ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

フーナー検査

2020年07月13日 | 生殖内分泌

Huher test 性交後頸管粘液検査(PCT:postcoital test)

フーナー検査は、精子-頸管粘液の適合検査であり、不妊原因として頸管因子があるかどうかを判定する。腟内に放出された精子が頸管粘液内に進入し運動性を保持しているかどうかをみる検査である。フーナー検査の最適な時期は排卵の直前である。性交後3~12時間で評価されるべきである。


(クリックしてください)

フーナー検査の評価:
a)頸管粘液内に1個でも直進運動精子が存在すればフーナー検査陽性として頸管因子による不妊原因は存在しない根拠となる。
b)頸管粘液中に精子が存在しなければフーナー検査陰性とする。再検のうえ反復して陰性の場合は、不妊原因として頸管因子があると判定する。
c)非直進運動精子、不動精子、直進しない振動精子(shaking phenomenon)がみられる場合には、頸管粘液あるいは精子に抗精子抗体が存在する可能性を考慮する。

フーナー検査の意義:
フーナー検査は、検査周期での妊娠も期待でき、配偶者間人工授精(AIH)以上の治療の必要性の判断に重要である。また、抗精子抗体を検出する1次スクリーニング法になると考えられる。

参考記事:
不妊症の原因検索としての一次検査
精液検査
不妊症の原因

参考文献:
1)今すぐ知りたい!不妊治療Q&A、医学書院、2019、p113
2)生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014


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排卵誘起薬(hCG、GnRHa)

2020年07月11日 | 生殖内分泌

① 尿由来hCG製剤 
② 遺伝子組換え型hCG製剤 
③ GnRH誘導体製剤(点鼻薬)

黄体形成ホルモン(LH)の一過性のピーク(LHサージ)によって卵子の減数分裂が再開し、排卵直前に第一減数分裂が完了して排卵が起こる。また、排卵後にも一定のLHが分泌されることにより卵巣での黄体化を維持促進する。そのためLHは排卵誘発治療には必要不可欠なホルモンである。しかし、LHの半減期は20分と短く、治療に使えるLH製剤は存在しなかった。

① 尿由来hCG製剤:
ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)は、妊娠中に胎盤絨毛から分泌されるホルモンである。hCGは、LHと分子構造が類似しており、強力に卵子の成熟を促し、排卵後の黄体を刺激する作用がある。hCGは半減期が約30時間と長く、また妊婦尿から精製できるのでLHの代わりに薬剤として利用されている。

ゴナドトロピン療法では、ヒト閉経期性腺刺激ホルモン(hMG)投与による卵胞成熟後に、排卵誘起にhCG : 5000~10000単位を1回、黄体維持には1000~3000単位を2~3日間隔で投与する。

② 遺伝子組換え型hCG製剤:
遺伝子組換え型hCG製剤(オビドレル®)が2017年より市販されている。排卵誘起のため250μgを単回皮下投与する。臨床効果は尿由来hCG製剤と同様であるが、遺伝子組換えであるため、製品の安定供給、ロット間のばらつきがない、不純物や感染症病原体の混入がないなどの利点がある。また、医療機関において適切な在宅自己注射教育を受けた患者または家族は在宅自己注射できる。

③ GnRH誘導体製剤(点鼻薬):
一般名:ブセレリン酢酸塩噴霧剤スプレキュア®ブセレリン®)。生体にGnRH誘導体を投与すると、一過性に性腺刺激ホルモン分泌が促進される(フレアアップ)。このフレアアップにより内因性のLH分泌が起こるので、排卵誘起薬として利用できる。通常は、点鼻薬で600μg程度投与することにより、内因性LHサージが起こる。GnRH誘導体の作用時間はhCG製剤に比較して作用時間がきわめて短いため、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を起こしにくいとされている。

参考文献:
1)今すぐ知りたい!不妊治療Q&A、医学書院、2019、p65
2)インフォームドコンセントのための図説シリーズ 不妊症・不育症(改訂3版)、苛原稔編、2016


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抗ミュラー管ホルモン(AMH)

2020年07月10日 | 生殖内分泌

anti-Müllerian hormone : AMH

抗ミュラー管ホルモン(AMH)は、前胞状卵胞の顆粒膜細胞から分泌され、卵巣内の卵子数をよく反映し、成人女性では加齢により減少し閉経期よりほとんど分泌されなくなります。

AMHの値は、LH(黄体化ホルモン)やFSH(卵胞刺激ホルモン)の値と比較して月経周期による変動が少ないため、採血時期の制約がありません。

AMH<0.5~1.1ng/mlの場合、卵巣予備能低下と判断します。


           年齢とAMH値

AMH値を測定することによって、不妊治療方針の選択および体外受精における卵巣刺激法の選択に役立ちます。

AMH値が非常に低い場合は、早期の卵子枯渇による早発卵巣不全(POI)の可能性があるため、早期に積極的な治療を勧める根拠となります。

AMH値が非常に高い場合は、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の可能性が高まり、卵巣刺激法などにおいて卵巣過剰刺激症候群(OHSS)対策が必要となります。

ばらつきはあるもののAMH値より体外受精での卵巣刺激により得られる採卵数の予測ができます。

ただし、AMH値は卵子数を評価するもので、卵子の質を評価するものではありません。AMH値が低値でも、単一排卵により自然妊娠する可能性があることはよく知られています。

参考記事:卵巣予備能の検査

参考文献:
1)今すぐ知りたい!不妊治療Q&A、医学書院、2019、p138
2)一般社団法人AMH普及協会、あなたにお話ししたいAMH検査のこと

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我が国の生殖補助医療(ART)成績

2020年07月08日 | 生殖内分泌

妊孕能(にんようのう)の低下は、女性年齢が35歳くらいから顕著となります。女性年齢の上昇とともに妊娠率が低下し、流産率は上昇するため、生児を得る確率(生産率)が急激に低下します。2017年の我が国のART成績から、総治療周期当たりの生産率は、30歳:21.9%、35歳:18.9%、40歳:9.3%、41歳:7.0%、42歳:4.8%、43歳:3.1%、44歳:1.8%、45歳:1.0%、46歳:0.8%、47歳:0.2%です。妊娠後の流産率は、30歳:16.7%、35歳:20.3%、40歳:33.6%、41歳:39.2%、42歳:43.2%、43歳:49.3%、44歳:57.5%、45歳:62.6%、46歳:64.8%、47歳:76.9%です。高齢女性では胚の染色体異常率が高いことから、妊娠しても流産率が高くなり、生児を得る確率は低くなります。例えば、45歳女性の流産率は62.6%で生児を得る確率は1.0%となり、単純計算で45歳女性が生児を得るためには平均100回のART治療が必要となり、現実的に生児を得ることは非常に困難です。

 日本産科婦人科学会:ARTデータブック、2017

現代の不妊症診療は、加齢による卵子の妊孕能(にんようのう)喪失との戦いです。卵子の質は実年齢によるところが大きく、年齢とともに増加する胚染色体異常や細胞質低下に起因します。女性年齢が上がれば上がるほど生児を得る確率が著明に低下していくことから、生児を得るためには早期に検査や治療を開始する意義は大きいです。人生百年の時代となりましたが、老化した卵子を若返らせることは不可能です。生児を得ることを希望するすべての女性に、その事実を手遅れとなる前に知っていただきたいと思います。

参考記事:女性の年齢と妊孕能(にんようのう)

参考文献:
1)日本産科婦人科学会:ARTデータブック、2017
 https://plaza.umin.ac.jp/~jsog-art/
2) 生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

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精液検査

2020年07月08日 | 生殖内分泌

不妊症カップルの50%程度で男性側の原因もあるとされてます。精液検査は、受診されたほとんどの方が受ける不妊症の一般的な検査です。精液量、精子濃度、運動率、運動の質、精子の形態、感染の有無などを検討します。精液は、2~7日の禁欲期間の後に、マスターベーションで全量を採取します。病院で採取するのが望ましいのですが、20℃~30℃程度に保持することができれば自宅で採取して2時間以内に検査すればほぼ病院で採取した場合と同様の結果が得られることが多いと言われています。男性の精液性状は日によって大きく変動するため、悪い結果が出た場合でも再度検査をして問題ないとされることもあります。さまざまな因子が精液所見に関与していますが、なかでも禁欲期間の影響は大きいとされます。精液検査は3カ月以内に少なくとも2回施行し、2回の場合はその平均値、3回以上の場合はその中央値を採用します。

   精液検査の下限基準値(WHO、2010)

乏精子症、精子無力症の治療:
精液所見の程度により、配偶者間人工授精(AIH)体外受精(IVF)顕微授精(ICSI)が検討されます。重度の乏精子症や精子無力症ではIVFやICSIが第一選択となります

薬物治療:
低ゴナドトロピン性の性腺機能低下症ではゴナドトロピン療法で造精機能の回復が見込めますが、そのほかの原因不明の造精機能障害に対する薬物療法は有効性のエビデンスが乏しいです。

外科的治療:
精索静脈瘤に対する外科的治療
無精子症患者に対して、精巣生検で精巣内に精子が確認できれば、顕微鏡下精巣内精子回収法(micro-TESE)ICSIにより妊娠の可能性が期待できます。

参考文献: データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017

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体重減少性無月経

2020年07月05日 | 生殖内分泌

18歳以下の続発性無月経のうち体重減少性無月経によるものは44%であったと報告されており、思春期女性において体重減少性無月経は特に重要な疾患と言えます。体重減少性無月経では、体脂肪からのレプチン産生が減少し、視床下部からのGnRHの分泌が障害されることが排卵障害の原因とされています。

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ312 体重減少性無月経の取り扱いは?

1. 身長と体重から、重症度を評価する。(A)
2. 神経性やせ症(神経性無食欲症)を疑ったときは専門とする医師に紹介する。(B)
3. 内分泌学的検査により障害部位を確認する。(B)
4. 標準体重の90%までの体重回復を目指す。(B)
5. 長期の低エストロゲン状態のときは、骨量を測定し、ホルモン療法を行う。(B)
6. 排卵誘発は妊娠を希望し、全身状態が改善したときに行う。(B)

低体重の重症度(WHOの基準): 
BMI=体重(kg)/身長(m)の2乗
①軽度:BMI 17以上、18.5未満
②中等度:BMI 16以上、17未満
③重度:BMI 15以上、16未満
④最重度:BMI 15未満

体脂肪率が正常で減量の必要が全くないのに、痩せているほど美しいとの思い込みから無理なダイエットを行い、続発性無月経を主訴に病院を受診する若い女性が少なくありません。

体重減少性無月経の多くは第2度無月経を示しますが、貧血や低栄養状態の悪化を防ぐために、原則月経を起こさせるホルモン療法よりも、まずは適切な食事指導により標準体重の90%までの体重回復を優先させます。

続発性無月経の自覚症状から婦人科を受診する場合が多いですが、婦人科医としては中等度以上の低体重(BMI:17未満)の場合は、その時点で摂食障害を専門としている専門医(心療内科、内科、精神科など)への紹介を考慮すべきです。神経性やせ症(神経性無食欲症)は、患者の6~20%が栄養失調、不整脈、自殺などにより死亡するとされ、生命に関わる疾患であると認識すべきです。重症例では救命のために緊急入院のうえ、運動制限や高カロリー輸液などが必要です。米国精神医学会のDSM-5における神経性やせ症(anorexia nervosa)の診断基準から無月経が除外されていますが、これはホルモン療法により月経を有する場合がある点や、著しい体重減少があれば無月経かどうかに関わらず対応が必要であるという考え方によります。

神経性やせ症(神経性無食欲症)の有病率については、研究により差が認められますが、思春期の女子の約0.5%から1%で神経性やせ症が発症すると推定されています。また男性の10倍から20倍の割合で女性に多く発生することが確認されています。

神経性やせ症/神経性無食欲症の診断基準(厚生労働省)
1. 標準体重の-20%以上のやせ
2. 食行動の異常(不食、大食、隠れ食いなど)
3. 体重や体型についての歪んだ認識(体重増加に対する極端な恐怖など)
4. 発症年齢30歳以下
5. (女性ならば)無月経
6. やせの原因と考えられる器質性疾患がない
(厚生労働省特定疾患・神経性食欲不振症調査研究班)

神経性やせ症/神経性無食欲症の診断基準(米国精神医学会、DSM-5)
A. 必要量と比べてカロリー摂取を制限し、年齢、性別、成長曲線、身体的健康状態に対する有意に低い体重に至る。有意に低い体重とは、正常の下限を下回る体重で、子どもまたは青年の場合は、期待される最低体重を下回ると定義される。
B. 有意に低い体重であるにもかかわらず、体重増加または肥満になることに対する強い恐怖、または体重増加を妨げる持続した行動がある。
C. 自分の体重または体型の体験の仕方における障害、自己評価に対する体重や体型の不相応な影響、または現在の低体重の深刻さに対する認識の持続的欠如。

肥満でダイエットの必要がある人の場合でも、急激なダイエットは危険です。せいぜい1カ月で3kg以内の減量にとどめ、ゆっくり減量する必要があります。元の体重の10~15%くらいの体重が急激に減少すると無月経になる危険性があります。一般に、月経が起こるには体脂肪率が少なくとも17%程度は必要で、月経周期を維持するためには体脂肪率22%以上が望ましいとされています。月経が起こるためにはある程度の体脂肪が必要です。

参考記事:
無月経の分類

参考文献:
産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、202

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ゴナドトロピン製剤

2020年07月04日 | 生殖内分泌

ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)とよばれる黄体化ホルモン(LH)卵胞刺激ホルモン(FSH)の2つのホルモンは、下垂体前葉のゴナドトロピン産生細胞より分泌されます。ゴナドトロピンの生合成や放出は、視床下部において産生・分泌されるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)によって調節されています。性発育に伴ってゴナドトロピンの分泌は増加し、加齢に伴って低下します。また、ゴナドトロピンの分泌は性周期に伴って変化します。
月経周期とホルモンの変化
排卵日推定法

ゴナドトロピン製剤には、(1)FSHとLHの両方を含有するhMG製剤、(2)hMG製剤からLH成分を除去してFSHのみにした精製FSH製剤、(3)遺伝子組換型FSH製剤があります。

もともとのhMG製剤は閉経期女性の尿から精製され、LHもFSHと同等に含まれています。 開発当初はロット間の反応性にもばらつきがありました。 精製方法が進みLH含有量の少ない精製FSH製剤(uFSH)が発売され、近年では遺伝子組み換えFSH(rFSH)も使用できます。

ゴナドトロピン療法では、hMG製剤やFSH製剤を連日投与して卵胞の発育を促し、卵胞が一定 の大きさに達したら、LH作用のあるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を投与して排卵を誘起させます。

ゴナドトロピン製剤の種類


これらのhMG製剤のLH含有量の違いをむしろ逆に利用して症例に応じた卵巣刺激が行われます。LHは卵胞発育の初期にはあまり要求されず、卵胞発育の後半にLHの働きにより主席卵胞以外の卵胞を閉鎖へと誘導する選別が行われます。従って、低ゴナドトロピン性性腺機能不全症の場合、排卵誘発の後半でLH含有のhMG製剤を使用します。

ゴナドトロピン療法


ゴナドトロピン療法は多胎と卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高いが、そのリスクを最小限に抑えた方法がFSH低用量漸増法です。FSH製剤を低用量で開始し、主席卵胞の発育がみられるまで投与量を少しずつ増量する方法です。FSH 低用量漸増療法ではFSH の投与日数が長期化する傾向があるので、通院の負担を軽 減するために在宅自己注射の導入が求められていました。2008年に FSH 製剤の在宅自己注射が認可され、ペン型の注入器も発売されました。




ゴナールエフ皮下注ペン(rFSH)

参考文献:
1) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2) インフォームドコンセントのための図説シリーズ 不妊症・不育症(改訂3版)、苛原稔編、2016
3) 生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

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多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

2020年07月03日 | 生殖内分泌

PCOS = polycystic ovary syndrome

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は原因不明の慢性的な排卵障害であり、月経異常や不妊症の原因となります。PCOSは生殖年齢女性の5~10%と非常に頻度が高く、不妊症の診療上重要な疾患です。



多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の特徴
臨床症状/合併症:

①月経異常(無月経、稀発月経、無排卵周期症)
②男性化(多毛、にきび、低声音、陰核肥大)
③肥満
④不妊
⑤2型糖尿病、高血圧症、脂質異常症、メタボリック症候群
⑥子宮内膜増殖症、子宮体癌

内分泌・代謝検査:
①血中男性ホルモン値が高値
②血中LH基礎値が高値、FSH基礎値は正常かやや低値(LH:黄体化ホルモン、FSH:卵胞刺激ホルモン) 
③インスリン抵抗性、耐糖能異常
 
卵巣所見:
①多数の小卵胞があり、卵巣が腫大
②内莢膜細胞層の肥厚・増殖、間質細胞の増生



多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の診断基準
以下の①~③のすべてを満たす場合を多嚢胞性卵巣症候群とする
①月経異常
②多嚢胞卵巣
③血中男性ホルモン高値、またはLH基礎値高値かつFSH正常

注1)月経異常は、無月経、稀発月経、無排卵周期症のいずれかとする。
注2)多嚢胞卵巣は、超音波断層検査で両側卵巣に多数の小卵胞がみられ、少なくとも一方の卵巣で2~9mmの小卵胞が10個以上存在するものとする。
注3)内分泌検査は、排卵誘発薬や女性ホルモン薬を投与していない時期に、1cm以上の卵胞が存在しないことを確認の上で行う。また、月経または消退出血から10日目までの時期は高LHの検出率が低いことに留意する。
注4)男性ホルモン高値は、テストステロン、遊離テストステロンまたはアンドロステンジオンのいずれかを用い、各測定系の正常範囲上限を超えるものとする。
注5)LH高値の判定は、スパック-Sによる測定の場合はLH≧7mIU/mLかつLH≧FSHとし、肥満例(BMI≧25)ではLH≧FSHのみでも可とする。測定キットによりLHやLH/FSH比のカットオフ値が異なることに注意を要する。
注6)クッシング症候群、副腎酵素異常、体重減少性無月経の回復期など、本症候群と類似の病態を示すものを除外する。
(日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会、2007)

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の治療指針
PCOSの治療は、現在妊娠を希望している場合と、そうでない場合とで異なります。また、PCOSで肥満のある方ではまず体重の管理を十分に行います。

挙児希望のあるPCOS女性の場合:
肥満例(BMI≧25)では、まず栄養指導・運動療法などによる減量を指導します。4~8週間で5~10%の減量を目標とし、3~6か月間継続します。減量により高男性ホルモン血症や排卵障害の改善を認める場合があります。
非肥満例(BMI<25)では、排卵誘発薬であるクロミフェン(クロミッド)を第一選択として使用します。クロミフェン抵抗性の排卵障害を認める場合は、アロマターゼ阻害薬(レトロゾール)、FSH低用量漸増法による排卵誘発、または腹腔鏡下卵巣多孔術なども検討し、妊娠に至らない場合は生殖補助医療(IVF-ET)を考慮します。PCOSの方に対する排卵誘発では、常に多胎のリスクと卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発症に注意が必要です。
排卵誘発法 FSH低用量漸増法 卵巣過剰刺激症候群

挙児希望のないPCOS女性の場合:
PCOSの患者さんは月経異常を放置していると子宮体癌のリスクが高くなることが知られています。無月経や無排卵などの月経異常の状態が続く場合は、子宮体癌を予防する目的でホルモン療法が必要となります。プロゲステロン製剤を毎月7~12日間内服して月経を誘発する黄体ホルモン補充療法(ホルムストローム療法)が基本で、これを長期的に行います。月経異常と同時に多毛やニキビの症状を改善したい方には低用量経口避妊薬を用いる場合もあります。


(日本産科婦人科学会:生殖・内分泌委員会、2009)

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編
CQ326 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の診断と治療は?

1. 日本産科婦人科学会による診断基準(2007年)に基づいて診断する。(A)
2. 挙児希望がない女性に対しては
 1) 肥満があれば減量など生活指導を行う。(B)
 2) 定期的な消退出血を起こさせる。(B)
3. 挙児を希望している女性に対しては
 1) 肥満があれば減量を勧める。(B)
 2) 排卵誘発にはまずクロミフェン療法を行う。(B)
 3) 肥満、耐糖能異常、インスリン抵抗性のいずれかを認め、かつクロミフェン単独で卵胞発育を認めなければ、メトホルミンを併用する。(B)
 4) クロミフェン抵抗性の場合はゴナドトロピン療法または腹腔鏡下卵巣開孔術を行う。(B)
 5) ゴナドトロピン療法を行う場合は、低用量で緩徐に刺激する。(B)
 6) 排卵誘発としてアロマターゼ阻害剤を使用する。(C)

参考記事:
多嚢胞卵巣症候群(PCOS)って何ですか?
経口排卵誘発剤
排卵誘発法
FSH低用量漸増法
卵巣過剰刺激症候群

参考文献:
1) データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2) インフォームドコンセントのための図説シリーズ 不妊症・不育症(改訂3版)、苛原稔編、2016
3) 産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020


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卵巣予備能の検査

2020年07月02日 | 生殖内分泌

卵巣予備能(ovarian reserve)

卵巣予備能は卵巣に存在する卵子の量と質の両方を指す単語である。卵巣予備能は加齢とともに低下し、それに伴い妊孕能(にんようのう)が低下する。

卵巣予備能を評価する検査として、血清FSH基礎値(FSH)、胞状卵胞数(antral follicle count ; AFC)、血清抗ミュラー管ホルモン値(anti-Müllerian hormone ; AMH)が挙げられる。

卵胞刺激ホルモン(FSH):
FSH値は月経周期により変動するため月経周期3~5日目に採血する必要がある。卵巣機能が低下するとFSH基礎値は上昇する。ホルモン療法中の患者では参考にならない。

胞状卵胞数(AFC):
月経周期3~5目に、経腟超音波法にて両側卵巣の径2~10mm大の胞状卵胞数を計測する。ホルモン療法中の患者では参考にならない。AFC<5~7個の場合、卵巣予備能低下と判断する。


AFC : high (卵巣予備能正常)


AFC : low (卵巣予備能低下)

抗ミュラー管ホルモン(AMH):
AMH値は卵巣内に残存する原始卵胞の数と比例する。25歳から評価が可能であり、年齢とともに低下する。25歳未満の女性は卵巣予備能とAMH値が相関してない。AMH<0.5~1.1ng/mlの場合、卵巣予備能低下と判断する。

年齢と抗ミュラー管ホルモン(AMH)

妊娠にとって卵子の数のみではなく質が重要であるが、AMH値は卵子の数のみを反映し、卵子の質を評価することはできない。卵子の質を正確に表す指標は現在のところ存在しない。卵子の質の低下は、女性の妊孕能低下、妊娠後の流産や染色体異常の増加などと関係している。流産や染色体異常の発症は加齢とともに指数関数的に増加する。つまり、AMHが高くても、卵巣の質は年齢とともに急激に低下していることを考慮すべきである。

参考記事:
早発卵巣不全(POI)
女性の年齢と妊孕能(にんようのう)

参考文献:
生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

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早発卵巣不全(POI)

2020年07月01日 | 生殖内分泌

primary ovarian insufficiency (POI)
premature ovarian failure (POF)

早発卵巣不全(POI)とは、40歳未満で卵胞発育不全による卵巣性無月経を呈する疾患で、卵胞から分泌されるエストロゲンが欠乏し、のぼせ、発汗などの更年期症状を呈する。

早発卵巣不全(POI)の診断:
① 年齢40歳未満で、4カ月以上の無月経
 続発性無月経、第二次性徴がある
② ゴナドトロピン高値、エストロゲン低値
 少なくとも1カ月以上の間隔で2回測定し、高ゴナドトロピン値(血中FSH>25mIU/ml)、低エストロゲン値を確認する

残存卵胞数の診断:
現在のところ、POI症例において、残存卵胞の有無を正確に診断できる方法はない。抗ミュラー管ホルモン(AMH)値は参考になるが、POIのほとんどの症例で測定感度以下となる。経腟超音波検査による胞状卵胞数計測も有用である。かつて卵巣組織生検が行われていたが、卵巣内にわずかに残存している卵胞は散在して存在しており、微量な生検検体の組織検査では残存卵胞の有無を診断することは困難で、現在は行われてない。

POIの原因は不明のものが多いが、ターナー症候群などの染色体異常自己免疫疾患、卵巣手術や化学・放射線療法による医原性原因など多岐にわたる。卵巣内の卵胞の急激な減少に起因する病態である。卵巣内の残存卵胞数が1000個以下になると卵胞の活性化が停止して卵胞発育が起こらなくなり、卵胞顆粒膜細胞由来のエストロゲンが産生されなくなり、その結果、無排卵、無月経となる。POIの頻度は、30歳未満の0.1%、40歳未満の1%にみられ、無月経患者の5~10%を占めるとされる。POIでは、年齢による閉経婦人とは異なりまれに自然回復例がある

POIの治療:
POIの診断後でもまれに予測できない間欠的卵巣機能回復例がある。しかし、患者が挙児を希望する場合は速やかな治療の介入が望ましく、早期に生殖補助医療(ART)を専門とする医師に紹介する。最近では、休眠原始卵胞覚醒(IVA)など研究的臨床手技も報告されている。卵胞枯渇がある患者ではARTによっても不成功に終わる割合が高い。必要時には心理学的支援を含めた相談やカウンセリング受診も提案する。

今後の挙児希望がない場合はホルモン補充療法を行うことが基本であり、一般女性の閉経年齢である50歳頃まで継続することが望まれる。

無月経の分類
女性の年齢と妊孕能(にんようのう)
卵巣予備能の検査

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ313 早発卵巣不全(POI)の取り扱いは?

1. 問診を的確に行う。(A)
2. 内分泌学的検査を的確に行う。(B)
3. 挙児希望がある場合は早期に専門とする医師に紹介する。(B)
4. 挙児希望がない場合はホルモン補充療法を行う。(B)
5. 必要時には心理学的支援を含めたカウンセリングなどを行う。(C)

参考文献:
1) 産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020
2) 百瀬幹雄編集、基礎からわかる女性内分泌、診断と治療者、2016

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