紋を作る風。
   

◇必ず5人名指しで指名して下さい。

 いつもの通り、無視します。

うたあそび (2006秋_1)。

2006-10-15 | 春夏秋冬
◇ 詞書
  秋薔薇の咲ける旧古河庭園にてよめる


 彩々に 咲ける薔薇(そうび)は さまざまの ねがひが凝りて ひらく傷口




◇ 詞書
  秋のはじめ、夕刻の六義園にてよめる


 夕の陽の 照らすみなもを みどりばの 染め抜くなかに ひとひらのあか

(男、かへし)
 左手を 君ともやいて 秋の庭 こがねの空みて 玉砂利を踏む

(女、かへし)
 ちぎれ舞う 雲を眺むる足元の 揺らぐを保つ 白しきみの掌 
 
(男、かへし)
 金色の 揺らぐ波間に渡る風 となりのきみの 時をとどめむ

(女、かへし)
 風わたる 木立はにしきに恥らうも いかでかひとつの 時を捉えむ

(男、かへし)
 ゆふぐれの こだちの錦に 陰さして 夜のとばりを きみとくぐらむ

(女、かへし)
 宵深く 夜鳥のこへに まどふ身を 繋ぎやとめむ 白きその掌は





  

箱庭。

2006-10-10 | 徒然雑記
 僕は箱庭を作るのが好きだった。
自分の理想の庭を、夢の世界を、云うなればまだ見も知らぬ美しきユートピアを、両の手で抱えきれるくらいの小さく区切られた箱庭に表現することが愉しかった。外界と隔絶された、実際にはその中に人が歩くことも住まうこともできない小さな世界。僕は想像の中でアリくらいの大きさになって、出来上がった箱庭の中を自由自在に闊歩する。

土を敷いて、苔を重ねる。玉砂利のかわりに、荒い砂を盛る。
黒松の小枝を折り取って、生やす。
次いで赤とみどりのもみじの枝を。小さな欠片を。すすきの穂やエノコログサを千切って作った下草を。
河原で拾ってきた綺麗な石を添えて、ときには涸れた水路に水車の模型や数寄屋造りの家を置いて。

 本当なら、その箱庭に相応しい、赤く染まった秋の夕焼け空や、高く澄み渡る空を駈けるうろこ雲も描きたい。木々を黒ずんだ艶に彩り、その首を項垂れさせる長雨も。だけどそれは叶わないから、僕は自分の心の中に存する安らぎの風景から地上の姿だけをそこに写し取って、かろうじて満足する。

ある日僕は作りかけの箱庭を庭先に置いたままにして、床についた。翌日は日曜日だった。
昼過ぎに目覚めた僕が、さて昨日の続きを作ろうかと嬉々として庭先に足を下ろした瞬間、子供のように衝動的な憤りが背筋を駆け上がるのを感じた。僕の作りかけの箱庭の真ん中に、くっきりとひとつの靴跡が残されている。

ゆたかな苔は踏みにじられて土砂にまみれ、赤いもみじの枝は無残にも切り裂かれ、玉砂利は台風の後のように乱れ散っている。崩れ去った世界を覆うようにただひとつくっきりと残された、無邪気な深い靴跡。
僕は憤りにまかせてその箱庭を辺りにぶちまけた。大人気ないのは百も承知だが、子供じみた涙をこらえるすべをそのときの僕は他に思い浮かべることができなかった。
つまらない日曜日のつまらないこの出来事は、僕の愛すべき世界が、僕の理想とする行き先が、身勝手な他所からの威力によってあざ笑われたのと同じことだ。

 忌々しい気分を振り切るように、街へ出た。秋の長雨が去ったばかりの空は鮮やかに澄んで、もし昨日この空を見ていたならばどんなにか心洗われたろうと残念なくらいに、それはそれはよい香りの空気で満ちていた。僕は眉間に皺を寄せて空を仰いだ。その視界の端を、色づきはじめたもみじの枝が横切った。

  もみじは僕の世界にもう要らない。

それを見なかったふりをしてぷいと僕は顔を背けた。視線の先には、外苑に整列するよく手入れされた松の並びが見えた。

  松も、もう僕の世界には要らない。
  ふかふかした苔も、赤い実のついた可愛らしい南天も。
  風にその身を揺らしてしゃくしゃくと秋を奏でるすすきも。

  もう、要らない。


残されたのは、荒れた赤土と、虚空を貫く電信柱。
そして、幼い僕の世界を踏み潰そうと降りてくる、あの靴跡。




【仏像 一木に込められた祈り】展。

2006-10-09 | 仏欲万歳
 東京国立博物館にて、【仏像 一木にこめられた祈り】展が12月3日まで開催されている。

 一木彫の魅惑の仏像たちが、平安初期から鉈(ナタ)彫り、円空仏、木喰(もくじき)まで幅広く展示されている。従来のように所蔵寺社や時代性による切り口ではない「一木彫」というテーマ性と、かなりの予算を投じたであろう展示仏のクオリティとは評価に値するものであり、なおかつここ1年で急激に向上したライティング手法によりって、相当に見応えのあるものとなっている。

個人的には、平安初期~平安後期の仏のなかに、惹かれるものが多数あった。
此度の展示では、展示替え(前期11/5まで、後期11/7より)を挟んで二度訪れる予定でいる。何故なら、後期にはあの麗しき渡岸寺の異国的美女が初めてお堂の深窓から行幸あそばされるからだ。現地で二度に渡りお逢いしている方ではあるが、ここ江戸において再会を果たしたいと切に願うためである。

今回は前期のハイライトである【菩薩半跏像(伝如意輪観音)】についてのみ言及する。



衣および体躯の表現、まだ定型化されないリアリティ溢れる面立ちと像の全体からこれでもかと溢れ出るダイナミズムから察するに、彼は奈良後期~平安初期(8~9世紀)の作と見られる。
この像と初めて体面したとき、私の口から漏れ出た一言は、
「なんて、闊達な。」

その第一印象の要因は、伸びやかに大胆に、きっと随身ではなく自分自身で大雑把に結い上げたのであろうと想像される髻のおおらかさと、若干唐風とも見えるゆったりとした衣がうねるさま。肩から腰にかけて掛かる衣のドレープは無駄なくシャープに、肌の温度をそのまま写し取ったかのような暖かさと艶かしさとを感じさせる。対して、膝まわりを覆う布はどこまでも贅沢にゆったりと波打ち、そのさまはまるで岸壁に寄せる波が縦横に反射して互いに翻弄し合うが如くに交わり、重なり、渦を巻く。
定型のない波のうねりが水の冷たさと厳しさとを感じさせ、それはこの像全体から強く滲み出る男性的で若々しい峻厳さ、伸びやかな知性の表現に繋がる。

体躯そのものは若々しく、特に、鎖骨のあたりから胸を経て腹部に至るまでの肉体表現が秀逸である。衣のうねりに奪われた私の視線が、そのうねりを追って胸元まで辿り着いたとき、思わず息を呑んだ。僅かに覗く胸元の肉体表現、仏であるからこその、生々しくなく理想的で、しかし官能的で力強い胸元。私がこの部位の表現で過去に同等の衝撃を受けたのは、聖林寺の十一面観音と、円成寺の大日如来しかない。しかも、今回の衝撃はそれを上回る。
なだらかな肉に覆われて鎖骨はその影さえ見えないのに、その在り処がわかる。ぱんと張った胸筋は決して攻撃的な誇張ではなく、緑の若い芝に覆われた優しくなだらかな丘陵のようだ。腹部にかけてきゅっと押さえ込められた力は、彼が何らかの思索と決意の中にあるという内に込めた緊張を伝える。

表情については、美形で峻厳であるために我々を遠ざけそうなバリアを感じさせることを否定しない。
しかしながら、憎らしいほど巧みに、それを補う計算し尽くされた所作が我々を骨抜きにするのだ。

写真をよく見て欲しい。重心が僅かに彼の左半身に傾いているのが判るだろうか。
彼は左足を畳んで台座の上に上げている。左腕も同じく畳んで肘と肩とを後方にきゅっと引きつけ、開いた掌を我々に向けている。椅子に座ってこれを読んでいるのであれば、是非同じ姿勢をしてみることをお勧めする。自身の上半身の重心はどうなったであろうか。
次に、右半身を見る。右足は緩く椅子から投げ出しており、腹部に込めた力と同様の僅かな緊張を爪先にまで走らせ、その証拠に親指だけをほんの少しだけすぃと反らせている。右手はたらりとこちらに向けて垂らしているのだが、さて自分が自然にその所作をした場合、右肘は恐らく右足の付け根、股関節の上に置かれたのではないだろうか。彼の場合は違う。腕ではなく、こちらに向けて反らせた手首を右膝の突き出た傾斜に引っ掛け、肘は120度くらいに大きく開かせたままだ。その姿勢は伸びやかであると同時に、静かな呼吸に裏打ちされた筋肉の緊張なくしては存在し得ない。

一見して至極自然な、まるで「休め」の姿勢に見えがちな半跏の姿勢のなかで、こんなにも精緻な、こんなにも優雅な緊張をその身に走らせた像をかつて見たことがあったか。
なんと美しく、なんと厳しく、そして泣きたいほどに切実なる像であることか。

ぐいと押し込められた左半身は彼の思索。
我々に向けて強固な意志をもってに開かれた右半身は、救済のしるし。







金木犀の夜。

2006-10-05 | 春夏秋冬
 金木犀の香る夜。

こつこつと踵に水を跳ね上げながら、暗い道を歩く。

街灯を照らす水溜りはいくつもいくつもあって
それぞれの鏡に橙色のあかりが灯って
降り続く水しぶきによってバラバラに砕け揺らぐ。

原型を持たないあかりの真ん中に


   ぴしゃ!


と靴底を突っ込んで、最期を与えるように粉々に砕く。

1分もしないうちに、あかりは粘りを持って寄り添い合って
また不定形なぼやっとした発光体に戻る。

そうしていくつものあかりを踵で砕きながら
家へと帰る道すがら。


空から沢山の水が降ってくる日には
だいすきなはずの金木犀の香りは
どうしてこんなにもじっとりと厭らしく凝縮するのだろう。

踵を踏み下ろそうとした橙色の水溜りの中に
雨で散り急いだ金木犀が金平糖のように置いてあって



思わずわたしは、足をよけた。






  *音読することを仮想して制作。

埋め合わせ。

2006-10-04 | 徒然雑記
「埋め合わせ、なんてほんとうは存在しないのよ。」
彼女のそんな言葉が、不意に頭をよぎった。

初めてその言葉を聞いたとき、僕はその意味を理解することができなかった。そうして僕はそのわけを尋ねた。

「だって、東京の真ん中に大きな穴を掘って、そこにエチオピアの土を埋めたって、元通りにはならないでしょう?見てくれとして穴が埋まったように見えるだけで、実はまったくもって不似合いなものが不自然に詰め込まれただけなのよ。それは穴にとっても、埋められた土にとってもはた迷惑だわ。きっとそのうち、齟齬が出る。」

結果的に穴が埋まっていれば同じことじゃないか。僕はそう云った。

「じゃぁ、話を変えましょう。私はいま、とっても時計が欲しいの。欲しくて堪らないのよ。それなのに、指輪をプレゼントされたとして時計が欲しい気持ちが収まると思う?掃除機が必要なのに、ドライヤーを貰ってどうにかなる?空いた穴には、それに相当する唯一のものじゃないとぴったり嵌らないの。だから、先週の約束を放棄して空いてしまった穴は、今日にどうこうなるものじゃないの。空いたらね、空きっぱなし。」

なるほど、そうか、と思った。としたならば、僕は今まで、ぽっかり空けた穴を急務で埋めようとして、一生懸命に水を注ぎ続けていたのかもしれない。どろどろに混濁した土からはミネラルが流れ去って、土壌は荒れるばかり。水を注ぐことすら放棄している時間には、乾いた土がぱりぱりとひび割れて、風にさらわれてゆく。

ぱりぱりと割れた土は、はらはらと風に舞って、僕の手の届かないところに飛散する。
周囲までぐずぐずに水を吸ってしまった土は、もはやどこが穴だったかも判らないくらいに崩れ落ちて、緩やかな丘陵になる。僕は成すすべもなくそれを眺めている。

そして彼女は、その斜面にちょこんと座って砂遊びをしながら、
「だから云ったじゃないの。お馬鹿さんねぇ。」
と云って笑うんだ。



ワードローブ。

2006-10-03 | 物質偏愛
 久方ぶりに、しつこいが本当に久々に、お洋服を買いにいった。
二年間の都落ちの期間は完全なる禁欲生活であったし、江戸に戻ったと思えば骨を折って骨折者用の服を揃えるのに一苦労。仕事が軌道に乗れば乗ったでなにやら忙しかったり、都落ちの間に無沙汰をしていた友人たちとの交際費がかさむ。そんなこんなでお洋服屋さんから足が遠のいていた。

 きっかけは、オーダースーツの生地サンプルを見せて貰ったこと。小さな生地の切れ端が並んで、デザインサンプルが書いてあって、それはまた私の想像力を喚起する。男に生まれていたらよかった、と思うことはしばしばあれど、今回もまたその詮無い欲求に取り憑かれたのは事実。嬉々として出来上がりを待っている横顔を見るのは悔しいから、無理にでもと思って偏頭痛をぶら下げながら同行した。そこはとてもシンプルで小さな町工場のような店で、「これから私たちが貴方のからだにぴったりと寄り添うの。それはとても心地の良い感触なのだから、試してご覧なさいよ」と誘惑する生地たちがどさどさと積み上げられている。うっかりその誘惑に触れてしまったら最後、と思い距離を置いて待機していたものの、我慢は身体にどうにもよくない。まんまと私は罠にかかった。

  濃いグレーに深緑のピンストライプの生地だったら、裏地だって悪趣味に緑にしたい。
  黒字に赤やピンクのピンストライプだったら、裏地は臙脂か京紫がよいか。いやむしろ淡いクリーム色も悪くない。
  合わせはシングルだけど、襟は勿論ピークド。それならばバックはダブルベンツ。
  パンツの裾は、ひざ上を少し絞って、軽いフレアにして貰おう。
  袖口のボタンは本当なら4つ欲しいところだけれど、これは考慮の余地ありだ。

ふふふ、愉しい。
私は新たなおもちゃを見つけた。


  ・・勢いというものは恐ろしい。
帰り掛けに、改装を終えたばかりの某百貨店を覗いてみた。以前よりもコンセプトが一層判らぬ出来栄えとなっていた。意図するフロアのターゲットが不明瞭で、私が同カテゴリに整理していた店のフロアはてんでばらばらに分離され、私は各階をうろうろせねばならなかった。
そうして汎用性はあるだろうが明らかに無駄なデザインの羽織りものと、デコラティブなワイドパンツを購入した。ふぁさふぁさした毛皮の襟が欲しかったが、衝動買いはよくないので、次回にした。

 お洋服は、できるだけ無駄なものが愛らしい。「どこに着ていくの?」「なにと合わせるの?」と自分に問いたくなる服がないこともない。
だって、シンプルで潰しのきくデザインのお洋服なんて、運動着と同じで、つまらない。

できるだけじゃじゃ馬なお洋服であればあるほど、それを手懐けたあとの一体感といったらこのうえないのだから。