Sweet Dadaism

無意味で美しいものこそが、日々を彩る糧となる。

金木犀の夜。

2006-10-05 | 春夏秋冬
 金木犀の香る夜。

こつこつと踵に水を跳ね上げながら、暗い道を歩く。

街灯を照らす水溜りはいくつもいくつもあって
それぞれの鏡に橙色のあかりが灯って
降り続く水しぶきによってバラバラに砕け揺らぐ。

原型を持たないあかりの真ん中に


   ぴしゃ!


と靴底を突っ込んで、最期を与えるように粉々に砕く。

1分もしないうちに、あかりは粘りを持って寄り添い合って
また不定形なぼやっとした発光体に戻る。

そうしていくつものあかりを踵で砕きながら
家へと帰る道すがら。


空から沢山の水が降ってくる日には
だいすきなはずの金木犀の香りは
どうしてこんなにもじっとりと厭らしく凝縮するのだろう。

踵を踏み下ろそうとした橙色の水溜りの中に
雨で散り急いだ金木犀が金平糖のように置いてあって



思わずわたしは、足をよけた。






  *音読することを仮想して制作。