ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

北海道の産科医不足の状況

2006年06月26日 | 地域周産期医療

****** コメント

広い北海道で、地元の自治体では出産できなくて札幌や旭川など近郊の都市に出向いて出産する例が増えているとの調査報告である。北海道では、一番近くの産科施設が百km以上遠方ということも決して珍しくはないらしい。また、道内でも都市部に産婦人科医が集中し、都市部以外の産科医の職場環境が非常に過酷な状況にあるため、一部の地域で産科施設の集約化が先行して実施された(例:砂川市立病院)。今後、道と道内3医大が協力して、産科施設の集約化を全道的に推進してゆく方針とのことである。

****** 北海道新聞、2006年06月14日

産婦人科医いない、施設ない…自治体の8割「出産ゼロ」 04年、道が初調査  

 道内で、地元で出産した女性が一年間に一人もいなかった自治体が、二○○四年に全市町村の八割近い百五十七に上ったことが十三日、道の初の調査で分かった。道は、産婦人科医がいない、出産設備がないなどの理由で、地方に住む女性が札幌や旭川など近郊の都市に出向いて出産する例が増えている実態が裏付けられた、としている。

 調査は今年二月、○四年に提出された出生届を基に実施。市の保健所を持つ札幌、旭川、函館、小樽を除く二百市町村(○五年九月現在)を対象に、その市町村在住の女性が出生届に記入した出産場所を確認した。

 この結果、出産が一件でもあったのは、夕張、歌志内、北広島、登別の四市を除く二十六市と、日高管内浦河町、留萌管内羽幌町、桧山管内江差町など十七町。残る百三十の町は出産件数がゼロで、二十三ある村でも皆無だった。

 このうち、上川中部の八町ではいずれも出産例がなく、出生届を出した居住女性の93・7%が旭川市内で出産していた。渡島南部の九町も同様に女性の92・6%が函館市で出産していた。

 また、札幌市には少なくとも九十二市町村から出産に訪れ、旭川市にも五十一市町村の女性が出向いており、出産の「都市集中」傾向が顕著に表れた。

 これについて、道は産婦人科医の減少で地方が出産体制を整備できなくなっているためと分析。○四年以降もこの状況は進んでいると見ている。

 道内の産婦人科医数は○二年度に四百十三人だったが、○四年度には三百六十六人に減少。このうち札幌には百五十四人が集中していた。このため、地方の産婦人科医の負担は大きく、道保健福祉部は「過酷な勤務状況がさらに地方での産婦人科医不在を生んでいる」と分析している。

 国は昨年十二月、全国的な産婦人科医不足を踏まえて、医師の集約化を進める方針を打ち出した。近隣市町村が協力して複数の医師による安全な出産体制を整えていく内容で、道もこの方針に従い本年度中に集約化を具体化していく考えだ。

****** 朝日新聞、2006年05月14日

産科医不足 中空知で集約化先行

■ 3医大 全道で拡大検討

 産婦人科医不足は、道内でも深刻な問題だ。手近な病院での出産が不可能になった地域もあり、人口減少や少子化に拍車がかかりかねない。医師たちも疲れている。その打開策として、中空知地方では産婦人科医の「集約化」が実施された。道や北海道大、札幌医大、旭川医大の道内3医大は、集約化の試みを全道に広げようと検討を始めている。
 (報道部・若松聡、須藤大輔)

 ■ 身重で運転「へとへと」

 昨年末、滝川市の女性(37)は隣接する砂川市の市立病院で女の子を産んだ。砂川までは車で約20分。公共交通機関の便が悪く、自ら冬道を運転して通院した。地元の病院は車で5分だった。

 「(集約化で)砂川の病院はとても込み、通院は一日仕事で、帰ってくるとへとへと。地元に病院があった方が安心なのですが」と女性は言う。

 中空知では04年9月、北大の産婦人科医局が集約化を実現した。滝川・美唄両市の市立病院に1~2人ずつ派遣していた医師を、砂川に集めて4人態勢とした。滝川と美唄には週3日ずつ医師を派遣して外来診察をするが、出産や手術は砂川でしかできなくなった。

 集約化の背景には、産婦人科医の過酷さがある。病院に医師一人の場合、赤ちゃんはいつ生まれるかわからないため、24時間待機を迫られる。2年前に始まった臨床研修制度も影響した。研修の2年間は新たな医者の供給がストップ、「地方の公立病院への供給源」である大学医局の医師不足が決定的になった。

 研修の過程で過酷さを知った研修医たちも産婦人科を敬遠した。道内3医大では、臨床研修制度の導入前は年間15人ほどが産婦人科医局に入ったが、今春は3医大で計5人だけだった。

 医師を引き揚げられた病院は、経営に大きな打撃を受けた。滝川市立病院では、収益の大きな柱だった出産に伴う入院がなくなり、産婦人科の外来患者も半数以下に激減。病院事業会計は、03年度の1億3千万円の黒字から、04年度は約9千万円の赤字に転落した。

 住民の間には地元で出産できないことへの不満や不安が根強い。自治体側は医局に頼らず自前で医師確保に乗り出したが、来てくれる医師は見つかっていない。道によると、道内の産婦人科医は96年の421人から04年は362人に減り「現時点ではさらに減っているのは確実」という。

 産婦人科医数の減少を防ぐ特効薬が見つからないなか、道は3医大と協議し、道内他地域での集約化も検討中だ。また、来年度中に08年から10年間の「道医療計画」を策定し、医師の配置計画を策定する考えだ。

 だが、道子ども未来推進局は「医師配置の権限は道にはない。3医大や医師会と相談し、道民のニーズにも応える方策を探るしかない」と話す。

 また、集約化を進めた場合、交通手段をどうするかも大きな問題だ。中空知は比較的車での移動時間が短く、集約しやすい地域だったが、道東などで実現する場合は課題は多い。

 ■ 北大・櫻木教授に聞く
  ――医師の生活・医療レベル向上

 中空知での集約化を中心になって進めた北大産婦人科医局の1人、櫻木範明教授に聞いた。

                           ◇

 1人勤務の病院に医師を派遣するのは好ましくない。昼夜を分かたぬ過酷な労働条件で訴訟などの全責任を負わせると、医学生や新卒医師たちは産婦人科を敬遠し、ますます産婦人科医が少なくなる。この悪循環を断ち切らなくてはならない。

 集約化した中空知で、医師たちの評判はいい。学会や研修会に参加できるようになっただけでなく、冠婚葬祭や家庭人としての責任も果たせるようになった、と。

 また札幌まで行かなくても子宮がん手術や不妊治療など高度医療に対応できるようになった。医療レベルは上がった。

 産婦人科医はあらゆる地域に必要だ。絶対数があれば各自治体に配置すればよいが、そうではない。医師数が増加に転じるまでの間、現在の不十分な医師数で、いかに地域の産婦人科医療を守っていくか知恵を出し合わなくてはならない。

 広域な道内では、すべての地域で中空知同様の集約化が出来るとは思わないが、分娩(ぶんべん)も出来る「連携病院」を置くなど様々な集約化の形が考えられる。地域の理解を得ながら、今後、数年間のうちには他地域での集約化も考えたい。

参考:
産科医集約(北海道・砂川市立病院の例)

読売新聞:[解説]産科医減少 対策は


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