Sweet Dadaism

無意味で美しいものこそが、日々を彩る糧となる。

江戸の華。

2006-07-31 | 芸術礼賛
 火事と喧嘩は江戸の華、と例えられる。
江戸の夏、肌にじくじくと染み渡る厭らしくも儚くいとおしい夏を象徴するような江戸花火。
例えるまでもなく、江戸の華とはつまり江戸花火と等しい。

 花火の種は、ゆらゆらと心許なげに天を目指して飛行する。それは弱弱しい羽虫が部屋の中に点された行灯の灯りにゆらりと引き寄せられるさまと同種の死の匂いに彩られる。本能的な残酷さに気付かないふりをした我々は、その危うい匂いに引き摺られ、花火の種が空に描く不安定な軌跡を期待を込めて見守る。その種が開花する一瞬を待つためでなく、種が種としてのすがたを、その命を失う一瞬を心待ちにして。
 そのとき人は、薄く笑った形の口を結んで、子供のように空腹な目を輝かせる。ただ待つということを純粋に愉しむ顔を、人は幾つになっても忘れることがない。

 不安定な種は不安定なままに、空の真ん中でふとその光を失いかける。人はその軌跡を見失いかける。直情的すぎて自覚すら覚えない程の一瞬の不満足、忌々しい感情に口の端にきゅっと力がこもりかけるほんの一瞬前。見当をつけた種の軌跡とほんのちょっとだけずれた場所に、すべての忌々しさを打ち砕く華がぱっと咲く。
直前まで種のいのちの軌跡を目で追っていたことも、その軌跡を見失いかけて、脆弱と見くびっていたものに裏切られる気紛れな苛立ちも、全てを美しく破壊する光の拡散。それは。


 いのちの蒸散。
 いのちの昇華。

大きいのも小さいのも歪んだのも、それぞれが破壊的な美しさで次々と空を焦がし続ける。他者の昇華するさまを見て待ちきれなくなった奴らが後追いを仕掛ける狂乱の宵。

人は間抜けに口を開けてその乱舞に見惚れる。

自らの持ち得ない絶対的な華、持ち得るからこそ一層忌々しい不安定さ、思考を破壊される本能的なカタルシス。
自らの成し得ないことを、自らの身体からは到底生み出すことのできない破壊やら美やらを総て花火に背負わせた。だからこそ人はそれを作り、鑑賞し、それを貪る主体であるにも拘わらず、その心を刺し貫かれることにこんなにも寛容だ。

 
 生命と毒々しい色彩に彩られ、死や罪などの湿った力がふわりと浮かび上がる夏の宵。
 曇天をいっぱいに焦がし続ける華は、ひとつひとつが誰かにとっての贖罪となる。
 それは非常に身勝手な、どこまでも無意識な、浄化。


羽の名残。

2006-07-26 | 徒然雑記
 「空を飛べたらよいのに。」 男はわたしにそう云った。
 「そうね。晴れてたらいいわねぇ。」
男の言葉に実感の沸かないわたしにしては上出来な返答だと思った。

 空を飛ぶ夢なんて、記憶にある限り一度した見たことがない。唯一のそれだって、ターゲットロックオンされることを恐れて位置や高度を頻繁に変えながら、おそらく想像し得る範囲の最大速度でかっとばしていたものだ。新宿副都心の上空を、風景を楽しむ余裕すらなく、窓にきらきらと反射する眩しい真昼間の陽光に目を刺されながら、ビルをぎりぎりで掠めるように。速く、ただ速く。逃げた。
雲を見上げるわけでもなく、下界を見下ろすわけでもなく、私の視界に映るのは至近を流れ過ぎてゆく硬質なビルの壁と、斜め下方や真横という誤った方向から幾筋も折り重なって私を照らす陽の光。

はっと目覚めたとき、私は吐き気を覚えた。ハコに入らずに空を自由に飛ぶということは、必然的に酔ってしまうものなのだ、と妙に納得した。

 上空から下界を見下ろしたときの空の高さも淋しさも、ほんとうは蒼くもなんともない虚空も、雲の恐ろしさも知らない無邪気な子供がそう云うように、空を飛びたいと願う男は穏やかな笑みの端からちらと歯を覗かせて、天井に向けてまるで伸びをするように両の腕を伸ばした。その視線は多分、天井を貫いて、そのまた向こうの屋根を抜けて、雲を抜けて、その遥か向こうを見ているに相違ない。無意識に伸ばされた腕は、届かない虚空へ向かっての希求か。
ならばどうして、こんなにも、無邪気に。

ころんと肢体を反転させた男の背には、羽の名残があった。「名残」と呼ぶのが正確であるかどうかは判らない。しかし両腕の間のあたりにくっきりとしたカーブを描いて、「かつてあった羽をむしられたあとの基幹」あるいは「いつか羽がそこから生えるための基盤」のどちらかであろうひそやかな土台がそこにはあった。私は空を飛びたいと願うものではないけれど、正直なところ少しだけ、羨ましい、と思った。

私はその羽を掌でぎゅっと摑んだ。確かな反発と、身体の中でぐいっと蠢く動力と熱が伝わってきた。これは、飾りじゃない。私はそれを握る指に力をこめた。
私の脆弱な力なぞでは到底砕けない羽。男がかつて居たことがあるかもしれず、もしくはいずれ導かれることがあるのかもしれない、凄絶な世界へと繋ぐ縄梯子。

 くすぐったいと笑って抵抗する男の顔を見ないようにしたまま、この羽の行く先が気になって堪らない自分に多少の苛立ちを覚え、私は意地になってそこから手を離すことをしなかった。

私は羽なんて欲しくない。



こんな夢をみた【6】。

2006-07-19 | 夢十六夜
硬質で且つ甲虫の背のようなぬめりをもって輝く葉の表。みどりと呼ぶにはどす黒く、黒と呼ぶには物足りないとろりとした血流を感じさせる深い色をして。

この暗く内向きな情熱を外界に放出するのを怖れるかのように、表面ばかりをどこまでも厳しい盾として、その薄皮の裏でふるると震える血流を守っている。自らの力で自身を守るのには限界があろうし、守り切れれば平安だと思えぬ身勝手な強欲さは捨てきれない。だから、冬になるとこっそりと華を咲かせようとするのだけれど、普段慣れない「放出」をするわけなので当人はこっそりとしているつもりでも、とんでもなくだらしのないねっとりと熱い花弁をだらりと開かせてしまうのだ。そして人々の視線を引いてしまう自身に戸惑い、怖れ、春を迎える前にはまたぱたりとみどりの扉を閉ざして黙す。

椿という華に人が魅せられるのは、それがこんなふうに無計画で頼りない無邪気さと野蛮さを併せ持つからだ。当人がそれを忌み嫌うほどに、人は相対する無邪気さと残酷な視線を伴って、さも嬉しそうにそれを苛む。

この季節、忘れ去られようと努める椿は、心の熱をほんのり帯びた、それはそれは硬い実をつける。我が家の近所の神社境内には、子供の目線ではその華や実の姿を捉えることが困難なほどの椿の巨木が一本ある。じっとりとした湿気が肌を覆うような初夏の宵、神社の杜はひいやりとして僕の身体を優しく冷ます。まだ日が落ちきらない間、ときには蝙蝠の影を目で追いながら、僕はこの椿の下のベンチに腰掛け、肌には決して届くことのない、覚めた椿の熱情に寄り添う。

ある七月の宵まだき刻、いつもとは違うざわめきを、その椿から僕は感じた。少し不安になりながらも、僕はいつものように椿に寄り添って座っていた。黙ったまま、その枝を見上げることもなく前を向いたまま、しかし明らかに何かを待つ姿勢で。

ほどなく、木がふるっと一瞬だけ揺れたような気配ののち、硬い実がぱらぱらと僕の頭上から降ってきた。ケラケラ、クルクルという嗤い声を立てながら。前を向いたままの僕の視界を上から下に突っ切って。実にはすべからく紅いざっくりとした裂け目が入り、それは攻撃的な口のようにきぃと鋭い切っ先をして、その中は毒々しいほどに朱色であった。そして、実は地に落ちた瞬間、ぱちっ、と軽すぎる音を立てて水風船の如く弾けとび、地面を朱のまだらに染めていった。ケラケラと嗤う実のハーモニーと、無数に増殖する朱色のまだらは、僕の耳と目を通じて脳を浸食した。

僕はうっとりと、ただうっとりとそれを見ていた。
それは僕がはじめて目にした、そして夢みていた通りの、椿の熱情と狂気の奔流であった。


見たらすぐやるバトン。

2006-07-14 | 伝達馬豚(ばとん)
迂闊。トラップにやられました(嘘)。
律儀にやるか。出所が大好きでたまらない友のところだからね。


【ルール】
「見た人は、必ずやること。今すぐやること。」


■基本スペック

牡羊座 O型♀
156.5㎝ 不明kg 
視力 それぞれ0.1以下
右利き
職業:研究者
口癖 「どうして?」 

[靴のサイズ]
23.5センチ

[両親はまだ結婚してる?]
してる 。多分ずっと。

[兄弟]
なし

[ペット]
いない。犬「のようなもの」が飼いたい。

■好きなもの

[色]
屋外なら 銀・緑・蒼
室内なら 白・黒・濃茶
着るものなら 黒・緑

[番号]
13とか17 それほど大きくない素数がたまらない。

[動物]
爬虫類

[飲みもの]
珈琲

[本]
種別:図鑑。画集。役立たずで高貴な本。
作家:江戸川乱歩・澁澤龍彦・三島由紀夫・谷崎潤一郎・泉鏡花ほか

[花]
竜胆・芍薬・鉄線・桔梗・桜・露草・くちなし・沈丁花ほか

■質問

[髪染めてる?]
否。

[髪の毛巻いてる?]
否。 巻けるほどない。

[タトゥーしてる?]
否。三度ほど強烈な誘惑に駆られた。

[ピアス開けてる?]
否。

[カンニングしたことある?]
肯。一度きり、フランス語を机に書いた。それでも不可ってさ。

[お酒飲む?タバコ吸う?]
お酒:否。 アレルギー体質。
煙草:肯。

[ジェットコースター好き?]
否。 三半規管が弱いので、多分まずいことになる。

[どこかに引っ越しできたらな~と思う?]
否。引っ越してきたばかり。

[掃除好き?]
否。 ルーティンの掃除は苦手。月に数度の在庫一層掃除は好き。

[ウェブカメラ持ってる?]
否。

[コンピューターから離れられる?]
否。 ワーカホリックなんで。

[殴り合いのケンカしたことある?]
否。 殴られたのは三度。殴ったのはゼロ。

[お水/ホストに見間違えられたことある?]
肯。 節穴とはこういう目のことを云う。

[嘘ついたことある?]
肯。 嘘と真実の区別がつかなくならないよう要注意。

[誰かを愛したことある?]
肯。

[誰かの心をもてあそんだことある?]
否。 この回答に不満を持つ第三者が居るだろうことも知りつつ。

■今現在

[今着てる服]
黒のキャミソールに黒下着。 部屋なのだから仕方ない。

[今のムード]
淡いピンクとグレーの柔らかく薄い霞に包まれた感じ。
掛け替えのない時間を過ごした日にしか味わえない優しい充足感と感謝。

[今のテイスト]
やさぐれキャリア。 回答したものの質問の意味が汲めない。

[今の髪型]
黒髪ストレート前下がりボブをざんばらに。

[今やりたいこと]
半乾きのマニキュアを気にせずキーボードを叩きたい。

[今聞いてるCD]
フィッシャー・ディスカウ(Br.)【美しき水車屋の娘】(シューベルト)

[一番最近見た映画]
記憶にない。

[一番最後に食べたもの]
杏仁豆腐。

[一番最後に電話でしゃべった人]
M●Iのサイトウ氏。

[ドラッグ使った経験は?]
否。 植物性を海外のみ。薬物はなし。

[地球のほかの惑星にも人類がいると思う?]
否。 「人類」って云わないだろう。

[初恋覚えてる?]
微妙。

[まだ好き?]
否。 名前すら記憶にない。

[奇跡を信じる?]
否。 
奇跡はない。必然と導きへの気付きとその連鎖による航海を奇跡と呼びたい人は呼ぶといい。

[成績いい?]
過去:高校卒業までは良かった。
現在:大学以降は、なぜだか阿呆が開花した。

[帽子かぶる?]
肯。 今の髪型になってからは難しいが。

[自己嫌悪する?]
肯。 まるで食事を摂るが如く。

[自分の字すき?]
肯。 しかし、縦書きに限る。

[一目ぼれって信じる?]
否。 経験がないことは判らない。

[ビビビ!を信じる?]
肯。 それが導きというものなれば。

[思わせぶりははげしい方?]
否。 と自分では思っているが、非難の声が四方から聞こえる。

[シャイすぎて一歩を踏み出せない?]
否。 シャイだからこそできることもある。

■自分のこと

[よく物思いにふける]
肯。 食事を摂るが如く。いや、これも食餌のひとつ。

[天使?]
肯。 他者評価は堕天使比率の高いこと。

[悪魔?]
否。 鬼と言われることのほうが多い。

[シャイ?]
肯。

[よくしゃべる?]
肯。

[疲れた?]
否。 内容がツマラナイので若干倦んだが、疲労ではない。



旅バトン。

2006-07-13 | 伝達馬豚(ばとん)
先日、旅への希求についてさらりと触れたばかり。
そんな折に拷問のように渡された旅バトン。これは明瞭なる嫌がらせだ。


【Q1:旅行は好きですか?】
「旅行」はそこそこすきだ。しかし「旅」にかなうものではない。

【Q2:絶対旅に欠かせない持ち物リスト】
常備薬(鎮痛剤と気管支拡張剤)、化粧品、携帯カメラ、衣類圧縮袋、折畳みトラベルバッグ、雑記帖。
海外の中でも辺境の地となるとこの限りではない。

【Q3:海外で今までいったとこ】
※トランジットは含まない。大幅な偏りがあるのは仕事のため。とはいえ(略)
◇ アジア:韓国・台湾・中国・マレーシア・タイ
◇ 中近東ほか:イラン・トルコ・シリア・ヨルダン・レバノン
◇ アフリカ:エジプト・リビア・チュニジア・モロッコ・エチオピア・ボツワナ・ジンバブエ・南アフリカ
◇ ヨーロッパ:マルタ公国・フランス

【Q4:1人旅が好き?】
「旅」といったらひとり旅しか浮かばない。海外ではしたことないけれども。
ひとり旅の中途に誰かが加わることがたまにある。それはとてもこそばゆくて、私のひとり旅様式に友を巻き込んだり、それぞれのひとり旅がとなりに並行して続いているような、そんな気もしたりする。
私が「一緒に旅をする」と云って思い浮かぶのは、あるひとりの女性の顔だけかもしれない。

【Q5:国内旅行?それとも海外が好き?】
美しい地に国内・海外の隔てがあるはずない。
しかし、自国の文化や風景を知らずして海外のみを追い求めるのはつまらない。
だから私は、国内を優先する。いまはまだ、海外を行脚する時期ではない。

【Q6:いつかいってみたい所ベスト3】
・ 軍艦島     (廃墟の何たるかを示してくれるはずだ。)
・ アルジェリア  (古代ローマ属州好きとしては、あの広大な都市を外せない。)
・ イタリア    (わたしの美の原点。)

【Q7:行きたいけど行けなさそうな所ベスト3】
・ キューバ    (情勢不安になったら、いつになるか。)
・ ペルー     (4,000mに耐える自信がない。)
・ モンゴル    (なんとなく、ただなんとなく機会がなさそうだ。)

【Q8:私のおすすめスポットベスト3(国内)】
・ 奈良全域    (うまく云えないが心のふるさとだ。)
・ 瀬戸内海    (日本の島の美しさはここにある。)
・ ともに旅をする人にだけこっそり教える、土地の名前も建物の名前もない、個人的風景。

【Q9:私のおすすめスポットベスト3(国外)】
・ リビアのサハラ砂漠  (心が乾くと、行きたくなる。)
・ ヨルダンのぺトラ遺跡 (こんなにも心を揺さぶる遺跡を他に知らない。住みたい。)
・ エチオピアの荒野  (あの匂い、あの混沌、あの厳しさ。)

【Q10:ずばり恋人といくなら】
そんなの、恋人の耐性によって異なるに決まっている。初心者を無理やりチベットに引きずり込む気はない。

【Q11:最近いったところ】
三島。  ・・・出張なのだが。
伊豆。  ・・・仕事に絡むお勉強なのだが。
和歌山 ・・・骨を折ったのは和歌山城のふもと。

【Q12:近々行く予定は?】
予定がはっきりしている旅はあまりない。私にとっての旅はいつも、突発的事項だ。

【Q13:次にバトンの旅に出てもらう7人】
旅に出て現地に嵌まり込み戻らない人を「沈没」というが、戻ってこない人がいると困るので回さない。
成田第二ターミナルのYカウンターに預けておくよ。



龍の哀しみ。

2006-07-12 | 徒然雑記
もうずっとずっと長いあいだ、彼女はゆらと水草漂うみどりの水底にうずくまっていた。

朝日は遠い水面のおもてを青白く輝かせる。彼女はそれが眩しいから、目を細めて、あるいはつむって日がな一日を過ごしていた。茜色の光と柔らかな風がみどりの水底に届く時間になると、彼女は安心したようにおもむろに目を開けて、くるりとその身体を反転させてするすると水底を這った。風にたなびくように緩やかに、倦んだように気だるく。
水のなかを投射する月のひかりは淡いむらさき色をして、水底をうねる彼女のうろこを波のように煌かせた。自らの身体を静かに包む月のひかりが、彼女はいちばん好きだった。


ある日の満月の宵、空をきれぎれに覆う雲は澱んだ虹色に輝き、水の底から見上げたその色があまりにも綺麗だったから、彼女はそのひかりに誘われるようにつとその顔を水面に覗かせた。音のない夜。空を覆う虹色の雲の真ん中に、まるで鏡のように白く冷たい月はとても大きく、彼女は自らの鼻先を出したまま目を細めてそれに見入った。

ほんの数秒ののちだろう、彼女のうしろからかさりと小さな音がした。彼女がびくりと身を震わせて振り向いた先には、若い柳の木の下にぽつりと佇む藍色の着物を着た少年がこちらを見ていた。何も云わず、口を柔らかく引き結んだまま、月のひかりで青色に見える瞳をまっすぐに向けて、彼女を見ていた。
彼女は首を振り向かせたまま、暫く少年の目を見つめていた。

少年は動かなかった。
彼女も動かなかった。


どれだけののちか、少年が両の手を彼女に向けて差し伸べた。
彼女は身を翻し、少年のほうにその身体を向けて泳いだ。波を立てないように、静かに、静かに。

少年は、憧れと畏れをもって彼女のうろこに両の手で触れただけだった。
彼女はそれが嬉しくて、嬉しいことを伝えたくて少年の身体をぺろりと舐めただけだった。
少年は驚きと歓喜とをその表情に浮かべた刹那、胸と首から血を吹いて、倒れた。


次の朝、いつも通りに目をつむって彼女は水底に丸くなっていた。
池の端では、赤く染まった柳の下に倒れこむ少年が居た。手にきらきらと虹色に煌めく一切れのうろこを握ったまま。


三の丸尚蔵館【花鳥-愛でる心、彩る技<若冲を中心に>】。-第三部-

2006-07-10 | 芸術礼賛
 関連記事:
三の丸尚蔵館【花鳥-愛でる心、彩る技<若冲を中心に>】。-第一部-
三の丸尚三館【花鳥-愛でる心、彩る枝<若冲を中心に>】。-第二部-

 
 今年の梅雨はどうにもぼんやりしている。
雨は降るし空もとろんとした鼠色の雲に覆われているというのに、梅雨独特の潔さというか、意地悪さというか、そういうものが感じられない。梅雨は私が舌打ちをしたくなるくらいに意地悪であって丁度よいのだ。
既に「動植綵絵」第三期の終了後になってからの記事更新は怠慢以外のなにものでもない。深謝しつつ、今回もさらっと流してゆこう。

第三期の展示はこちら。
「梅花小禽図」「秋塘群雀図」「紫陽花双鶏図」
「老松鸚鵡図」「芦鵞図」「蓮池遊魚図」

コメントを寄せるべき作品二点を絞るとともに、それぞれにキャッチコピーを付与してみる。


「蓮池遊魚図」:四次元遠近法による浮遊感

上の絵がそれである。画面の周囲を囲むかのように描かれる蓮を順に見て欲しい。
上中央の蓮の花は、その頭上から描かれている。直下する視線ベクトル。
左右隅の蓮の茎を、誰がこんな風に見たことがあろうか?水中と水面の境を無視してなお意図的に、真横に向かう視線ベクトル。
左下の蓮及び地面は、まるで自らの足元に目を向けるが如く。とても優しい、とても自然なる斜め下方への視線ベクトル。

蓮は描き表装のように魚のいる空間を取り囲み、その枠自体がメビウスのように不安定に傾き、それはきっと現実世界に存在してはいけない枠。
それらの蓮にくるりと周囲を囲まれた中を優雅に泳ぐ川魚。空の上を?水の中を?

それは写実ではないやもしれぬ。しかし、見るといい。こんなにも優雅に、水の重さも川の流れも知ったことかと泳ぐ魚の向こうに、我ら生物の棲まう地上の宇宙が透けて見えるはずだ。
我々は、自分の眼に見える範囲で、見えるだけの方向で、この世界の優雅さと複雑さ、美しさに満足してはいけない。それはなんと不完全なものかと。


「秋塘群雀図」:パターンの恐怖と無邪気な裏切り

右上方から左下方に向けて、粟の穂を目掛けて飛来する50羽前後の雀。同じ姿勢で、同じ間隔を保って、雁が空を渡るような優雅さの欠片もなく直線的に。
不定形な幾何学の模様を描くように整列した茶色い雀の規律、それはぴんと張り詰めた緊張と不安。その中にただ一羽紛れ込むアルビノ(白化)、そしてただ二羽だけがその整列と自らの位置を確認するかのように僅かに首を捻らせる。

障子に指で穴を開けるかのように、ぎりぎりの緊張につと緩みを加えるそれは若冲の親切か、それとも罠か。

翻って左下に目を向けると、緊張から解き放たれた雀たちが夢中になって粟の穂に纏わりついているさまが見られる。上述の、緊張と不安の中に開けられた障子穴とは全く異なる、緊張そのものの崩壊とそれによる拡散が見られる。それぞれの雀がまるで身勝手な調子で粟に纏わりつく光景は、緊張と不安に駆られた我々に非常なる安心と大いなる不本意とを同時に与え、詰めていたこちらの息をほぅと漏れさせる。

それは緊張の果ての、いとも鮮やかな裏切りにも似て。






空を繋ぐ。

2006-07-07 | 徒然雑記
 私が見上げるこのぼんやりと赤らむ夜の曇り空の遥か向こうの大陸に、愛しいだれかが住んでいる。 
そこは、日本では見られない群青色の空をしているだろうか。
それとも、スコールに見舞われているだろうか。

茫洋たる広大な海と時間に隔てられた地球の裏でさえも、空は確かに繋がっている。私は空を見上げて彼女を想い、その想いをまるで白く細いリボンでそうするように風に棚引かせて、彼女の元へと送り届けることを試みる。

 彼女の立つ大陸を、私はそうそう容易く訪れることはできない。まして、彼女の住む国を訪れたことは一度もない。だからこそ、強烈すぎる日差しに眩暈を覚えながらゆらゆらとタラップを降りて彼女に通じる大陸に足をひたとつける一瞬の感激は、いつも私の涙を誘う。地面を通じて彼女の鼓動を感じることができるような気がして。彼女の日々の動きや、その笑顔や、この太陽を浴びてその熱を取り込んだかのような情熱までも。

そして私の到来を、彼女はきっとその皮膚で感じているに相違ない。
実際は、私が足を下ろした場所から1,000km以上も離れているに違いない距離であるにも関わらず。

 空は、地面は、人と人の心を繋ぐ導線が複雑に絡み合って織り成された色鮮やかな布のようなものだ。人と人との心が交錯するその糸が、その想いに応じたとりどりの色をして空を貫く。想いが多いほど、その布は鮮やかに、たおやかになる。

 
 だから、更紗のようなその美しい布を、悪意を放つ無粋な金属のカタマリなぞで撃ち抜いては決してならないのだ。



連想バトン。

2006-07-05 | 伝達馬豚(ばとん)
久々ですねバトン。
ていうか、長いよほんと。出張先の非機能的ホテルの部屋からどうぞ。


【はじめに】

下の単語を聞いて、思い浮かぶ「繋がる言葉」を書いてください。
何かのフレーズとか、映画や曲のタイトルでもかまいませんし、咄嗟に浮かぶイメージでも、ウケ狙いでもご自由に。
きっと、性別・性格・世代・育ってきた環境・家族構成・センス・好きな食べ物・好きなタイプ・コンプレックス・トラウマ・性癖など様々なことが浮き彫りになることでしょう。

例) たらちねの→母 荒野の→七人 鉄腕→ダッシュ レッド→バロン エスパー→伊東


【設問】

■小さな→腫瘍     いえ、ありませんけどね。

■夜の→蝶       ・・古。

■イエロー→キャブ   それ以外になにが?

■東京→都民      帰ってこれたのが嬉しくてつい。

■スター→アライアンス まぁ、色々話題だからね。

■怪傑→ゾロ

■紅白→饅頭

■日清→製粉      「史上初のメール恐喝事件」があったねぇ。

■アメリカン→ショートヘアー

■ブルー→ベルベット

■雨の→匂い      梅雨もあながち悪いものではない。

■大きな→失敗     まずい。ビビリなのがばればれだ。

■ホワイト→カラー

■お笑い→芸人     私が「当たる!」と思った人は必ず半年後CMに出ます。

■電気→工学

■ジョン→アーリ    偏ってるか?

■幸せの→神様は後頭部ハゲ

■大阪→弁

■少年→法

■マイケル→ムーア   やっぱり、偏ってる?

■宇宙→科学      大学の授業さっぱり判らなかったのですよ。

■さすらいの→吟遊詩人 どこの国のイメージなんだろう。

■博多→どんたく

■シティ→ホテル    このへんは職業病ですかね。

■電子→物理学     ちぃとも判らないくせになぜ浮かぶ。

■ガラスの→十代    ・・うへぇ。

■赤い→棘

■山口→組

■デヴィッド→アーヴィング 逮捕されたのは記憶に新しい。

■田中→角栄      イメージでは片仮名の「カクエイ」なのだけどね。

■ホテル→業界     職業病第二段。

■電動→歯ブラシ    ブラウン。

■青い→果実

■山田→五郎

■ミスター→ビーン   そっくりな先輩が昔いてね。

■白い→恋人

■ジョージ→ワトソン

■横山→東○子     友人の名前が浮かんだ。

■笑福亭→鶴瓶

■週刊→アスキー    なぜこれが浮かんだのかよう判らん。

■レオナルド→ダ・ヴィンチ

■恋の→戯れ      本の内容はさっぱり記憶にないが。

■スーパー→銭湯    職業病第三弾。

■ハウス→キーパー   いないけどさ。

■日本→語教育

■夢の→一軒家     いつの時代だよおい。

■ジェット→フォイル

■天使の→誘惑     あまり乗りたくない。

■悪魔の→誘惑     若干乗ってみたいから困る。

■優しい→嘘

■悲しき→玩具     啄木嘘つきだからあまり好きじゃないのだけど。

■愛の→乾き      三島ですよ。

■ラブ→ラドールレトリバー 

■チキン→レース    ・・うそだろ。

■ムーン→フェイズ   はい、時計フェチでました。

■わがまま→放題

■地獄の→業火

■適当な→返答

■くさい→台詞

■浪速→型       言葉が浮かんだのに意味が判らず、調べたら軍艦だった。

■桂→離宮       行きたくてたまらない。

■ワン→オアナッシング だめにんげんかもしれない。

■名探偵→ホームズ

■ラスト→マッチ

■海の→果て      そんなものはない。ないのだが。

■壊れた→人形

■鈴木→ムネオ     片仮名でしょう。



 三島の夜は、長かった。