ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

隠岐病院産婦人科の後任常勤医師問題

2006年05月03日 | 地域周産期医療

******** 感想

62歳の1人の医師が、24時間365日、病院に泊り込んで分娩を取り扱う体制では絶対に長続きするはずがないので、大学のパート医師が交替でその1人の医師を支援する体制を目指すのであろうか?その62歳の医師の健康維持は大丈夫なんだろうか?と心配になってしまう。

どっちにしても、先日、発表された日本産科婦人科学会からの「緊急提言」(ハイリスク妊娠・分娩を取り扱う公立・公的病院は、3名以上の産婦人科に専任する医師が常に勤務していることを原則とする)とは全く逆の動きであることは確かだ。

勤務医の立場から、今後、分娩を取り扱う施設は産科常勤医師数10名以上の体制を目指して徹底的に集約化を推進していく必要があると考えている。私が現役で働いている時代では実現できないかもしれないけれど、将来的にはそういう産科医療体制でなければ、長期的に地域の周産期医療を維持することはできないと思われる。

****** 島根日日新聞、2006年5月3日

待望の後任常勤医師見つかる/隠岐病院産婦人科/県内東部在住の男性医師/島内での出産再開へ希望

 常勤の産婦人科医師が不在のため、四月中旬から出産を扱えない状態であった隠岐病院に、県内から後任の医師が赴任する見通しであることが、二日までに分かった。現在、隠岐では妊婦が島を離れて本土での出産を余儀なくされているが、後任医師が見つかったことで、隠岐での出産の早期再開が期待される。

 赴任予定の医師は、現在県内東部の公立病院産婦人科に勤務する、六十代の男性医師。島根大学医学部産婦人科の宮﨑康二教授(57)が、島根県の地域医療の中でも特に、隠岐の実情に配慮した高度な判断により、経験豊富なこの医師に、隠岐への赴任を要請したところ、内諾を得られたという。男性医師の勤務地周辺には三十分以内に行ける総合病院があり、また、地域内に産婦人科開業医もいることなどから、赴任が可能だという。

 宮﨑教授は「先生には隠岐の窮状に対し勇気ある決断をいただき、感謝している。隠岐は離島という特殊な立地条件にあり、本土に比べ過酷な勤務状況を余儀なくされる。大学としても、赴任予定の先生が休息できるよう、月に二回医師を派遣するなど、全面的に支援をしていきたい」と述べた。

 この男性医師は、早ければ七月上旬をめどに隠岐へ赴任できる見通しで、現在正式な赴任手続きのため、関係者が準備を進めている。

****** 毎日新聞、2006年5月3日

隠岐病院分娩断念:7月上旬にも男性医師が赴任へ 出産再開へ期待 /島根

 常勤の産婦人科医がいないため、隠岐病院(隠岐の島町)で出産ができなくなっている問題で、県東部の男性医師が同病院に赴任する見通しであることが2日、分かった。町などと最終調整しているが、早ければ7月上旬にも赴任できる予定。現在、島外での出産を余儀なくされているだけに、島での出産再開へ期待は大きい。【細川貴代、酒造唯】

 赴任予定の医師は、県東部の公立病院産婦人科に勤務する男性医師(62)。

 島根大医学部産科婦人科の宮崎康二教授によると、男性医師は現在勤務する病院を6月末で辞職し、7月上旬から隠岐病院に赴任する。1日夜に本人から内諾を得たという。男性医師は1年間、隠岐病院での勤務経験もあり、赴任の動機を「地域医療のニーズの高さを感じた」などと話しているという。

 宮崎教授によると、県内の複数の産婦人科医から隠岐赴任の希望があったが、勤務先の病院周辺に他の産婦人科の開業医がいることなどから男性医師が適任として、強く要請をしていたという。

 男性医師は赴任に際し、産科医の2人体制を取ることや、手術の際の病院の支援体制を充実させることなどを条件としており、宮崎教授は「大学としても代替医師を派遣するなど全面的な支援をしたい」と話した。

 一方、隠岐病院の笠木重人院長は「まだ状況が把握できていないが、より安全な医療を提供するため、1人の産婦人科医を支援する体制をどうするか、総合的に取り組まないといけない」と話し、木村清志・県医師確保対策室長も「これまで県外の医師数人と交渉を続けてきたが、もし赴任していただけるとすれば感謝したい。しかし、1人の産婦人科医で安全安心を確保するのは厳しく、今後どのような支援体制を築いていくかが焦点になる」と話した。

(毎日新聞) - 5月3日16時2分更新

****** 読売新聞、2006年5月3日

産婦人科医不在解消へ…島根・隠岐の島

◆60歳代男性、7月にも赴任

 島根県隠岐の島町の公立隠岐病院(笠木重人院長)で、4月16日から常勤産婦人科医が不在となっている問題で、県東部の公立病院に勤務する六十歳代の男性医師が、7月にも赴任する見通しになったことが2日、分かった。

 島根大医学部産婦人科の宮康二教授が1日夜、同病院を運営する隠岐広域連合連合長の松田和久・隠岐の島町長に、男性医師から内諾が得られたことを伝えた。同医師は2001年度に1年間、隠岐病院の勤務経験があるという。

 松田町長は「実現すれば、隠岐のみなさんに安心を与えられる形になるので、うれしい」と言い、澄田知事も「大学からの正式な連絡待ちだが、喜ばしい」とのコメントを出した。

 常勤医不在を受けて、同町などは隠岐病院で出産を予約していた妊婦約60人に、約80キロ離れた本土に渡り、松江市などの病院で出産するよう要請。1人につき最大17万円の経済的な支援策を打ち出し、10人前後が島を離れている。

(2006年05月03日  読売新聞)

参考:
緊急提言(日産婦委員会):ハイリスク妊娠・分娩を取り扱う病院は3名以上の常勤医を!

                    日本産科婦人科学会
            産婦人科医療提供体制検討委員会

本委員会は、中間報告書の提出に際して、以下の点について緊急の提言を行います。本提言の趣旨をご理解の上、何卒、迅速かつ適切なご対応をお願い申し上げます。

緊急提言

ハイリスク妊娠・分娩を取り扱う公立・公的病院は、3名以上の産婦人科に専任する医師が常に勤務していることを原則とする。

提言の理由

1. 産婦人科医の不足の原因の一つが、その過酷な勤務条件にあることは、既に周知の事実である。しかし、平成17年度の本学会・学会あり方検討委員会の調査においても、分娩取扱大学関連病院のうちで、14.2%が一人医長、40.6%が常勤医2名以下という事実が明らかとなっており、勤務条件の改善傾向は認められていないと考えざるを得ない。

2. それに加えて、地域の病院によっては、産婦人科の勤務条件改善の必要性が理解されず、一人でも産婦人科医を確保すれば、分娩取扱を継続できるという考え方に立って、産婦人科医確保の努力を行っているという現状がある。

3. 産婦人科医を志望する医師および医学生に対して、近い将来の産婦人科医の勤務条件の改善の見通しを提示するためには、この状況を改善する明確な意思を学会が示す必要があると考えられる。

4. 本提言を実効のあるものとするために、各地域の医療現場で働く産婦人科医師は主体的にその活動の場を再編成すべきである。


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5 コメント

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この62歳の医師、困っている人をみると手助けをせ... (ひよこ医師)
2006-05-03 23:10:37
しかし、失礼ながら、考えが甘いというか古いというか・・・。

患者側が医師の自己犠牲の精神を「当然」と思い、
感謝の念もなく医師に激務を要求するような現状に絶望されることのないことを祈ります。
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 島民の方にも是非、島の妊婦さんと家族の利便性... (一医師)
2006-05-03 23:34:16
 署名とデモ行進をすれば、産婦人科医が手に入った、という認識ではだめだと思います。

 よく地方の医師募集のコメントで「赤ひげ先生」を求む、というのがありますが、もう時代のニーズが赤ひげ先生の能力を超えているのに、求人のときだけこう言うのはどうなんでしょうか。どんな僻地でも都会の豊富な人的物質的資源のある場所と同様の医療を求め、そうでないと民事・刑事裁判が起きてしまうのですから。

 志は素晴らしいですが、現実問題として、62歳のこの医師が24時間365日働くことのできる期間は非常に短いと思います。

 今、やっとマスコミも正当な取り上げ方をするところが少しずつ増えてきました。国会議員の方にも問題の本質が見えている方もいらっしゃることがわかり、少し光が見えてきた気がしました。この国会議員の方のように医療問題を論じるかたは小児科でも産婦人科でも救急でも実際の医療現場で36時間労働をしていただければ、現在のような机上の討論にならないと思います。

 どこの国も限られた医療資源をどのように活用するかに苦労しています。国民も目を開けて要求するだけでなく、その先のどうやって要求を実現する、もしくは折り合いをつけるか、もっと現実的な解決方法を探す必要があると思います。資金・人手がなければいくら医療側が根性で頑張っても、提供できる医療はそれなりのものですし、そもそも医療は不確実なものだと認めず完璧を求める限り医療自体が無くなるしかないのです。100人が100人不可能な場合以外、医療事故は認めない、逮捕だという意見では医療は成り立たないのです。

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この62歳の医師が体力的に限界となる1~2年後に... (管理人)
2006-05-04 00:46:14
もっと長期的に持続可能な地域周産期システムの構築を考えるべきではないでしょうか? (例えば、その62歳の医師には、妊婦検診や子宮がん検診、軽症例の外来治療などをお願いし、分娩や手術などの入院を要する治療は人員・設備の整ったセンター病院で行うというシステムにしてしまえば、もっと長続きしそうに思えます。常勤医師も1人でいいでしょうし、後任医師も見つかりやすいと思われます。)
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教授からの強い要請って・・・。 (ssd)
2006-05-04 10:09:05
こんなことをしていたら、この医局には新入医局員がこなくなると思うのですがそこまで考えての行動なのでしょうかね。
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隠岐に赴任が(ほぼ)決まった医師は、元松江市で... (s)
2006-05-04 21:48:56
20年ほど開業されていましたが閉院。
閉院後は大学を通して隠岐に一年派遣され、以降現在の病院へ。
現病院は年間30例のお産ですから、経験があるとはいえその4倍の隠岐は年齢的にはきついかもしれませんね。

教授の強い要請があったかどうかは...、うーんわからないですね。
新入医局員は今年はないもようです。
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