「おねえちゃん、一番星がでた。」
「そうねぇ。」
「あの星取って。あの低いところにある小さいのでいいから。」
「さすがに無理だなぁ。まゆちゃんにあげる前に、私が欲しいよ。」
何故だか私に懐いている、このサンタさんを信じているくらいに今どき無邪気な娘の名前も「まゆちゃん」だ。だが性質というか性格というか、そういうものが真反対なので自分の子供の頃を見るような錯覚を起こすことも皆無で、助かっている。
ついでなので補足すると、私は子供相手にも決して子供扱いした言葉遣いをしない。
「え~。おねえちゃんでも無理なの?星とれないの?」
「『でも』ってなにさ。私の能力を間違って把握してるでしょ、あなた。」
星が目に見える大きさのまま、掌に包んだらその中でほわりと黄色に、あるいは冷たい蒼に、あるいは朱にと発光してくれるのなら理想的だ。実際のところは、あいつらは月よりも地球よりも大きいわけで、仮に莫大な求心力をもってそれを引き寄せることができたとしても、「手に取る」どころか自分が押しつぶされて跡形もなくなり行方不明になるのが必定だ。
だけど、クリスマス前にブラックサンタの話で散々脅かしたらご丁寧にもクラス内に警告して回ったという彼女だから、星が実はでかくて困る代物だということもきっとすぐに信じてしまうに決まっていて、もしかしたらその勢いで掌の中で発光する星の夢を忘れてしまう怖れもある。だから星の大きさについてはまだ教えない。
昨夜、ネオンとイルミネーションにまみれて星の欠片すらも見えない東京で、しかも星や人工の灯りを拒絶するかのように地下にもぐったところで、だいすきな友が星を私にくれた。
決して手が届かないし、仮に届いたところで大きすぎて処理もできないはずの星は、その美しさを渋々見上げるだけ。それに、見上げたところで度近眼の私の目には僅かばかりの明るい決まった星だけしか見えないことが殆どで、ほんとうの星空は私の目も心も届かない遥か向こうのほうにある。私の知らない形と煌きで。
いいんですか。
それを、我がものにして。
嬉々として、それを組み立てた。
子供のような待ち遠しさで、日暮れを待った。
私がどんなに嬉しいかを、これをくれた張本人はきっと判っていないはずだ。
うまく伝えることができない自分のことは棚上げし、判ってくれたらもっと嬉しいのになぁと身勝手なことを考える。
恙無く夜がきてはじめて壁に投影されたそれは、確かに星空のようでもあるのだけれど、まったりとした何か別の美しさを持つものであった。私はほんとうの星空を知らない。だから正確には、これを星空らしいとからしくないとか判断できるものではない。
正確な星の位置を反映したリアルさと、リアルから程遠い色の均質さ。ピンスポットはべったりと壁に星を飛び散らせ、纏わりつかせる。
部屋が狭いからなのだろうか、近すぎる星は、雨に似ていると知った。
参照URL) 大人の科学マガジンvol.9
「そうねぇ。」
「あの星取って。あの低いところにある小さいのでいいから。」
「さすがに無理だなぁ。まゆちゃんにあげる前に、私が欲しいよ。」
何故だか私に懐いている、このサンタさんを信じているくらいに今どき無邪気な娘の名前も「まゆちゃん」だ。だが性質というか性格というか、そういうものが真反対なので自分の子供の頃を見るような錯覚を起こすことも皆無で、助かっている。
ついでなので補足すると、私は子供相手にも決して子供扱いした言葉遣いをしない。
「え~。おねえちゃんでも無理なの?星とれないの?」
「『でも』ってなにさ。私の能力を間違って把握してるでしょ、あなた。」
星が目に見える大きさのまま、掌に包んだらその中でほわりと黄色に、あるいは冷たい蒼に、あるいは朱にと発光してくれるのなら理想的だ。実際のところは、あいつらは月よりも地球よりも大きいわけで、仮に莫大な求心力をもってそれを引き寄せることができたとしても、「手に取る」どころか自分が押しつぶされて跡形もなくなり行方不明になるのが必定だ。
だけど、クリスマス前にブラックサンタの話で散々脅かしたらご丁寧にもクラス内に警告して回ったという彼女だから、星が実はでかくて困る代物だということもきっとすぐに信じてしまうに決まっていて、もしかしたらその勢いで掌の中で発光する星の夢を忘れてしまう怖れもある。だから星の大きさについてはまだ教えない。
昨夜、ネオンとイルミネーションにまみれて星の欠片すらも見えない東京で、しかも星や人工の灯りを拒絶するかのように地下にもぐったところで、だいすきな友が星を私にくれた。
決して手が届かないし、仮に届いたところで大きすぎて処理もできないはずの星は、その美しさを渋々見上げるだけ。それに、見上げたところで度近眼の私の目には僅かばかりの明るい決まった星だけしか見えないことが殆どで、ほんとうの星空は私の目も心も届かない遥か向こうのほうにある。私の知らない形と煌きで。
いいんですか。
それを、我がものにして。
嬉々として、それを組み立てた。
子供のような待ち遠しさで、日暮れを待った。
私がどんなに嬉しいかを、これをくれた張本人はきっと判っていないはずだ。
うまく伝えることができない自分のことは棚上げし、判ってくれたらもっと嬉しいのになぁと身勝手なことを考える。
恙無く夜がきてはじめて壁に投影されたそれは、確かに星空のようでもあるのだけれど、まったりとした何か別の美しさを持つものであった。私はほんとうの星空を知らない。だから正確には、これを星空らしいとからしくないとか判断できるものではない。
正確な星の位置を反映したリアルさと、リアルから程遠い色の均質さ。ピンスポットはべったりと壁に星を飛び散らせ、纏わりつかせる。
部屋が狭いからなのだろうか、近すぎる星は、雨に似ていると知った。
参照URL) 大人の科学マガジンvol.9