頭が弾け飛びそうな頭痛も一段落し、枕元の窓を開けると青空に伸びる笛の音が聞こえた。
久々の晴れ間は、曇天に俯いている隙に最早過ぎ去ってしまった春が遠ざかりゆく足音とその後姿とを明瞭に自覚させて、私の心に誰のせいでもない後悔をふと呼び起こす。
不安な程に高く抜けゆく竜笛の音は、しゃらしゃらと擦れる竹の葉の音を柔らかいクッションにして、安心してその身をしゅると長く伸ばす。そう、たとえ崩れ落ちたとしても、足元の竹林がその身を支えてくれるのだから。
それはまるで一面に敷き詰められた柔らかな緑の苔に囲まれた中に一本すっくと伸びる檜の大木。目を細めて人はそれを見上げ、ほうと嘆息する。檜は自らの足元を固く覆い包む苔の柔らかい湿度に安堵するからこそ、その枝を伸びやかに差し交わして人々の不躾な視線を受け止めることができる。
まさにそんな風情で、あの笛は。
阿弥陀仏を背に居並ぶ薄墨の手元から織り成されるヴィヴィッドな音の綾。鮮烈な音は四方を護る仏の領内を飛び出し、壁を突き抜け、外陣を巡る竹林に優しく戯れてから街に繰り出し、私の枕元に届いた。薄暗い堂内を充たし、収まりきらず、その身をどこまでも自在に届かせようと。
果てなく伸びる五色のリボンはときに絡み合って、ときにほどけて、揺らめきながら一瞬間私の耳をくすぐったのち、高い高い空へ。
その音の行方を追って振り向いた私の視線の先には、風にさざめく竹の葉にじゃれつく二頭のアゲハ蝶の淡いゆらめき。
春は、過ぎゆく。
久々の晴れ間は、曇天に俯いている隙に最早過ぎ去ってしまった春が遠ざかりゆく足音とその後姿とを明瞭に自覚させて、私の心に誰のせいでもない後悔をふと呼び起こす。
不安な程に高く抜けゆく竜笛の音は、しゃらしゃらと擦れる竹の葉の音を柔らかいクッションにして、安心してその身をしゅると長く伸ばす。そう、たとえ崩れ落ちたとしても、足元の竹林がその身を支えてくれるのだから。
それはまるで一面に敷き詰められた柔らかな緑の苔に囲まれた中に一本すっくと伸びる檜の大木。目を細めて人はそれを見上げ、ほうと嘆息する。檜は自らの足元を固く覆い包む苔の柔らかい湿度に安堵するからこそ、その枝を伸びやかに差し交わして人々の不躾な視線を受け止めることができる。
まさにそんな風情で、あの笛は。
阿弥陀仏を背に居並ぶ薄墨の手元から織り成されるヴィヴィッドな音の綾。鮮烈な音は四方を護る仏の領内を飛び出し、壁を突き抜け、外陣を巡る竹林に優しく戯れてから街に繰り出し、私の枕元に届いた。薄暗い堂内を充たし、収まりきらず、その身をどこまでも自在に届かせようと。
果てなく伸びる五色のリボンはときに絡み合って、ときにほどけて、揺らめきながら一瞬間私の耳をくすぐったのち、高い高い空へ。
その音の行方を追って振り向いた私の視線の先には、風にさざめく竹の葉にじゃれつく二頭のアゲハ蝶の淡いゆらめき。
春は、過ぎゆく。