ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

公立・公的病院の勤務医不足への対応

2008年07月18日 | 地域周産期医療

地域基幹病院の産婦人科で分娩を取り扱うためには、少なくとも4~5人の常勤の産婦人科医を確保する必要がありますし、小児科、麻酔科のしっかりしたサポートも必須条件となります。

周産期医療は、産科医、新生児科医、麻酔科医などの緊密な連携があって初めて成り立ちます。地域の周産期医療の質を確保するためには、各医療圏内の限られた人数の産科医、新生児科医、麻酔科医を集約化し、産科救急にきちんと対応できる地域医療体制を確立する必要があります。

この公立・公的病院の勤務医不足の問題に対し、各自治体や各病院のレベルで個別に必死で努力しても、問題が県全体とか多数の自治体に関わるため、個別の対応には大きな限界があります。産婦人科、小児科、麻酔科それぞれの科の特殊な事情があるとは思いますが、各科の集約先病院がてんでバラバラでは、『多くの病院があっても、どの病院も産科救急には全く対応できない!』というような事態にもなりかねません。従って、地域における医師の配置を統括する(国や県のレベルの)強力なリーダーシップが不可欠だと思います。

集約化により、産婦人科医、小児科医、麻酔科医などが撤退してしまう病院や自治体、地域の住民の反発が当然予想されます。出産のための宿泊施設の整備、さらには道路整備、ヘリコプター搬送システムの充実などが行政側の課題になると考えられます。

****** 中日新聞、2008年7月18日

常勤医減る公的病院 新研修制、大学が『引き揚げ』

 自治体や日本赤十字社などが運営する公的病院の常勤医師数が二〇〇五年、過去三十年で初めて減少に転じたことが分かった。〇六年には千人以上減少。〇四年四月から始まった医師の新しい研修制度の影響で、各地の大学病院が派遣先の公立病院などから医師を引き揚げる動きを加速させている。専門家らは「新制度が自治体病院の医師不足の大きな原因と裏付けられた」と話している。

 新人医師の研修先は従来、大学病院に集中していた。新制度では、研修医が研修先を希望できるようになり、症例数が多く研修内容や待遇などが充実した大都市の民間病院などに集中。大学病院や関連病院が人手不足となり、地方の病院に派遣していた医師を引き揚げるようになった。

 厚生労働省が毎年作成する「医療施設調査・病院報告」などを一九七六年から〇六年まで分析した。それによると、医師は毎年三千五百-四千人程度の自然増を続けている。しかし、公的な医療機関の常勤医は新しい医師臨床研修制度導入の翌〇五年十月時点で、初めて七十四人(0・2%)減少。〇六年は千九十人(2・5%)減り、全体で約四万二千四百人になった。

 うち市町村立病院は〇五、〇六年の二年間で計八百二十一人(4・1%)減り、計約一万九千百人。都道府県立病院も〇六年に八百三十八人(8・1%)と大きく減少。計約九千五百五十人になった。

 各地の病院では非常勤医を増やすなどして穴埋めしているが、非常勤医を合わせた数でも、〇六年に初めて約千七百五十人(3・5%)が減少した。

 医師総数は〇六年末で約二十七万八千人。毎年七、八千人の医師国家試験合格者がいる一方、その半数程度が退職や死亡している。

待遇改善も進まず

 伊関友伸・城西大経営学部准教授(行政学)の話 公的病院の医師の減少は、新臨床研修制度に伴う大学病院の医師引き揚げが影響しているのは間違いない。自治体病院は医師をほぼ大学の医局に頼っていた。今も減少傾向は続いている。役所的な体質で、医師の過重労働や低い待遇に対する対応も遅く、それが拍車をかけた。

新研修制度 重大な“副作用”

 産婦人科や小児科を中心に各地で広がる深刻な医師不足。医師総数は毎年、自然増が続いているが、県立病院などの公的医療機関では、二〇〇五年から一転して減少。その大きな原因となったのが前年度から始まった新しい臨床研修制度だ。研修医の待遇や研修環境は改善されたが、診療の縮小や閉院、医療の地域格差という重大な“副作用”をもたらしている。【稲垣太郎】

(以下略)

(中日新聞、2008年7月18日)


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