Sweet Dadaism

無意味で美しいものこそが、日々を彩る糧となる。

星を取って。

2005-12-29 | 徒然雑記
「おねえちゃん、一番星がでた。」
「そうねぇ。」
「あの星取って。あの低いところにある小さいのでいいから。」
「さすがに無理だなぁ。まゆちゃんにあげる前に、私が欲しいよ。」

何故だか私に懐いている、このサンタさんを信じているくらいに今どき無邪気な娘の名前も「まゆちゃん」だ。だが性質というか性格というか、そういうものが真反対なので自分の子供の頃を見るような錯覚を起こすことも皆無で、助かっている。
ついでなので補足すると、私は子供相手にも決して子供扱いした言葉遣いをしない。

「え~。おねえちゃんでも無理なの?星とれないの?」
「『でも』ってなにさ。私の能力を間違って把握してるでしょ、あなた。」

星が目に見える大きさのまま、掌に包んだらその中でほわりと黄色に、あるいは冷たい蒼に、あるいは朱にと発光してくれるのなら理想的だ。実際のところは、あいつらは月よりも地球よりも大きいわけで、仮に莫大な求心力をもってそれを引き寄せることができたとしても、「手に取る」どころか自分が押しつぶされて跡形もなくなり行方不明になるのが必定だ。
だけど、クリスマス前にブラックサンタの話で散々脅かしたらご丁寧にもクラス内に警告して回ったという彼女だから、星が実はでかくて困る代物だということもきっとすぐに信じてしまうに決まっていて、もしかしたらその勢いで掌の中で発光する星の夢を忘れてしまう怖れもある。だから星の大きさについてはまだ教えない。


 昨夜、ネオンとイルミネーションにまみれて星の欠片すらも見えない東京で、しかも星や人工の灯りを拒絶するかのように地下にもぐったところで、だいすきな友が星を私にくれた。
決して手が届かないし、仮に届いたところで大きすぎて処理もできないはずの星は、その美しさを渋々見上げるだけ。それに、見上げたところで度近眼の私の目には僅かばかりの明るい決まった星だけしか見えないことが殆どで、ほんとうの星空は私の目も心も届かない遥か向こうのほうにある。私の知らない形と煌きで。

いいんですか。
それを、我がものにして。


 嬉々として、それを組み立てた。
 子供のような待ち遠しさで、日暮れを待った。
 私がどんなに嬉しいかを、これをくれた張本人はきっと判っていないはずだ。
 うまく伝えることができない自分のことは棚上げし、判ってくれたらもっと嬉しいのになぁと身勝手なことを考える。


 恙無く夜がきてはじめて壁に投影されたそれは、確かに星空のようでもあるのだけれど、まったりとした何か別の美しさを持つものであった。私はほんとうの星空を知らない。だから正確には、これを星空らしいとからしくないとか判断できるものではない。
正確な星の位置を反映したリアルさと、リアルから程遠い色の均質さ。ピンスポットはべったりと壁に星を飛び散らせ、纏わりつかせる。

部屋が狭いからなのだろうか、近すぎる星は、雨に似ていると知った。



 参照URL) 大人の科学マガジンvol.9

調和手帖。

2005-12-27 | 徒然雑記
 12月も半ばを過ぎてクリスマスやらお正月やらのどさくさに街が浮き足立つ頃になると、僕は必ず銀座の人波の中に飛び込む。ITO-YAで来年の手帖を買うのが毎年の儀式のようになっているからだ。そして毎年、決まってQUO VADISの手帳を買う。

もう何年続けているのだろう。周囲の奴らは大概システム手帳というでっかい本のような手帳を持ち歩いている。だからコンパクトな手帳を愛用する僕を見て、女の子みたいだと笑われることもしばしばだ。だけど起きている時間の8割は会社に居るわけだし、大切な予定の8割は仕事絡みのものであるのだから、大概の予定は社内PCの中に入れておけば事足りる。手荷物は身軽であるに越したことはないのだから、今年も僕はいつも通りに小さいほうからふたつめのサイズの手帳を買った。

今年ようやく休みが取れた日はクリスマスで、阿呆のように混雑しているITO-YAの中でぐるぐるともつれながら、なんとか手帳を購入した。そして購入したことに満足してしまって、その袋を2日も放ったらかしにしておいた。

真新しい手帳を最初に開いて、最初の予定を書き込むのは気持ちいい。
今日になってやっと、さぁ年末の予定でも書き込もうかと思って封を開いた。
だけど、今年の手帳はどこか様子が違っていた。
クリスマスの日のところに【手帳購入】と書いてある。
新品のはずなのにおかしいな、と思って他の日付をぱらぱらとめくってみる。すると、翌日の日付のところには【届けもの】とあり、1月には6日から9日まで矢印が引っ張ってあり【旅行】だと。確かに僕は年明けにスノボにでも行こうかなぁと漠然と考えたりしていたけれど。3月の24日には【桜の開花】とある。ご丁寧だ。

なんだか調子が狂うなぁ。誰かの悪戯書きオプション込みのものを買ってしまうなんて僕の年末はアンラッキーだ。いやもしかしたら、来年までまとめてアンラッキーかもしれない。はあぁと大きな溜息をついたままベッドにうつ伏せになり、そのままその日は眠ってしまった。


 翌日は大変だった。忘年会で愉しんでいたところに上司から電話があり、「年末に目を通しておきたいから、報告書の草稿を持って来い」とのことだ。うへぇと思ったが渋々タクシーを飛ばして会社に戻り、未完成の報告書のコピーを渡した。
そのせいで、なのかそのお陰で、なのか。
いつもはあまり直接的な個人指導をしない上司が、僕の報告書の作成癖や言葉遣いなど事細かに指摘してくれた。それは大層有難く有益なアドバイスで、他の社員が居ない席で僕だけがその貴重な指示を受けることができたという嬉しさがあった反面、手元にある未完成の報告書に大幅な手直しを加えなくてはいけないことでもあって、これはスノボどころではないかも・・と心の中で苦笑せざるを得なかった。

深夜2時に帰宅し、報告書作成のノルマを組み直さないといけないぞ、と思って真新しい手帳を開いた。すると、ある意味では至極当たり前な状態である空白のページが僕の目を釘付けにした。

あれ、1月第一週の予定がなくなってる。昨日見たときは、誰かさんの落書きによると僕は旅行のはずじゃなかったっけ?
1枚戻して、今日の日付の所にはやっぱりある、【届けもの】。
あ、そうか。もしや。

今日の出来事によって直近の予定が狂って、報告書作成に邁進しなくてはならなくなった僕は旅行に行っている場合ではなくなったということか。じゃぁこれって、書かれっぱなしじゃなくて、日々の暮らしぶりによって変化するということ?
確かめてみたいところだが、まだ僕は自らこの手帳に予定を書き込んでいないし、さすがに殆どのページが空白だからそうもいかない。取りあえず、1月6日に【報告書提出】と自分の手でひとつめの予定を書き込んでみた。
自分が書き込む予定が勝手に延長されて締め切りを破ってしまうことのないように、今後とも心して監視を続けなければならない。予定の監視だなんて、何だか愉しいことになってきたぞ。

一応、と開いた【桜の開花】は26日になっている。寒波が厳しくて遅れたのだろうか。更に2枚めくると、4月5日には【桜見】とある。
平日ど真ん中なのに、僕はどこかで桜を見るつもりでいるらしい。




あほバトン。

2005-12-23 | 伝達馬豚(ばとん)
【Q.1:理想の女(男)が記憶喪失で落ちている。】

取りあえず、色々なものへの感謝を込めてまず拝む。
それから、何かの罠ではないかと警戒しつつも、欲望に打ち勝てず持ち帰る。
そして、心を込めて飼育する。

【Q.2:歩いていたらサインを求められた。】

使用目的を確認し、問題がなかった場合、その場で思いついた男性の名前を書く。

【Q.3:引き出しからドラえもんが出て来た。】

騒ぐと困るので四肢を拘束し猿轡をかませ、即オークションにかける。
手放すまでの間、自分の身を守るためにどら焼きで懐柔することも忘れない。

【Q.4:殺し屋に「死に方くらい選ばせてやるよ」と言われた。 】

言葉を広めに解釈し、死に場所も同時に指定する。
「サハラ砂漠で、脳天を一発で打ち抜いてくれ。それ以外は認めない。」
サハラに行くのが面倒だと思う程度の殺し屋であれば、生き延びることもあり得る。


【Q.5:見知らぬ大富豪に遺産を遺された。】

不動産だった場合、現金化するべきかどうかをじっくり考える。
知人を通じて、決して事が表に漏れないように心掛ける。

【Q.6:初対面で「B型?」と聞かれた。】

「へぇ、根拠は?」と訊く。
根拠を聞いたら「ふぅん、そう見えるのね。」と答える。
最終的に、問いには答えず、無視する。
(※B型嫌いというのではないです。友人はBが多い。)

【Q.7:預金残高が増えていた。】

何かの罠ではないかと疑う。
次の機会に預金残高が減っていると困るので、余剰の分を別口座に移して経過観察。

【Q.8:カモシカの様な脚にされた。】

走ったり跳んだりして、ポテンシャルを確認する。
その脚に似合うお洋服を早速買いに出掛ける。

【Q.9:前に並んでる人に「俺の背後に立つんじゃねぇ!」と言われた。】

「じゃぁ、こっち向いて立ったら如何?」と微笑む。

【Q.10:「犯人はあなたです!」と言われた。】

「うっそ、初耳!」と言う。

【Q.11:鏡を見たら目がヤギ目になっていた。】

瞳が横三日月状態というのはシュールで面白いだろうので、飽きるまで放っておく。

【Q.12:尻の割れ目が消えた。】

思いつく限りの悪態をつく。
信用できる人々の力を借りて、最上の形成?整形?外科を探しまくる。

【Q.13:偶然手に取った本の主人公が、明らかに自分だった。 】

作品を乗っ取り、結末を自由に書き換える。

【Q.14:モナリザがこっちを見ている気がする。

手を振って笑顔で挨拶をする。
「だけど、着いてきちゃ駄目よ。」と念を押す。
懐かれるとあとが大変そうだから。

【Q.15:バトンを渡す人】

いつものことだけれど、どうぞご自由に。
土に埋めて保存しておくから。



冬の耳。

2005-12-21 | 春夏秋冬
 今日こそは課題のレポートを仕上げようと思って図書館へ行った日のことだ。
目に付く紅いマニキュアをした女が本を何冊も両手に抱えて、どっこいしょ、という感じで僕の隣の机に腰を下ろした。ぼろぼろの背表紙と愛想のない黒や茶色の本たちの間に爪の紅が食い込むようで、そのアンバランスさが妙に綺麗に見えた。

僕も女も、黙々と本に目を落とし始めた、つもりだった。
女の呼吸は下手くそな篳篥のようなひゅぅひゅぅいう音を立てて、その音が微かであればあるほど余計に耳についてしまって、僕を苛々させた。久しぶりに図書館に来たっていうのに、席取りを失敗したかな、と思って僕は忌々しい気分とともに女のほうを一瞥した。
 
 女は、本のページをめくるたびにはらりと落ちてしまう前髪を邪魔そうに耳にかける仕事を繰り返していた。僕の目はその耳に釘付けになった。細い髪の束が耳にしっかりかかっている間のみ確認できるのだが、耳が明らかにぱたぱたと羽のように動いている。自分が見たものの意味が判らなくて、女がページをめくって再びはらりと髪が落ちると、もう一度その髪をかき上げて耳が露わになるのを待った。二度目のときも、やっぱりぱたぱた、と耳は動く。僕がぽかんと口を開けてしまっているそのときに、女は髪を右手の指に絡ませたまま、僕のほうに視線をふっと向けた。

女はまず、僕の顔を見てくくっと笑った。
「あ、気になる?ごめんなさいね。」
「あ、いえ、そんなことは。どうもすみません。」
何を言っているんだ僕は。ばか丸出しのような台詞に自分ですら呆れる。

「わたし、暖かいところで生まれたから、冬が苦手なの。冬になると空気が冷たくて気管支がきゅうぅって縮こまってしまうの。だからその代わりに、耳で補助的に呼吸ができるようになっているのよ。」
「は?耳で、呼吸?」
何を言っているんだこの女は。見たところおかしな人でもなさそうだし・・かといって僕もおかしくないぞ。その耳がおかしくなくて、何がおかしいっていうんだ。
混乱している僕を置いてけぼりに、至極当然といった調子で女は続けた。

「あぁ、あなたはまだ会ったことないから知らないのかしら。わたしの場合は耳だから目立っちゃうんだけど、結構いるのよ、わたしみたいな人。逆に夏の暑い季節になると気管支が拡張しちゃうから困るっていう人もいるしね。わたしの知ってる限り、他の人は耳じゃなくてたとえばそうね、爪とか、髪とかが一般的だけど・・面白いところではおへそとかで呼吸を補助できる人もいるのよ。いいわよね、そういう人は目立たなくって。私の場合は耳だから、どうしても呼吸に合わせてぱたぱた動くのを止められないのよ。」

 そう話している最中も、女の耳は会話の途中で、普通だったら息を継ぐタイミングでぱたた、と動く。
確かに僕は札幌生まれだから寒さはそれ程苦手じゃない。かといって、夏にも別に呼吸に不便を感じることはない。今まで僕が出逢った人の中には、こんな不思議なシステムを持つ人は居なかった。いや、本当に居なかったと言えるのか?

相変わらずうむむと唸っている僕を見て、女は再びくく、と笑った。
「ごめんなさいね、お勉強の邪魔しちゃったかしら。でも、わざとじゃないから許して頂戴ね。今まで知らなかったかもしれないけど、こういう人もいるのよ。もう邪魔しないように移動するから、じゃぁね。」

軽く手を振るのに合わせてその耳をぱたぱたっと振りながら、女は何事もなかったかのようにまた重そうな本を抱えてどこかへ行った。


 生物系の研究をしている友人がかつて云っていた言葉が脳裡をよぎった。
『人間・・に限らないんだけど、まぁ生物の身体ってさ、本当に複雑なんだけど、本当によくできてるんだなぁって最近特に思うんだよねぇ。』



携帯バトン。

2005-12-18 | 伝達馬豚(ばとん)
 頭を使わず気分転換。
バトンが量産されるのにはそのような事情があるらしい。
高等遊民であるはずの学生すらマッハで走る師走も中盤すぎました。
皆様いかがお過ごし。


【Q1:在使用中の機種は?】
vodafoneのV602SH。
評判悪いです。そりゃぁ、欠陥ありますし。

【Q2:現在使用中のメアドの意味は?】
マグダラのマリアに由来。
かつて研究対象だった画家の代表作だったりもするのだ。

【Q3:現在使用中の着信音は?】
九月の雨(JAZZ)

【Q4:待ち受け画面は?】
今は、熊野神社新宮「長床」(重要文化財)の裏の山林。(福島県)

【Q5:自分の携帯で入力して最初に出てきた文字を書こう!】
「あ」明日から
「い」意外で
「う」売って  (うん、ここまで普通っぽい)
「え」Excel   (ここから厭な予感・・)
「お」オブザーバ
「か」カリカリ
「き」気管支  (病弱キャラ出現)
「く」首    (回ってませんが何か)
「け」研究   
「こ」コトラー (やっぱり厭なものが出てきた)
「さ」最低限
「し」凌ぐ   (自分のことながら哀れな気持ちに)
「す」砂    (世界は砂のようなものだ)
「せ」宣言
「そ」側近   (誰だよ)
「た」退院   (誰が?)
「ち」調教   (それこそ、誰を?)
「つ」潰し   (いいねぇ、潰せ潰せ)
「て」手榴弾  (あれ、あたしこれ「しゅりゅうだん」って発音するのにおかしいな)
「と」東京   (帰りたい・・)
「な」悩んだ  (同じ画面に「悩む」もありました)
「に」煮詰まり (同じ画面に「煮詰まって」もありました)
「ぬ」盗み   (ないない)
「ね」念のため (慎重なのはよいことだ)
「の」ノルマ  (あぁもうダメですね)
「は」早めに  (早め早めは基本ですね、できないけど)
「ひ」人差し指
「ふ」不憫   (わたしのことですね)
「へ」凹む   (同じ画面に「凹んだ」「凹まされて」ってどんだけ<以下略>)
「ほ」保険
「ま」マニキュア
「み」見てるから
「む」無理が  (「が」がいい余韻を醸してるね)
「め」メイン
「も」戻ってきた
「や」やる気  (出せよ!)
「ゆ」夕方
「よ」吉田が  (吉田が・・どうしたっけ?)
「ら」ライター
「り」リハビリ (人生リハビリ中)
「る」ループ
「れ」レス
「ろ」論文   (痛っ)
「わ」我ながら
「を」を
「ん」んだね  (ほだね)


携帯履歴で自分の最近の生活習慣病を早期発見することができるらしいぞ。


砂漠の雨。

2005-12-17 | 徒然雑記
  最近、どうにも色々なことがうまくゆかない。
本来私は、自分自身のことや自分の周囲のことを思い通りにしたいという欲求があまりないほうであるから、「うまくゆかない」というのはきっと事象の展開の仕方ではなくて、事象を映し取って食餌にするために分解する過程での自分の心の処理機能の不備によるものだと思っている。
ちょっと乱暴に使い過ぎたのか、寒い気候が続くせいなのか、ちょっと休みを与えて暖めてやったりしたらすぐにでも治りそうなものなのだが、電気機器に自浄作用や自然治癒能力がないのと同じで、自分の心がひとりでに休んだり風呂に入ったりしてくれるはずもないので始末に悪い。迷路の中で同じ袋小路に何度も何度も突き当たってうろうろと戸惑っている実験マウスを上から覗き込むときと同じようなもどかしさを感じながら、「うまくゆかない」心を抱えて悪態をつく。


 「生命や魂が埃で曇ったとき、きっと私はこの地が恋しくなる。」
 数年前の風が吹きすさぶある日、砂まみれになったメモ帳にミミズの這ったような字で私は予言をした。
そして何年かあとの冬を迎えて、私は自分の予言が当たったことを知った。より正確に云うならば、そのような予言を私自身がしていたことを思い出したのだ。

 「ねぇ、あそこだけ、緑の草があるよ。」
予言をした前日、髪の中から耳の中まで見事に砂だらけになった私は砂漠の民に問うた。
「あれは、ワジ。地下に水脈があるんだよ。ほんのたまに砂漠にも雨が降ってね、そいつらは地上に留まっていることはできないけど、こうして地下にちょっとの間だけ流れることがあるんだよ。いいものを見せてあげよう、おいで。」

手を引っ張られ、風化が激しく鋭い突起を幾つも振りかざす岩壁のふもとに連れてゆかれた。滅多に降ることのない雨を凌ぐ必要は恐らくこの地においてはないのだろうが、「雨風を凌ぐ」ことができそうな窪みがいくつもあった。
岩壁で目にしたものは、数千年以上前にそこに居たはずのキリンや象、ワニや馬の姿だった。2センチほどの草しか生えないこの場所は遥か昔、河だった。うっかり、緑生い茂り動物の闊歩する広い広い大地が見えるような気がしたが、この広い砂場を多い尽くす緑を結局私は想像することができなかった。
 

 私が私の予言を思い出したのは、甘美な窒息の最中のことだった。
私を構成するもののどこか判らない一部を、しかし何らかの確証をもって愛してくれているらしい男の下に組み敷かれ、いつもの窒息とともに自分の身体がぐずぐずと砂のように崩れ落ちる。自分さえ掴みきれない感覚と細い意識の中で、どうやら私は微笑むらしい。
私は、哀しくても笑う。淋しくても笑う。幸せだと、あまり笑えない。
だけど、そのときだけは本当に幸せそうに笑うのだそうだ。

笑いながら崩れ流れてゆかんとするまさにそのころ、私の顔に男の汗が滴り流れ、その思いがけない衝撃に驚き、分解されそうだった肉体が一瞬その身に引き戻された。自分の身体の遥か遠くのほうから聞こえる微かな水音と私の顔を塗らす男の熱、そして気化熱の寒さに感じる瞬間的な蒸散。あぁ、これを私は知っている。
「・・砂漠の雨よ。」
聞こえるかどうかの声で呟いた私の閉じた目蓋には砂漠の強い風に舞うきらきらした霧雨が映っており、砂漠を充たすことのできない雨は私の目蓋を簡単に充たし、しかも少しだけ溢れて左目から一筋の川を作った。男は返事をしなかった。雨がいつも黙って唐突なタイミングで私をびしゃびしゃにして困らせるのと同じだ。

50度を超える灼熱の大地をほんの一瞬鎮める雨。翌日には跡形もなくなる一瞬の奇跡のような砂漠の雨の下で躊躇わずに砂に身を投げた。その熱と雨との間でこのまま大地に溶けてしまいたいという欲求が心の奥底から堪えられずに頭をもたげ、狂気の笑いを上げた。そしてその晩の雲ひとつない煌々とした月明かりの下であの予言をしたのだっけ。
 

「ねぇ、また砂漠を私に見せてくれるかしら。」
雨雲は既に去り、整った寝息だけが返ってきた。
私は目を閉じて目蓋に砂漠の残像を探したけれど、そこにも既に風が吹いて砂丘の輪郭を認めることができなかった。


 

言葉バトン。

2005-12-16 | 伝達馬豚(ばとん)
ここ数ヶ月において、最もくさくさしている今日でございます。
触れるもの皆傷つけてやるぜ、かかってこい的な今日でございます。
皆さま、いかがお過ごし。

こんな精神状態の時に受けたバトンには、それが反映された回答になるに相違ない。
やさぐれバトン、果てさてどうなる。


【Q1:好きな言葉は?】

ありがとう。
またね。
だいすき。

【Q2:あなたの口癖は?】

「どうして?(なんで?)」
右脳で受信&左脳で発信の人です。感覚の確証を、言葉で補完したい。

【Q3:あなたにとって最大の褒め言葉は?】

「惚れそう(惚れた)。」
似たようなのでは、「マユさんが男だったら、絶対告白してます!」
似たようで似てないのは「今からでも遅くありません!男になってください!」
・・遅ぇって(苦)
これに加え、最近では「萌えた」率も高くなってきており、本人至って困惑中。

【Q4:普段、出来るだけ使わないようにしている言葉は?】

「退屈。」
幼い頃の口癖だった。大人になって、退屈は心の中に住まうものだと知った。
「どうせ・・」
虫唾が走る。だけどたまに、ふっと心に浮かんでしまい、どきっとする。

【Q5:最近、言われて一番腹の立った言葉は?】

「あんたは恵まれてていいよね。」
リアルなやつを選んでしまいました。
そういうあんた、あたしの何を知っているっていうの?

【Q6:一度言ってみたいが、きっかけが無かったり、何らかの理由でまだ言ったことのない言葉は?】

「地獄へ落ちろ。」
昔、秘書をしていた時の社長が、机をどかどか叩きながら電話口で
「Go to Hell !!」と叫んでいたのを隣室で何度も耳にした。
云われるのはかなりびっくりするが、一度云ってみたいなぁとも思う。
因みに、この社長には、人生で一度きり、「死ね!」と云われたことがある。
大層、新鮮であった。

【Q7:普段何気なく使ったりするけど、実は意味を理解していない言葉は?】

「美しい」
美しいものがすき。美しいものが欲しい。美しいものは私に泪を流させる。
だけど、「美しい」ってどういうこと?

【Q8:普段の生活において、思ったことの何%くらいを実際に言葉に出してる?】

3割~4割。
それを8割強に膨らませるワザが円滑なコミュニケーションの為に必要となる。
云えないよ。ほんとのことなら、なおさらね。

【Q9:面と向かっては言えないけど、メールでなら書けるってどんなこと?】

愚痴とやつあたりっぽいこと。
思ったこと云えないんだってば。

【Q10:プロポーズとして、言いたいor言われたい言葉は?】

連理の枝、比翼の鳥(嘘)。

【Q11:今日で死ぬとしたら、最後に誰に何を言いたい?】

みんな、わたしを愛してくれてありがとう。
おかげでわたしは、生きることができました。

【Q12:人生において「ありがとう」と言った数と言われた数はどっちが多かったと思う?】

多分、云われたほうが多い。
だけど、云いそびれた分も含めて、いっぱい云いたい。

【Q13:現時点で最後に発した言葉は?】

「いただきました。」
(※「ごちそうさま」の方言。ひとりの部屋で呟きました)

【Q14:あなたにとって言葉とは?】

絵具であり、絵筆。
既成の言葉で足りない想いや感情や風景やイメージを描いてみせるための、
人が作り出した不完全だけど現時点では最良のツール。

【Q15:このバトンを誰に渡す?】

架流真は必須(笑)
あとは、適当に拾ってくりゃれ。



硝子の眼 Ⅷ。

2005-12-14 | 物質偏愛
 世界には、こんなにも沢山の色があったのだっけ。

なぜ僕は今まで、そのことを知らなかったのだろう。
そしてなぜ今頃になって、そのことに気付いたのだろう。

僕はもともと、白という色が大好きだった。子供の頃に写生大会があると、いつも空を白く塗るものだから、「空の色はこんなじゃないでしょ。もっと晴れているでしょ」といつも先生に青色で塗るように強制されたものだった。そんな具合だったから、学生時代には部屋じゅうを白で溢れかえるくらいにしたくて、様々な形をした、様々な艶を持つ、実はそれぞれ微妙に異なる白い色をしたものを、お金の続く範囲でこつこつと蒐集しては部屋いっぱいに陳列した。

本棚に収まるほどの、人体と、もうなんだか忘れてしまった小型哺乳類の骨格模型。朝鮮半島の白磁のレプリカ。白硝子だけで出来ている小さなシャンデリア。綺麗に抜けた自分の親不知。日本国内や東南アジアで拾ってきた色々な形の貝殻。塗り絵用に販売されている、輪郭線だけの北斎の富岳百景。建築学部から無理に譲り受けたデッサン用のトルソ。白い色した砂や貝や硝子の破片だけを入れて貰ったオーダーメイドの万華鏡。最も気に入りだったのは、様々な関数を立体で表した数十個セットの石膏模型たち。
5年の間にそれらは着々と僕の部屋を占領し、僕の心をどこまでも白く清浄に浸食していった。

 引越しに際して、その殆どの白を処分しなくてはならなかった。幾つかの小さなものや折り畳めるものをなんとか手元に残して、どうにも大きくて仕様のないものや、またいつでも手に入るだろうものを泣く泣く手放した。友人たちにも、リサイクルショップでもなかなか引き取って貰えないものばかりだった。
白く澄んでいた僕の心は、どんどんと色褪せてゆくに違いないと予感した。
紅い生物を食せなくなったフラミンゴがその羽の色を急速にくすませてゆくように。

 今の家に持ち込んだ最も大きな白は、部屋の一等地を占める白い艶やかなテーブルだ。これは学生時代に奮発して買った最も高価なものだったという思い入れもあるし、何より実用的だった。これを手放すなんて全く考えることができなかった。
実に長い間、朝に夕にその艶めきを変化させる白いテーブルが、僕の心の安定剤となっていた。朝にこのテーブルに向かうことで僕は悪夢をリセットし、夜にこのテーブルにつくことでその日の疲れや膝下に引き摺ったあらゆる面倒を一分の憐憫もなく斬り捨てた。 


 なのに。

 今になって僕の目を奪うのは白いテーブルの艶でなくて、その白の上にちょこんと座る人形のドレスの藤色であり、唇の紅であり、金色の髪であり、とび色の瞳。

白は空の色でも僕の心の色でもなく、何か別の存在がそこに在ることを示すための受け皿としての世界の色であった。白が絶対だった僕の心には僕しかいなくて、僕そのものが僕の世界だった。
空を白く塗っていた僕は間違っていた。だけど「空は青よ」と云った先生もまた間違っていた。白にいろんな白があるように、空は数え切れないほどの空の色を持っていて、水は「透明」という言葉の向こうに確かな水の色を持っていた。

 僕の心は色褪せるどころか、日々様々な色を混濁させるようになった。
 藤色の微かな波と鋭いとび色を中心として、心が綾に織り成されてゆく。
 相変わらず殺風景なはずの僕の部屋が、色彩に溢れてゆく錯覚。
 
 僕は、色彩に溺れて息がつげない。




硝子の眼。
硝子の眼 Ⅱ。
硝子の眼 Ⅲ。
硝子の眼 Ⅳ。
硝子の眼 Ⅴ。
硝子の眼 Ⅵ。
硝子の眼 Ⅶ。





経験バトン。

2005-12-12 | 伝達馬豚(ばとん)
頭を使わないバトンを拾ってみたよ。
この時期には好都合やもしれぬ。結構おもろい。

【ルール】経験したことのある物には○、無い物には×を付ける。

○ 入院 2度かね。  
○ 骨折 2度かね。最近は昨年。ヒビはプラス3回。
○ 献血 高校の頃、学校に強制的に献血カーがきた。
○ 失神 普通、あるよね?
× 結婚      
× 離婚      
× フーゾク   
○ エスカルゴ モロッコのマラケシュのやつはどっちかというと「カタツムリ」。
○ 万引き 電気屋さんのディスプレイのビー玉があまりに綺麗でね(笑)
○ 補導 成人したあと、新宿で煙草吸って人待ちしてたら、補導未遂。
× 女を殴る
○ 男を殴る
○ 就職
○ 退職
× 転職
○ アルバイト 
○ 海外旅行 
× ギター 指が傷ついてすぐ放棄。
○ ピアノ 13年間。
× ヴァイオリン やっときゃよかった。
○ メガネ 顔の一部というか、顔です。
× コンタクト 怖い。
○ オペラ鑑賞 
○ 歌舞伎鑑賞
○ 文楽鑑賞 睡魔と戦い。
○ 落語鑑賞 最長4時間半粘る。
× ラグビー みるだけ。 
○ ライヴ出演 エキストラで2度ほど。
○ 合コン 数合わせで一度だけ。 
× 北海道 
× 沖縄 
× 四国 
○ 大阪 
○ 名古屋    
× 仙台       
○ 漫画喫茶 パーティー前の時間潰し。アオザイで秋葉原はいいカモだったと反省。
○ ネットカフェ 上記の反省を元に、VIP個室をゲット。
○ 油絵    
○ エスカレーターを逆走 
× フルマラソン
○ 自動車の運転 
× バイク運転 
○ 10kg以上減量 使用前はえらいこっちゃ。
× エステ
○ 交通事故 空を飛んでいるときにスローモーションになるというのは嘘だ。
○ 電車とホームの隙間に落ちる 片足だけね。
× お年玉をあげる 
○ ドストエフスキー    
○ 大江健三郎 
○ ゲーテ       
× 一万円以上拾う 
× 一万円以上落とす 
× 徹夜で並ぶ 奥の手使わなきゃ。
× 金髪
× ピアス
○ 50万円以上の買い物   
× ローン     
○ 両国国技館 地下は名物の焼き鳥工場なんだよ。
○ 日本武道館 大学の入学式だけなんだけどね。   
× 日清パワーステーション なぁにそれ。
× 横浜アリーナ
○ ラヴレターをもらう   
○ 手術 手術待ちのとき、同席した母親が別の病人にナンパされてた。
○ 選挙の投票
○ イヌネコを飼う 
× 一目ぼれ 
× 幽体離脱
× 前世の記憶
× ヨガ
○ OSの再インストール 卒論がぶっとんで留年した忌々しい記憶とともに。
× ヴォイスチャット 
○ 先生に殴られる  
○ 廊下に立たされる オプションはバケツでしょ。 
○ 徒競走で一位
○ リレーの選手 補欠だけは絶対ヤダ。    
× メルヴィル
○ 妊婦に席をゆずる  
○ 他人の子どもをしかる  
○ 20過ぎてしらふで転ぶ どっちかっていうと、下り階段を落ちる。 
○ コスプレ 女王様専門ですけど、なにか。
○ ジャケ買い 
○ 同棲 厳密には、二重生活。
× ストリート誌に載る   
× 2メートル以上の高さから落ちる
○ ものもらい まさにいま。
○ 学級委員長 
× ちばあきお
× ちばてつや
× 岡崎京子。       
× 南Q太
× 恋人が外国人 クォーター。微妙すぎ。
× 治験          
× へそピアス
× 刺青 やってみたいんだけどね。
○ ナンパ  
○ 逆ナンパ  
× 蒙古斑 
× 出産
× コミケ
○ 飛行機
○ ディズニーランド
○ 一人暮らし
× スキー
× スノボ
× サーフィン
× フジロック
○ 異性に告白      
○ 同性から告白される こっちのほうが多い気がしないでもない。
× 中退
○ 留年
× 浪人
○ 喫煙
○ 禁煙 見事に失敗。
× 酔って記憶をなくす
○ 出待ち
× 飲酒運転 
○ 公文式 進度上位者大会って、知ってる?
× 進研ゼミ
○ 結婚式に出席 
○ 葬式に出席
× 親が死ぬ
× 喪主
× 保証人
○ 幽霊を見る
× UFOを見る
× 先生を殴る
× 親を殴る
○ 犯罪者を捕まえる 痴漢ひとりゲッツ。
○ ケーキを焼く
○ 三島由紀夫 読んでない日本人は困るなぁ。
○ 尾崎豊 
○ ビートルズ
× スピリタス
○ サイト運営     
× キセル
○ 読経
○ 食中毒 二度ほど。膝が笑うってこういうことなのね。
○ 無言電話 上級編として、エンドレスFAXっていうのもあるよ。 
○ ピンポンダッシュ 
× 決闘 ・・デュエル?
○ 踊り食い しらす、面白いよ。  
× 同人
○ ドラクエ
× ガンダム

粒子のきらめき。

2005-12-09 | 物質偏愛
 サハラベージュ。

その名前に一目惚れして即購入してしまった。
石灰岩の淡い黄色に氷砂糖を砕いたような石英の透明な粒子が混じった砂が太陽をはね返して乱反射する。それがサハラの色だ。
近くで見ると、その乱反射が不安定でとても硬質な眩しさに撹乱されて焦点が合わなくなり、何度も目をしばたたかせてしまう。なのに遠くで見ると、柔らかいほんわりとした光を表面に纏う、どこまでも続く貴族的なビロードのうねりだ。

硬質なのに柔らかく暖かい、きらきらしたあの厳しい大地の色を爪に纏うことができるなんて!

なんて素敵なことだろうと妄想が驀進し、是も非もなく購入。
まだ綺麗だった冬の雪色をしていた爪をあっさり落とし、サハラの色を塗り始める。

・・が。

石灰岩の色じゃなかった。あの艶じゃなった。
銅を含んだ、粒子の細かい砂岩の色だ。布の織り目さえものともせず服を通り越して肌に纏わりつく桃色に輝く微粒子。
これは、ヨルダンの、ワディラムの砂漠の色だよ。


あぁそういえば、サハラって、「砂漠」って意味だったね。
ならば、どこの砂漠の色でもいいんだ。

私の記憶する全ての砂漠の色を、揃えたい。


シークレットバトン恋愛編。

2005-12-06 | 伝達馬豚(ばとん)
またきたよバトン。
しかも、こんな時期のやさぐれたおねいさんに向かって、恋愛ものだよ。
   
    嘆息。


●誰から回ってきたか、と、質問内容は、シークレットです。
●質問の答えのみを、日記に書きます。

というのがルールらしい。知るか。
・・と云いつつ、凝りもせず律儀にやってみる。
でも、読んでもあんまし面白くないと思うよ~。


Q1:Yes

Q2:・・え、居ないことってあり得るの?

Q3:a)2度。 
   b)2ダースくらいか?

Q4:a)1ダースくらいか? 
   b)2度。

Q5:爬虫類。特に蜥蜴とかイグアナとか蛇とか

Q6:背中・腕・手

Q7:無理無理。大事件でもないと無理。

Q8:ケースバイケース。社会心理学的戦略。

Q9:3~5。

Q10:オールオッケー!

Q11:勿論Firstでしょ。

Q12:ピタ。架流真。



硝子の眼 Ⅶ。

2005-12-05 | 物質偏愛
 四六時中テーブルに腰掛けさせられているものだから、最近では日々の移ろいがとても遅く感じられるようになった。

朝日が差してきて、人々の足音がざわざわと聞こえてくる頃に、眼鏡野郎がのそのそと起きてくる。珈琲の香気をゆっくりと愉しむ間もなく男は家を出てゆくが、ひとりになったわたしはゆっくりと冷めてゆく珈琲の色と香りを知ることができるようになった。

冷え切った部屋にじんわり立ち昇る湯気と、表面に薄っすらと模様を描く湯気の子どもたち。波が立っている訳でもないのに、白い膜が褐色の液体の全面を覆うかと思えば、カップの端にきゅぅっと身を寄せたり、縄跳びの縄が地面を撫ぜてゆくように膜が蛇腹のように押し縮められて流れたりすることをわたしはずっと知らなかった。白い膜はある一定の時間が経つと、示し合わせたかのようにすっと一斉に居なくなってしまう。そして沈黙が残り、褐色の液体は白いカップの内側にくっきりとした円を描いて、冷めながら少しずつ、ほんとうに少しずつ蒸発してゆく。
煮詰められた褐色の細い線がカップの内側に三周ばかりできる頃に、男は帰ってくる。


 男のげしげしいう咳は最近やっと静かになったものの、いっときはそのげしげしいう音とともに、私の冷たい爪と同じ色をした液体を、ほんの少しばかりだがこの白いテーブルに飛び散らせたからわたしはびっくりした。見たところ、人間の身体には見たことのない色が突然口の中から出てきたものだから、わたしはなんだか今まで内緒にしていたものを唐突に見せられたような驚きと苛立ちとを同時に感じた。

男自身は別段驚く風情でもなく、白いテーブルに綺麗な色の模様を作ったそのしぶきを無言で綺麗に拭き取っていった。わたしはもう少しその色を見ていたかったので更に割り増しの苛立ちを覚えた。まぁいいか、またいつか見られるだろうと思っていたのに、あれ以来その色をわたしに見せてくれることがない。

秘密の一部を打ち明けたのなら、全部話してほしいと思うだろう。
一度口付けをされたなら、またして欲しいと思うだろう。
ほんとうにあの男といったら、無粋極まりない。つまらない。


 眼鏡野郎はどうやら「一度きり」わたしを驚かせたりするのがすきなようだ。

昨晩は、窓から見える銀杏という綺麗な色をした木の葉を両手いっぱい拾ってきては、座っているわたしのドレスの裾あたりを囲むように撒き散らした。長らく外気にさらされていた葉は勿論凍えるように冷たいのだけれど、しなしなとした柔らかさと水の香りがして、それになによりドレスの色とのコントラストが綺麗で、ドレスの裾に絢爛としたレースの裳裾を取り付けたように華やかなものだったから、わたしはかなりその趣向を気に入った。もしも踊ることができるのなら、幾重にも重なるレースの葉を引きずりながら、そして両の手を空に向けながら、水の香りを振りまいてくるくると回ってみたかったくらいだ。

 現実的には踊ることはできないのだし、無益な欲求を覚えさせる契機となったことについてはやっぱり苛立ちを覚えないでもないけれど、今回ばかりはまぁそれでもいいか、と思う。




硝子の眼。
硝子の眼 Ⅱ。
硝子の眼 Ⅲ。
硝子の眼 Ⅳ。
硝子の眼 Ⅴ。
硝子の眼 Ⅵ。



印象バトン。

2005-12-03 | 伝達馬豚(ばとん)
マイまな弟子(註:まな板の上の弟子)「架流真」から直々に渡されてしまった。
弟子は師匠の背中を見て育つというらしいので、ここで放棄するわけにもゆかない。不肖の弟子とか公言するようになってしまったら、それは私の責任になる。いかんいかん。早く私を超えてくれ。

ということで、相変わらず律儀にやってみよう。
だってこの夜中、論文煮詰まっているのだもの。


【回してくれた方の印象。】

繊細。優雅。ナルシス。

【周りから、自分はどんな子だと思われてる?5つ。】

妖怪。変態。偏執狂。姐御。繊細。


【自分の好きな人間性について5つ述べてください。】

侠気がある。吝嗇でない。博学。感性豊か。エロ。


【では反対にキライなタイプは?】

卑屈。筋肉脳。やどり木。「遊び」がない。「思い遣りってなに?」。


【自分がこうなりたいと思う理想像とかありますか?】

愛染明王・観音菩薩・普賢菩薩のいいとこどり。

えー。これについては、最近吐血とかいうなにやら愉しそうなイベントをしていた知人から突っ込みメールが入りましたので補足。コメント書けよ・・
(引用:せっかく邪な部分を残して現世にコミットしてる菩薩や明王から
    如来になっちゃうよ。
    いか~~~ん   もすこし邪悪な浮世にロマンをふりまけ!)

はい、わたくしも、如来にステップアップしたいのでは毛頭なく、
愛染明王の愛欲万歳なところとか、威嚇とかできそうなところと
観音菩薩の何にでも好き勝手に変身できちゃう胡散臭さと妙なカリスマ性、
普賢菩薩の多分かなり賢いのにどこか偏屈そうなところとか、
そういう「自分にとっての美味しいとこどり」をしたかったわけなのです。

こんなところに忠実に「それはおかしいぞ!」と云ってくれる方がおわすとも思わずに不親切な表記となっておりましたことを、切にお詫び申し上げる次第。 



【自分の事を慕ってくれる人に叫んでください。】

あなたが飽きるまでずっとそばにいてください。だいすきです。


【そんな大好きな人にバトンタッチ。(印象つき)】

いつもの如く、誰でもいいよ。
大好きなひとでなくとも、私のことを苦手とする人でも大歓迎よ。やって。