Sweet Dadaism

無意味で美しいものこそが、日々を彩る糧となる。

こんな夢をみた【9】。

2006-10-26 | 夢十六夜
どこの国だろう。
リビングにしつらえてある猫足の華奢な家具にわたしは座っている。天井は高く部屋の中はとても明るい。わたしの背後には恐らく大きな窓があるのだろう。採光部から水平に進入するたくさんの光は、部屋の中に充満する。だが、それはとても冷たくて寒い光で、太陽が低い位置にあることを教えてくれる。ここは日本ではなくて、白い壁と絨毯と猫足の家具が似合う、どこかヨーロッパの中北部に決まっていた。

同じ部屋で、わたしのはす向かいの同じ猫足で緑色の生地が張られた椅子に、無造作な金髪を下ろした女性が座っている。歳のころは、恐らくわたしより一回り前後上だろう。わたしたちは知り合いではなくて、そして互いに別々の目的を持ってこの部屋でなにかを待っている。その証拠に、わたしたちは旅先でよくするように、互いに目を合わせてにっこりと微笑んだりもしないし、会話を交わそうともしていない。彼女もわたしも、それがまるで当然なことであるように、互いに無関心であった。それぞれに、室内の調度品を眺めては、黙した時間を食い潰していた。

と、彼女の背後に動くものを感じて、わたしは本能的に彼女のほうに目を向けた。彼女の右肩の後ろに小さなものの動く気配が確かにあったが、わたしが目を遣った瞬間には、それは居なかった。しかしその一瞬後、それは静かに、そして不穏に登場した。それは、わたしと同じくらいの大きさをした、平均よりは少し小さ目な女性の指先であった。マニキュアの施されていない、わたしとは異なる民族のものであることが明瞭な白い手は、わたしの目には肘から先しか見えなかった。

手は彼女の肩の後ろからそっと覆いかぶさるのだけれど、彼女はそれに気付かないでそっぽを向いている。わたしは息を詰めて、それを見ている。手はするすると蛇のように、多分とても短い時間で、彼女の顔の脇に到達した。手は人差し指を立てるような形に変化したあと、躊躇いなく、彼女の右目の眼窩にぐいと分け入った。彼女はその瞬間にはじめて、何かに進入されたことを知り、足をばたつかせて無言のまま両手で顔を覆った。苦しみ抵抗する彼女の両手の間に挟まれてぴちぴちと跳ねる白い手は、徐々に彼女の中に吸い込まれていったのだろう、手首から先が見えなくなり、肘だけになり、そして、消えた。

動きを止めた彼女は、両手で髪を整えながらわたしを見て、にぃと笑った。
そして、どこから取り出したのか、一通の手紙をわたしに手渡した。
それは角の傷んだ、古めかしい薄桃色の小さな封筒で、糊の部分はすでに黄色く変色していた。
開封すると、中には一枚のカードが入っていた。退色した黒いインクには

「Lady, I have watching at you since 1906. 」

とだけ書かれていた。

静かな笑みを湛える彼女の隣の小さな白黒テレビには、動揺して充血した右の眼球が画面いっぱいに蠢いていた。